シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
・PM5:40
「はは。あのお嬢さん、やりやがった」
突っ伏して指一本動かない一文字隼人は、痛みに顔をしかめつつもにいっと笑う。本郷猛が、自分たちの相棒が。禍威獣と同じ地平・同じ目線で戦っている。彼には彼女の企ての詳細は聞かされていない。だが、あんな突拍子もないことを実現出来るとすれば、緑川ルリ子を置いて他にはいまい。
「なんという……なんという愚行……。ベーターシステムを……、他星の技術で、ヒトを巨大化させたというのか……?!」
愚行。モニタ上で広がる絵面に死神博士はそう毒づく。同じエネルギーを呼び水にして、自分より格下の人間どもが自分と同じ地平に立ったのだ。彼にとってこれほど不愉快な事態もあるまい。
「フゥーッ……」死神博士は深く息を吸い込んで吐き出し、何度かの瞬きの後この不快さをリセット。改めてモニタを見やる。
「は。はっはっはっはっ、は。凡人が同じ目線に立ったところで所詮は凡人。私の技術の前に敵はない。思い知るが良いわ」
最早ここにいて『あれに』してやれることはない。画面を覗き込み応援するだけだ。だが死神博士にはわかっていた。たとえ同じ存在に地表にめり込まされようと、B・Gオーグが倒されることは絶対にない。
「こんな攻撃で倒れる程ヤワじゃなかろう。やれィ。やってしまえい。目障りなバッタをバラバラにしてしまうのだ!」
※ ※ ※
・PM5:41
『RUOOOOOOOOOO!!』
恵庭岳、だった場所にめり込んだまま動かない禍威獣がけたたましい叫び声を上げた。身体中に巻き付く蔓――、触手がほつれ、こちらに向かい蠢いている。仮面ライダーは殆ど反射的に飛び退く。今その瞬間までライダーの立っていた場所を、鋭利に尖った植物の『槍』が滅多刺しにした。
(これは……!)空中半回転で体勢を整え、少し離れた更地に着地。禍威獣が唸り声を上げながら身体を起こし始めた。
上体を起こす禍威獣の頭から薔薇の花弁が剥がれ落ちてゆく。消耗の兆しか? 否、この程度で倒れる生き物に死神博士は興味など示さない。
(すごい、これが"進化"か)
剥がれた花弁のその下、剥き出しで乱高下した歯を持つ口が横に
『ROARRRRRRRRRRR』
あれは、本当に植物か? 長く伸びた口は体長の実に半分を占めるほどに巨大化し、鰐や猪を思わせる攻撃的な『顔』となった。
上下の口角から伸びた太く鋭い牙。口内には剣山を思わせるようなびっしりと並ぶ鋭利な歯。正面には一対の紅い目が生じ、こちらを視界に入れて離さない。
そのどれもが、生きるために必要な生長とは関係のないものだ。目も牙も歯も、総て『敵』を斃すために獲得した進化。あれがゴジラ。ウルトラマン程の存在が別の異界に送り込む事でしか対処出来なかった相手か。
『URUOOOOOOOO』
遥か遠く、札幌の街まで届きそうな奇声を上げ、B・Gオーグが動き出す。節足動物めいた多脚を巧みに動かし、本郷ライダー目掛け迫り来る。
目算で自分の二倍程の巨体だ。追突されればただでは済むまい。ライダーは飛び込み前転で突進を回避。地を踏みしめて跳び、手をついて着地するそれだけで、震度四近い揺れが道南全域で二度起きた。
「まずい」
だが、それそのものがブラフであった。丁度接地しようとしていた地点から、硬く鋭く加工された蔓がトゲトラップめいて迫り上がって来た。
「く……っ!」
背中の翅からプラーナを放出し、接触直前で方向転換。右への半回転で無理矢理に着地点を変える。
敵の真後ろを取る形となった本郷ライダーの足元で横揺れ。間髪入れず地面から槍めいた蔦が突き出してきた。
そのままバック転二発で距離を取る。禍威獣は既に此方に向き直り、腹部と思われる紅い嚢をバチバチと発光させ始めた。
(何か来る)びっしりと牙で敷き詰められた奴の口が開いた。内に敷き詰められた蔦や蔓がぜん動を促し、鳩尾、喉、嚢で精製された『なにか』が上へ上へと運ばれている。
(あれは……なんだ!?)
開いた口から真っ黄色の汁が洪水の如く噴き出した。何なのかは解らない。だが見た目で――、いや生物としての生存本能があれを浴びるのは危険だと判断した。
「溶解液、か……?」
液は身を躱したライダーのすぐ隣に付着。染み込んだ場所半径十数メートルが凄まじい熱を発しながらグズグズに溶けてゆく。
ゴジラのデータなら、禍特対で手伝いをする最中流し見てはいた。艦砲射撃程度では傷もつかず、宇宙の侵略禍威獣相手にも終始圧倒。必要とあらば腕や脚を格闘向きに作り直すことも出来たという。凄まじい適応力だ。いや、賞賛している場合じゃない。蔦にせよ液にせよ。これが自分に張られたメタであるという事実だ。
最初の一撃、飛び蹴りを喰って地表にめり込んだB・Gオーグは、攻撃の手段として『顔』を用意。近接戦に持ち込ませぬよう、硬質化した蔓で自分を遠ざけ、打撃の及ばぬ中距離からは溶解液を撃ち込んで来る。翻ってこちらはどうだ。攻撃の手立ては皆徒手空拳。距離を取られた時点で勝ち目はない。
「しまった!」
その巨体に見合わぬ挙動に目を取られている場合ではなかった。地中から突き出した蔓がライダーの身体に絡みつかんとする。
予備動作自体は読めていた。地鳴りとともに跳躍し躱そうとしたのだが、背後から伸びる蔦がライダーの両腕に回り込み、強引に彼を地表に釘付ける。
一本がライダーの両足を締め付け、腕に回った二本は次々と数を増やし、本郷の身体を羽交い締めにして離さない。
『URUOOOOOOOOOOOO』
禍威獣の嚢が紅く明滅し、喉元から"胃酸"が上がってきている。ベーターシステムで強化されたとはいえ、あの溶解液をまともに浴びたらどうなるか。想像もつかない。
「どうする……どうすれば……!」
力づくでこれを突破出来るか? いや、間に合わない。他に手はないのか、他に――。
※ ※ ※
・PM5:54
「ふふ。ははははは。何がベーターシステムだ旧式のバッタ風情が。お前のような虫けらが! 私の最高傑作に刃向かえる訳が無かったのだ!」
ようやくと平静を取り戻し、死神博士はモニタを前に高笑う。自分は外星人のもたらした技術にさえ勝った。この頭脳は唯一無二。もう誰も、自分の頭の冴えを止めることは出来ない。
「可哀想に。君の相棒は人類の無駄な足掻きの犠牲にされたぞォ。悔しいなぁ悔しいのぅ。君はただ、見ていることしか出来ないものなあ」
死神博士の目はモニタから、今なお突っ伏して動けない一文字隼人の方を向いた。少しずつ治癒されているものの、直ちに行動を起こせるような状態ではない。
「さあ、いよいよトドメだ。我が最高傑作よ、SHOCKERに楯突く愚か者を消し去ってしまえィ」
最早敵なし。完全に勝利を確信し、モニタに向き直った死神博士に、一文字隼人は思わせぶりな笑いで応える。
「なんだ。その笑いは」
「そうさな。俺たち単独じゃ勝ち目はない。よぉく解ったよ。だから、癪だが『ヒトに頼ることにした』」
「頼る? 今更何だ。誰に」
ようやっと右腕が快復し、動かせるようになってきた。一文字隼人は震える右手人差し指で、モニタの方を指差した。
「あんたの柔らかさを実感したあの瞬間。これは俺の手に負えねえって感じたんだ。なのでプランBに切り替えた」
プランB。死神博士は胸騒ぎからモニタ以外の所に目をやる。計器類に異常は――、あった。オーグメントと直接関係がないから見逃していた。右端の端末に、挿した覚えのないUSBメモリがひとつ。
「こ……。これは……!」
「今頃気がついても遅いぜ」一文字隼人が密かに講じていたこの一手は、外で暴れる禍威獣には全く無意味。だがこの場にはもう一つ、膨大な処理を必要とする機械が動いている。一文字はひと目でそれを見抜き、吹き飛ばされる瞬間に投げ入れたのだ。
禍特対から託された、あのUSBメモリを。