人気が全くない場所にぽつんと、ボロボロの屋敷が建っていた。
ここは、ポケモンお悩み相談屋敷。
屋敷の真ん中で古びた椅子に座っているのは、お悩み相談員だ。お悩み相談員は悩みを聞いてあげることで、ポケモン達を光へと導くのが好きだった。
「さて、今日はどんなポケモンがやってくるでしょうか」
屋敷の黒いカーテンが揺らめいていた。誰かが、この屋敷に近づいている証拠だった。
「いらっしゃい」
お悩み相談室には、サンドパンというポケモンが入ってきた。
「え?」
お悩み相談員はサンドパンを見て、思わず声を出してしまった。
そのサンドパンはまず、色違いだった。色違いのサンドパンは、背中が真っ赤に染め上がっている。だが、通常の色違いとも少し違くて、背中の一部は赤ではなく青くなってた。
更に、サンドパンはサンドパンにしては異様に尻尾が長かった。三メートルくらいはある尻尾を、サンドパンは重そうに引きずりながら歩いている。
更に更に、耳には大きな傷があった。だいぶ昔に付けられた傷だと想定できる。
更に更に更に、理由は分からないが、首には炭のような真っ黒な跡がついていた。
「今日はよろしくお願いします」
「え、ええ。よろしくね」
ここまで個性の強いポケモンは、中々いないだろう。
「(これはまた……。このサンドパンは、どういった悩みを抱えているのだろう……)」
お悩み相談員は、姿勢を正して話し始める。
「ええ、こほん。まずは、勇気を出してここへ来てくれたこと、誠に感謝します。ここへ来れる勇気を持っているだけで本来、あなたは十分自分に自信を持って良いのですよ。私はこれまで、ありとあらゆるポケモンの悩みを解決してきました。さあ、遠慮は要りません。あなたの心にあるモヤモヤしたものを、思う存分吐き出してください」
「ありがとうございます。それでは、さっそくいいですか?」
「どうぞ」
「自分、もうちょっとレベル上げたいなあと思いまして」
「はい?」
お悩み相談員はキョトンとしていた。
「自分レベルが低いんですよ。だから、レベル上げたいんです」
「……それだけ?」
「はい」
「本当に? 正直に話して良いんですよ。ここはそういう場ですから」
「正直と言われましても……レベルを上げたいです」
「ちょっと待って。こんなに個性強いのに、悩みそんな平凡なの?」
お悩み相談員は急に声のボリュームを上げた。
「え?」
「なんかこう、色違いが理由でいじめられているとか、そういうのじゃないの?」
「いじめられたことは一度もなかったです」
「耳に傷があるせいで群れから追い出されたとか」
「群れのポケモン達とは仲良くやっています」
「はあ。あなたには失望しましたよ」
「え? 自分なんか変なこと言いました?」
「あなたが入ってきたとき、私めちゃくちゃ期待したんですよ。個性が強いポケモン来たな。これはとんでもなく深い悩みを打ち明けてくれるだろうなあって。『お悩み相談役の腕の見せ所だ』って張り切ってたんですよ」
「はあ」
「それなのに。あなたの口から出たのは、どこにでも有り触れた平凡な悩み。なんなの。レベル上げたいって!」
「自分は真剣に悩んでいるんですよ。お願いします。僕の悩み解決してください」
「駄目です。おかえりください」
「え? なんでですか?」
「期待を裏切られすぎたショックで、今日は言葉が何も浮かんでこないです」
「僕の悩み解決してくださいよ!」
「レベルなんか普通に努力すれば上がります」
「努力しても中々上がらないんですよ」
「それはあなたの努力が足りないんです。ほら、帰って」
「僕みたいに個性の強いポケモンは、普通のことで悩んじゃいけないんですか?」