彼はガラル地方を旅しているトレーナーだ。推薦状をもらい、ジムチャレンジをしている。
彼は次の町に辿り着いた。この町はジムはないが、必ず通過しなければいけない。
町には美味い和食店があると聞いていた。カウンター席しかないお店で、板前の腕がよいと評判だ。
お腹も空いていたので、さっそくその店に向かった。
「着いたここだ」
和食店のドアを開けた。
「いらっしゃい。おお! この辺りでは見かけない顔だな」
板前がさっそく声をかけてきた。
「はい、旅をしている者なので」
「ジムチャレンジか?」
「そうです」
「おおー! すごいなあバッジは今何個とかだ?」
「七個目です」
「もうベテランさんじゃないか」
「いえいえとんでもない。自分なんかペーペーですよ」
板前は気さくに話してくれる。まだ肝心の料理を食べていないが「よいお店だなあ」と思った。
「おじさんもジムチャレンジしたかったけどなあ。推薦状とかもらえんかったわ」
「自分ももらうの苦労しました」
「ええなあ推薦状もらえた人は。俺はそういう知り合いとか、一人もおらんかったから。で、兄ちゃん、今日はどうしたんだ?」
「こちらのお店は美味しいって聞いたんで、食べたいと思いまして」
「あーそれは駄目だわ」
「はい?」
「うちわな、一見さんお断りなんで」
「え?」
一見さんお断りとは、店に関わりがない人は入店を断られること。
店に入るには、関わりある人から何らかの形で紹介される必要がある。
「申し訳ないが、帰ってもらえる?」
「え? いや、でも」
「悪いな兄ちゃん。二十年そういうルールでやってるんですわ」
納得行かなかったが、仕方なく店を出ていった。
「一見さんお断りなら、もっと早く言ってくれよ。なんであんなフランクに喋ってきたんだ」
夜遅いので彼は、旅館に泊まることにした。近くによさそうな旅館を見つけた。
「いらっしゃい。まあすごくイケメンが来たわねえ」
受付には、旅館の女将さんがいた。女将さんも気さくに話してきた。
「いや、そんなことないですよ」
「おいくつなんですか?」
「十四です」
「あらー私が若いときなら間違いなく狙っていたわ」
「はあ」
「ジムチャレンジをやってるの?」
「そうです」
「すごいわねえ。私にもね、あなたぐらいの年齢の息子がいるんだけど、旅とか全然やらないのよ。ずっと家でゴロゴロしてて、やんなっちゃうわ」
「今日はここに泊まらせてもらいますか?」
「あらごめんなさい。うちは一見さんお断りなのよ」
彼は数分前に聞いたセリフを、ここでも聞かされた。
「ここもなんです?」
「三十年そういう決まりでやってるの。ごめんなさいね」
「早く言ってくださいよ」
「え? なんか言った?」
「いや、なんでもないです」
彼は他の旅館やお店にも行ったが、全部一見さんお断りだった。
この町には、彼の居場所はどこにもない。
「なんだよこの町。胸糞悪い。もういいわ」
彼は怒りを顕にしながら、町から出ていった。
「ふん。どうだ『一見さんお断り』と言われる辛さは」
先程彼が行った和食店の板前はこのように呟いていた。
板前は、推薦状をもらったトレーナーが来店したとき、先程のような扱いを必ずしている。
「誰かからの紹介が得られないと何もできない苦しみを、味わうがよい」