バッジを全て入手し殿堂入りも果たした。自分より強いトレーナーはこの世に一人もいないであろうと思った。ポケモン図鑑も全て埋めたし、伝説のポケモンも幻のポケモンも全員ボックスの中だ。
既に戦い勝利したトレーナーは、幾度目を合わせようとも戦いを挑んでこない。草むらや洞窟で不遜にも襲いかかってくる野生ポケモン達は、ポケットに入れた記憶のある奴ばかり。
もう冒険は、やり尽くしてしまったのだろう。
やることがない自分は四天王に何回も挑んだ。四天王はこの世界の中では強者のため、最初の内は多少苦戦することもあって楽しめた。だが、こちらのレベルが次第に上がり、やがて全てのポケモンを一撃で倒せるようになった。こうなれば単なる作業だ。自分は無心で四天王に勝利し、何度も虚しい殿堂入りを迎えていく。
今宵もまた自分は四天王に挑んでいた。これから四人目の四天王、カリンとの戦いに入る。
「あたくしが愛してるのは悪タイプのポケモン! ワイルドでタフな感じ素敵でしょ?」
カリンはいつもと同じ立ち位置で、いつもと変わらぬセリフを放った。
素知らぬ顔で何度も挑戦してくる輩は、彼らの目にどう映っているのだろう。さぞ鬱陶しく思っているに違いない。
だが、彼らはそのことは全く表情には出さない。そして、初めて顔を合わせたときのように接してくれるのだ。
バトルが終わった。今回も圧勝だった。
「強いポケモン、弱いポケモン」
バトル終了後、カリンはいつも通りのセリフを言おうとしている。このセリフは繰り返し聞いているため、自分は一字一句暗記してしまっている。九九に並ぶほど耳にこびりついている言葉だ。
「大きいポケモン、小さいポケモン」
ん?
「重いポケモン、軽いポケモン」
あれ? おかしいぞ?
「家庭用のポケモン、業務用のポケモン」
彼女のセリフは、今までとまるで違った。今までは「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき」というセリフを放っていた。
「冷たいポケモン、温かいポケモン」
「あの、カリンさん?」
「明るいポケモン、暗いポケモン」
「どうしたんです? いつもと違うじゃないですか?」
「硬いポケモン、柔らかいポケモン」
「っていうか、さっきから何言ってるんです?」
「サラサラしたポケモン、ザラザラしたポケモン」
「大丈夫ですか?」
「受動的なポケモン、能動的なポケモン」
ずっと、意味不明なことを言っている。
これはどういう状況なんだ!
「もう自分行きますよ」
自分はカリンを素通りし、先へ進もうとした。
ところが。
「え? あ! 扉開かない!」
四天王の部屋の扉は、四天王がセリフを言い終えないと開かないようになっている。
「カリンさん! 扉開けてください!」
「しょっぱいポケモン、甘いポケモン」
「変なこと言ってないで扉開けてください! ここから出たいです!」
「座っているポケモン、立っているポケモン」
まるで呪文を呟いているかのよう。その場に止まり、口だけを動かしている。
もしかして自分、閉じ込められた? ここから出られないだろ、これ。
「あの……もしかしてカリンさん怒ってます?」
「乾燥したポケモン、ビチャビチャなポケモン」
「何回も四天王倒したから、怒って変な嫌がらせしてます?」
「やばいポケモン、やばくないポケモン」
「なんですか『やばいポケモン』って。意味が分からないです」
「巨大なポケモン、細小なポケモン」
「いや最初の『大きいポケモン、小さいポケモン』と一緒じゃないですか」
「とんでもないポケモン、やんごとないポケモン」
「もう何でもありじゃないですか……」
12時間後。
「トルネードなポケモン、ハリケーンなポケモン」
「カリンさん、いいかげん扉開けてください……」
未だにわけの分からぬことを言っている。
もう自分には、ツッコミを入れる体力は残っていなかった。
「プルプルしたポケモン、ブルブルしたポケモン」
「扉開けてくださいよ……これじゃ監禁じゃないですか」
「トントンしたポケモン、ドンドンしたポケモン」
「……」
24時間後。
「煮るポケモン、炒めるポケモン」
立つことが辛くなった自分は地面に寝っ転がっていた。
喉が渇いた。腹も減った。もう戦闘不能の状態だ。
「蓄えるポケモン、吐き出すポケモン」
このまま自分は餓死するのだろうか。意識も朦朧としてきた。
「頼むから扉開けてください……」
「実行するポケモン、未遂で終わるポケモン」
「っていうか、カリンさんも辛いでしょ。こんなずっと喋ってるの」
「豆腐の角に頭ぶつけて死ぬポケモン、豆腐の角に頭ぶつけても死なないポケモン」
「意味が分かりませんよ。なんなのこれ……」
「幻のポケモンならメタ発言許されると思っているポケモン」
「はい? なんですか急に? メタ発言って何? 意味不明ですよ。適当に言ってるだけじゃんもう」
「バラバラになっても生きてそうなポケモン」
「いやそんなのいないでしょ。バラバラになったら死ぬでしょ普通に」
「懐き具合でトレーナーの呼び方変えるポケモン、個性強いのに悩み普通のポケモン、人間を戦わせるポケモン、会話文が連続すると不安になるポケモン……」
「何を言ってるんですか、さっきからずっと」
「この世界には、色々なポケモンがいるの」
「はい?」
「ポケモンだけじゃない。様々な人間もいる。なめこ板にポケモン小説を投稿する人間、水タイプの攻撃だけ怖くない人間、文化祭でポケモン関連の出し物やろうとしている人間、ポケモンの戦闘不能をグルグル目で判断する人間、コンテストバトルで角ドリルを使う人間……」
「……」
「これだけじゃない、他にもたくさん。この世界には、様々なポケモンや人間がいる」
「だからいませんって!」
「いるわよ」
「どこにですか。自分は今まで、隅から隅まで世界を冒険してきた。でも、そんな奴らはいなかった」
「普通に旅をして、図鑑を埋めて、殿堂入りを果たすだけでは見つからないものが、この世界にはうんざりするほどあるのよ」
「……本当なんですか?」
「この世界には、まだまだ知らないことはある。それらを見てみたいと思わない?」
「……はい」
思わず自分は、そう答えてしまった。本当にそういうポケモンや人間が世界にいるなら、見てみたい。
「いいわよあなた。大事なこと分かってるわね。先に進みなさい」
彼女は、セリフを言い終えたようだ。
今まで開かなかった扉が開いた。扉の先には、見たことがない光景が広がっていた。