「カツラさんお願いします! 配置を変えてください!」
「だめだ。もう決まったことだ」
「お願いします! これじゃあ自分バトルできないです!」
理科系の男が、ジムトレーナーであるカツラに頭を下げていた。しかしカツラは彼の頼みを受け入れなかった。
理科系の男がジムに入ったのはだいぶ前のこと。彼は元々パソコンや機械にしか興味がなくバトルは弱かった。だが活躍するトレーナー達に触発され、トレーナーとしてもっと強くなろうと考えた。そしてグレンジムに入った。
ところが、もうグレンジムでバトルさせてもらえない可能性が出てきた。
数日前、ジムの大胆な仕組み改善を行った。
グレンジムでは各部屋ごとに、挑戦者にクイズを出す。クイズに答えられたら、扉が空いて次の部屋に進める。最後の部屋にはカツラが待ち構えている。もしクイズに間違ったら、部屋にいるトレーナーと戦わないといけない。このような仕組みに変更した。
クイズの内容は専門家に外注した。この間、クイズが納期ギリギリで納品された。
クイズが届いた後は、各部屋にジムトレーナーを配置していく。一つの部屋に、必ず一人いなくてはいけない。
配置は全てリーダーのカツラが独断で決めた。
「お前はわしの一番弟子だから、いちばん最後の部屋に立ってもらう」
そのとき、理科系の男はカツラからそう言われたのだ。
彼は嬉しかった。憧れのカツラから一番弟子と認められた。
「ありがとうございます! グレンジム最後のジムトレーナー、自分が務めさせていただきます」
ところが、だ。
理科系の男が立つ部屋に設置されたクイズは、これだ。
わざマシン28とは、しねしねこうせんである。
「こんなの誰が間違えるんだ!?」
挑戦者はクイズに正解すれば、ジムトレーナーと戦わなくていい。こんな問題、間違える人は誰もいないだろう。つまり、彼が挑戦者と戦える可能性は、ゼロに等しいのだ。
「バトルが強くなりたくてジムに入ったのに、これじゃあ強くなれないじゃないか……。そもそも誰だよ、しねしねこうせんなんて考えた奴は」
なぜこんなクイズを納品したのか、カツラさんもなぜ採用したのか、訳がわからない。
「はあ……僕じゃなくて、火事場泥棒の奴らがここに配置されれば良いのに……。あいつらは元犯罪者だし、少しは不遇な扱いを受けるべきだろう。なぜ僕なんだ」
数分後、一人目の挑戦者がやってきた。彼は挑戦者を見て、小さくため息をついた。
「(はいはい。どうせあいつはクイズに正解して僕とは戦わないだろ)」
ところが、挑戦者はクイズのある部屋の左上には向かわず、彼の正面に立った。
「バトルお願いします!」
挑戦者は元気よくそういった。
「え、バトル?」
「はい! ジムトレーナーに勝てば部屋の扉が開く。このジムはそういう仕組みですよね」
「……」
挑戦者は、クイズの存在に気がついていないようだ。
そしてどうやら、ジムトレーナーに勝つことで先へ進める仕組みだと、誤解している。
「(これはラッキーだ……!!)」
理科系の男は、バトルできることを嬉しく思った。
後で気がついたことだが、クイズの存在に気がつかない挑戦者は結構いた。