シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
・PM5:15
『排除、排除、排除』
「お前らさァ、他に言うことねぇのか、よッ」
クモオーグの放つ蜘蛛糸を寸でで躱し、ハチオーグの刃を壁蹴りで回避、着地の隙を狙うKKオーグをチョップで後退させ、ようやっと着地。
本郷猛の経験した記憶がある。個々に絞ればまず間違いなくそれよりは弱い。だが、三対一の状態ともなれば話は別だ。まともに風も受けられない閉所の廊下、そこに三つのオーグのコンビネーション。さしもの一文字ライダーも決定打を与えられずにいた。
『寄ったら斬ります。近寄らなくても斬ります』
『侵入者は56す。3・7・5・6・4ぃいいい』
見てくれも言動もポンコツそのものだが、連携そのものに何ら支障はない。一体がもう一体の隙をカバー。これが各個ばらばらならすぐに斃せたというのに。SHOCKERのオーグメントたちは誰もが群れないってはなしは大嘘か?
「こちとら時間も無いってのに……よっ!」
だからと言って防戦に回るのもよろしくない。一刻も早くこの奥の親玉を止めねば、大いなる厄災が解き放たれてしまう。もう解き放たれたか? 未だそんな感覚は無い。兎にも角にも、こいつらを片付けなければ何もわからない。
(一か八か……。やってみるか)
元より、全快の状態で親玉に挑めるとは思っていない。いつだってそうだった。SHOCKERは、こちらの快復を待ってなどくれない。オーグメンテーション技術は日々進化し、自分たちはどんどん格下に堕ちてゆく。
そんな自分が敵に勝るものは何だ? 『経験』だ。向こうが連携で攻めるなら、こちらも頭を使うまで。
『排除、排除、排除』
「来やがれ……こっちだ!」
通路を塞ぐクモオーグに突貫。跳び箱めいて彼を飛び越し、奥へ奥へとひた走る。
『寄ったら斬ります。寄らなくても』
「あぁそうかよ。斬りたきゃ斬れっ」
彼ら彼女らに与えられた命令は侵入者の排除、ここを絶対防衛線とした警護のふたつ。これを遂行すべく以前の機体よりも遥かに優れた機動力を与えられている。失態に気付き僅か五秒。ハチオーグは一文字ライダーを刃の射程圏内に捉えた。
「来た、来た来た来た来た、来たーっ」
防護服越しに肉も骨も斬り落とす恐るべき切れ味の刃。袈裟に振るわれたそれを、ライダーはぎりぎりまで引き付ける。まだ早い。まだ駄目だ。刃が背中に到達し、防護服を斬らんとしたその瞬間。彼はトップスピードのまま無理矢理にしゃがみ込む。
ハチオーグの刃は行き所を無くして半回転。殺す勢いで振られたものだ。働いた運動エネルギーを消す事はできず空を切る。
運悪く、そこに居合わせた奴がいる。跳び箱にされ、一瞬移動の遅れたクモオーグだ。彼女の横から一文字ライダーを狙わんとしていたところで、全力で振られた刃が腹部に突き刺さる。
『排除、排いjyo……Ha……』
オーグメントをもグズグズに溶かす毒を含んだ合金だ。ただでさえ量産品である彼が耐えられるシロモノではない。クモオーグは刃を腹部に抱え込んだまま、泡となって崩れ落ちた。
「で、次は……お前!」
膝にくる負担を噛み殺し、一文字ライダーはしゃがみから両太ももにチカラを集中。縄のような筋肉を防護服越しに浮かび上がらせ、背中全体をぶつけるような体当たりをハチオーグに喰らわせる。
『斬……斬り……斬……?』
ライダーの後頭部がハチオーグの頭を打った。マスクにヒビが生じ、彼女の体が大きくよろける。好機! ライダーは体勢を立て直し、握り込んだ右拳を振り被り――、殴る
何故この好機を逃したか? 背後にひりつく殺気を感じ取っていたからだ。ハチ同様ぎりぎりまで引き付けられたKKオーグのナイフは、押し留めること叶わずハチオーグのひび割れたマスクに突き刺さる。
「これで! と、ど、めだぁッ」
距離を取り、クラウチングスタートの構えを取ったライダーの背から、翅状のプラーナが放出され始めた。これこそ真の好機。プラーナを加速に用いた短距離走。最高速度のタイミングで右膝を突き出し、二体のオーグの頭を『刺し貫く』。
バッタオーグの特性をフルに利用した必殺のニーキック。衛兵オーグメントは一発で事切れ、泡となって溶けていった。
「さぁてと。もう誰もいないよな」
多少しんどかったが、こんなものは苦戦の内に入らない。いよいよ本丸が拝めるぞ、と安堵の溜め息を吐いた一文字ライダーの首筋に、これまでとは比べ物にならない殺気が届く。
「おい。オイオイオイオイ。冗談じゃねぇぞ。こいつまでいんのかよ」
衛兵オーグはもうひとりいた。研究区画を守るように、銀色の仮面に青の防護服を纏った存在が立ちはだかる。
こいつは自分自身の眼で見覚えがある。忘れられるものか。これまで戦った中で最も強大なプラーナの持ち主。白いマフラーが省略されているが、それ以外は寸分違わずそのままだ。
銀の仮面に紫の複眼。ストロー状に伸びた口吻を丸めて顎先に置いた異形。チョウオーグ。一文字隼人がオーグメンテーションを受けた後初めて、対峙して死を覚悟した強敵だ。
『此処から先は聖域だ。許可なき者は何人たりとも通さぬ』
幸いなのは、あの中身が緑川イチローではないということか。彼ではない誰かにこの外見をおっ被せただけだ。あの頃程の覇気は感じない。
「そうかよ……じゃあ、押し通る!」
気圧された自分の心を、頬を張って揺り戻す。まだまだここは通過点だ。本当に倒さねばならない相手はこの先にいる。やっつけてやる。やっつけてやるとも。一文字隼人は仮面の下で震える唇を噛み締め、再生チョウオーグへと飛びかかった。
※ ※ ※
・PM5:32
紅い鷲のマークがでかでかと貼られた壁に、ドーム一個分はあらんかという巨大な実験区画。
その半分を埋め尽くすのは水族館と見紛うほどの水槽だ。白いタイルの床を埋め尽くすコード、コード、コード。その全てが槽内部で胎動する深緑色の『球体』に繋がれている。
槽のすぐ近くで十字架に繋がれ、活気なく項垂れるそれは、あぁ。それは。
「は。は、は、は、は。ようこそバッタくん。破滅のショーの特等席へ」
その真中に立つのがこの区画の研究主任・イカオーグ。肩まで伸びる白髪を殆ど後ろに撫でつけた初老の男で、白衣袖から見える腕には吸盤めいた点々が夥しく広がっており、本来『口』が有るべき場所にはバッカルコーン染みた悍ましい触手が蠢いている。
「手前ェが死神博士。このイカレたショーの興行主か」
一文字ライダーは肩で息をし、ふらつく足で一歩一歩近づいてゆく。贋作とはいえ、強大なチョウオーグ相手に無傷とはゆかなかった。防護服の端々、コンバーターラングの所々に穴が開いている。
「素晴らしい。実に素晴らしい。きみもそうは思わんかね? 一個体のまま生長を続け、留まることを知らないこの特性! 遂に人類は創り出したのだッ、『神』を! 霊長など取るに足らない、万物の王を!」
死神博士にライダーの言葉は全く届かない。相手にさえしていない。お互いの考えは理解の外にある。話し合いでどうこうという問題ではない。
「特等席を用意してもらって悪いが、ふざけた茶番もここまでだ。ゴジラ細胞を返してもらうぞ」
無拍子から予備動作なく、背中の翅をロケットにしての低空飛び蹴り。狙いは勿論この水槽。ここまで厳重に、侵入者対策を行っていたのだ。触って欲しくないことはひと目で解かる。この蹴りで中のマリモごと蹴り砕き、この争乱にケリをつけてくれる。
「ふっふっふ。出来るかな? 君如き旧型に」
先手を打ったライダーの挙動を前になお、死神博士の顔に焦りはない。まるで、そうすると解っていたかのような顔つきだ。
「な……、っ!?」
水槽を蹴破り、中のものを引きずり出さんと思ったその矢先。彼の蹴りは硬質ガラスに
「あぁ。言い忘れていたが、私はイカとヒトの人外合成オーグメントだ。私の触れたものはカタチを保ったまま限界まで"柔らかくなる"」
やわらかく、だって? じゃあ何か? 俺は今、ゴムを殴って弾かれたとでも言うのか? そんなチカラを持つオーグメント、観たことも聞いたこともない!
「ふざけやがってクソッ……! こんなのアリかよっ」
両足が互い違いに折れ曲がり、受け身も取れずに落ちていく。怪我そのものはどうでもいい。この程度すぐに治る。だが、これでは戦いにすらならぬ。
「そうだ。せっかくだからもう一つ伝えておこう」死神博士は仮面ライダーに目を向けることさえなく、背を向けたまま言い放つ。「今ここに映っているこれは十分前の"録画映像"だ。そろそろスイッチを切ってやろう。さあ、このスクリーンにご注目」
今の今まで本物だと思っていた水槽から、黒光りする巨大なマリモが消えた。代わりに現れたのは中継映像か? ドローンカメラらしきものが、上空から夕暮れ色に染まる支笏湖を映し出している。
「視えるかねバッタくん。これが私の生涯最高傑作。ゴジラと薔薇の合成オーグメント、いや、人工禍威獣第一号というべきかな。『B・Gオーグ』の雄姿だッッッ」
・PM5:35
(つづく)