シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン   作:イマジンカイザー(かり)

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25.今度の敵はでかスゴだ

 

・PM5:36

 

※ ※ ※

 

「ねぇ。視てよあれ」

「わっすげーっ。禍威獣じゃん。こんなとこにも出るんだなあ」

 "それ"を最初に目撃したのは、支笏湖付近のスパリゾートに宿泊している観光客たちであった。避難命令を発令したが、こうも街から離れた場所では報連相が届きづらい。故にこうしてホテルに留まる人間は減っていない。

 支笏湖の湖面に巨大なバラの花が咲いている。太く屈強そうな茎が幾重にも絡まって伸びており、その頂点には血のように紅い色をつけた美しい薔薇の花びら。近寄って凝視してみると、その奥には乱高下した不気味な牙がびっしりと生えているのがわかる。

 

「写真撮ろう写真! 自衛隊来ちゃう」

「凄いねえあれ。禍威獣にもあぁいうキレイなのいるんだあ」

 "それ"がこの世の理の先にいるものだと解っていて、どうして彼ら彼女らは逃げようとしないのか。その姿の特異性もあるが、禍威獣は自衛隊や禍特対が何とかしてくれる。もはや、日本人にとって禍威獣はありふれた存在だ。

 向こうは湖の上。見た目はどう視ても植物。まさか此方に寄っては来ないだろう。現に、同じ植物型であった『マンモスフラワー』は東京駅周辺から動かなかったし、可及的速やかに駆除されて終わった。ならば、証拠写真を撮ってバズりに使ったほうが有益だ。そう思う気持ちも分からなくはない。

 

「うわ……うわ、うわ、うわっ」

「なにこれ、ちょっ……揺れ」

 とはいえ。それが逃げなかった言い訳になるはずもなく。地鳴りがした時にはもう全てが遅かった。『禍威獣』から独立した蔦が湖水から飛沫を上げて飛び上がり、彼ら彼女らの座すスパリゾートを圧し潰す。

「逃げろ、逃げろォーっ」

「車、車! 早く」

 建物の損壊が出て、ようやく事の重大さに気づいたか。宿泊客たちは蜘蛛の子を散らすように車に飛び乗り、エンジンをかける。だが前には進まない。一体なぜ? 猛烈な縦揺れにさらされ、それどころではないからだ。

 何もかもが後手後手だった。地表を割って現れた蔓が車を土の下に埋め、走って逃げる人々を蔦の先に付いた、ハエトリソウの葉めいた『口』が呑み込んでゆく。

 山を荒らされ、恵庭に棲んでいたシカやキツネ、ヒグマたちもが逃げ惑う。『それ』はどれにも容赦しない。蔦を伸ばし、口めいた器官で飲み込み、栄養分に還元してゆく。何が植物型だから大丈夫なのか。徹底的に生き物を狙い、次々と取り込んでいるではないか。

 

『総理からの下命が下った。誘導弾、発射準備』

『FIRE!』

 禍特対特別条項は既に自衛隊札幌駐屯地まで届いていた。直ぐに威力偵察のヘリ二機を現地に向かわせ、現場の救助よりも攻撃を優先。誘導弾二発を禍威獣に撃ち込んだ。

 

『命中を確認』

『効果を確認せよ』

 正面から見た"それ"は湖面ぎりぎりの地点に紅い嚢のような器官を持っていた。他はすべて蔓と蔦と葉。核があるとすればここしかない。

 誘導弾は水風船が破裂するかのような音を響かせ、嚢に着弾。煮え滾る紅い汁を湖面に散乱させてゆく。

 だが、禍威獣は微動だにしない。威力不足か? 更なる火力を上申しようとしたまさにその時、薔薇の花は身体をくねらせ、ヘリの方を『向いた』。

 

『え……』

 ヘリからの通信はそこまでだった。ヒュン、と風切る勢いで放たれた蔓が、ヘリのプロペラを押し潰し、その勢いを保ったまま水底に沈めてしまったからだ。

 

 どう見てもあれは植物だ。それが、動くのか? 何かの見間違いでは? ドローンの映像から、定点カメラから、中継映像からこれを目にする誰もがそう思った。

 湖面に波紋が生じ、それが大波となって岸に押し寄せる。自分たちは夢を視ているのか? 巨大なバラの花がゆっさゆっさと花びらを揺らし、湖を歩いている(・・・・・)

 植物とは地に根を張るから植物ではないのか。だとすればあれは一体何なのか。『あれ』が産まれた事情を知らない者たちには理由など察することもできまい。

 だが、今人々が気にすべきはそこではない。蔦と蔓で形作った多足の脚を得た禍威獣は、恵庭の岳を直進し、他の草木を薙ぎ倒しながら北に向かっている。その先には何がある? 道内最大の都市・札幌。この土地で最もヒトが密集する地域だ。やつはそこに向かっているというのか!?

 

※ ※ ※

 

・PM5:45

 

 

「はは。ははははは。経過は順調、良いぞォ。お前は自由だ。思う存分進化し続けろぉおお」

 最早超大型液晶ディスプレイと化した空の水槽を前に、死神博士が絶頂のまま仰け反って高笑う。彼にとっての幸福はこのオーグメントがどこまでも生長し続けることだ。その中途でどれだけ被害が出ようと、世界がどうなろうと彼の知ったことではない。

「それは進化じゃねぇ、成長だろうが」

 一文字ライダーが骨折と脱臼から回復し、よろよろと立ち上がる。

「無粋なことは言わんで良い。あれはもう進化だ。私が言うんだから間違いはない」

「そう……かよッ」

 仮面の下で青筋を立て、ぎりりと歯を軋ませて。一文字ライダーは風切る勢いで跳躍、死神博士目掛け必殺の飛び蹴りを見舞う。

「甘い甘い。君の考えなど想定の範囲内だ」

 死神博士は避けるどころか見もせずに、彼の攻撃をそのまま受ける。パァン、と風船の弾ける音がした。博士のヨレヨレの白衣が、その下のシャツが、ゴムのように長く、広く伸びている。

「私の首を刈ろうとする発想は良い。しかし、そのおつむでもうちょっと考えるべきだったなァ。この全てを取り仕切る私が、どうしてただの一撃で斃せると思う?」

 一文字隼人は改めて、この存在の恐ろしさを身を以て思い知る。今までのオーグメントとの戦いは、どれも必殺の一撃をいつ与えるかにかかっていた。だが奴は違う。必殺の一撃が『必殺』にならない。

 ライダーは自らの運動エネルギーの全てを返され、真後ろの正門へと吹き飛ばされた。命を刈るべく放った一発だ。生じた弾力はそれだけでは消えず、彼はピンボールめいてこの研究区画を所狭しと跳ね回る。

「う……、ぐ……」

 衝撃から解放され、彼はまたも受け身も取れず床を転がる。再び立ち上がりたいが、動かせるところがひとつもない全身複雑骨折、脊髄損傷。これで死んでいないのが不思議なくらいだ。

「やれやれ。そろそろ気は済んだかね? もう黙って見てくれないかね。私の最高傑作が、札幌の街を焼土と化す様を」

 しかも。しかもだ。彼もまた通過点。本当に片付け無ければならないのはモニタの先のあのオーグメント。一刻も早くあそこに駆けつけなければならないのに、自分は指一本、顔さえ動かすことさえままならない。

(どうしろっていうんだよ、この状況……!)

 一縷の望みを込めて、ウルトラマンの方に目をやる。彼も磔にされたまま動かない。助けは恐らく望めない。

 もう駄目か。奴の蹂躙を、ただ黙って視ていることしか出来ないのか……?

 

 

 ――一文字。聞こえるか、一文字。

 

 

 諦めて目を瞑らんとしたその瞬間。彼の耳に聞き覚えのある声が響く。本郷猛だ。プラーナを分離させ、別行動を取っていた彼が、自分に向けて言葉を送っている。

 

 

 ――状況はだいたい把握した。ゴジラは僕に任せてくれ。

 

 

 任せる? 一体どういうことだ。別行動では状況が見えない。最高戦力であるウルトラマンは未だ動けないまま。同じ等身大のライダーが、あの怪物相手にどうしようというのか。

 

 

 ――ルリ子さんのお陰だ。信じてくれ。必ずここで食い止める。

 

 

 説明が足りないのはいつも通りだが。如何せん状況が状況だ。言葉足らずでは信じるも何もない。募るイライラをぶつけようと思っていたその最中、動けない彼の身体に、ビリビリとした不可思議な振動が響く。

 

「ん……?」

 モニタを見やる死神博士から笑みが消えた。全く予想だにしなかった存在を感知したからだ。ゴウゴウゴウ、嵐のようなざわめきが地下五十メートルのここにさえ届く。

 なんだこれは。なにが起きる? 答えが、質量を伴ってやってきた。

 

 

 ――CRAAAAAAAAAASH!!!!

 

 

 オーグの真上、恵庭岳の中腹が、降り注ぐ流星に押し潰された。

 山土が派手に爆ぜ飛び、北海道全体が激しく揺れる。定点カメラは折れて吹き飛び、ドローンカメラは超振動で一時的な通信途絶。誰もが何が起こったか正確に把握できない。

 揺れが収まり、何が起きたかが明らかになってゆく。恵庭岳の実に半分近くが抉り取られ、その土砂が支笏湖に流れ込み、湖面の三割が土に埋もれている。

 今もなお舞い散る土煙の中で『何か』が立ち上がる。ぴんと伸びた触覚に、夕暮れ時の空を明るく照らす薄桃色の輝き。深緑色の胸部。

 

 

 ――言っただろう。僕がここで、食い止めると。

 

 

 仮面ライダーが、山よりも大きな姿で、恵庭の裾に立っている。

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