シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
・PM6:33
『GUORRR……ROARRRR』
口に放り込まれた血液凝固剤弾頭の効果か、禍威獣は苦しげに唸りながら僅かに後ずさる。これなら奴に対抗できる。終わりのない持久戦に光明が差し込んだ。
(来たぞ、仮面ライダー)
「あぁ」
時間きっかり二分間隔。二射目の弾頭が札幌市街に翔んできた。もう一度行くぞ。仮面ライダーは上体を沈め、跳ばんとするが、
「な……にっ!」
跳躍に対し狙い澄ましたかのように。ライダーの下半身を強靭な蔦が絡め取る。ならばとウルトラマンが空を行くが、判断が僅かに遅かった。ヒュン、と風切る音と共に、あと六百メートル近辺まで迫っていた弾頭は貫かれ、道路上のアスファルトにめり込んだ。
「こいつ……」
(学習している)
最初の時点でこの薬品の危険性を認知。だがそれを投与するにはこの二人の存在が必要不可欠。ならば妨害して破壊するまで。『考えて』行動しているのか? バラとゴジラの混ぜものに、そこまで高度な知能があるというのか!?
(仮面ライダー、三射目が来た)
「ああ、解っている」
地鳴りで周囲の建物が小刻みに揺れている。察知しているのは自分たちだけじゃないということだ。
「ウルトラマン、上は任せた」
弾頭が目視圏内に入った瞬間、地表から奴の伸ばした強靭な蔓が放たれた。仮面ライダーは生えてきた蔦六本を掴み取り、その膂力で無理やり侵攻を押し留める。
(解った)
要件を聞き返したり、助太刀に入るようなことはしない。ウルトラマンは蹴伸びの態勢のまま空を飛び、空中で弾頭をキャッチ。禍威獣との距離は目算十キロ。測ってすぐに急降下。
『ROARRRRRRRRRRR』
自らの生命活動を停止させうる薬物だ。禍威獣の側もそうやすやすとは通してくれない。紅い嚢からエネルギーを立ち昇らせ、溶解液として勢いよく放出した。
(そう来ると、思っていた)
ウルトラマンは一切の動揺なく右腕を振り被り、スペシウム133を手のひらに集束させ、しゃぼん玉のような形状で弾頭を覆う。そのまま振り被った腕を解き放ち、プロ野球選手めいた豪速球を叩き込む。
『URUOOOOOO!!!!』
マッハの速度で放たれたストレートは溶解液を散らしながら真っ直ぐを維持し、ゴジラの口内に侵攻。しゃぼん玉は役目を終えて破裂し、凝固剤がまたも身体に行き渡る。
「やるな、ウルトラマン」
仮面ライダーは自分を縛る蔦の触手を仰け反りながら全力で持ち上げる。オーグメントの全力を受け、禍威獣の身体が若干浮いた。浮いたところに捻りを加え、ハンマー投げの選手めいて一回転、二回転、三回転。
「ならば、こちら、もッ」
仮面ライダーの鋭敏な聴覚が弾頭四射目の到着を捉えた。彼は掴んだ手を離し、かかった遠心力と共に禍威獣を解放。羊ケ丘展望台近辺へと投げ飛ばした。
「これで、どうだ!」
呼吸を整え、即座に跳躍。空中で弾頭をキャッチし、よろけるゴジラの口内に三度目の凝固剤を放り込んだ。
『G……guo……RRRRRRR』
投与三打目にして禍威獣の動きが鈍った。蔦がひとりでに剥がれ落ち、唸り声を挙げてうずくまる。
「効いて……」(いる)
禍威獣を支える熱核エネルギーは超高温。放熱に使う血液循環を止められれば、自壊阻止のため融合炉をスクラム状態にせざるを得なくなる。
滝らの出した結論は正しかった。もう少しだ。あと二発。やつの口の中に凝固剤を放り込めば、この怪物の暴走を止める事ができる。
『r……ROARRRRRRRRRRRRRRRRRR』
そう、思っていたのだが。うずくまったゴジラ派は鎌首をもたげ再度咆哮。勢い付いた轟音に周囲の家屋という家屋の窓ガラスが粉砕された。
「何……ッ!?」
死の淵に立ち、向こうも本気を出してきたということか。半径五キロ圏内の建物の至るところから蔓が『生えた』。その尖端は槍めいて鋭利に硬質化しており、地に足をつけるふたりの接地を許さない。
(しまった)
あまりの超・広範囲攻撃に、回避にしか考えが至らなかった。禍威獣は長く伸びた槍を伸ばし、的確に五射目の弾頭を破壊する。
「まずいぞ……」
剣山めいて生え揃った蔓はそれがそのまま"レーダー"の役目を果たし、札幌上空広範囲に索敵をかけ始めた。禍威獣の蔦が空を裂き、こちらに突貫する鉛玉の接近を捉えた。ゴジラと植物のオーグメントはヒトやウルトラマンとは感覚器官のつくりが違う。網を張り、ターゲットが接近したその刹那。弾丸めいた勢いで蔓を伸ばし、瞬時に弾頭をはたき落とす。
(適応……し始めているのか)
発射された弾頭は六。うち三つが奴の口に、残りは総て無力化。退っ引きならない状況だ。奴めあれを貰うとまずいと解って、全力で妨害を仕掛けてきているのか。
「発射を……中止して貰うべきか?」
増殖し続ける『棘』を躱しながら、仮面ライダーが空中のウルトラマンに問う。あれは禍威獣と高を括り、適応力までは計算に入れて無かったのが災いした。このまま続けて上手くゆくかどうか。
(いや、止めるべきじゃない)
疑問と否定で入る仮面ライダーに対し、ウルトラマンは即座に拒否を申し入れる。
(奴の適応速度は異常だ。今退けば奴に考える余地を与えることになる)
この作戦自体、現状の前段階・対ゴジラを見据えたものだ。生長と時間が、奴に対策を講じる暇をもたらしてしまった。切り替えるべきではない。禍特対は。彼ら人類は。自分たちを信じて託してくれたのだから。
「分かった。ならば」(力を合わせよう、仮面ライダー)
仮面ライダーの超・聴覚が七射目の弾頭を背後に捉えた。為せば成る、為さねばならぬ、何事も。無茶であることは重々承知。けれど、他に進むべき道はない。戦士たちは顔を見合わせて頷き、互いに翔んだ。
「行こう。ウルトラマン」
彼らの行動は、網を張るかの禍威獣にも当然伝わっていた。弾頭を掴み、口に捩じ込むつもりだな。伸びた蔦のうち十数本が、跳躍する仮面ライダー目掛けて解き放たれる。
無論、それは想定済みだ。本郷ライダーは横回転で『捻り』を加え、迫り来る蔦を弾き飛ばした。
(その一打は君に託す)
弾かれて行き場をなくした蔦の群れを、青白い光輪が一撃のもとに裂いてゆく。ウルトラマンは手首の操作だけで空中の蔦をくまなく切り裂きし、彼の足元も芝刈りめいて除去してゆく。
「ああ、託された」
ぴんと伸ばしたライダーの手に、その人差し指に。七射目の弾頭の先が触れた。彼は覆い被せるようにしてそれを掴み、抱え込みながら着地する。
仮面ライダーは弾頭を小脇に抱え、目算二十キロ先で待つ禍威獣目掛けて駆け出した。奴の放つ蔦・蔓は札幌市街全域をカバー出来る程に広く、長く、強い。
投擲では駄目だ。最初の一打目のように、口の中に確実に放り込む必要がある。ラグビーなんて、大学時代に少しかじったくらいか。この状況をゲームに喩え、迫る蔦を躱して進む。
奴も手段を選んではいられないと見える。蔦は地表だけでなくビルや一般家屋の中からも飛び出し、それぞれが絡まってしまうのもお構いなし。当然まともに前進など出来ぬ。ライダーは家屋を飛び越え、ビルを躱し、蔦を手で払い除けながら。ジグザグに遠回りになりながらそれでも進む。
傍らに居るのはウルトラマンだ。彼は援護とばかりに光輪を放ち、邪魔な蔦を取っ払う。
(迷うな。突っ込め仮面ライダー)
「勿論だ。君を信じる」
トラップの雨を掻い潜り、ようやっと手の届く場所まで戻ってきた。ゴジラも必死だ。妨害では止められないと判断し、逆に大口を開けて待ち構え、口内に溶解液をなみなみと溜めている。
だがしかし、二人の戦士は怯まない。互いを信じて走ると誓った。自分だけ立ち止まるわけにはゆかない。
『ROARRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!』
高濃度に凝縮された溶解液がふたり目掛けて解き放たれた。ベーターシステムで守られた身体は元より、そもそも小脇に抱えた弾頭はこれには耐えられない。どうする? どうなる? 答えはひとつ。正面突破を決めたなら、最後までそれを貫くまで。
(仮面ライダー、僕の後ろへ)
ウルトラマンはパントマイムで長方形の壁を作り、そこにスペシウム133を込める。不可視のバリアは禍威獣の放つ溶解液から二人を守り、その周囲にあるものを問答無用で溶かしてゆく。
「一瞬でいい。隙を」
傘一つで暴風雨に立ち向かうドン・キホーテか。地盤が溶け、背の低い・高いビルも構わず横倒しになっていく中、ウルトラマンと仮面ライダーは一歩ずつ前進していく。
(今だ! 僕に続け)
遂に手の届く距離まで迫った。ウルトラマンは光波バリアを斜めに向け、奴の下顎を引っ叩く。
禍威獣の顔が上向き怯んだ。仮面ライダーは中心核たる嚢に左の正拳突きを叩き込む。吐き出し続ける溶解液が一時的に止まった。
「と、ど、けぇえええっ!」
ウルトラマンがこじ開けたゴジラの口内に、右拳に隠した弾頭を突っ込んだ。喉元に到達した所でそれを握り潰す。詰め込まれた凝固剤が弾け、禍威獣の皮脂から直に吸収されてゆく。
『G……Guo……RR……rrr』
四回目を取り込んだその瞬間。深緑色の体表が口元から暗い灰色に変色し、動作がみるみる緩慢になってゆく。
「いや、本当に……そうか……?」
バッタオーグの精細なセンサー類は、凍結し始めた禍威獣の奥の奥に、得体の知れない反応を感じ取っていた。
表面上は固まりつつある。だがしかし、内側は……。今この中で、何が起こっているのか?