ポケモン、クセが強い短編集   作:@逆行

53 / 100
53.個性強いのに悩み普通のポケモンの話

 人気が全くない場所にぽつんと、ボロボロの屋敷が建っていた。

 ここは、ポケモンお悩み相談屋敷。

 屋敷の真ん中で古びた椅子に座っているのは、お悩み相談員だ。お悩み相談員は悩みを聞いてあげることで、ポケモン達を光へと導くのが好きだった。

「さて、今日はどんなポケモンがやってくるでしょうか」

 

 

 屋敷の黒いカーテンが揺らめいていた。誰かが、この屋敷に近づいている証拠だった。

「いらっしゃい」

 お悩み相談室には、サンドパンというポケモンが入ってきた。

「え?」

 お悩み相談員はサンドパンを見て、思わず声を出してしまった。

 そのサンドパンはまず、色違いだった。色違いのサンドパンは、背中が真っ赤に染め上がっている。だが、通常の色違いとも少し違くて、背中の一部は赤ではなく青くなってた。

 更に、サンドパンはサンドパンにしては異様に尻尾が長かった。三メートルくらいはある尻尾を、サンドパンは重そうに引きずりながら歩いている。

 更に更に、耳には大きな傷があった。だいぶ昔に付けられた傷だと想定できる。

 更に更に更に、理由は分からないが、首には炭のような真っ黒な跡がついていた。

「今日はよろしくお願いします」

「え、ええ。よろしくね」

 ここまで個性の強いポケモンは、中々いないだろう。

「(これはまた……。このサンドパンは、どういった悩みを抱えているのだろう……)」

 

 

 お悩み相談員は、姿勢を正して話し始める。

「ええ、こほん。まずは、勇気を出してここへ来てくれたこと、誠に感謝します。ここへ来れる勇気を持っているだけで本来、あなたは十分自分に自信を持って良いのですよ。私はこれまで、ありとあらゆるポケモンの悩みを解決してきました。さあ、遠慮は要りません。あなたの心にあるモヤモヤしたものを、思う存分吐き出してください」

「ありがとうございます。それでは、さっそくいいですか?」

「どうぞ」

「自分、もうちょっとレベル上げたいなあと思いまして」

「はい?」

 お悩み相談員はキョトンとしていた。

「自分レベルが低いんですよ。だから、レベル上げたいんです」

「……それだけ?」

「はい」

「本当に? 正直に話して良いんですよ。ここはそういう場ですから」

「正直と言われましても……レベルを上げたいです」

「ちょっと待って。こんなに個性強いのに、悩みそんな平凡なの?」

 お悩み相談員は急に声のボリュームを上げた。

「え?」

「なんかこう、色違いが理由でいじめられているとか、そういうのじゃないの?」

「いじめられたことは一度もなかったです」

「耳に傷があるせいで群れから追い出されたとか」

「群れのポケモン達とは仲良くやっています」

 

 

「はあ。あなたには失望しましたよ」

「え? 自分なんか変なこと言いました?」

「あなたが入ってきたとき、私めちゃくちゃ期待したんですよ。個性が強いポケモン来たな。これはとんでもなく深い悩みを打ち明けてくれるだろうなあって。『お悩み相談役の腕の見せ所だ』って張り切ってたんですよ」

「はあ」

「それなのに。あなたの口から出たのは、どこにでも有り触れた平凡な悩み。なんなの。レベル上げたいって!」

「自分は真剣に悩んでいるんですよ。お願いします。僕の悩み解決してください」

「駄目です。おかえりください」

「え? なんでですか?」

「期待を裏切られすぎたショックで、今日は言葉が何も浮かんでこないです」

「僕の悩み解決してくださいよ!」

「レベルなんか普通に努力すれば上がります」

「努力しても中々上がらないんですよ」

「それはあなたの努力が足りないんです。ほら、帰って」

「僕みたいに個性の強いポケモンは、普通のことで悩んじゃいけないんですか?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。