シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
「僕のウォッチを……、あいつらに?!」
「本郷さん、それ冗談でしょう?!」
「渡したとして、一体何が起こるんですか!」
『――説明は後だ。君たちが生き残る方法はそれしかない』
敵・群生相大量発生バッタオーグと自分たちとの距離は目算で150。対してこちらは四人。武器は浅見と田村の持つ拳銃計二丁。向こうもそれを解っているのか、手に持つ武装に銃器はなく、刃物や鈍器ばかりだ。
最初こそ一糸乱れぬ横並びで迫って来ていたが、じょじょに円に囲わんと動き始めている。歯向かったところで結局は破滅。最早彼らに選択肢はない。
「解った。君を信じる」田村君男は銃を構え、滝のスマートウォッチにそう言って。「皆、聞いていた通りだ。やるぞ」
「やるぞ……やるぞって班長、冗談でしょ?」
「他に、この局面を切り抜けられる方法があるなら言ってみろ」
勝算があるわけじゃない。他に選択肢が無いだけだ。敵は交渉の余地のない量産機。下手に出ればまず間違いなく死ぬ。
「あー……もう! 労災きっちり出してくださいよ、班長!」覚悟を決めたのか、船縁は頬を張って痙攣する瞼を止め。
「滝くん。私たちが囮になる。後はお願い」浅見も銃を手に前に出て。
「嘘でしょみんな……。マジでやるの……?」
滝ひとりが信じられないと言うような顔をして。いや、すぐ気合を入れ直し、敵のバッタ軍団を睨む。
後方支援、作戦分析という立場ではあるが、彼らも禍威獣という非日常から日常を守るために集められた人間だ。常在戦場、やるしか無いならやるだけだ。
「行けッ、滝ぃい」
田村の銃撃が口火を切った。彼の放つ銃弾が真ん中を往くバッタのメットをカンと鳴らす。ひとりの注意が彼に向いた。
「来なさい……、ほら来なさいったら!」
武器を持たない船縁はわざと大仰な動きで連中を刺激、左側のふたりが無抵抗な彼女を狙う。
「滝くん! あとはばっちり決めてよねッ」
浅見は恐怖を噛み殺し、右端のバッタの膝に銃弾を撃ち込む。めり込んだようだが小揺るぎもしない。だが注意は確実に引けた。右端とその隣が浅見を襲う。
「きた……来た来た来たァーッ」
やるしかない。滝はごくんと唾を飲み込んで、サバイバルナイフを持った黒バッタに突貫。
『――滝くん。右に二歩下がって、突きがくる』
「は、はい」
『――一拍置いてジャンプ。足払いだ。着地したら左に一歩、拳だ』
「は……はい」
完全無防備な滝明久には酷な任務ではないか? 否、今の彼にはスマートウォッチに宿った本郷猛がいる。彼は敵の動きをプラーナで感じ取り、殆ど先読みで滝に指示を出している。
『――滝くん、今だ。右の拳をかわしながら、ウォッチを腕に! 巻き付けて!』
「うぉ、お、お、お、ぉお、お!」
空を裂く拳、当たればまず潰れたトマトになる距離だ。オーグメントでない自分に無茶を言う。こんなことをして何になる? わからない。知ったことか。何にせよ、そうしなければ始まらないし終わらない。滝明久はぐちゃぐちゃに歪んだ顔で頬を掠める拳に合わせ、スマートウォッチを無理矢理に巻き付けた。
「ひぃ……、ぃいいいいいいああぁあああ」
任務を果たし、一生分の勇気を使い切り、萎れた花めいてその場にへたり込む。翻って黒バッタはどうだ。複眼より紅い光を発しながら、今もなお剥き出しの殺意を滝に向け続けている。
「本郷さん……これでいいんですか? ほんとにいいんですか!? 返事してくださいよねぇ!」
ウォッチの所有権が移って以降、本郷猛からの通信が途絶えた。まさか、あれは全て方便で。己だけが助かるよう自分たちを利用したんじゃないのか。考えたくはないが、そんな考えが頭を過ぎっては消えてゆく。
黒バッタは右拳を固く握り締め、弓を射るかのように振り絞る。駄目だ、もう逃げられない。漠然と死を受け容れ、抵抗を止めた滝明久に、『同じバッタが』そっと
『すまない。"チューニング"が遅くなった』
「え……は。えっ?!」
なんだ、これは。
今の今まで自分を殺しにかかっていた黒のバッタが、本郷猛の声で優しく手を差し伸べている。何がどうしてこうなった? 思考停止に陥る滝を、黒バッタは無理矢理手を貸して立ち上がらせた。
『もう大丈夫。この身体は僕が"借りた"。少し待っていてくれ。脅威を排除する』
「はい、うん。どうも」
借りた? 彼が? どうにかする、とはそういうことなのか? 思考が現実に追いつかない。滝はぽかんとした顔で、跳ぶ本郷猛を漠然と見送った。
…
……
…………
「あは、あはは……流石にもう、詰みかも……」
無防備なまま五体満足でいられた事自体が奇跡だ。船縁由美は瓦礫に足を取られて転び、迫り来る死の恐怖に笑う他なかった。
迫る二体のバッタの手には、片方はチェーンソー。もう片方には金属バット。苦しむ自分たちを嘲笑っているのか? その気になればいつでも殺せるこの局面で、なおも足を早めようとはしない。
もう駄目だ。すがる希望もなくなり、目を閉じんとしたその瞬間、バッタたちの注意は彼女ではなく、その背後に向いた。
「え……?」
…
……
…………
「無理。もう無理。限界……」
公安で鍛え上げられた人間としての自負はある。だがそれは対人戦での経験で。あのようなオーグメント相手のものではない。もう換えの弾倉はない。対抗する術は尽きた。
あれだけ撃ち込んできたというのに、向こうはゾンビのように迫って来るだけ。彼らに意思はあるのか? あのオオカミやサソリとは違う。まるで機械だ。同じオーグメントでもここまで違うのか。
「こんなの、どうしろっていうのよ」
手を挙げて降伏でもするか? 無駄だとわかっている。解ってはいるが何かせずにはいられない。
だからこそ。連中が万策尽きた自分を無視し踵を返した理由がわからない。命令を愚直に聞く奴らが標的を放置する理由は何だ?
「嘘でしょ、あれって……」
…
……
…………
『田村班長、後は僕が』
バッタたちに囲まれ、なすすべの無い田村の前に、別の黒バッタが"跳び"込んできた。新手か? 否、今の今まで全く言葉を発しなかった他のバッタたちとは違う。他の奴らの目は赤い。だが彼は。彼の複眼だけは。薄い淡い桃色の輝きを放っている。
「本郷猛……なのか?」
『あぁ。彼の身体を"借りた"。いずれ返す』
黒バッタ――、新たな身体を得た本郷猛は迫り来る残り五体の同族を、彼らに宿るプラーナを見やる。彼らのそれは『紐』だ。個々人の自意識は皆無であり、それぞれの胸部に刺さった細く長い線が頭上で一本に括られており、それを遥か遠くからマリオネットめいて操作されている。
(無理矢理拐った人間をオーグメントに、しかもこんな、見せしめのような形にするなんて)
桃色に発光するCアイが仮面の下の彼らの顔を捉えた。誰もが苦悶の表情を浮かべ、そのままずっと変わらない。
背筋がぞわりと疼く。これは『怒り』だ。彼らにも人生があったろう。理不尽に奪われ、死ぬことも出来ず苦しんでいる。
『来い』
五体のバッタがほぼ同時に動いた。他にしてやれることはない。本郷猛は震える手を固く握り締め、迎え撃つ。可及的速やかに、彼らを斃し、息の根を止めるために。
(555)本郷猛(群生相バッタオーグのすがた)
自らの体を失い、魂だけの存在になっていた本郷だったが、バッタオーグの身体を借りて再びよみがえった。
よく似たしくみ、姿のバッタオーグだから成功しただけで、ほかのオーグメントにはつうじないらしい。
(321)勝負だ、一文字隼人
オオカミオーグが高速道路じょうで一文字ライダーにさいごの勝負をいどんできた。サイクロン号とほぼ同じ速さではしれるオオカミオーグは強敵だ。まけるな、一文字ライダー!