俺は教室で頭を抱えていた。
頭を抱えているのは、今眼前で企画書にスラスラと文字を書きまくっている奴が原因だ。
「さっきも言ったけど、止めておこうぜ」
「なんでだよ。クラス会で決まったことだろ」
「明日また話し合い直した方が良い。今日はみんなの悪ノリ癖が出たんだ」
「絶対ウケるよ。やろう」
「お客さんにドン引きされて終わるぞ」
俺達はクラスの文化祭の企画を任されていた。
うちの高校の文化祭は、クラスごとに教室内で何らかの出し物を出すということになっている。何の出し物を出すかは自由だが、大抵のクラスは、お化け屋敷とかカフェとか、一般的なものが多かった。
しかし、なんと我々のクラスは先程のクラス会で、ポケモン関連の奴をやろうとか、そういうノリが生まれてしまったのだ。このクラスは時折、変な方向に突っ走るときがある。
更に酷いことに、具体的にポケモン関連の何をやるかは、決まらなかった。詳しい内容は、文化祭係のお前ら二人が考えてくれと、丸投げされてしまったのだ。
そして、眼前にいるこいつが考案した具体案がこれ。クラスの奴らがポケモンの仮装を行い、教室に来たお客さんにトレーナーをやってもらう。お客さんの指示に従って、クラスの奴らがポケモンバトルもどきをやる、というもの。
「明日また話し直そう。文化祭でこれをやるのは不味いよ。色々と」
「駄目だよ。企画の締め切り今日までだから。これでいくしかない」
「締め切りなんて先生に頼めば引き伸ばしてくれるよ」
なぜ彼はこの案が良いと思っているのか。さっぱり理解できない。
「単刀直入に言って、お前の案は相当キツイぞ」
「なんでだよ!」
「あのな。そもそも学校行事で、ポケモン関連の何かをやる時点で、かなりキツイから」
「は? ちょっと待って、それは良く分からない」
「ポケモンっていうのは、そういうものだから」
「あ! もしかしてお前、ポケモンは幼稚とか小学生までとか、思ってるタイプ?」
「いや別にそういう訳じゃ」
「お前なあ、令和の時代にその考えはないわ。今は大人でも余裕でポケモンやる時代だぞ。この間も職員室で先生達が、ポケモンGOの話してたし」
「まあまあ確かに昔に比べると、ポケモンは子供向けというイメージはだいぶ脱却したよ。でもそれでも、文化祭でやるのは、やっぱりギリギリなんだよ」
「ギリギリ?」
「なんかこう、ポケモンモチーフの喫茶店やるとかお化け屋敷やるとか、そういうのでギリギリなんだよ。お前の案は完全にアウトなんだよ。ポケモンの格好した高校生がお客さんの指示で戦うとか、もう明らかにヤバいだろ」
俺はなんとか説得を試みた。彼の企画書を先生に見せたら、俺まで恥をかく。
だが、彼の意思は強かった。
「何事もやってみないと分からないだろ。とりあえず先生とこに、企画書持っていくから」
そう言って彼は、教室を出ていってしまった。
「はあ。あいつ今日テンション上がりすぎなんだ。明日になれば、なんでこんな馬鹿なこと考えてたんだろうって絶対我に帰るから」
30分後。
「先生に企画書見せたぞ!」
「とうだった? 先生に白い目で見られただろ」
「いや全く」
「は?」
「企画書通ったよ。これで良いって」
「嘘だろ……あれが通っただと……」
「めっちゃ面白いって褒められた」
「いやいやいや」
「今年このクラス賞取れるかもって」
「絶対無理だろおい」
「後、先生がボールガイ役やってくれるってさ」
あまりにも予想外の展開に、俺は大層混乱していた。
「え? ちょっと待って? 俺の価値観が間違ってるのか? 文化祭でこれやっても大丈夫なんか? え? え? 我に帰るべきなのは俺なのか?」