シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
・AM:10:45
「どう? 行けそう? 」
「怪我の功名、って言っていいのか何ですが、先達がデータ残してってくれて助かりましたね。これなら、なんとか行けそうです」
それほど広くもない禍特対執務室は、ここ数日で過去に類を見ないほどに様変わりしていた。
船縁と滝のデスクには『印刷不可』『複製不可』と判を押された書類が山と積まれ、そこでは収まりきらず神永・浅見のデスクを侵略。ホワイトボードを他の部署から借り受け、東西南北に四つ、余白が殆どないくらいに数式が描き込まれている。
『――ゴジラ凍結作戦。成る程、あの禍威獣にあんな落とし穴があったとは』
「パゴスの時と同じっスね。餌を核物質にしているのなら、構造は原子炉と同じはず。で、ビンゴ」
実地で対応に当たらざるを得なくなった禍特対に、米国は『快く』ゴジラ研究の資料を貸し与えた。そこで得られた知見と自分たちの経験を併せて考えた対策が、ゴジラのエネルギー源である核物質へのアタック。
かつてこの国を襲った放射線捕食禍威獣パゴスは、天然の原子炉めいた体構造をしていた。人類にとって未知の存在ではあるものの、向こうも「生物」であることに変わりはない。原子炉を腹の中に抱えた超高温、放熱しなければ耐えられない。
そこで禍特対が目をつけたのが、奴の排熱方法。メインと思しき血液循環を凝固してしまえば、自らの
机上の空論ではあったが、これ以上の被害は出せないと作戦を断行。投与された血液凝固剤により、パゴスは自己凍結。そのまま活動を停止し、二度と蘇ることはなかった。
「多少構造は異なりますけど、ゴジラもパゴスも同じ核物質を燃料にした生き物」船縁が生物学の知見から首を突っ込み。「二匹は別のセカイで違った進化に至った同一種だったのかも知れませんね」
体組織が似た作りなら、攻略法も似たものが使えるはず。パゴス駆除時に残されていたデータをゴジラのものに書き換え、薬剤投与による凍結を目指す。SHOCKERがあれを何にオーグメントしようと関係ない。有事の際の切り札だ。
『――君たちはすごいな。あれだけのことがあったのに。もう対策を講じて来れるのだから』
スマートウォッチ越しにそれを眺める本郷猛は、その手腕に舌を巻く。本郷自身も通っていた大学で頭脳明晰と評されたことがあったが、協調性に難がありいつも個人プレー。それぞれが力を合わせ、科学のチカラで怪物と戦わんとするその姿には色々思う所があるようだ。
「三ヶ月前、ゴジラ事変。あれにちょっと、思うところがあって」滝は『そんなことは』と謙遜しつつも、その胸の内を吐き出した。「あの時。神永さんの手伝いをしようと頑張ったけど、結局は彼の捨て身に頼らざるを得なくって。僕たちの存在価値ってなんなんだって思っちゃって。だから、今回は頑張ろうって。彼に助けられるだけの僕たちじゃなく、彼を助けられるようになりたいなって」
『――そうか。やっぱり、すごいな』
なればこそ、禍威獣災害の陣頭を執る者たちということか。本郷猛は忌憚のない調子で滝らに称賛の言葉を送る。
「すごいって言うなら」船縁がそこに口を挟み。「調べさせてもらいましたよ。本郷猛。城南大の超エリートじゃないですか。同期じゃ並ぶ者のいない五十年に一度の逸材だとか」
『――それこそ謙遜だよ』本郷は然程興味のない声質で。『他に打ち込めることがなかった。それだけのことさ』
本当は、自分も何か希望を持って勉学に励んでいたのかも知れない。だが、在学中に起きた『父の死』を経た今、あの頃何を理由に頑張っていたのか、もう憶えていない。
『――あまり時間じゃないんじゃなかったかい。仕事に集中しよう。僕も微力ながら協力させてもらう』
滝の手から発せられた緑色の光がパソコンに宿り、ディスプレイに表示された計算速度が飛躍的に向上し始めた。
「うぉっ、まじすか?! 本郷さんすげーッ」
「改めて、あなたという存在が何が何だか……」
気を悪くしたのかな。二人は声に出さず心中そう呟く。彼としては単に話題を変えただけなのだが、あまりにも唐突過ぎて不機嫌そうに見える。
これが、コミュ障のコミュ障たる所以か。なんとなく、彼の学生時代が想像出来るような気がする。ふたりで顔を見合わせ、苦笑いをした、まさにその時。
『速報です。東京都にて震度四の揺れが発生しました。震源は東京都あきる野市。この地震による津波の心配は……』
『いや、待ってください。これは地震じゃありません。これは……』
・AM11:20
「な……なんだこの地鳴りは」
大きな縦揺れと、遅れて鳴った緊急地震速報。神永と一文字はこれが自然の代物ではないことを素早く読み取った。
「原因はあれか」
「あぁ。まさか、こんなピンポイントで来るとはな」
窓を覗いて遥か先、山が崩れ、黄土色の体躯が顔を出す。その体表は堅牢な段々となっており、傍目から見ると、さながらピラミッドに手足が生えたかのようだ。禍威獣が現れた。あれの目覚めが地震として伝わり、人々が逃げ惑っている。
『――神永、あきる野市天竺山から禍威獣が出現した』
「ええ。見えてます。避難指示は」
『――捜索作業を切り上げて今そちらに向かってる。屋上に来てくれ、そこでお前も拾う』
流石に行動が早い。都内なら10分と経たず到着するだろう。急ぎ仕事に戻らねば。踵を返し、ヘリを待つべく屋上へ向かう神永だが、
「待て。あれ見ろ。やばいぞ」
ベッドから上体をお越し、はるか先を見やる一文字の言葉が逸る神永の足を止めた。
「あれは……!」
急ぎ窓から半身を乗り出し、遠くで起こる厄災を見やる。禍威獣は陸橋を破壊して東に移動。あきる野市街に向かっている。
「禍威獣が、直接ヒトを狙ってきているのか……?!」
これまで現れた禍威獣たちは、いずれも大規模な破壊や、餌を狙って襲って来たものばかりだった。あきる野の田舎町にそんなものはない。真っ直ぐにヒトのいる国道・秋川駅方面を目指して進んでいる。
『――まずいぞ。住民の避難場所をピンポイントに狙ってきている。あそこにいられては攻撃もできない』
絶対的な権限を持つとはいえ、実際攻撃を行うのは自衛隊だ。国を守る自衛隊が国民にその弾を向ける事態は絶対に避けなければならない。
――あーあー、テステス。聞こえるか"ウルトラマン"。隠れてないで出て来い。我が名は死神博士。この禍威獣の『所有者』だ。
禍威獣が、喋った?
地響きに遅れ、病室のテレビから現場を映した中継映像が流れ始めた。頭は小さく身体は大きく。遠目にはピラミッドめいた体躯だとしか思えなかったが、ヘリの中継からだと、上半身に縄めいた拘束具が巻き付けられているのに気が付いた。
――早く出て来いウルトラマン。我が『レッドキング』と戦う勇気はあるか? 無ければそれでもいい。無関係な市民たちがこの足に踏み潰される様を観たいのならな!
「冗談じゃないぜ……。SHOCKERめ、禍威獣までも洗脳して操ってるってワケか?」
「人間を支配下に置けるんだ。もっと知能の低い禍威獣を操るなど造作も無いだろう」
これは罠だ。ここまでお膳立てをしておいて、単に力比べがしたいだけだとは思えない。無論彼らは解っている。だが敢えて乗らなくてはならない。迷えば迷うだけ、今そこにある人命が数多く失われてしまう。
「班長。陸自の輸送班に通達を。一人でも多く、街から避難させてください。あれは、ウルトラマンが来なければ何にもなりません」
『――神永、お前。まさか』
「やれるだけ、やってみます」
神永新二は通話を切り、背後に座す一文字隼人を一瞥。懐からペンライトめいた銀色の筒を取り出した。
「一文字。俺が何故
彼が握り込むと共に先端の透明部が紅く輝いた。神永はそのまま親指で点火ボタンを押し込む。
紅く眩い光がさほど広くない病室の中で迸る。常人よりも遥かに目の良い一文字は、その最中、神永新二が窓から『生えてきた』銀色の腕に掴まったのを視認出来た。
神永の姿がない。彼はどこへ? 目線を部屋から窓に向けると、その先に乳白色に輝く巨大な目が飛び込んで来た。
「『神永新二』……。そうか、そういうことかよ」
神出鬼没のジャーナリストとして世界各地を飛び回る一文字は、活動範囲の広さ故にこの国の内政にはやや疎い。そんな彼でも、動画サイトで拡散されたあの動画のことは記憶の片隅に残っていた。
放射線防護服を纏った男がペンライトめいた何かを掲げ、人ならざる巨人に『変身』した瞬間。今の今まで"タキ"として認識していたから忘れていた。どうして今まで忘れていられたのか。
ウルトラマン。外宇宙からやってきて、ヒトの為に禍威獣や外星人と戦ってくれた赤と銀の巨人。それが、いまの『彼』なのか。
神永――、ウルトラマンは病院のすぐ横・駐車場スペースに片膝の姿勢を取っていた。握り込んだ右手の中に
最早一刻の猶予もない。ウルトラマンは空を仰ぎ、ぐっと膝を曲げ、蹴伸びの姿勢で空へと飛んだ。
(714)ウルトラマン
M87星雲・光の星からやってきた外星人で、人類のみかた。こどもを守ってしんでしまった神永新二と合体し、この星の生き物たちとしたしくなる。
恐るべきかい獣・ゼットンとの戦いで命をおとし、いまはその体とチカラだけが神永新二の中に宿っている。
(643)地形掘削禍威獣レッドキング
身長60m
全長100m
体重5万トン
どこかの星の何者かが太古の地球に放置したおそるべき生物兵器。かたい身体はスペシウム光波熱線をも弾き飛ばす。
本来は地面を掘り進め、星の地形を変えることを目的とした土木作業かい獣なのだが、死神博士にあやつられ、人間にきばをむいた。