俺はキャタピーから進化し、トランセルとなった。トキワの森の木に掴まり、中身が順調に育つよう、なるべく動かないようにしていた。下手に動くと、トロトロ状態の中身が、溢れる可能性があるのだ。
俺の隣には、同時期にビードルから進化したコクーンがいた。コクーンもやはり、じっと動かないようにしていた。さなぎの時期は何もしないでじっとしているのが一番である。
「なあコクーン」
「どうした?」
「俺達進化するまで後何日だと思う」
「後三日ぐらいじゃないか」
「もっと早く進化したいんだが」
「三日ぐらい待てよ」
「いや、どうしても我慢できないんだ」
「そんなにバタフリーになりたいのか?」
「そりゃあなりたいが、それよりも辛いことがある」
「なんだ?」
「俺達、基本動かないじゃん」
「そうだな。動くとトロトロの中身が溢れるからな」
「それどころか、口を動かすこともできない」
「そもそも口ないからな。今はさなぎ同士念波で会話してるだけだし」
「俺達、どこも動かすことができないんだ」
「仕方ないだろ。さなぎなんだから。そこに不満を持つな」
「違うんだ。体を動かせないと、どうしても地の文を途中で入れられず、会話文が連続してしまうんだ」
「はあ?」
「ほら今もこうして、会話文だらけになってるだろ?」
「別に良いだろ。会話文が続いても」
「駄目なんだよ。会話文が続くと、格のない文章に見えてないかって、どうしても不安なんだ。だから、会話の途中で『首をかしげた』とか『ため息をついた』とか『肩をすくめた』とか地の文を挟みたいんだ」
「知らねえよ。適当に情景描写でも挟んどけよ」
「ここから動けない俺が自由に情景を描写できると思うか」
「そこは頑張れよ」
「はあ、格のある文章にしたいなあ」
現状に不満を抱いている最中、突然俺の体が輝き出した。
そして、それに合わせるかのように、隣のコクーンの体も輝き出す。
「もしかして……これは進化!?」
数秒後、俺達は進化を遂げた。
俺はバタフリーに、コクーンはスピアーになった。意外にも進化は呆気なく終わった。
「やった! 進化できたぞ! これで動ける!」
俺は二本の触覚を動かしながら言った。
「思ったより早かったな、進化」
スピアーは羽音を豪快に立てながら、両手の針を動かして感触を確かめている。
「よっしゃ! 地の文挟み放題だ!地の分祭りだ、わっしょいわっしょい」
「いや一番うれしいのそれかよ!」
俺は白くて大きい羽を広げ、精一杯に喜びを表現したのだった。