「俺、あの人間に捕まろうと思う」
友人のサッチムシは、突然言い出した。
「え? なんで?」
「あの人なら、絶対に俺を強くしてくれるって確信したから」
先週、サッチムシはある人間と出会った。捕まると思い、慌ててサッチムシは逃げ出した。
そのときサッチムシは崖から転落し、大怪我を負った。人間はサッチムシを抱きかかえ、ポケモンセンターまで運んだ。翌日、サッチムシを元の場所へと戻し、「じゃあね」と手を振りながら去っていったという。
それから数日経ち、サッチムシはその人間のポケモンになりたいと、強く思うようになったらしい。
「あの人と出会えたのは運命に違いない。俺は、このチャンスを逃したくない」
「まあ、お前がその気なら反対はしないが」
その人間は、ハロンタウンに住んでいる。そしてサッチムシ曰く、もうすぐトレーナーとして旅立つ予定とのこと。人間は相棒のメッソンと共に、一番道路に毎日やってくる。旅を始めるまで、バトルの練習をしているようだ。
サッチムシのように、自ら人間に捕まることを望むポケモンは稀にいる。
いわゆる、友情ゲットというやつだ。
数日後、サッチムシはまだ捕まりにいっていなかった。
「お前まだ捕まりにいかないの」
「捕まりにいきたい、とは思うんだが……」
「まだ決心が固まっていないのか」
「いや、決心が固まっていない訳じゃないんだ」
「じゃあ、なぜ人間の正面に飛び出さない? なぜ捕まりにいかない?」
「俺が歩み寄るんじゃなくてさ、できれば向こうから俺を捕らえにきて欲しいんだ」
彼が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。
「どういうこと?」
「望んで人間に捕まりにいったら、何か俺がやらかしたとき、『自主的にゲットされたのに何してんだ!』って余計に自分を責めたくなってしまうだろ」
「……ん?」
「逆に、むりやり捕獲された立場だったら、バトルで負けた時とか、ある程度はトレーナーのせいにもできる」
「…………」
「あくまで『トレーナーに無理やり捕まえられた』っていう体にしたい。だから、もうちょい待って向こうが俺を捕まえてこないって確信したら、そのとき捕まりにいく予定だ」
「友情ゲット、にはしたくないってこと?」
「そう」
「……お前本当に、あの人間のこと気に入ってんの?」
「当たり前だ。俺はあの人と共に成長していきたい」
「そう思ってるなら細かいこと考えず、さっさと捕まりにいけよ」
「わかってないなあ、お前は」
「え?」
「あの人間とは、末長く付き合っていきたいんだ」
「……」
「だから、自分が少しでも気持ちを楽にして生きられるよう、あれこれ対策するのは大切なんだ。そうじゃないと、末長く付き合うことなんてできないだろ」