授業が終わり家に帰るときのこと。校門を潜ったタイミングで、後ろから猛スピードで走ってきた人とぶつかった。
「あ、ごめん!」
ぶつかった衝撃でその人の教科書などが散乱する。その人はそれらを急いで拾い集めた。
「あー今日はこんな時間か。もう止めておこう。明日また旅立とう」
彼はどこかへ行く予定だったが、たった今諦めたようだ。
「ずいぶん急いでいたけど、どこか行く予定だったの?」
「ああ、俺ポケモントレーナーやってるから」
「は?」
「いつも授業終わったら旅出るんだけど、もう時間微妙だから明日にする」
「授業終わった後、旅してるの?」
「そう」
「旅に出て、夜になったら毎回この町に帰ってるの?」
「うん」
「それをずっと繰り返してるの?」
「そう」
「何それ。無理がありすぎるから」
「うん。だから毎回全速力で走ってる」
「全速力で走っても絶対旅進まないでしょ」
「でも中学は行かないとだめじゃん。義務教育だから」
あまりにも効率が悪すぎる。いや効率うんぬんのレベルじゃない。そんなのトレーナーの旅として成立するわけないだろう。一日ごとに帰ってたら、近辺までしか旅できない。
「もしかして知らないの?」
「何が?」
「トレーナーとして旅する場合、義務教育の授業が免除される。申請書出せば行かなくて良くなる」
「あ、そうなの?」
「知らなかったの?」
「あー知らなかった。そういう制度があるんだ。へー」
「……ちなみに今までの旅でどこまで行ったことあるの?」
「最高でニビシティ」
「ニビシティ? 隣の町じゃん」
「土日使ってもトキワの森越えるのがやっとだから」
「何年ぐらい旅してるの?」
「十歳からだから今年で四年か」
「四年もこんなことやってるの!」
やばい、こいつ相当変なことやってる。
「今すぐ申請書出した方が良い。今日まだ職員室に先生いるから」
「いやーでもそういう書類よく分かんないんだよね」
「は?」
「どこに何を書けば良いのか全然わからない」
「簡単だこんなの」
「でも面倒なんだよね書くの」
「面倒じゃない。ちょっと書いて提出したら終わり」
「あー」
「提出しなよ。その方が絶対良い。申請書書くよりこんなことやってる方が、よっぽど面倒」
埒が明かないので、スマホで申請書を見せた。
「見てみなよ。これが申請書だから」
「あーはいはいはい」
「空欄全部埋めれば良いだけ。なんにも難しいことはない」
彼はしばらく申請書を眺めた後こう言った。
「ごめん、やっぱりよく分かんないわ」
彼はスマホを返し、そして去ってしまった。
「ゲームで一度もセーブしないでクリア目指すようなもんだぞ、あいつ……」