少年はキンセツシティまでやってきた。ここまでランニングシューズで来たので、だいぶ足が疲れた。
キンセツシティには、自転車屋がある。待ちに待った存在だ。自転車を買えば苦しい旅をしなくて済む。少年はさっそく自転車屋に入った。
自転車屋の店員は、なんと自転車をタダで譲ってくれた。
「交換して欲しくなったときは、いつでも交換してくれ」
しかも、二種類の自転車をいつでも交換できるようにしてくれた。
タダで自転車をもらえた少年は大層喜んだ。
「へえーこれがマッハ自転車かあ」
その自転車には「カゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノ」と書かれていた。それだけ気になったが、ひとまず乗ってみることにした。
キンセツシティ内を自転車で走った。マッハ自転車は予想以上に速かった。曲がるのも一苦労だった。
「危なっ」
危うくポケモンセンターに衝突するところだったが、なんとか急ブレーキをかけて止まった。
「あ、お兄ちゃんのいいな。マッハ自転車だ!」
自転車が気になったらしく、この町に住む小さい子が寄ってきた。
「すごーい。この自転車、『カゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノ』って書かれているね」
「……」
少年は何やら、複雑な表情を浮かべていた。
数分後、少年は再び自転車屋にいた。
「すいません……これ返却します」
少年は「カゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノ」と書かれた自転車を返しにきた。
「え! なんで? ずっと乗ってて良いんだよ、遠慮しないで!」
「いや、遠慮とかそういうのじゃなくて」
「マッハ自転車の操縦が難しかったから?」
「違うんです。なんて言うか……文字数がもったいないんです」
「はい?」
「こんなのに乗って旅してたら、文字数がどんどん増えていっちゃいますよ」
少年は自転車の「カゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノ」と書かれた部分に、冷ややかな視線を向けながら言った。
「いや、別にそれ、自転車のせいでもなくない?」