シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
――BANG!
「あはぁ! みぃつけたっ。いい度胸してるじゃない、お兄さん」
覚悟を決めた神永は棚から脱し、横っ飛びになりながらハチサソリオーグの右肩を撃つ。反動で軽く仰け反るも、当然ダメージには至らない。
オーグは頭を振って毒針を激しく振らす。神永の背後、右斜めの棚が一瞬のうちに消えてしまう。
「さぁ、さぁさぁさぁ。踊りましょうったら踊りましょ」
ドレスの裾を軽くつまみ、ダンスのようなステップを踏んで頭を激しく振らす。あの毒針に触れたら『詰み』だ。付かず離れずの距離を保ち、側転で迫る毒針を回避、時に銃弾で弾きながら。ハチサソリオーグをこの通路に釘付ける。
神永は避けつつも周囲に目をやり、視界の端に浅見と田村が立ったのを確認。それぞれに目配せし、オーグの立ち位置を『固定』した。
「あぁらあらあら。鬼ごっこはもう終わり? 覚悟は決まったってことで宜しいのかしらあ?」
「そうだな。『決まった』。貴様の運命が」
神永は左右と、背後に目をやり、『今です』と声を上げる。浅見と田村が棚と棚の間から飛び出した。
――BANG!
――BANG!
瞬時に引き金を引き、奴の胸に弾丸を撃ち込む。狙い良し。距離良し。外しようがない。それぞれが勝ちを確信した、その瞬間。
「残ぁん念でしたあ。あなた達の狙いなんてお見通しですわよ」
オーグの胸は――、潰れていない。着弾前に手の平をクロスさせ、防御したというのか?
「あはっ。うふふふふ。残ぁん念でしたあ。たった三人でわたくしをどうにかしようなんて、馬鹿にしているにも程があるんじゃなくってえ?」
獲物全てが横並び。勝ち誇ったオーグは掌から滴り落ちる血を気にも留めず、上機嫌で毒液滴るツインテールをもて遊ぶ。
「くそっ、これまでか……」
「こんな、ところで……!」
仕掛けた田村と浅見が落胆する中、真中に立つ神永は怜悧な顔を崩してはいない。もう毒液を注入される他ないというのに何故。
「三人。
「何ですって?」
事実そうではないか。突っ伏したまま動かない仮面ライダーを数に加えろとでも? 馬鹿げている。他に戦える人間がいるとでも?
神永の耳は、背後で昇降するモーター音を捉えていた。策は成った。彼は僅かに横にずれ、『射線』から外れた。
――BANG!BANG!
チーン、とエレベーターが到着を報せたのはその時だ。扉が開く。中にいたふたりの男女は、素人らしさ丸出しのフォームで引き金を引き、呆けたオーグの乳袋を撃ち抜いた。
「あら。あらあらあらあらあら、あら。困ったわったら困ったわ。と、とっ、溶け……溶けけけけ……け……」
水風船が破裂するかのような音と共に、内包された毒液がハチサソリオーグの身体にへばり付いた。迷惑極まるオーグメントは慢心と自らの能力ゆえに溶解し、この秘密の書庫の中へと消えていった。
「はは。あはは。どぉだ化け物。僕らだってな、銃の扱いくらいは教養として識ってるんだよっ」
「や、やりましたね滝君。私もう、腰抜けちゃって……立てない」
中に居たのは待機を命ぜられ、今の今まで執務室にいたはずの滝と船縁だ。緊張の糸が切れ、膝をがくつかせてその場にへたり込む。
「滝くん、船縁さん?! なんで?!」
「僕が呼んだ」神永は耳に装着したインカムを指差し。「このインカムでの通話内容は禍特対メンバー全員に筒抜けだ。仮面ライダーが斃れたその瞬間から、通信を上にも送っておいたんだ」
わざわざ禍特対『全員』と言ってのけたのはそのためか。ハチサソリオーグに悟られないためのブラフ。ここに居る人間全員を囮にした起死回生の策。見事当たり、皆が生き延びた。それはいい。良いのだが。
「神永さん、二人がこうして来たからいいですけど、来なかったらどうするつもりだったの?」
「そこは信頼した。方法と状況さえ教えれば、必ず来てくれると思っていた」
息ひとつ乱さず、真顔でそう言う神永を見、他メンバーは思わず目を丸くする。
「神永さんって、そーゆー熱い台詞いうようなひとでしたっけ」
「なんか、ちょっと意外」
「そう……か?」
それだけ、ここに馴染んだと言うべきか。かつて体を貸した『彼』に影響されたのか。くすくすと笑う同僚に、神永はどう対応していいのか言葉に詰まった。
『――一文字。君が、ここまでやられるなんて』
「悪ぃ相棒。少しばかり……ミスった」
"本郷猛"は滝のスマートウォッチ越しに一文字の身体、その奥に眠るプラーナに触れた。病原菌が全身に回り、彼の生命力を今も削り続けている。
『――滝さん、船縁さん。今から言う薬剤を掻き集めて貰えませんか。本格的な処置の前に、少しでも彼の苦痛を和らげたい』
本郷猛は城南大卒の秀才だ。カラダを失い、魂だけになってなお、その頭脳に陰りはない。彼のプラーナに触れ、今必要となる薬物を把握。そのエキスパートたる二人に指示を飛ばした。
オーグの開けた大穴からヘリコプターのローター音が聞こえる。室長のチャーターだ。今ここに居た所で、仮面ライダーにしてやれることなど何もない。
『一文字君のことなら心配するな』インカム越しに室長の宗像が声を発した。『"知り合い"に事情を話したら専門部署が動いてくれた。君たちはそこに向かってくれ。巻き込んでしまって申し訳無いが、聴取も向こうで行うそうだ』
「諸々了解です」田村は首肯してインカムを切り、空を見上げる。夕暮れの茜色は西に去り、辺りは徐々に薄暗くなり始めていた。
「取り敢えず一段落、か」一文字に肩を貸し、エレベーターで昇るうち、神永新二はひとりそう呟く。
「何が一段落なもんか。敗けだぜ、敗け」彼の呟きに、一文字隼人が皮肉っぽく応える。「俺はこのザマ、ゴジラ細胞は持っていかれ、絵に描いたようなサイアクの事態だぜ」
「そうかもな」神永は彼を見ず頷き。「だが、最悪にはまだ早い。何もかもこれからだ。我々も、奴らも」
※ ※ ※
「ふふふ。ふふふふふ。よくやった。よくやったぞォオオカミオーグ。遂に! つ、い、に! 別次元の叡智が! この世の理をひっくり返す力が! 我が手に、我が手にぃぃいいい」
「はい。死神博士」
日本の北の果て、深緑の森の奥深く。巧妙にその入口を隠された秘密基地に、嗄れた男の笑い声がこだまする。
その区画は片側が赤、もう片側が黒で完全に色分けされた、すり鉢状のだだ広いドームであった。漫画の集中線めいた奇妙な仮面を付けた白衣の構成員たちが、中心部に設置された水槽の制御操作に追われている。
「いよいよ。いよいよだぞォオオカミオーグ。私の頭脳が、技術が、才能が! この星の誰よりも優れていることを世にしろしめす時が来たのだ!!」
「はい、死神博士」
水槽の中心部に立ち、オオカミオーグに馴れ馴れしく絡む彼こそが『死神博士』。他の仮面研究員たちと違い、よれよれで色のくすんだ白衣を纏い、本来口があるべき場所にイカの触手めいたバッカルコーンを置換した狂気の存在。
「ぃいひひひひひひ。早く目覚めろ、目醒めてくれよォ。試したいことが山程あるんだ。早く目覚めろ、目覚めろよォ」
彼が目を輝かすその先には、水槽の中でこぽ、こぽと音を立てる赤黒い細胞片がある。握りこぶし大のそれは、凍結処理を解除され、この『ケージ』の中で覚醒の時を静かに待っていた。
(つづく)
(666)イカオーグ
『死神博士』をなのるSHOCKERのゆうしゅうなかがくしゃ。とても高いずのうをもっていたが、不治のやまいで死にかけていたところを、SHOCKERによってオーグメントされてよみがえった。
イカのすぐれたところをいしょくされており、半端なだげき攻撃を受け流してしまう。
(732)SHOCKERにはまけないぞ
ゴジラ細胞をうばわれてしまった禍特対。しかし彼らはあきらめない。滝と船縁は米軍の研きゅう資料からゴジラの弱点をさぐり、対策をかんがえている。
転んでもただでは起きないのだ。