俺はごく普通のどこにでもいるありふれたポケモントレーナー。
草むらを歩いていると、下を向きながら歩いている、一人のトレーナーを見つけた。
目と目が合ったらポケモンバトル。トレーナー界には、このような暗黙の了解がある。目を合わせてしまったら、どんな状況でも戦わなくてはいけないのだ。おそらくあいつは、戦いたくないから、下を向いているのだろう。
「しょうもないやり方でバトルを回避しやがって……許せない!」
俺は、そいつとなんとしてでもバトルしようと心に誓った。
俺はそいつの傍に寄った。そいつは一言も話さず、黙々と歩いている。
俺は少ししゃがみながら歩く。下からそいつの顔を覗き込もうとした。
ところが。
「なん……だと……!」
そいつは俺が覗き込んだ瞬間に、上を向きやがった。
「こいつ、絶対に目を合わせないつもりか……」
そいつは俺より身長が高く、上を向くと全く顔が見えなくなる。
「こうなったら、ピジョン頼んだ!」
俺はボールからピジョンを出し、ピジョンの上に乗った。そして、そいつの頭上まで向かう。上から目を合わせる作戦だった。
ところが。
「こいつ! また下を向きやがった!」
そいつはまた下を向いてしまった。
俺はピジョンから一度降りて、また下から覗き込もうとした。だが、今度は上を向いてしまう。再びピジョンに乗って頭上まで向かったが、やはり下を向いてしまった。だめだ! どうやっても目が合わせられない!
「よし、こうなったら!」
俺はピカチュウを出した。ピカチュウに鏡を持たせた。
「ピカチュウは鏡を持ったまま、あいつの下に居てくれ」
俺はピジョンに乗って頭上に向かった。そいつは下を向く。その瞬間、ピカチュウは下から鏡をそいつに向けた。
「これで鏡に顔が映るはず……。そしたら目を合わせられる!」
ところが。
そいつは今度は、上でもなく下でもなく、前を向いてしまった。
「くそっ! だったら……バタフリー頼んだ!」
俺はバタフリーにも鏡を持たせた。バタフリーには、そいつの前に立ってもらう。
完全に、そいつを包囲した状態となった。
「これでもう逃げ場はない! 覚悟しな!」
ところが。
『パリーン!!!』
なんとそいつは、素手でバタフリーが持った鏡を割りやがった。
「まじかよ! 鏡割るなんて反則だぞ!」
素手で鏡を割るなんて、とんでもない度胸だ。
「(……っていうかよく見たら、この人めっちゃ怖い人じゃん。身長めっちゃでかいし、筋肉ムキムキじゃん)」
俺はポケモン達をボールに戻し、咄嗟に彼から離れた。
「どうもすいません、失礼しました」