ポケモン、クセが強い短編集   作:@逆行

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60.サファリゾーンに住む人の話

 サファリゾーンの一角にテントがぽつんとあった。テントの中で一人の男が寝っ転がっていた。

「すいません。もう500歩歩いてますよ。サファリゾーンから出てください」

 そこにサファリゾーンのスタッフがやってきた。スタッフは堂々と張られたテントを見て、目を丸くしていた。

「ああ。もう500歩歩いていたのか。早いなあ」

「500歩に到達したとき電話かかってきたでしょう。次回から電話かかってきたらちゃんと出ていってくださいね」

「仕方ないなあ。出るとするか」

 彼のように、500歩以上歩いても外に出てこない人が稀にいる。そういう場合スタッフが呼びにいっているのだ。

 

 

「というか、なんでテントなんか張ってるんですか?」

「決まってるだろ。暮らしてるんだよここで」

「はい?」

「一週間ぐらいサファリゾーンで生活してた」

 スタッフは言っている意味がよく分からなかった。サファリゾーンで暮らす人なんて、はじめて見た。

「ほら。ここって500歩歩かなければ、永久に出なくて良いじゃん」

「まあ……一応そうではありますけど」

「だから、ここに住めるなって思ったんだ」

「いやいや。普通に生活してたら500歩なんてすぐ歩いちゃうでしょ」

「なるべく歩かずに生活してたんだよ。食事のときも、寝るときも、ここから一歩も動かない」

「へえ……」

「問題は排便だよ。排便はさすがにここでする訳にいかない。だから、なるべく大股で歩いて、最小限の歩数でトイレまで向かったんだ」

 

 

「そもそも、なぜここに住んでいるんですか」

「家がないんだよ俺は。家賃払えなくて追い出されたんだ」

「それは、お気の毒に……」

「草むらで野宿する手もあるが、ポケモンに襲われるリスクがある。だから、ここに住むことにした。サファリゾーンのポケモンは行儀がいい。こっちが危害を加えない限り襲ってこないだろう」

「まあ、一応管理されてるポケモンですからね。でも、だからってここに住みます? こんな歩けない生活、不便すぎるでしょ」

「しょうがないだろ。他に住む場所がないんだから」

 

 

「とりあえず、500歩歩いたからサファリゾーンから出てくださいね。テントも片付けてください」

「わかったよ」

 男とスタッフは、サファリゾーンの入り口に向かった。

「じゃあな」

 男はサファリゾーンから出ていったのであった。

 

 二秒後。

 男は再び、サファリゾーンにやってきた。

「え、なんでまた来たんですか?」

「500円払うからまたここで住むぞ、500歩まで」

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