「あ、おかえり! どこ行ってたの今まで?」
「ちょっと遠くまで探しに行ってたんだ」
「あれ? 何か手に持ってるじゃん」
「あ、これのこと?」
「何に使うのそれ? そもそもそれ何なの?」
「えっと……そうだ! これはモンスターボールだよ」
「はあ? モンスターボール? いや、ただのガラクタじゃん!」
「まあ見てなって。これを、こうすれば……」
『ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!』
「よし! できた!」
「え? 何これ! モンスターボールが!」
「すごいでしょ! ただのガラクタのように見えるけど、こうすれば僕達にとって嬉しいものに変身するんだ」
「これってどこで見つけたの?」
「木に引っかかってたんだ。五メートルぐらいの高さだったけど、ジャンプしてなんとか取ったよ」
「いやあ、すごいね! こんなガラクタからこんな良いものを作れちゃうなんて」
「意味のないものから良いものを作り出す。これはいわゆる、『クラフト』ってやつだね」
※
ポケモンと人間は長い間交わることなく別々に暮らしていた。ポケモンに集落を襲われたり食料を奪われたりすることも時折あったため、人々は常にポケモンを警戒しながら日々を過ごしていた。
ポケモンと人間が共存する兆しが見えたのは比較的最近のことだ。
もっとも大きなできごとは、モンスターボールの発明・普及だ。いくつかの道具を組み合わせることでモンスターボールを作る『クラフト』のやり方は、いつしか一般人にも広まった。
人々の間にポケモンを所有する文化がだんだんと根付いてきた。さらに、ポケモンをバトルさせるポケモントレーナーと呼ばれる人も増えてきて、小規模ながら大会が開催されることもあった。
モンスターボールによってポケモンと人間の共存が進んだのは紛れもない事実である。
やはり、クラフトのやり方が世間に広まったのが大きかった。
だが、めでたしめでたし、にはまだ至らない。ボールの普及でポケモンの力を借りれるようになったのは喜ばしいことだが、同時に新たな問題がいくつか発生した。ヒスイ地方に稀に発生する時空の歪みよろしく、何かと何かを繋げようとすれば、別のところで新たな歪みが発生するものなのだ。
歪みが無くなるまで試行錯誤を行い完全な共存関係が実現されるには、もう少し時間が必要だろう。
「うーん、やっぱり見つからないかあ」
一匹のヨーギラスが草原のあちこちを歩き回っていた。彼は『たまいし』というものを探していた。ヨーギラスにとってたまいしは、食べ物の一種だった。
「だめだ。今日はもう諦めよう」
三時間程度探したが、たまいしは一つも見つからない。彼は諦めて住処に帰ろうとした。
帰る途中、ヨーギラスは友人のココドラと出会った。
「やあ。その様子だと、今日も見つからなかったようだね」
「最近は全然だめだ。もっと隈なく探さなきゃ」
「まあ、そんなに深刻に考えなくて良いじゃん。たまいし食べないからって死ぬわけじゃないし」
「死ぬわけじゃないけど、死ぬのと一緒だよ」
「……そっか」
「ところで君の方はどうなの? 『てつのかけら』は見つかった?」
「全然見つからないよ。たまいしもてつのかけらも、最近は全部人間に奪われちゃうから」
「やっぱりかあ。困っちゃうよね」
昔はたまいしなんて至る場所で見つかった。草原だろうと沼地だろうと崖だろうと、どこにでもあった。最近はほとんど見つからない。ようやく見つけたと思ったら、他の岩タイプのポケモンに横取りされることもあった。
ヨーギラスの主食は基本的には土である。そこらの土を適当に食べておけば、死ぬことはない。だが、土のみだとあまりにも物足りないのだ。それもその筈、人間で例えるなら白いご飯のみでおかずが一切ない状態だ。塩さえあれば問題ない、という人もいるかもしれないが、その塩すらない状態なのである。
そして、ヨーギラスにとってたまいしは、ご馳走とも言うべきものだった。口に含んだ瞬間、鉱石の良い香りが口中に広がる。ザラザラとしていて舌触りもとても良い。噛み砕くと小気味良い音を鳴らし、ほんのりと甘い味が追いかけてくる。初めてたまいしを食したときのことを彼は忘れられなかった。
たまいしを求める者はヨーギラスだけではない。イシツブテやサイホーンなど他の岩タイプにとっても、たまいしが得られないことは死活問題と言っても大袈裟ではなかった。
乱暴な者が、弱いポケモンから貴重なたまいしを奪い取ることも多くあった。僅かなたまいしを巡って闘争が繰り広げられることもあったし、奪われたくないからとヤケになって自爆するゴローニャもいた。
「なんで人間って、たまいしを集めるんだろう」
人間がたまいしを集める本当の理由を、ヨーギラスは知らない。だか、一部のポケモンは知っていた。人間はたまいしを集め、モンスターボールをクラフトしているのだ。特に最近は、ポケモンを所有する人が増え、多くのボールが必要になったため、特定の業者がたまいしを集めるようになっていた。
「人間も、たまいしやてつのかけらの美味しさに気がついたんだろうね」
ヨーギラスとココドラは共に慰め合っていた。てつのかけらも同じくボールの生成に必要なものであり、やはり最近は見かける頻度が少なくなっている。
また他にも、『そらいろたまいし』や『くろいろたまいし』というものがあり、それぞれ味が異なるため見つけたら即回収したいのだが、これらも人間に奪われてしまっていた。別種のたまいしを使うことによって、性能が違うモンスターボールをクラフトすることができるためだ。
ある日のこと。ヨーギラスはたまいしを見つけるべく、普段は全く足を踏み入れない場所まで向かった。遠くまで行けばさすがに一つか二つは落ちてるだろうと思っていた。
「ん? 何やってるんだろう?」
ヨーギラスが目撃したのは、ビッパやムックルなどのポケモンに向かって、十人以上もの人間が遠くからモンスターボールを投げているところだった。ポケモン達は次々とボールに吸い込まれていく。
「えっ、怖っ」
惨たらしいともとれるその光景をヨーギラスは岩陰から見ていた。
人間がポケモンを捕まえるのは昔からそう。だが、こんなに大量のポケモンを一度に捕獲する人間が現れたのは、ごく最近のことだった。
たまいしを集める業者がいるのと同様に、ポケモンを捕獲する業者もいるのだ。捕獲業者はポケモンが欲しい人にポケモンを売っていた。まだこの当時は、ポケモン売買に関する法律が整備されておらず、合法だった。
「何あのボール? なんであれでポケモン達を捕まえられるの?」
ポケモンを捕まえる人間がいることは、ヨーギラスも知っていた。だが、そのためにモンスターボールを使っていることは知らなかった。もちろん、自分たちの好物によってモンスターボールが生まれていることも。
「ここにいたら僕も危ないかも。逃げよう」
危険を察知したヨーギラスは立ち去ろうとした。ところが。
『なんだあのポケモン、見たこと無いな』
『知らないのかよ、馬鹿だなお前。あれはヨクバリスっていう岩タイプのポケモンだ』
逃げる瞬間に、人間達に見つかってしまった。種族名を間違えているが、二人は彼の方を指差していた。読んだ図鑑に誤表記があったのか、彼が覚え間違えていたのか知らないが、ともかく今ヨーギラスは危機に直面している。
危険を察知した際にすぐに逃げられれば良いのだが、ヨーギラスは人間に捕まった後のことをつい想像してしまった。捕まったらどうなるんだろう。別に良い人間になら、捕まるのもそこまで悪くはない。でも、あいつらはどう見ても良さそうな側の人間じゃない。もし捕まったら……。
人間のうちの一人が、ヨーギラスに近寄ってきた。人間の足音が聞こえたことでヨーギラスは我に帰り、素早さの遅い種族なりに全速力を出して逃げたのだった。
足が遅いヨーギラスはすぐに捕まってしまうと思いきや、意外にも彼は逃げ切ることができた。振り返ると人間の姿はどこにもなく、捕獲を諦めてくれたかに思えた。
ヨーギラスは乱れた呼吸を整え、一休みしようと地べたに座り込んだ。
「ん、何これ?」
地べたに座りながらヨーギラスは首を傾げた。ヨーギラスの目の前にはなぜか、一つの『ズリのみ』が落ちていた。
「こんなところに、さっきあったっけ?」
ヨーギラスは疑問に思ってはいたが、目の前のズリのみに手を出すことはしなかった。彼らが普段食べるのは土や石である。別に木の実も消化はできるし、回復薬として食べることはあるが、率先して口に運ぶことはしない。
「よし、そろそろ行くか。また見つかったら怖いし」
少しだが休憩できたため、ヨーギラスは立ち上がり歩こうとした。
そのときである。ヨーギラスの正面から、何の前触れもなく、さっきの人間が現れたのだ。
「え、え? なんで!」
『なんでこいつ、ズリのみに手を出さないんだ? くそっ、今手持ちピンチなのに』
人間は『めかくしだま』を使い自分の姿を隠し、『ひそやかスプレー』で足音を消していた。
ヨーギラスと人間の距離はおよそ五メートル。逃げられないと思った彼は意を決して戦闘態勢を取った。
人間は手持ちポケモンを出さなかった。さきほど親分ポケモンと戦った影響で、手持ちが壊滅寸前の状況であるためだ。だからこそ、めかくしだまとひそやかスプレーをわざわざ両方使ったのだが、こうなった以上は仕方がない。彼は生身でヨーギラスに立ち向かった。
今では信じられない話だが、この当時は野生ポケモンに対しても手持ちポケモンは出さず、生身で戦うのがむしろ主流だった。
最初に人間がヨーギラスに投げつけたのはモンスターボール、ではなかった。
「うわっ、何これ。ネバネバする!」
投げつけた緑色の球体の正体は『ねばりだま』だった。人工的に作られたそれは効果が強く、ヨーギラスは動きが鈍くなってしまった。
ヨーギラスに向かって人間はモンスターボールを投げた。モンスターボールはヨーギラスの額に命中したが、なぜかヨーギラスはボールに吸い込まれず、ボールは弾き飛ばされてしまった。
『あ、しまった間違えた、そっちじゃねえ。あれ、モンスターボールどこ行った?』
投げたボールからはボロボロになっている手持ちポケモンが出てきた。人間は間抜けにも空のボールと間違えて投げてしまった。慌てて人間は手持ちポケモンをボールに戻す。
『あ、間違えた戻すんじゃなかった。せっかく出したんだから戦わせれば良かった。何やってんだ俺は』
レアなポケモンを目の前にした人間は、少々、いやだいぶ慌ててしまいグダグダになっていた。やっと人間はモンスターボールを掴んだが、『この距離なら「メガトンボール」が良いのでは?』という思考が一瞬頭を過ぎってしまい、投げるのが数秒遅れた。
業者とはいえ、所詮この時代の人々が持つ捕獲スキルはこの程度なのだ。ある一人の天才を除けば。
数秒遅れたせいで生じたスキをヨーギラスは逃さなかった。ねばりだまの効果が切れ自由に動けるようになったヨーギラスは、人間の周囲に空中から岩を何個か落とした。
『え、ちょっと待っ』
先ほどねばりだまで動きを封じた人間だが、岩に囲まれて今度は自分が身動き取れなくなってしまった。
「今だ!」
ヨーギラスは体当たりを人間に容赦なく繰り出す。七十二キロの物体に衝突された人間は、思いっきり吹っ飛ばされ、そして崖から真っ逆さまに落ちた。人間は悲鳴を上げながら落下していき、水の中に入ってしまった。そして人間が持っていたモンスターボールは、体当たりの衝撃で飛んでいき、近くの木に引っかかった。
危機を乗り越えたヨーギラスはホッと一息つき、空を見上げる。その際、木に引っかかったモンスターボールを視界に捉えた。
「あれ? 人間が持ってた道具が、あんなところに」
ヨーギラスは体当たりに夢中だったため、さっきの男の手からボールが飛んでいったことに気がつかなかった。
「なんか、気になるんだよな。なんだっけ……モンスターボールって言うんだっけ」
なぜかヨーギラスは、ボールに興味を持っていた。
「よし、取ってみよう」
ヨーギラスは木に登れないし、ジャンプ力もさほどない。そこで彼は岩落としを使って上手く階段を作った。岩に乗ってボールのそばまで近寄り、最終的にはジャンプしてボールをキャッチした。
「なんとか取れた。どれどれ……」
掴んだモンスターボールをヨーギラスは目を凝らして見た。
「やっぱりそうだ」
ヨーギラスは気がついた。モンスターボールの一部に、たまいしが含まれていることに。
「分かった。だから人間は集めてたのか」
人間がたまいしを集めていたのは、ボールを作るため。このことがようやく判明した。
そしてヨーギラスは、人間にとって都合が悪いことにも気がつく。
「この道具をバラバラに壊せば、たまいしだけ取り出せるんじゃ? そうだ! 今度からこの道具を探せば良いんだ! そうすればまた、ご馳走が食べられるようになる!」
ボールはとても丈夫なものである。だが、ポケモンの力で何回か叩けば壊せそうではあった。
「これはすごいことを発見してしまった。よし、他の岩タイプのポケモンにも伝えよう。ボールからたまいしが得られることが広まれば、僅かなたまいしを巡って争うこともなくなる筈だ」
ーー欲が深くて気性も荒い、そして人間に臆することもないポケモンも数多くいる。彼らにまで「ボールを探せば良い」と伝えたらどんなことが起こるか、彼には想像できなかった。
ヨーギラスはボールを持ったまま住処へと帰った。途中、友人のココドラと出会った。
「あ、おかえり! どこ行ってたの今まで?」
「ちょっと遠くまで探しに行ってたんだ」
「あれ? 何か手に持ってるじゃん」
「あ、これのこと?」
「何に使うのそれ? そもそもそれ何なの?」
「えっと……そうだ! これはモンスターボールだよ」
「はあ? モンスターボール? いや、ただのガラクタじゃん!」
「まあ見てなって。これを、こうすれば……」
『ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!』
「よし! できた!」
「え? 何これ! モンスターボールが!」
「すごいでしょ! ただのガラクタのように見えるけど、こうすれば僕達にとって嬉しいものに変身するんだ」
「これってどこで見つけたの?」
「木に引っかかってたんだ。五メートルぐらいの高さだったけど、ジャンプしてなんとか取ったよ」
「いやあ、すごいね! こんなガラクタからこんな良いものを作れちゃうなんて」
「意味のないものから良いものを作り出す。これはいわゆる、『クラフト』ってやつだね」