ポケモン、クセが強い短編集   作:@逆行

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98.【本気短編】10,000文字の定限(14401文字)

 今日は目覚まし時計が鳴る前に起きた。布団をどかし、目を擦りながらカレンダーをチェックする。少年の部屋のカレンダーは、数字の下にその日の予定が書かれていた。そして今日の日付には、赤ペンで巨大な丸がつけられている。少年はその丸を確認した。

 夢から現実に脳を引き戻して、まだ数秒しかたっておらず、寝ぼけた状態のはずなのに、少年はその赤丸を視界に入れて、今日が何の日であるかを瞬時に思い出した。

「そっか。いよいよ今日が、その日なんだね」

 そう言った後、少年はふうと息を吐き、ひとりでにやけた。早朝じゃなければ、叫びたい気持ちだった。

 少年は今日という日を、心底楽しみにしていた。中々今日がやってこないものだから、少年はやきもきしていた。

 楽しみなことが眼前に待ち構えていると、時間の流れが遅いと感じやすくなる。しかも、少年はまだ10歳という幼い年齢だから、時間経過が余計にゆっくりだった。

 少年が住むこの世界には、『ポケットモンスター』という生物がいる。ポケットモンスターは、草むらや洞窟、海、山など、この世界のいたるところで活き活きと暮らしている。

 彼らは『ふしぎなふしぎな生き物』としか表現できないほど、謎に包まれた異様な存在だった。ポケットモンスターは、人間に懐くときもあれば、容赦なく襲いかかるときもあった。またポケットモンスターは、火を吹いたり水を飛ばしたり超能力を使ったりと、人間には到底できないことを平然とこなす。どうしてそのような『技』を繰り出せるのかも、全く謎だった。

 だが人々は、これまで知恵を振り絞り、強大な力を持ったポケットモンスターと上手いこと共存してきた。たとえば、モンスターボールと呼ばれる機械は、まさに人類の英知といえるだろう。モンスターボールは、ポケットモンスターを捕獲し、従えることができるものだ。モンスターボールの発明もあって人間は、ポケットモンスターと共存することに成功したのだった。

 やがて人間は、ポケットモンスター同士を、戦わせるスポーツを考えた。元より戦闘意欲が強いポケットモンスター達は、人間と共にバトルすることを嫌わなかった。そして、ポケットモンスターを育て、戦わせる人達のことは、ポケモントレーナーと呼ばれた。ポケモントレーナーの多くは、この世界を旅して、他のポケモントレーナーに戦いを挑むなどしている。ポケットモンスターを戦わせるスポーツは、各地方で大いに流行した。

 そして、この少年もまた、本日より、ポケモントレーナーとしての旅を始めようとしていた。

 これから、オーキド・ユキナリ博士の研究所へと出向き、パートナーとなる最初のポケットモンスターをもらうのだ。オーキド・ユキナリ博士は、ポケットモンスターの研究をしている有名な人物だ。また、オーキド・ユキナリ博士は、旅立つポケモントレーナーに初心者向けの、ポケットモンスターを毎回渡している。

 その後は、カントー地方の各町を目指して旅をする。そして、その町にいるジムリーダーとバトルを行う。カントー地方には全部で、8人のジムリーダーがいる。8人全員を倒せば、四天王と呼ばれる人達に挑戦できる。見事四天王に勝利すれば、カントー地方のチャンピオンになれるのだ。多くのポケモントレーナーが、チャンピオンになることを目標としていた。そして、この少年もそれは同じだった。

 少年はひとまず布団をたたみ、しばらく使わないので押し入れにしまった。パジャマから着替え、洗面台で顔を洗い、髪を整えるなど、だいぶ気が早いが身支度を行った。

 やることもないので、リュックサックの中身を確認する。モンスターボール、キズぐすり、タウンマップ、着替え、携帯電話、非常食、傘……チェックリストを片手に、必要なものが全て入っているか確かめた。昨日の時点で15回は確かめたはずだが、それでも未だ確認したい気持ちが鎮まらなかった。何度も出し入れを繰り返すと、出しっぱなしにするミスを誘発しそうで、それはそれで不安だった。何をするにせよ、心がソワソワしたままの状態は、変わらなかった。

 目覚まし時計を見ると、まだ6時前だった。時間的にはずいぶん余裕があった。だが、二度寝する気は当然起きないし、携帯をいじるなどするテンションでもなかった。

 少年はぼんやりと、部屋の様子を見回した。この空間とも、今日でお別れすることになる。次に戻ってくるのは、果たしていつになるのだろうか。それを考えると、少しだけ感傷にひたりたくなった。

 長年使われてきて、変色し始めてきたベッド。結局リビングでしか勉強せず、物置きとしての役割を果たし続けた学習机。ストレス解消に、画鋲で穴を開けまくってしまった壁。エアコンがないため、夏場はずっとお世話になっていた扇風機。結局袋に直接ゴミを入れるため、一度も使われなかったゴミ箱。ゲーム機や小物など、あらゆるものが詰め込まれた本棚。

 なんとなく少年は、部屋の中をぐるぐる歩き回った。少年は、現在露骨に暇つぶしをしている。時計の針を見ながら、「もっと早く動け」と念じていた。

「やっぱり、楽しみなことが待ち構えていると、時間の流れは遅いなあ」

 

 

「そうかあ。もうポケモントレーナーになる時期なのね」

 少年とその母親は、朝食を食べていた。その際に、母親がぽつりと呟いた。

「ついこの間まで、赤ん坊だったのに。時が流れるのは早いわねえ、まったく」

「またまた、そんな大げさなことを言って」

 少年は、苦笑交じりにそう返した。

 自分より時が流れるのが、母はやはり早いのだろうか。少年はそんなことを思った。でも、この間まで赤ん坊は、さすがにないだろう。

 朝食を食べ終え、ちょっとしたら、リビングの時計の短針と長針が直角を描いた。

 リビングにある時計は、朝の9時になると、心地よい音楽を奏で時間を告げる。その瞬間少年は、椅子から立ち上がった。傍らに置いていたリュックを背負う。いよいよ、旅立ちの予定時刻がやってきたのだ。

 少年は玄関へと向かった。この日のために新調した靴を履く。少しだけ足裏に違和感があるが、数時間もしない内になれるだろう。靴を履き替えたときは、いつもそうだった。

「じゃあお母さん、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 別れはしんみりさせない、とお互いに決めていた。だから、親と子の最後の会話は、傍から見てあまりにもあっさりしていた。少年は自宅を出て、オーキド・ユキナリ博士の研究所へと向かった。

 

 

 今日はこの上ないほど、良好な天気だった。抜けるような青空が広がっている。生暖い空気が、少年の肌の上を優しく撫でるかの如く駆けていった。そして、入道雲が気持ちよさげに空の上を泳いでいた。海の漂う水や地面に沈み込んだ水が蒸発し、やがて水蒸気となる。水蒸気を溶け込ませた空気は上空へと昇っていき、冷たい空気によって冷やされ、水の粒と化し、それらが雲を形成する。雲は形成され方によって、形や特徴および漂う高さが変わってくる。

 少年が暮らすこの町は、マサラタウンという名前だった。マサラタウンは人も少なく、ビルやタワーが立ち並ぶ都会というわけではなく、むしろ田んぼなどの自然が多いため、田舎に分類される町だった。しかし、オーキド・ユキナリ博士の立派な研究所が、そびえ立っていることで有名だった。

 マサラタウンには、数は少ないが、野生のポケットモンスターもちょくちょく見かけた。ポッポとピジョン達が、群れをなして優雅に空を飛んでいる。コラッタがとってきた食べ物を、みんなで分け合いおいしそうに食べている。1匹のニドランが、子どもたちに撫でられていた。凶暴なポケットモンスターがいるわけでもないため、安心して町は歩けた。

「えっと、研究所の場所は、どっちだっけ?」

 家から出て5分後、少年はさっそく、タウンマップをリュックサックから取り出した。オーキド・ユキナリ博士の研究所に向かうには、どの道が一番早いか調べた。研究所にはちょっと前にも訪れたことがあったのに、少年はすっかり道を忘れてしまっていた。

「そうだそうだ、この交差点を右に曲がるんだった」

 自分の方向音痴っぷりに、思わず苦笑が漏れた。おいおい、こんなんで今後の旅は大丈夫なのか、そう自分に突っ込みを入れたくなった。道が入り組んだ洞窟の中とか険しい山道とかも、これから歩くだろうに、先が思いやられるなまったく、と思った。

 そんなことを考えつつ、ひとまず少年はオーキド・ユキナリ博士の研究所へ辿り着いた。この場所で、少年のパートナーとなる最初のポケットモンスターが、もらえる約束となっている。もちろん、オーキド・ユキナリ博士には、事前に連絡を入れていた。

 

 

「そうか君も、もう10歳か。時が流れるのは早いのう」

 ポケットモンスターをもらいにきた少年に対し、オーキド・ユキナリ博士はいった。なんか大人はみんな、似たようなことをいうなあ。1時間前の母親との会話を思い出しながら、少年はバレないように笑った。

「ほれ、こっちじゃ」

 オーキド・ユキナリ博士に、最初の3匹が入ったモンスターボールがある場所に、案内された。

 研究所では精密そうな機械がいたるところで稼働している。それらの機械に接触しないよう、少年は歩いていく。研究所の奥の方では、天井に届くほど高い本棚に、難しそうな本が敷き詰められていた。また、オーキド・ユキナリ博士の助手らしき人が、パソコンの前でうんうん頷きながら、キーワードを素早く打っていた。

「さあ、好きなポケットモンスターを選べ。ただし、全部もらうのはなしじゃぞ」

「それはわかっていますよ」

 少年は笑いながら頭を掻いた。とはいえ、もらえるなら3匹とも欲しいところだった。

 目の前には、モンスターボールが3つ。横長机の上に等間隔で並んでいた。この光景を見るだけで、少年は胸がワクワクした。何度か、夢にも出てきた光景だった。

 少年は、最初のポケットモンスターをどれにするか、まだ決めていなかった。当日に実際のポケットモンスター達の動く姿を見て、その後に決断した方がよいだろうと考えていた。

 とりあえず、一番右端のモンスターボールから手にとった。

『フシギダネ!』

 モンスターボールを開くと、フシギダネというポケットモンスターが元気に飛び出してきた。フシギダネは確か、草タイプだと少年は記憶していた。フシギダネは頭の蕾が特徴的で、カエルのような見た目をしている。つるのムチやはっぱカッターなど、やたら痛そうな技を多く覚えるのが印象的だった。進化すると、背中の蕾が大きくなって、綺麗な花を咲かせるらしい。

 次に少年は、中央のモンスターボールを開いた。

『ヒトカゲ!』

 登場したポケットモンスターは、ヒトカゲだった。炎タイプのヒトカゲは、尻尾に火が灯っているのだやたら目立つ。火が消えると、その生命は終わってしまうという。すごくデリケートなポケットモンスターだ。大切に育てていく必要があると、少年は思った。進化すると、翼が生えて飛行タイプのドラゴンっぽいポケットモンスターになるらしい。

 最後に少年は、左端のモンスターボールを開いた。

『ゼニガメ!』

 ゼニガメというポケットモンスターが飛び出した。ゼニガメは確か、水タイプだった覚えがある。ゼニガメは、大くて硬そうな甲羅を背負っていた。ピンチのときは甲羅にこもって、体に受けるダメージを最小限にするらしい。くるりとした尻尾も特徴的だった。また、水鉄砲など、相手に水圧でダメージを与える技を多く覚える。進化すると、背中に2つの大砲のついた巨大な亀になるらしい。

 少年は、3匹全てのポケットモンスターをチェックした。3匹とも、魅力的なポケットモンスターだった。どの子を選んでも、後悔はないだろうと思った。

「どうじゃ。最初のポケットモンスターはどれを選ぶかのう」

 少し考えて、少年はゼニガメを選ぶことにした。

「ゼニガメにしたか。このポケットモンスターは、本当に元気が良いぞ」

 他のポケットモンスターを選んだ場合にも、同じことを言っているのだろう。明らかにそうとわかるセリフを、オーキド・ユキナリ博士はいった。

「ありがとうございました!」

「気をつけるんじゃ。何かあったらお母さんにも連絡するんじゃぞ」

 少年は、オーキド・ユキナリ博士に頭を下げ、ゼニガメの入ったモンスターボールを片手に、研究所を去っていった。

 少年にとってゼニガメは、はじめてのポケットモンスターだ。ゼニガメの入ったモンスターボールを、少年は目を輝かせて見つめた。旅を始める前に、ゼニガメにも挨拶しとかねばと思った。

 少年は、モンスターボールを空に投げた。モンスターボールが地面に着地すると、まばゆい光の粒子と共に、ゼニガメが飛び出してきた。ゼニガメはあたりをキョロキョロ見回した後、背後に少年がいることに気がついた。

『ゼニガメ?』

 バトルでもないのに急にモンスターボールから出されたため、ゼニガメは首を傾げていた。

 

ゼニガメ(レベル5)

 

○ステータス

HP 20

こうげき 10

ぼうぎょ 13

すばやさ 11

とくしゅ 10

 

「これからよろしく! ゼニガメ!」

 少年はしゃがみ込み、ゼニガメと目線の高さを同じにし、頭を撫でながらそういった。

『ゼニガメ!』

 ゼニガメは元気よく鳴いた。「こちらこそよろしく!」と言っているのだと、少年は解釈した。ゼニガメのその声を聞いて、少年は「これから頑張るぞ」と気合が入った。

「よし! いこう!」

 少年はゼニガメを、モンスターボールに戻した。マサラタウンから抜け出し、1番道路の草むらへと入っていく。まずは、トキワシティへと向かう予定だった。そして、その先の森を抜け、ニビシティに行き、1人目のジムリーダーに挑戦する。少年の旅は、これから始まるのであった。

 

 

 そこまで書き終え、俺は一旦筆を置いた。正確には、筆を置いたのではなく、パソコンを閉じたのだが。

「このままじゃ、10,000文字に収まらないぞ」

 思わず、そのような独り言を呟いた。

 まさか、起承転結の『起』の部分で、5,000字以上も消費するとは。

「うっかり書きすぎてしまった」

 想定外&想定外。俺は、自分の見積もりの甘さを悔いた。

「目が痛い。あー目が痛い」

 長時間画面を見続けたせいで、目が疲れたので、一度休憩しよう。俺は冷蔵庫へ、飲み物を取り出しにいく。その際、長年使われ続け変色し始めてきたベッドとか、その他もろもろが、視界に映った。今書いていた短編の主人公の部屋の描写は、自分の部屋をそのまま描いたことが、一目瞭然でバレてしまう。

 時間もないので、15分だけ休憩し、再びパソコンを開いた。開けばそこには、中途半端に書き連ねた小説が待っている。

「やれやれ」

 思わず、ため息をつかずにはいられない。この後いかに、書き進めていけばよいものか。

 俺は、今書いているこの短編を、とあるサイトの、とある企画に出そうとしていた。みんなで短編を投稿して、読み合おうというもの。驚くなかれ。企画の投稿締切は、本日だ。後数時間しかない。というわけで、早く書かなくてはいけないのだ。俺は今、尋常でなく焦っていた。

 そして、締切間近なのに加え、もう1つ問題が発生しているのである。

 このまま書き続けると、文字数が規定以内に収まらないのだ。今回の企画は「文字数は10,000文字以下」というレギュレーションになっていた。

 だが、今書いている短編は、明らかに10,000文字を超過しそうな勢いで、文字数が膨らみ続けている。この後、まだまだ展開が残っている。残り5,000字未満で書き切れるとは、到底思えなかった。

 しかも、お話の終盤には、バトルシーンも用意されている。バトルシーンはただでさえ、文字数を喰いやすい。展開も端折りにくい。加えて、このお話の山場であるから、なるべく丁寧に書きたいところだった。

「だめだ、このままいくと、10,000文字に収まらねえ」

 ああ、なぜ俺は、序盤をこんな詳細に書き連ねたのか。ポケモン世界の説明とか、明らかに書きすぎだ。後マサラタウンの情景描写とかも。俺はつい、筆が乗ってしまったのだ。

 この小説の主人公は、「時が流れるのが遅く感じるなあ」みたいなことをいっていた。だが俺は、主人公にいいたい。そんなことを長々考えているから、余計に遅くなるのだと。登場人物が考えれば考えるほど、展開=時が流れるのが遅くなる。小説とは、そういうものだ。楽しいことが待ち構えているからとか、まだ10歳だからとか、そんな理由は、全くもって無関係なのである!

 

 

 と、屁理屈をいっている場合ではない。

「さて、どうしましょうか」

 選択肢は一応、3つあった。

 1つ目は、今から構成を練り直す。10,000文字以下で収まるよう、プロットを再構築する。

 2つ目は、ここまで書いた部分を短くなるよう書き直す。短縮できる部分は、短縮してしまう。

 しかし、この2つの方法を取るには、あまりにも時間が足りない。後数時間で締切なのに、今から構成を練ったり書き直したりする、余裕はないに決まっている。

 3つ目は、このまま書き進めていくこと。なんとか10,000文字以下になるよう、書きながら上手いこと、プロットに従いつつも文章を短くしていく。

「うん、3つ目で決まりかな」

 そうだ。残り時間がわずかな状況では、これしか方法はない。

 というわけで、このまま突っ切ることに決めた。

 この後の話の展開を、確認しよう。1番道路の草むらに入る。野生のコラッタと遭遇し、バトルして倒す。野生のポッポも連続して倒して、ゼニガメがレベルアップ。その後、主人公の方向音痴っぷりが発揮されて道に迷う。野生のスピアーに運悪く出くわし、ゼニガメがやられる。なんとか逃げ出し、ゼニガメを回復させる。フレンドリィショップで買い物する。……長い。起承転結の『承』だけでこれか。

「少しずつ削っていくか」

 まず、1番道路の描写は、だいぶ端折ろう。簡単に描写するだけにしよう。

 次のコラッタの描写も、同じく端折ろう。コラッタごめん。とにかく短縮を目指すんだ。

 ポッポの描写は、戦闘シーンごと省略しよう。ポッポにも非常に申し訳ない。

 スピアーに襲われるシーンは、省くのが難しい。だが、その後の逃げるシーンは、短くする方法がある。

 フレンドリィショップでの買い物シーンも、短くするよさげな手段を思いついた。

「とりあえず、削るべき箇所は決まったな」

 だが、たぶんこれだけでは、まだ文字数が足りない。

「展開だけでなく文章の方も、削れるところは削らねば」

 まず「ポケットモンスター」を「ポケモン」と省略して書こう。すごい! これだけで5文字も節約できる! ポケモン小説で「ポケットモンスター」と書く回数は当然多いから、トータルでかなり短縮できるはずだ。

 「オーキド・ユキナリ博士」は「オーキド博士」にする。下の名前はいらない。まあ、オーキドの名前は、この後あまり出てこないが。

 「ポケモントレーナー」は「トレーナー」に変える。洋服の方と誤解されないか不安だが。

 「モンスターボール」も「ボール」にしよう。この世界でボールといえば、モンスターボール以外ないのだから。

「まだ削れる箇所はありそうだが……そうだ! ポケモンの鳴き声だ!」

 ポケモンの鳴き声を、1文字だけにすると決めた。たとえばゼニガメなら「ゼ!」、コラッタなら「コ!」だ。「ゼ!」だけでも、そんな違和感はない。むしろ、テンポがよくなるメリットがある。

「うん、それぐらいかな」

 締め切りまで時間もない。これで書き進めていこう。俺は再びキーボードに手を置き、続きを書いていったのだった。

 

 

「よし! まずはトキワシティを目指そう!」

 少年はマサラタウンを抜け、1番道路へと足を踏み入れた。

 1番道路には、草がたくさん生えていた。

 

 

「いや、大丈夫かこれ」

 3行だけ書いて思わず俺は、手を止めてしまった。1番道路の説明は、これだけで大丈夫だろうか。しかしこうするより他ない。いかんせん文字数が足りない。後時間も足りない。迷わず突き進むしかない。

 俺は気を取り直して書き進めた。

 

 

 1番道路を15分程度歩いた頃だった。突然草むらが、カサカサ音を立てた。

「え? 何?」

 次の瞬間、草むらからコラッタが飛び出してきた。

『コ!』

 コラッタは、つまりねずみだ。

 少年は、反射的に体をビクッとさせる。慌てて腰につけたボールの、開閉スイッチを押した。

『ゼ!』

 ボールからゼニガメが飛び出した。コラッタの存在に気がつき、戦闘態勢をとる。初戦ということもあり、ゼニガメはだいぶ張り切っていた。

 トレーナーになって始めてのポケモンバトルで、少年はかなり緊張していた。昨日布団の中で、何度もシミュレーションした内容を思い出す。

「よろしく頼んだよ、ゼニガメ!」

『ゼ!』

 ゼニガメは、元気よく返事をした。そして、コラッタの方へと走っていく。

 少年はコラッタを指差し、大声でゼニガメに命令した。

「たいあたり!」

『ゼ!』

 ゼニガメは、体を思い切り衝突させた。

『コ!』

 たいあたりが直撃したコラッタは、小さく悲鳴を挙げた。コラッタの体は吹っ飛ばされ、近くの木に叩きつけられた。だが、コラッタはゆっくりと起き上がり、首をぶんぶんと振る。そして、コラッタも負けじと、たいあたりを繰り出してきた。

『ゼ、ゼッ!』

 その攻撃は、ゼニガメと比較すれば弱い。ゼニガメはよろけたものの、すぐ大勢を立て直した。

「たいあたり!」

『ゼ!』

 再びゼニガメは、たいあたりを繰り出す。現状、これしか攻撃技がなかった。

『コ……』

 たいあたりは、見事クリーンヒット。コラッタはパタリと倒れてから動かない。これは、戦闘不能状態ということだろう。

 少年とゼニガメは、はじめての戦いに勝利した。少年は汗を拭いながら、ゼニガメにお礼を言った。

「ありがとうゼニガメ! おかげでなんとか勝てたよ」

『ゼ!』

 少年はキズぐすりで手当をした後、ゼニガメをボールに戻した。

『ポ!』

 今度は、ポッポというポケモンが現れた。

『ポ……』

 少年はポッポを、コラッタとだいたい同じような感じで、倒した。

 ポッポが倒れた瞬間、図鑑がひとりでに音を鳴らす。

 ゼニガメのレベルが、上がったことの知らせだった。

 

ゼニガメ(レベル6)

 

○ステータス

HP 22

こうげき 11

ぼうぎょ 14

すばやさ 12

とくしゅ 11

 

「やった! レベルが上がった! こうやって強くなっていくんだ!」

 少年は、ゼニガメのレベルが上がったことを喜んだ。こうしてポケモンは、成長していくのだ。

 

 

「おかしいなあ、もうだいぶ歩いた気がするけど」

 目的地のトキワシティは、未だ姿を見せなかった。どんなに歩みを進めても、目の前に見えるのは、草むらと木々と、時折野生のポケモンだけだった。

 思わず少年は、顔を青ざめさせた。まさかと思い、タウンマップをリュックから取り出した。

「いや、こっちの方角で、確かに合っているはずだよなあ」

 少年は自分が道を間違えたのではないか、不安に感じていた。

 トキワシティまでは、何も考えずまっすぐ歩けばよい。マサラタウンに住む人のほとんどが知っている常識だ。少年は、その常識に従って、ここまで歩いてきた。

 だが、ここにきて「その常識が間違っていたのでは」という疑念が湧いた。あるいは、自分の聞き間違えだった可能性もあるなと思った。

「本当はまっすぐ歩いても、トキワシティに辿り着けないんじゃ……」

 そう考えた少年は、思いきって別の方向に歩みを変更した。

 だが実際は、少年が進んでいた方角で合っていた。つまり彼は今、間違った方角へ進んでいる。少年はどんどん、トキワシティから離れていった。

 

 

「これは、明らかに間違えたな」

 30分歩いて少年は気がついた。

「やっぱり、さっきの道であっていた。いったん引き返そう」

 今更気がついた少年は、引き返すことにした。

 だが、Uターンしたタイミングで、ある異変を察した。何かを踏んづけた感触がした。

 下を見ると、自分に胴体を踏まれているビードルがいた。慌てて足をどけたから、ビードルが向けてきた毒針は避けられた。

 だが、そのとき、見つけてしまった。ビードルよりもやばい存在が、木の後ろに潜んでいた。

『ス!』

 木の後ろにいたのは、1匹のスピアーだった。スピアーは、ビードルの最終進化系だ。

 スピアーは、少年を睨みつけていた。少年は、スピアーがビードルの親ではないかと察した。

 少年は、スピアーを先に倒さねばと判断した。即ボールから、ゼニガメを取り出す。

 ゼニガメは、スピアーの存在に気がついた瞬間、体を震わしていた。

「ゼニガメいける?」

『ゼッ……ゼ!』

 ゼニガメは何とか頷いた。そして、果敢にスピアーに向かっていく。

「たいあたり!」

『ゼ!』

 たいあたりはスピアーに、確実に命中した。だが、スピアーは吹っ飛ばない。どころか、痛そうな様子を欠片も見せなかった。

『ス?』

『ゼ!?』

 ゼニガメは目を丸くしていた。

『ス!!!』

 スピアーは両手に付着した棘で、ゼニガメを容赦なく刺そうとしていた。ゼニガメは甲羅に潜ろうとしたが、間に合わず棘の餌食となった。

『ゼ……』

 スピアーの一撃で、ゼニガメは動かなくなってしまった。

「嘘だろ……まさか一撃で……!」

 レベル差があるのは分かっていたが、一撃でやられるとは、思ってもみなかった。

 束の間呆然としていたが、パートナーの安全を確保せねばと、すぐボールに戻した。

 そして、自分の安全も確保せねば。少年は全速力で逃げ出した。

『ス!』

 だが、スピアーは当然追いかけてきた。

 

 ※10分後

 

「はあ……はあ、なんとか逃げ出せた」

 なんとか少年は、スピアーの魔の手から逃れることができた。ひどい目にあった。あやうく自分は、死ぬところだったかもしれない。

 

 ※1時間後

 

「なんとかここまで来たぞ。ここがトキワシティか」

 そして少年は、トキワシティに辿り着いた。まずはポケモンセンターで、ゼニガメを回復させにいった。

 その後、フレンドリィショップで買い物をした。

 買ったものは次の通りだ。

 

・キズぐすり ×10

・どくけし ×4

・ボール ×5

 

「さて、次の町へ向かうとするか」

 フレンドリィショップを抜けた少年は、ニビシティへと向かうことにした。

 

 

「いや、そんなに文字数削れてないじゃん!」

 起承転結の『承』まで書き終え、俺は再び手を止め、パソコンの画面を閉じた。

「もうちょっと削れると思ったんだけど……」

 俺は、環境大臣の如く文字数削減のための、様々な政策を打ち立てた。そのつもりだった。だが、いざ書いてみれば、そこまで文字数を削ることはできなかった。もう8,000字くらい書いている。自分に残された文字数は、たったの2,000字しかない。後2,000字……。無謀すぎる。

「前半はまだよかった。問題は後半からだよおい」

 主人公が、道に迷い始めてからだ。それ以後、字数がアホみたいに増えた。やはり俺は執筆に夢中になると、どうしても長々と書いてしまう。

「なんで俺は文字数を減らすのが、こんなに下手なんだ」

 よく考えたら、なぜ「主人公が方向音痴」なんて設定にしてしまったんだ! 余計に文字数喰うことになるだろう! 早くトキワシティに辿り着いてくれれば、もっと字数削減できるのに! なぜだ! なぜこんな設定に、してしまったんだ!

 そして、俺は思った。やはりバトルシーンは、めちゃくちゃ文字数を喰う。コラッタやスピアーとのバトルシーンで、文字数を使いすぎた。野生との戦闘ですらこうなら、対人戦はどうなるんだろう。

「先が思いやられすぎる……」

 残りわずかしかない文字数で、果たして『転結』を書き切れるのか。

「まいったな。これ詰んだんじゃないか」

 思わず、独り言が増えてしまう。

 どうする? やはり書き直した方がよい? いや、間に合うわけがない。企画に投稿するのを諦める? しかし、ここまで書いたものを捨てるのももったいない。

「もっともっと、削らないとだめだろこれ」

 このペースで書いていては、絶対に10,000文字以下に収まらない。

「とはいえ、どこ削ったらいいんだ?」

 後は、幼馴染とのバトルシーンと、ポケモンセンターに行くシーンが残っている。バトルシーンはこの小説の山場なわけで、削るわけにもいかないだろう。となると、削るべきはポケセンにいくシーンか。

 だが、バトル終了後に主人公をポケセンに行かせないと、「あれ? ポケモン回復させなくていいの? 傷だらけのままだよ」って突っ込まれる可能性がある。ポケモンを気遣わない薄情な奴、そう思われてしまう恐れがある。変なところで、マイナスイメージを持たれたくはない。

 仕方がない。ポケモンセンターに行く描写も、今まで同様上手いこと省略して書こう。

 後はそうだ。バトルをやる前に、幼馴染と主人公の出会いなど、あーだこーだ書かないといけない。そこらへんもいい感じに短縮するようにせねば。字数に余裕があれば、ここも丁寧に書きたかったが、仕方がない。さっきから仕方ないばかり、言っている気がする。

「他にもまだ一応、削れる箇所はあるな」

 バトル時のトレーナー技の指示も、工夫しよう。「たいあたり!」ではなく、「た!」って命令するのだ。1文字だけでいい。自分のポケモンにさえ、伝わればよいのだから。

 むしろ、1文字だけの方が、合理的な可能性もある。その方が素早く指示を伝えられるから。加えて1文字だけなら、対戦相手は何の技か読み取れない。その分対処が遅れて、こちらは有利に立ち回れる。

 自分でも、だいぶ無理あるなと思った。だが、無理やり納得することにした。時間がないこともあって、俺の思考力はとてつもなく低下していた。

 「モンスターボール」は「ボール」って略さず、「球」って書こう。2文字削減できる。英語から日本語に変換するだけだ。何も違和感はない。戦時中の日本は、英語が禁止されていたわけだし。

 「ポケットモンスター」は「ポケモン」って今まで略していたが、次からは「ポ」と略そう。「ポ」。うん、これでいい。わかりやすいと思う。

 「ポケモントレーナー」も「トレーナー」って略すな。「ポ師」でいい。「ポ師」。めちゃくちゃ端的だ。

 後は、レベルが上がったとき、HPとかこうげきとか、ステータス一覧を列挙するあれは……残そう。あれは個人的に好きだから、書いておきたかった。

「よし、一通り方針は固まった」

 さて、ラストスパートだ。締切までマジでもう時間がない。ここまで書いて締切に間に合わないオチは、洒落にならない。

俺はノートパソコンを開き、執筆を再開したのだった。

 

 

「よし、この道で大丈夫だ」

 少年はさきほどの反省を活かし、トキワシティで道をしっかり聞いていた。

 トキワの森に入ろうとする間際、道脇にどこか見覚えのある面影の人物を見つけた。

 その人は、現在野生のオニスズメと戦っていた。戦闘に出しているのは、ヒトカゲというポだった。ヒトカゲといえば、初心者ポ師がもらえる最初のポのうちの1匹だ。

 あの人も、オーキド博士から、ポをもらったのだろうか。

「な!」

 その人はヒトカゲになきごえを指示した。

『ヒ!』

 なきごえを聞いたオニスズメは、攻撃力が少し下がってしまう。

「ひ!」

 畳み掛けるように今度は、ひっかくという技を使った。するどい爪が、オニスズメを襲った。

『オ!』

 悲鳴を上げたオニスズメに対して、その人は球を投げた。オニスズメは球の中へと吸い込まれた。

「よくやったヒトカゲ! あれっ、君ってもしかして」

 バトルを終えたその人はヒトカゲを球に戻し、振り返った。

「あっ」

 振り返ったことで顔がちゃんと見えた。少年はその人が誰なのか、はっきり分かった。

 その人と少年は、幼馴染だった。少年と彼の関係性は、こういう感じだ。小さい頃出会う⇒一緒に遊ぶ⇒喧嘩する⇒仲直りする⇒友情を深める⇒その人が転校することになる⇒疎遠。

「君も旅に出たんだね」

 少年の友人も、ポ師になって旅に出たばかりのようだ。まさかこうして巡り会えるとは、思ってもみなかった。

 少年と友人は少しだけ話した後、ポ師同士ポバトルを行おう、という流れになった。

「いけっ、ヒトカゲ!」

「頼んだよ、ゼニガメ!」

 球を投げ、お互いにポを出し合う。

 少年が出したのはゼニガメというポ、対して友人が出したのはヒトカゲというポだ。

「よし、じゃあ行くぞ!」

「OK! いつでもいいよ!」

 お互いの準備が整ったので、ポバトルが始まった。

「し!」

「な!」

『ゼ!』

『ヒ!』

「た!」

「ひ!」

『ゼ!』

『ヒ!』

「た!」

「ひ!」

『ゼ!』

『ヒ!』

「た!」

「ひ!」

『ゼ!』

『ヒ!』

 両者まずは補助技を使い、相手のスタータスを下げる。落ち着いた判断だった。その後は、激しい攻撃の応酬が繰り広げられた。

「た!」

『ゼ!』

 ゼニガメは不意をついて、たいあたりを繰り出す。だが、ゼニガメが向かった先にはもう、ヒトカゲはいなかった。

『ゼ?』

「え、どこだ?」

「ひ!」

『ヒ!』

 いつの間にかヒトカゲは、背後に回っていた。そして、ゼニガメの背中をひっかく。

『ゼ!?』

 予想外の方向からの攻撃に、ゼニガメは大勢を崩してしまう。

「ひ!」

『ヒ!』

「ひ!」

『ヒ!』

「ひ!」

『ヒ!』

 倒れたゼニガメに、ヒトカゲが猛攻をしかける。一撃目は交わしたが、その後の攻撃は全て喰らってしまった。

 万事休すかと思われたが、ゼニガメはなんとか耐えた。そして、ヒトカゲの攻撃が一瞬遅れたスキをついて、ヒトカゲの爪から逃げ出した。少年はホッとした。よし、ここから反撃だ。

「た!」

『ゼ!』

 ゼニガメはヒトカゲに、渾身のたいあたりを繰り出した。

『ヒ!?』

 急所に当たったようで、ヒトカゲはかなり痛そうにしている。だが、ヒトカゲはすぐに大勢を取り戻し、再びゼニガメと激しい打ち合いを行った。

「し!」

『ゼ!』

「た!」

『ヒ!』

「た!」

『ゼ!』

「な!」

『ヒ!』

「た!」

「ひ!」

『ゼ!』

『ヒ!』

「た!」

「ひ!」

『ゼ!』

『ヒ!』

 お互いの実力は拮抗していた。両者ともかなりボロボロな状態だった。だが、どちらかといえば、ゼニガメの方がダメージが大きかった。ゼニガメはだいぶ息が上がっていた。

「た!」

『ゼ……!』

 ヒトカゲに向かっていったその瞬間、ゼニガメの体がよろけた。これは完全にピンチだ。

「ひ!」

『ヒ!』

 その隙をついて、ヒトカゲをトドメを刺そうとしていた。ヒトカゲの鋭い爪がギラリと光る。

 だが、ゼニガメは最後の力を振り絞り、ヒトカゲの攻撃をかわした。

「た!」

『ゼ!』

「あっ……!」

 ゼニガメはヒトカゲの懐に潜り込み、たいあたりを直撃させた。

『ヒ……』

 うつ伏せに倒れたヒトカゲは、起き上がる気配かない。つまり、戦闘不能になったということだ。

 少年と少年の友人のポバトルは、少年の勝ちに終わった。

「うーん、駄目だったか。お疲れさま、ヒトカゲ」

「いいポバトルだったよ、ありがとう」

「こちらこそ、君とのポバトル楽しかったよ」

 少年と友人はポを球に戻した後、固い握手を交わした。

 友人と分かれた後、少年は図鑑が鳴り響いていることに気がついた。

 

ゼニガメ(レベル7)

 

○ステータス

HP 24

こうげき 12

ぼうぎょ 15

すばやさ 13

とくしゅ 13

 

「やった! またレベルが上がってる」

 少年はゼニガメの成長を喜んだ。

「よーしこれからも頑張るぞー!」

 少年は駆け足で、ニビシティへと向かったのだった。

 少年とゼニガメの旅は、まだまだ続く。

(ポセンターに寄ってから、ニビシティへ向かいました。ちゃんとポは回復させましたので、ご安心ください。)

 

 

「終わった……なんとか間に合った」

 最後にEnterキーを、気持ちよく「ターン」と強く押す。

「危ねえ、ギリギリ10,000文字以下に収めることができた」

 一時はどうなるかと思った。だが、案外なんとかなるものだ。削れる部分を全て削れば、割と短縮は可能だということが、今回の執筆でわかった。

 後半だいぶ、いや相当駆け足なのが気になるが……。

(まあ、とりあえずセーフということにしておこう。明日読み返すのが正直怖いが)

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