ポケモン、クセが強い短編集   作:@逆行

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100.四天王の部屋に閉じ込められる話(終)

 バッジを全て入手し殿堂入りも果たした。自分より強いトレーナーはこの世に一人もいないであろうと思った。ポケモン図鑑も全て埋めたし、伝説のポケモンも幻のポケモンも全員ボックスの中だ。

 既に戦い勝利したトレーナーは、幾度目を合わせようとも戦いを挑んでこない。草むらや洞窟で不遜にも襲いかかってくる野生ポケモン達は、ポケットに入れた記憶のある奴ばかり。

 もう冒険は、やり尽くしてしまったのだろう。

 やることがない自分は四天王に何回も挑んだ。四天王はこの世界の中では強者のため、最初の内は多少苦戦することもあって楽しめた。だが、こちらのレベルが次第に上がり、やがて全てのポケモンを一撃で倒せるようになった。こうなれば単なる作業だ。自分は無心で四天王に勝利し、何度も虚しい殿堂入りを迎えていく。

 

 

 今宵もまた自分は四天王に挑んでいた。これから四人目の四天王、カリンとの戦いに入る。

「あたくしが愛してるのは悪タイプのポケモン! ワイルドでタフな感じ素敵でしょ?」

 カリンはいつもと同じ立ち位置で、いつもと変わらぬセリフを放った。

 素知らぬ顔で何度も挑戦してくる輩は、彼らの目にどう映っているのだろう。さぞ鬱陶しく思っているに違いない。

 だが、彼らはそのことは全く表情には出さない。そして、初めて顔を合わせたときのように接してくれるのだ。

 バトルが終わった。今回も圧勝だった。

「強いポケモン、弱いポケモン」

 バトル終了後、カリンはいつも通りのセリフを言おうとしている。このセリフは繰り返し聞いているため、自分は一字一句暗記してしまっている。九九に並ぶほど耳にこびりついている言葉だ。

「大きいポケモン、小さいポケモン」

 ん?

「重いポケモン、軽いポケモン」

 あれ? おかしいぞ?

「家庭用のポケモン、業務用のポケモン」

 彼女のセリフは、今までとまるで違った。今までは「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき」というセリフを放っていた。

「冷たいポケモン、温かいポケモン」

「あの、カリンさん?」

「明るいポケモン、暗いポケモン」

「どうしたんです? いつもと違うじゃないですか?」

「硬いポケモン、柔らかいポケモン」

「っていうか、さっきから何言ってるんです?」

「サラサラしたポケモン、ザラザラしたポケモン」

「大丈夫ですか?」

「受動的なポケモン、能動的なポケモン」

 ずっと、意味不明なことを言っている。

 

 これはどういう状況なんだ!

 

「もう自分行きますよ」

 自分はカリンを素通りし、先へ進もうとした。

 ところが。

「え? あ! 扉開かない!」

 四天王の部屋の扉は、四天王がセリフを言い終えないと開かないようになっている。

「カリンさん! 扉開けてください!」

「しょっぱいポケモン、甘いポケモン」

「変なこと言ってないで扉開けてください! ここから出たいです!」

「座っているポケモン、立っているポケモン」

 まるで呪文を呟いているかのよう。その場に止まり、口だけを動かしている。

 もしかして自分、閉じ込められた? ここから出られないだろ、これ。

「あの……もしかしてカリンさん怒ってます?」

「乾燥したポケモン、ビチャビチャなポケモン」

「何回も四天王倒したから、怒って変な嫌がらせしてます?」

「やばいポケモン、やばくないポケモン」

「なんですか『やばいポケモン』って。意味が分からないです」

「巨大なポケモン、細小なポケモン」

「いや最初の『大きいポケモン、小さいポケモン』と一緒じゃないですか」

「とんでもないポケモン、やんごとないポケモン」

「もう何でもありじゃないですか……」

 

 

 12時間後。

「トルネードなポケモン、ハリケーンなポケモン」

「カリンさん、いいかげん扉開けてください……」

 未だにわけの分からぬことを言っている。

 もう自分には、ツッコミを入れる体力は残っていなかった。

「プルプルしたポケモン、ブルブルしたポケモン」

「扉開けてくださいよ……これじゃ監禁じゃないですか」

「トントンしたポケモン、ドンドンしたポケモン」

「……」

 

 

 24時間後。

「煮るポケモン、炒めるポケモン」

 立つことが辛くなった自分は地面に寝っ転がっていた。

 喉が渇いた。腹も減った。もう戦闘不能の状態だ。

「蓄えるポケモン、吐き出すポケモン」

 このまま自分は餓死するのだろうか。意識も朦朧としてきた。

「頼むから扉開けてください……」

「実行するポケモン、未遂で終わるポケモン」

「っていうか、カリンさんも辛いでしょ。こんなずっと喋ってるの」

「豆腐の角に頭ぶつけて死ぬポケモン、豆腐の角に頭ぶつけても死なないポケモン」

「意味が分かりませんよ。なんなのこれ……」

「幻のポケモンならメタ発言許されると思っているポケモン」

「はい? なんですか急に? メタ発言って何? 意味不明ですよ。適当に言ってるだけじゃんもう」

「バラバラになっても生きてそうなポケモン」

「いやそんなのいないでしょ。バラバラになったら死ぬでしょ普通に」

「懐き具合でトレーナーの呼び方変えるポケモン、個性強いのに悩み普通のポケモン、人間を戦わせるポケモン、会話文が連続すると不安になるポケモン……」

「何を言ってるんですか、さっきからずっと」

「この世界には、色々なポケモンがいるの」

「はい?」

「ポケモンだけじゃない。様々な人間もいる。なめこ板にポケモン小説を投稿する人間、水タイプの攻撃だけ怖くない人間、文化祭でポケモン関連の出し物やろうとしている人間、ポケモンの戦闘不能をグルグル目で判断する人間、コンテストバトルで角ドリルを使う人間……」

「……」

 

 

「これだけじゃない、他にもたくさん。この世界には、様々なポケモンや人間がいる」

「だからいませんって!」

「いるわよ」

「どこにですか。自分は今まで、隅から隅まで世界を冒険してきた。でも、そんな奴らはいなかった」

「普通に旅をして、図鑑を埋めて、殿堂入りを果たすだけでは見つからないものが、この世界にはうんざりするほどあるのよ」

「……本当なんですか?」

「この世界には、まだまだ知らないことはある。それらを見てみたいと思わない?」

「……はい」

 思わず自分は、そう答えてしまった。本当にそういうポケモンや人間が世界にいるなら、見てみたい。

「いいわよあなた。大事なこと分かってるわね。先に進みなさい」

 彼女は、セリフを言い終えたようだ。

 今まで開かなかった扉が開いた。扉の先には、見たことがない光景が広がっていた。

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