シン・仮面ライダーvsシン・ウルトラマン   作:イマジンカイザー(かり)

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Q:グレンラガンですか?

A:それもありますが、ニュアンスはこの元ネタのSF小説の方に近いです。


ひとまとめにしたかったのでいつもよりちょっとながいです。


34.天の光は全て星

 

 

※ ※ ※

 

 

・PM7:45

 

「久方振りだな一文字隼人。死神博士はどうなった」

「泡になっておねんねだ。今頃、入り込んだ支笏湖の水でびしょびしょになってるだろうよ」

 湖畔に打ち上げられ、大の字で肩を揺すらせていた一文字隼人が発見されたのは、『それ』から三十分ほどあとのことだ。タチバナは人を寄越して彼を担架に乗せ、抉られて大穴の空いた恵庭岳を見やる。

「成る程。つまり、総て丸く収まったということか」

「ああ、厄介事は終いだ」

 向こうから『それ』に触れる様子はない。待って口を開く風でもない。一文字はよろよろと上体を起こし、自分に背を向けたタチバナに問い掛ける。

 

「で。あれは何だったんだよ」

「見ての通りだ。未曾有の脅威をウルトラマンと仮面ライダーが地球外に"押し出した"。それだけのことだ」

 札幌『だった』街にゴジラの姿はない。仮面ライダー……本郷猛たちの姿も同じ。彼らはもう、ここにはいない。

 ならば何処へ? 二人は無言で空を見上げる。彼らの姿はもう、ここにはない。

 

 

・PM7:15

 

 

(正気か仮面ライダー。僕はよくても、君は)

 仮面ライダーの薄桃色の複眼は、今なお暴れ回るゴジラの方だけを向いていた。

「他に、この状況を打開できる案はない」

 ふたりは言葉を介さずプラーナで気持ちが繋がっている。故に『それ』を発案した時、ウルトラマンには全てが読めていた。

 だからこそ聞き返したのだ。この作戦を請けたが最後、恐らく彼はこの星に戻れなくなる。

「ウルトラマン。君だって分かっているはずだ。終わらせよう、僕たちふたりで」

 彼――、本郷猛の目に揺らぎはない。覚悟の上か。その身を犠牲にすることも、後で憎まれ恨まれることも。ならば、これ以上あれこれ言うまい。ウルトラマンは静かに首を縦に振り、ゴジラの方へと向き直る。

(行こう)「あぁ」

 二人の超人は同時に跳躍。一方はそこに加速の勢いを加え、もう一方は蹴伸びのまま空を舞う。

 仮面ライダーの飛び蹴りが、札幌の街を蹂躙するゴジラの腹に当たった。樹木に雷が当たったような鈍い音が街中に響き、半径五キロにクレーターが生じる。それまでどこ吹く風と流していたゴジラもこれはたまらずたたらを踏んだ。

 次いで、ウルトラマンが不可視の壁を造り、よろめくゴジラの足元に強引に差し込む。忍者が畳を返すように、テコの原理で斜めに傾ける。ゴジラは脚で自重を支えられなくなり始めた。

(いま)「だ!」

 重心が後方に寄ったその瞬間。二人の戦士は着地と共に全力ダッシュ。瓦礫を土煙のように散らしながらゴジラの懐に潜り込む。

「行くぞウルトラマン。声を合わせて」

(ああ。一、二の……)

 ウルトラマンの不可視の壁が消失し、ゴジラの全体重が伸し掛かる。

「「さんッ!!!!」」

 互いに全力のチカラを込めて。ゴジラをそれぞれ肩に載せ、持ち上げ、押し上げる。彼らの六十倍近い質量、実に三十万トン近い巨体が浮いた。

『RUO……ROARRRR!?』

 想定外の状況に、ゴジラでさえ困惑し何も出来ないでいる。ゴジラの『進化』はあくまで自分にあだなす、相応のダメージを与えて来る相手にしか発揮されない。持ち上げられたところで何になる。ただ、自分たちがその重さに苦しむだけではないか。

「うぐ……うぉ……」

(踏ん張れ、仮面ライダー。ここからが本番だぞ)

 現状、彼らは三百メートルはあらんかというゴジラを持ち上げ、ぴんと脚を伸ばしているにすぎない。問題はここからだ。ここを超えられなければ彼らに、人類に勝ち目はない。

「僕の魂はどうなったっていい。この土地に眠るプラーナよ。今この場だけはどうか、この足にこの腕に、力を……!」

 仮面ライダーは悲鳴を上げる関節部を気合で堪え、全身の穴という孔から周囲のプラーナを吸収しにかかる。恵庭の、余市の、そのずっと遠くの緑まで。青々と茂る木々が急速に枯れ葉色となり、葉を雨のように散らせてゆく。

「う、ぉ、お、ぉ、ぉおおおおおおおおおおおおおおッ」

 最早言葉はいらない。二人の戦士は息を合わせ屈伸運動に入り、上体を深く、深く沈ませる。

 ただそれだけのことで、札幌市外の半径七キロに蜘蛛の巣めいた亀裂が走った。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」

 重量挙げの五輪選手のように。脂汗を垂らして背筋を張り。三十万トンを抱えて空へ翔ぶ。ウルトラマンは重力操作で、仮面ライダーは溜め込んだプラーナを背中の翅から放出し。百メートル、二百、三百。千メートル、二千、三千、四千、まだ止まらない。

 上昇とソニックブームで周囲の雲がはるか彼方に吹っ飛び、東日本全域に宵闇の美しい夜空が浮かぶ。

 夕闇迫る空を超え、だんだんと空気が薄くなり。少し伸ばせば手が届きそうな程星が近く。彼らはゴジラという大荷物を抱え、地球の重力圏から離脱した。

 

 

……

…………

 

 

 昔、父さんに聞いたことがある。「お父さん、どうして人間はどれだけ跳んでも宇宙に飛んでゆかないの」と。

 父さんは「この星には引力というものがある。回り続ける地球では、どれだけ高く跳んだって、引力に引っ張られて外に出てゆくことはない」んだと。

 僕はまだ子どもだった。父さんの言葉に「けれど、ロケットは地球を出て宇宙に行ってるじゃん」と難癖をつけた。

 父は笑ってこう言った。「引力は無限じゃない。引力よりも早いスピードで進み続ければ、重力から外れ、どこまでも飛んでゆく事ができるんだ」と。

 

「本当だ」

 父さん。僕は今日、産まれた星を捨て、外宇宙に旅立つよ。願わくば、どこか遠い遠い場所で見守っていてほしい。この無理くりな作戦が上手くゆくことを。

 

……

…………

 

 

「うそ……でしょ……」

「ウルトラマンと仮面ライダーが、宇宙(そら)へ」

 考えてみれば簡単なことだった。

 最早今の人類のチカラでは、新たなゴジラに進化したあの禍威獣を斃せない。

 地球で駄目なら何処へゆく? 宇宙がある。あの二人にはそんな無茶が可能な身体機能が備わっている。

 ゴジラという脅威に対し、禍特対は核を使い滅却するという手段を選択肢に入れていなかった。そんなことをすればどうなるか、いちいち考えなくとも分かる。

 だが宇宙にはある。核以上に強大なエネルギーのかたまり。遠く離れたこの星に恵みを与える陽の光。

 この恒星系の中心地、光り輝く太陽に。ゴジラを投げ入れて消滅させようというのか。

 

 

※ ※ ※

 

 

・PM11:50

 

 

(大丈夫か、仮面ライダー)

「問題ない。この防護服のお陰だ」

 地球の重力圏を離れ約五千万キロ。ウルトラマンと仮面ライダーは三百メートル近いデカブツを持ち上げ、太陽ヘ向かって突き進む。蹴り上げる地面もないというのに、彼らはますます速度を増し、

「凄まじい量のプラーナだ。宇宙にはこれ程のエネルギーが眠っていたのか」

 スペシウム133の続く限り何処までも行けるウルトラマンと違い、仮面ライダーは推力を失えばそれで終いになるはずだった。しかし、彼のコンバーターラングは今もなおエネルギーを吸収し、ベルトの風車が余剰のプラーナを吐き出し続けている。このことがSHOCKERに知れたら、彼らは大真面目に宇宙進出を視野に入れることだろう。

(だが、それも長くは)

「解っている。それを承知でここに来た」

 取り込めるエネルギーは無限でも、受け止める側はそうもゆかない。仮面ライダーの身体は溢れ出るプラーナを御しきれず、少しずつ崩れ始めている。

「始めたなら突き進むまでだ。僕のことはいい。最後まで、往こう」

 本郷猛はその総てを覚悟してここに来た。彼の目には一片の迷いも曇りもない。今ここで、いのちを捨てる心づもりか。

(解った。もう問わない。ならば往こう、一緒に)

 宇宙には地球と違い大気がなく、はるか彼方まで鮮明に視える。彼らの精細な眼には、あと五千万キロに迫った太陽の姿がありありと映っていた。

『GUO……rrr……ROARRRR……』

 ベーターシステムに守られた二人でさえ苦心する環境だ。元が生物の常識を覆すとはいえ、生身の生き物たるゴジラはうめき声もろくに発せられず苦しんでいる。その巨体は極低温にさらされ凍結、同時に想像を絶する加速の中で破砕を繰り返し指一本、尻尾の先まで動かせずにいた。

 そんなゴジラでさえ、近づく恐るべき質量を肌で感じ、自らを葬る事ができる物体の存在を知覚していた。あれに呑み込まれれば無事では済むまい。本能が『そう』だと訴えかけてくる。

『rrr……ROARRRRRRRRRRR!!!!』

 死地に立たされた生き物が取るべき手段はひとつ。ゴジラもまた自らの限界まで体内の動力を躍動させ、凍結状態を無理矢理に脱する。

『ROARRRRRRRRRRRRRRRRRR』

 表皮の隙間という隙間から余剰熱を放出し、押しているだけのウルトラマンたちから距離を取る。何故そんなことを? 回避以外の意味などない。既に地球から一億キロも離れた場所にいる。ゴジラの膨大なエネルギー量をもってしても、地球に帰り着くまでどれだけかかるか。

 

「ウルトラマン、ここまでだ。やってくれ」

(いいのか)

「一文字に伝えてくれ。何も言わず去ってしまって済まないと」

 地球を離れ一億キロ。プラーナによる交信も届かない。目標は真っ直ぐ目に見えている。地球に帰るつもりなどない。元より身体が保ちそうもない。決着を付ける時があるとすればそれは、今この瞬間を於いて他にない。

 

(わかった)

 ウルトラマンは左手を縦に、右手を水平にぴんと伸ばし、体内のスペシウム133をそれぞれの手の平に集束。身体中を巡る赤のラインが真紅に染まる。

 仮面ライダーは集めたプラーナを背中に集中。虹色の翅は数千数万メートルにも達し、ずたぼろの体に最後の推進力をもたらす。

 

「これで!」(終わりだ!!)

 仮面ライダー渾身の飛び蹴りがゴジラの腹に突き刺さった。頑丈な表皮を五層ほど貫き、全身に伝播するひび割れなど意に介さず、太陽目掛け突き進んでゆく。

 そこから一拍遅れ、ウルトラマンのクロスした両腕から青白い光波熱線が解き放たれた。地球で使用していたものとは比べ物にならないエネルギー量。三百メートル近いゴジラの巨体を猛スピードで押し込んでゆく。

 

「とぉどォけぇええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!!」

 ふたりの激烈なる合体攻撃(ツープラトン)が残り五千万キロを猛烈に省略。ゴジラの巨体は遂に太陽の表面に叩き付けられた。

『RUO……oooooooooooooo!!!!!!!!!!!』

 植物の蔦や蔓で形作られた表皮が燃える。ふたりがどれだけ苦心しても削れなかった身体が、まるで飴細工のように溶けてゆく。

 そしてそれはごくごく近くに居る仮面ライダーも同じだ。ベーターシステムで結合された身体が太陽の熱量に負け、徐々にその輪郭を無くしつつあった。

(仮面ライダー、君は……!)

 ゴジラの心臓部、核・スペシウム133融合炉が露わとなり、それさえも太陽に飲み込まれた。炸裂した爆発がウルトラマンを遥か後方に吹き飛ばす。

 それは遠巻きに見れば、宇宙という暗黒の夜に咲いた一輪の花火のようだった。爆裂が周囲の飛礫めいた小惑星を四方に散らす。

 だがそれもほんの一瞬、ほんのひと時の出来事に過ぎなかった。太陽は爆発を受け容れた後、何事もなかったかのように焔を燃やし、宇宙という闇に静寂と調和が戻る。

 たったひとりの人間が起こした騒乱は、こうして人知れず決したのであった。

 

 

・AM0:00

 

 

(エピローグ、につづく)

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