サファリゾーンの一角にテントがぽつんとあった。テントの中で一人の男が寝っ転がっていた。
「すいません。もう500歩歩いてますよ。サファリゾーンから出てください」
そこにサファリゾーンのスタッフがやってきた。スタッフは堂々と張られたテントを見て、目を丸くしていた。
「ああ。もう500歩歩いていたのか。早いなあ」
「500歩に到達したとき電話かかってきたでしょう。次回から電話かかってきたらちゃんと出ていってくださいね」
「仕方ないなあ。出るとするか」
彼のように、500歩以上歩いても外に出てこない人が稀にいる。そういう場合スタッフが呼びにいっているのだ。
「というか、なんでテントなんか張ってるんですか?」
「決まってるだろ。暮らしてるんだよここで」
「はい?」
「一週間ぐらいサファリゾーンで生活してた」
スタッフは言っている意味がよく分からなかった。サファリゾーンで暮らす人なんて、はじめて見た。
「ほら。ここって500歩歩かなければ、永久に出なくて良いじゃん」
「まあ……一応そうではありますけど」
「だから、ここに住めるなって思ったんだ」
「いやいや。普通に生活してたら500歩なんてすぐ歩いちゃうでしょ」
「なるべく歩かずに生活してたんだよ。食事のときも、寝るときも、ここから一歩も動かない」
「へえ……」
「問題は排便だよ。排便はさすがにここでする訳にいかない。だから、なるべく大股で歩いて、最小限の歩数でトイレまで向かったんだ」
「そもそも、なぜここに住んでいるんですか」
「家がないんだよ俺は。家賃払えなくて追い出されたんだ」
「それは、お気の毒に……」
「草むらで野宿する手もあるが、ポケモンに襲われるリスクがある。だから、ここに住むことにした。サファリゾーンのポケモンは行儀がいい。こっちが危害を加えない限り襲ってこないだろう」
「まあ、一応管理されてるポケモンですからね。でも、だからってここに住みます? こんな歩けない生活、不便すぎるでしょ」
「しょうがないだろ。他に住む場所がないんだから」
「とりあえず、500歩歩いたからサファリゾーンから出てくださいね。テントも片付けてください」
「わかったよ」
男とスタッフは、サファリゾーンの入り口に向かった。
「じゃあな」
男はサファリゾーンから出ていったのであった。
二秒後。
男は再び、サファリゾーンにやってきた。
「え、なんでまた来たんですか?」
「500円払うからまたここで住むぞ、500歩まで」