シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン 作:イマジンカイザー(かり)
※ ※ ※
・PM6:47
「嘘だろ……。なんだよ、これ」
滝明久がモニタ上で目にしたそれは、今この場を荒らし回るバラ・ゴジラオーグのサーモグラフであった。
仮面ライダーとウルトラマンの共闘により、血液凝固剤を含んだ弾頭のうち四つが着弾。血流による放熱が行えなくなり、体内の生体原子炉に異常が発生。かの禍威獣は
「どうなってるのよ滝くん。作戦なら」
「禍威獣はもう、固まってしまって動かないんでしょう?」
凝固剤の投与によって奴の身体は急速冷凍され、ささくれた奴の表皮が枯れ葉めいてぱらぱらと剥がれ落ち始めている。
ここまでは事前の計算通りだ。しかしその内側は。嚢の奥に眠る『核』は。生体原子炉は機能を『完全には』停止せず、冷え切った他の区画とは違い、今も明滅を繰り返しているではないか。
「滝君。これってもしかして」
「ですよね船縁さん。信じたくないけど」
禍特対の科学班ふたりは蒼い顔を見合わせ、震える手で弾き出された計算結果を呼び出す。
「あいつは、まだまだ『進化』する……」
※ ※ ※
・PM6:48
(これは……。どうなっている)
「分からない。分からないが……」
完全に動きを止めた筈の禍威獣が、凍結した表皮の下で胎動を始めた。どうしてこうなったかは解らない。だが、自分たちにとって不利な現象であることだけは揺るぎそうもない。
『Guo……rrRrrR……』
固まって灰色になった奥の奥から唸り声が響く。脚が生え、腹部となっていた部位にあった『嚢』が消えた。なくなった? 否、新たに精製された皮膚によって埋もれてしまっているだけだ。
手が生え足が生え、よりゴジラらしい姿になって、それが『完成』なのだと思っていた。
逆境に置かれた生き物はそれを克服すべく、でたらめでべらぼうな方向に成長を遂げる。現状がまさにそれだ。無力化され、凍結されたと見せかけて。それら総てを糧として、奴は再び覚醒めかけている。
『r……RUOOOOOOOOOOOOOOOO』
北海道全域に届きそうなほど強く、深く、重い叫びが。開けっ放しになった口から湧き出した。凍結した体表に亀裂が生じ、ドゴンという鈍い衝撃と共に砕け散る。
まるで『脱皮』だ。表皮が爆裂して剥がれ、内に潜んでいたものが膨らむ風船めいて膨張してゆく。
(これは……)
「ゴジラ……か?」
現れたシルエットにこれまでと極端な差はない。薔薇の枝葉、蔓や蔦で出来た身体というところは変わらない。
だが、密度が違う。まだ深緑色を保っていた体色は複雑に入り組むことで黒となり、体長は先程までの目算二倍。今までが親と子程度の身長差だったとしたら、いまはヒトがビルを見上げるようとでも言うべきか。札幌一円を見渡せるその姿は、とても生長という言葉では言い尽くせるものではない。
これがゴジラか。これが『進化』か。死神博士は傲慢だ。これ程の脅威を何故、ヒトの力で制御できると思ったのか。否、それも含め、既存のルールを破ってしまいたかったのか。今となっては知る由もないのだが。
「まずいぞ……」
あくまで、ここに居るのはゴジラとバラの混ぜものだ。ゴジラのような手足や背びれは、生長の過程でそれらしく作った模倣に過ぎない。
だが今は違う。縦三列の雄々しき背びれは火花を散らしながら青白く発光し始め、その総てが口内に凝縮されている。あの溶解液か? 否、否否、否。これはもう溶解液などではない。
(避けろ!)
超・超高圧縮されたエネルギーが光波の形に凝縮し、禍威獣の口から解き放たれる。あまりの勢いに禍威獣自身も若干仰け反り、周囲半径一キロの地表が陥没した。
(まさか……この反応は、まさか!)
見てくれこそ過去ゴジラが放った放射線流と似ているが、発せられるエネルギーに放射性物質の反応はない。イオン濃度が高く、大気がプラズマ化するほどの熱量。これではまるで、
「ウルトラマンの、スペシウム133光波熱線……!」
かつてゴジラと『肩を並べ闘った』あの時。スペシウム133とゴジラの核エネルギーがひとつに交わり、爆裂的な破壊力を以て大いなる敵を打ち払う事ができた。
あの力がもし、外ではなく内に集約されていたら? 植物は他の動物に比べ、激甚な環境への耐性が強い。この二つが交わって生じたエネルギーを、奴が土壇場で自らのものとしていたならば。
街中の建物が倒壊し、瓦礫の下から炎が噴き出した。姿のみえない災害が、禍威獣というカタチを伴って顕現している。最早あれはオーグメントではない。合成元と他のエネルギーを吸収し産まれた新たなゴジラそのものだ。
(これ以上、好きにさせる訳には)
ウルトラマンは空へ。仮面ライダーは右側部から駆け。獣の姿をした厄災に立ち向かう。
「ゆかない!」
固く握り締められたライダーの拳がゴジラの脇腹に突き刺さる。放つだけで空が斬れ、周囲の炎が消し飛ぶ風圧の拳を受けてなお、嗚呼ゴジラの身体は揺らがない。
「手応えが……ない」
この生物はゴジラであり『植物』だ。幾重にも編み込まれた蔓の表皮は拳圧を全身に逃して分散。負けじと打った左右の二打も同じ。硬く堅い植物の外皮は貫けない。
(これならどうだ!)
仮面ライダーの背に影が落ちる。空に翔んだのはこのためか。ウルトラマンが極大の光輪を携え、ゴジラ目掛けて振り下ろす。
(ぬぅ……う……ぐっ!)
直径十キロはあらんかという光輪はゴジラの鼻先に接触。即座に尖端の丸鋸が逆回転。チェーンソーめいて徐々に深く挿し込まれてゆく。
『ROARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!』
だが、同じスペシウム133の攻撃を伴ってなお、堅牢なるゴジラの外皮は貫けない。心の臓を震わせて放つ咆哮が北海道じゅうに響き渡り、自らに刺さる光輪に甚大なる刺激を加わう。スペシウム133を加工した光輪が、振動と共に粉微塵に砕け散った。
(まずい)
着地し、僅かに隙を晒したウルトラマンに、横薙ぎに振られた尻尾が襲い掛かる。中継点にいた仮面ライダーが先んじて掴み、押し留めんとするが止まらない。次いでウルトラマンが掴み踏み込むも結果は同じ。まるで大人と子どもの綱引きだ。殆ど抵抗できないまま、ふたりの巨人は札幌から室蘭まで弾き飛ばされてしまう。
(無事か、仮面ライダー)
「ああ、なんとか……」
最後の弾頭、十発目が札幌に到達する様が二人の目に映る。ここまで離れてしまっては何もできない。ゴジラに向け放たれた弾頭は肩口に接触し破裂。凝固剤が木と皮で出来た身体に染み込むが、ゴジラは何のアクションも起こさない。
唯一の勝ち筋が消えた。自分たちの力では最早どうしようもない。スペシウム133光波熱線を撃ち込むか? 全力でかかれば勝機はある『かも』知れない。しかし、その代償としてこの広い北海道の大地は人の子ひとり棲めない更地になるだろう。そもそも倒せるかどうかも希望的観測にすぎない。もしも通じず、更に奴の進化を促すことになってしまったら――。
(駄目だ……。このままでは勝てない)
勝つ、が何を示すかにも依るが。兎角この状況ではゴジラを打ち払う事は出来そうもない。ウルトラマンはなおも余裕綽々の禍威獣を前に諦め頭を垂れかける。
「いや、勝ち筋ならある」
それを止めさせ、前を向けと背中を押したのは仮面ライダーだ。彼はただ、前だけを向いて意気消沈のウルトラマンにこう続ける。
「君の、君たちの頑張りを無駄にはさせない。ゴジラは、僕たちの手で地球から追い出す」
(追い出す……だって?)言うは易し、行うは難し。あらゆる攻撃が通じない相手に対し、どうやって戦えと?
「思いついたことがある。これで最後だ。力を貸してくれ、ウルトラマン」