色濃い陰を望むのならば、眩い光が必要なのだ。
今になって考えてみると、俺には人生を変える出会いが2度あった。
一度目は6歳の頃。ものごころついたときには村の中でも一番のやんちゃ坊主だった俺は、同年代のガキンチョどもに混じって魔剣士ごっこで木の枝を振り回してチャンバラをしていた。周囲と比べれば運動が出来た俺はそれはもう調子に乗っていて、バカなことに大人たちに行くなと言われた森に何人かのガキンチョと一緒に入っていった。
当然行くなと言われているには理由があって、森に入ってしばらくすると魔物の群れに囲まれてしまう。
半べそをかいて震えるガキンチョたち、木の枝を構えてみたものの膝が震えている俺、どう考えても食われる5秒前だった。
あの人が来るまでは。
「たくっ、なんだってこんなとこにガキがいるんだ」
風が吹いたと思ったら、いつの間にかコートを着て笠を被った人が目の前に立っていた。手には剣を握っている。
その人が腕をブンと振ると、魔物たちは血しぶきをあげて倒れた。あっという間の出来事だった。
極度の緊張と恐怖からの解放でギャン泣きして駆け寄るガキンチョたちを、その人はめんどくさそうな顔であやしてくれている。だけど俺は動けなかった。
その人が振るった剣はあまりに凄烈で、どうしようもなく美しかった。
村まで送り届けてもらうと、俺達は大人にそれはもう怒られた。だけどそんなことはどうでもいい。
「俺を弟子にしてください!」
「はあ?」
村長から謝礼をもらって今にも立ち去ろうとするあの人を呼び止める。最初は笠を深くかぶっていたからわからなかったが、ヘンなものを見る目を向けるその人が女性であることに今気づいた。
「なんで私が……」
「なんでもやりますし泣きません! お願いします!」
今になって思い返せば傍迷惑なことに、大人たちに止められようが何度も何度も頭を下げてお願いした。
最初は断っていた彼女だが、俺のしつこさが功を奏したのか暇つぶしで稽古をつけてくれるようになった。
そこからは修行の毎日だ。
最初の3年はまともに剣を握らせてもらえずひたすら体力づくりをしていた。身体の成長を阻害しないよう筋トレは控えめに、不安定な山道を走り回り、川の流れに逆らってひたすら泳いだ。師匠の流派では特にバランス感覚を養うことが重要らしい。
次の3年で剣と魔力の扱いを叩き込まれた。教えてもらった型にのっとって素振りをし、自分の身体に魔力を循環させ続ける。師匠曰く自分の身体を十全に使えるようにすることが強くなる近道らしい。幸いなことにセンスはあったらしく、基礎訓練と並行して師匠と組手の稽古をとってもらえた。そして俺は気づく、師匠は想像以上にめちゃくちゃ強い。
「いやー!」
「ほい」
「ぐはぁぁぁ!」
力もつき魔力を使う事を覚えたのに、師匠に突撃するとあっという間に地面にひっくり返されている。なんだあの人、木剣が打ち合ったと思ったらそこを基点に人をひっくり返すんだけど。
師匠にどうやっているのか聞いてみると「ウチの流派は力を利用するのがキモなのさ」と返された。師匠レベルになると指一本体に触れれば相手を転がせるらしい。ヤバい。
俺が12歳を迎えると、師匠は自身の旅に同行することの許可をしてくれた。今までは村に2,3ヵ月滞在するとちょくちょくいろんな場所に遠出しては戻ってくるというスタイルだったが、これからは一つの場所に長く滞在することがなくなるらしい。だから稽古をつけてほしいのなら村を出ていかなくてはならないという。
この発言にはさすがに戸惑った。もちろん旅にはついていきたいが、いくら孤児院暮らしとはいえいきなり出ていくわけにもいくまい。そう思っていたが、孤児院のみんなは景気よく送り出してくれた。院長ががんばれよって頭を撫でてくれたときは泣きそうになった。
師匠からの提案を受けた次の日、俺と師匠は村を出た。
旅に出た数日後くらいだろうか、俺は重大な事実に気づく。
なんとうちの師匠、追われる身だったのだ。
師匠曰くヤバめの組織に目をつけられたらしく、15歳の頃には家を捨て逃亡の旅に出たのだという。以来いろんな国々を転々としていたが、久しぶりにミドガルに戻ってきたときに俺と出会ったのだそうだ。ちょくちょく村を空けていたのは拠点を補足されないためだったのか。
そしてうちの師匠は自分の追っ手を相手に、俺の実戦経験を積ませることを思いついたのだという。
相手は集団で襲い掛かってきた。むろん殺すつもりでだ。否が応でも相手を殺す技を覚えた。
一度師匠に人を殺したくないと言ったことがある。自分でも甘えたことを言っている自覚はあった。すると師匠は意外なことに寂しそうに笑って俺の頭を撫でてくれた。
「お前は正しいよ、私だって好き好んで人を斬ってるわけじゃないさ。だけどな、命を狙われたときに一番手っ取り早い解決が相手を殺すことなんだ。お前が死ぬくらいなら、誰かを殺してでも生きてほしいと思うよ」
それも嫌ならここでお別れだ、そう続ける師匠に思わず抱き着いた。
たしかに俺はこの人の剣に魅了された。この人の強さに憧れた。
だけどそれだけじゃない。
魔物に襲われた俺たちを庇う背中がかっこよかったんだ。
泣いてる子供を不器用な手つきであやす姿が綺麗だったんだ。
この人みたいに、誰かを守れる強さと優しさが欲しいと思ったんだ。
「師匠……。俺、あなたみたいに強くなりたいです」
涙混じりの情けない言葉。
それを聞いた師匠は、お前もたいがいバカだなぁ、と言って抱きしめてくれた。
こうして俺は3年間師匠の旅に同行した。
いろんな国を巡ったし、それなりの場数を踏めたと思う。
そして15歳になった俺に、師匠は突然ミドガルの魔剣士学園に通えと言い出した。
貴族でもない俺に通えるとは思えなかったが、そこは師匠の伝手でどうにかしてもらえるらしい。
私にはそんな経験はなかったから同年代の奴らと青春してこい、と師匠に尻を蹴っ飛ばされ、なんやかんやで入学したミドガル魔剣士学園。
そこで俺は人生2度目の転機────いや、違うな。そんな言葉じゃ言いあらわせない。
苛烈だった。鮮烈だった。ともすれば、師匠との出会いより衝撃的だった。
『我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者』
あの日俺は、俺の運命と出会ったんだ。
「アルファ様、こちらが例のものです」
「そう、ご苦労様。下がっていいわ」
ミドガル王都のミツゴシ商会、その屋上の邸宅の一室にて、アルファと呼ばれた美貌のエルフの女性は自身の部下から厚みのある書類を受け取る。
部下が部屋から立ち去り、自身の他に誰もいないことを確認すると、常人のもではないスピードで速読する。
そして一通り内容に目を通すと、小さく溜め息をついた。
「結局なにも出てこない……。ほんとにシロね」
もしかしたらと思い自分達が敬愛する主にすら黙って調べさせたが、どれだけはたいても埃はひとつとして出てこなかった。部下には悪いが、機密性の保持のために書類を暖炉の火にくべる。
灰となっていく紙の束を見つめながら、アルファは報告書────1人の男の素性調査について考えていた。
オーリシュ・ライト
現在シャドウガーデンの幹部以上のメンバーにおいて、良くも悪くも注目されている男の名だ。
出生地はミドガル王国南西部の集落。行商人だった両親はオーリシュが生まれた年に事故で亡くなり、以降は村の孤児院で育つ。
12歳で彼は師匠と慕う女性と村を出たようだが、その女性というのが裏社会ではそれなりに名の通った相手のようだ。
気になる点があるとしたら、その女性はどうやらディアボロス教団に追われているというのだ。実力の高さからおそらく英雄の子孫であると思われるが、悪魔憑きであるかまではわからない。
そう、ここまではさして問題がない。せいぜいディアボロス教団と敵対したことがあるだけの、年頃の割には強いだけの少年だ。彼女たちシャドウガーデンの敵にはなりえない、筈だった。
最初のきっかけは3ヵ月前────ミドガル魔剣士学園で起きたテロ事件からだ。
事件そのものには彼は関与していない。
しかし主犯だった男を斬り捨てた後のシャドウがオーリシュが接触し、戦闘に至ったというのだ。
シャドウの実力はシャドウガーデンの者なら誰しもわかっている。ただの少年にシャドウが害せると誰も思っていなかったし、事実その戦闘はシャドウの完勝だった。
ただ、その後が問題だった。
「オーリシュ、あいつは強くなるな」
あのシャドウが、神算鬼謀にして天衣無縫の彼が、シャドウガーデンにとっては一介の学生にすぎない少年を褒めたのだ。その場にいた七陰のメンバーに走った衝撃はどれほどのものだっただろう。アルファは驚きに口を抑え、ベータは激しい嫉妬を噛み殺し、ガンマは目に見えて動揺した。デルタはソファーで爆睡していた。
それ以降もオーリシュは、シャドウやシャドウガーデンの暗躍に惹かれるように現われた。
女神の試練にこそ参加していなかったが、シャドウとアウロラの戦いを目撃していたと監視を命じた部下から報告を受けている。ネルソンによって観客の退避が行われたときには避難の誘導もしていたと。
アレクシア、ローズは教団の真実について知ってしまったが、オーリシュがそこまで把握しているかはわからない。ただ、アレクシアと友好関係にあることから彼女から聞かされていてもおかしくないと思われる。
そして武神祭、二度目の衝撃が七陰を襲う。
武神ベアトリクスとミドガル王女アイリス、2人を圧倒的な実力差を見せつけて一蹴したシャドウは悠然と立ち去る筈だった。直後、突然現れたオーリシュが背後から奇襲を仕掛けたのだ。
難なく対応したシャドウはオーリシュに力量差を見誤るなと忠告したが、オーリシュはそれを聞き入れない。その表情は普段と違い憔悴したものだったという。
やぶれかぶれの攻撃を打ち払い、斬り捨てようとするシャドウ。だがそれはかなわなかった。
オーリシュの身体から莫大な魔力が吹き上がり、暴走を始めたのだ。
至近距離で受けたシャドウは全身に裂傷を負ったという。
後から報告を聞いたとき、何かの勘違いだとアルファは思った。
今までどれほどの困難があっても乗り越えてきた彼が、怪我を負うことがあるなんて思いもしなかった。
シャドウは瞬時に怪我を治療し、暴走するオーリシュも無力化したとはいうが、シャドウの負傷の報告は七陰すべてに伝達され動揺を誘った。
シャドウ本人は「彼はちょっと闇落ちしてただけ、方針は示したからなんとかなる」と軽い調子で述べてはいたが、七陰たちには到底楽観視できるものではなかった。
敬愛する主の命を害しうる存在など、彼女たちが許せるはずがないのだ。
この日を境に、オーリシュはシャドウガーデン内で危険視されるようになる。
武神祭も終わり数日後、事件は起きた。
ゼータが独断でオーリシュを襲撃したのだ。
本来なら世界各地で諜報任務を行っている筈だった彼女。だがシャドウ負傷の報を受けるとすぐさま王都に帰還し、シャドウの心配と下手人の素性を調べ始めた。(その間にデルタとゼータの小競り合いが続きアルファを悩ませたという)
七陰の中でもシャドウへの神聖視が強いゼータにとってオーリシュは神の冒涜者に等しい。もとから独断専行をしがちな彼女は、アルファたちの目を掻い潜り動いた。
七陰の中でも戦闘では上位に位置するゼータ、彼女が本気で仕留めにかかればオーリシュの命はないと思われた。
しかし、オーリシュはこれを防いだのである。
夜間の王都での突然の襲撃、獣人と人間の種族差、装備の格差。そのすべてにゼータに利があったにもかかわらず、15分間の猛攻を全身傷だらけにして彼は耐えきった。それどころかゼータの首筋にわずかではあるが切り傷をつけてみせたのだ。
それは異様なまでの成長だ。
2ヶ月前はせいぜい下位メンバー程度の実力でしかなかった少年が、今では七陰でもたやすく仕留めきれないまでになった。その事実がゼータには恐ろしくて仕方がない。いつかその刃がシャドウに到達してしまうのではないか、そう考えるとなにがあってもここで殺すしかないと思った。
息を荒くするゼータ、大量の出血で立っていることすらおぼつかないオーリシュ。
二人の決着は意外な形で訪れた。
「引け、ゼータ」
オーリシュをゼータの攻撃から庇うように、シャドウは立っていた。
主の登場に驚愕するゼータと、シャドウの背にもたれかかるように崩れたオーリシュ。シャドウはオーリシュの治療を済ませると、反論するゼータを一言で黙らせアルファたちのもとへ帰還した。
自身の暴走への罰を求めたゼータだったが、シャドウは彼女を責めたりはしなかった。
しかし屋敷にいた七陰を全員集めると、シャドウの口から正式にオーリシュへの攻撃を禁じる旨が言い渡された。
主からの前例のない命令。それはシャドウ個人がオーリシュを特別視していることに他ならない。
期待されているのが自分たちではないことへの不甲斐なさとオーリシュへの嫉妬を抱え、七陰全員が膝を着き頭を垂れる。
オーリシュは七陰にとって危険な存在であり、同時に庇護対象となってしまったのだ。
こうしてオーリシュ・ライトの素性や交友関係について調べさせたが、異常な成長などに繋がる情報は何一つとして出てこなかった。こうなってはアルファたちに出来る事はなにもない。
既に七陰を筆頭にシャドウガーデンは通常の任務に戻った。問題を起こしたゼータも諜報任務に戻った。シャドウガーデンはあくまでディアボロス教団を倒すための組織、一人の男だけに時間も人員も費やす余裕はないのだ。
アルファは部屋の窓を開け夜空を見上げる。
空に浮かぶのは赤き月。今頃シャドウとベータたちが原因の解決にあたっているだろう。
アルファが抱いていた漠然とした不安は、オーリシュの登場から具体的なものになりつつあった。いつだって先を進む彼に追いつけない自分に怒りを覚えていた。だが、そんな彼でさえ傷を負うことがあるのだ。
今宵相手にするのは伝説の吸血鬼『血の女王』、彼やベータにもしものことがあればと考えると、血の気が引き震えそうになる。
どうか彼らが無事に帰ってきますように。アルファは独り無事を祈った。
金貨をスーツの中に積めていると、上の方から大きな音がした。どうやら吸血鬼イベントは今から始まるらしい。3000枚くらいの金貨を詰め込み重くなった身体を動かす。ほんとは他の人が来る前に戦闘シーンを挟んでおきたかったが、出遅れてしまってはしかたがない。というか、イベントが始まるのが遅い方が悪いと思う。
宝物庫を出て塔の頂上を目指す。その途中で僕の注目の対象が塔を目指して走っている姿が見えた。
「あ、主人公だ」
さすがというか、こういう大きなイベントに間に合うように駆けつける姿は、陰の実力者を目指す僕としても見習わなければならないと思った。
陰の実力者には主人公が必要だ。というか、主人公がいるから陰の実力者が存在できるのだ。
ということで、陰の実力者ごっこをするために主人公を探してきたが、やはり王都の学園は素晴らしい。うってつけの人物がそこにはいた。
オーリシュ・ライト、彼がこの世界の主人公だと確信をもって言える。
周りとは違う灰色の髪、鍛えているであろう長身の肉体、精悍な面立ち、社交的で人好きする性格。しかも腰に刀を差している。一目見てわかったね、彼が主人公だって。
実力は少々心許ないが、きっと物語の中で強くなっていくのだろう。むしろその方が陰の実力者ムーヴがはかどるというものだ。
実際、彼は僕の期待におおむね応えてくれている。
性格が悪いあの王女様が誘拐されたとき、オーリシュは僕のいない場所でそこそこ活躍してたらしい。僕を嵌めようとした騎士の仲間を倒したのだそうだ。出来れば直接アレクシアを助けに来てくれていた方がよかったけど、あの時はあの時で楽しめたから良しとする。そういえばあの2人、事件後によく話をするようになっていたな。でも僕を見かける度に間に挟まないでほしい。
学園にテロリストがやってきたときは初めて主人公と戦った。この時の彼はまだまだ弱い。せいぜいクレア姉さんに毛が生えたくらいだ。だがそこは主人公、技量と魔力量は他より優れていた。魔力操作がイマイチだったけど潜在能力はかなり高かった。剣術もブシン流とは違う独自のものだ。これはあれか? 「独自の流派を継承している主人公」というやつなんだろうか。
実際彼の武術はなかなか理にかなっているものだ。構えや歩法、剣の振り方ひとつでいろいろ見えてくるけど、前世の洗練された武術のそれと遜色ないものは初めて見た。
なかなか期待できる人材だったので、「最初から主人公の将来性を見抜く実力者」をアルファたちの前でやったらみんな驚いていたな。相変わらず演技が上手いから、調子にのって「あいつは強くなる」とか言っちゃった。
次に直接会ったのは武神祭のとき。彼が会場にいたことは知っていたが、ここで予定になかったことが起きる。
主人公の闇落ち・力の暴走イベントだ。
なんで? どうしてそうなったの?
ベアトリクスとアイリスに力の差を見せつけた直後、明らかに様子のおかしいオーリシュが襲い掛かったときは驚いた。
剣を打ち合いながら事情を聴くと、要約すればどれだけ努力してもシャドウに追いつけないことへの絶望と、ローズ先輩の父殺しを止められなかったことへの失意がきっかけのようだ。
オーリシュは僕が主人公だと思うだけあって性格もいい。そこらのモブであるシドにも友達認定していることからよくわかる。彼は基本真面目で優しいのだ。
泣いている人がいれば話を聞いてやり、困っている人がいれば手を貸す。アレクシアが見れば思いっきり嫌な顔をするくらいには善性である。だからこそため込みやすいし、爆発するとめんどくさい。今回の彼の闇落ちはそれが原因なのだろう。
しかたないが、フラストレーションのたまったオーリシュのガス抜きをしてやろうと適当に相手をしてたら、突然主人公の体内の魔力が暴走し始めた。
つたない魔力操作で感情のままに、身体の中の大きな魔力を振るっていたことが原因だろう。オーリシュはいわば魔力の爆弾となった。爆発したら僕のアイ・アム・アトミックの7割くらいの破壊力、といったところか。
そのとき僕は思いついた。
あれ? 今なら「主人公の暴走を止める陰の実力者」が出来るのでは?
主人公が力に飲まれて暴走したとき、主人公の仲間では手に負えない事態を颯爽と解決する陰の実力者。うん、いいね。というわけでやってみよう。
自分の異常に気付き離れろと叫ぶ主人公を無視して接触、爆発寸前の魔力を制御する。
無傷で何とかすることは簡単だが、ここで僕の演技が光る。魔力の制御をわざと甘くすると、オーリシュの魔力が僕の身体に傷をつけた。苦悶の表情を浮かべつつも驚くオーリシュに対し、「くっ……これ程とはな」と言ったりする。
主人公がたいしたことない奴だと、それをまじめに相手している陰の実力者もしょぼく見えてしまう。主人公には陰の実力者相手でも比較対象になれるだけの器が必要だと思っている。
ここであえて負傷することで、「主人公の隠された力はすごいぞ!」「じゃあその力を抑え込んだあいつは一体何者なんだ!?」に説得力をもたせることが出来るのだ!
結論から言うと、僕の目論見は大成功した。
魔力を使い果たし意識が朦朧な主人公に「強くなれ」と言って立ち去る。完璧だ……! やってみたかったんだよね、この一連の流れ。
しかし話を聞いたアルファたちは、どうやら主人公のことを危険視したみたいだ。その結果、いつの間にか帰ってきたゼータがオーリシュを襲撃した。待ってくれ、イベントが早すぎる。
たしかにオーリシュは強くなっているが、さすがにアルファたち幹部レベルはまだ無理だ。このままではほんとに死んでしまう。
だけど蓋を開けてみれば、オーリシュはボロボロになっても生き残っていた。
これは予想外の成長速度だ。武神祭のときの経験を活かしたのか、魔力操作が以前より断然上手くなっている。目標のために努力できる人は僕は好きだ。
なので戦闘に割って入り怪我を治す。傷が癒えたオーリシュは、僕やゼータに敵意を向けたりしなかった。僕が言えた義理ではないが、特に深い理由もないのに襲い掛かってきたゼータを許すとかお人よしにもほどがあると思う。
アルファたちのとこに戻るとゼータも頭が冷えたらしい。罰がどうとか言ってきたが、反省をしているようなので気にしない。こんな些細なことでいちいち文句をつける陰の実力者なんてかっこ悪いからね。
だけどいきなり主人公を襲うのはやめてもらおう。イベントのスケジュール管理が大変だし、今回はたまたま助かったけど、彼女たちが本気で襲い掛かるとオーリシュの命が危ない。多少の危険は主人公の強化イベントのつもりでいるが、中ボス戦が昼夜を問わずやって来るようなのはさすがの主人公も大変だろう。というわけで、シャドウガーデンのみんなにはオーリシュに無許可で手を出すことを禁じた。
振り返ってみればオーリシュ・ライトは、まっとうに主人公をやっている。アレクシアやローズ先輩にも可能性は感じているけど、今一番熱いのはオーリシュだ。
なんで無法都市に来ているのかはわからないけど、せっかくなので彼にも『血の女王』討伐に大きく関わってもらおう。
そんなこんなで僕は、オーリシュが飛び込んでくるちょっと前に『血の女王』に姿を現した。
「我が名はシャドウ。影に潜み、陰を狩るもの」
漆黒の陰がロングコートをなびかせて、『血の女王』の前に舞い降りた。
その場にいた者は歓喜、困惑、驚愕とおもいおもいの表情を浮かべている。
血のドレスを纏った『血の女王』は警戒したのか、空中に赤き触手を展開する。
「勘違いするな」
しかし、シャドウは自身の武器を抜かなかった。
主の選択の意図がわからず、戸惑いを隠せないベータ。他の者たちもシャドウが何をしたいのか見当がついてないようだ。
その時、足音がこちらに近づいてきていることに気づいた。
「貴様の相手をするのは我ではない」
シャドウが指を差す。その先にあるのは扉。
瞬間、扉が勢いよく開かれた。
「ここかぁ!」
「────あいつだ」
開かれた扉の先には灰色の髪をした少年が、息を荒くして立っていた。
周りの視線を一身に浴びて狼狽える少年────オーリシュ。
「あれは……オーリシュ君? なぜここに」
オーリシュの登場に思わず歯噛みをしていたベータの後ろで、思わずこぼれた666番の疑問の声は届かなかった。
「……え~と。『血の女王』の討伐はここであっているんです……よね? ってシャドウ!?」
師匠からの手紙で長期の休みを使い、無法都市の魔剣士教会の手伝いに来ていたオーリシュ。赤き月の影響で狂暴化したグールを制圧していくと、その原因たる『血の女王』に辿り着いたのだ。
「ちょうどいい、
「お、俺1人で!? さすがに厳しいんだけど」
ここまでくれば周囲の者も気づく。シャドウはあの少年に戦わせようというのだ。
「てめえシャドウ! 本気で言ってんのか!」
「やめなんしシャドウはん! その子には荷が重すぎるでありんす!」
ジャガーノートとユキメの制止の声。しかしシャドウは耳を傾けない。
その視線の先にいるのはオーリシュだけだ。
「強くなりたいと……」
「えっ」
「強くなりたいと言っていたが、あれは嘘か」
「……ッ!」
それは武神祭のときに漏らした言葉。
知人の悩みに気づかず、力には振り回され、無様をさらしたオーリシュからこぼれた渇望。
オーリシュの覚悟は決まった。
「もう嫌なんだ……。蚊帳の外にいるのも、守られるだけの弱い自分も、もう嫌なんだよ!」
刀を抜き刃先を『血の女王』に向ける。身体から穢れを許さぬ白銀の魔力が吹き上がる。
やはり操作の甘いその魔力の放出は、出力だけなら七陰にも劣らなかった。
傷付き倒れた者たちは驚愕し、シャドウは仮面の下で笑みを浮かべた。
「街の人たちが泣いていた! その中心にいるのがお前だというなら、俺が止める!」
オーリシュの咆哮は『血の女王』の意識を向けるのには十分だった。
『血の女王』の重圧に冷や汗を垂らすオーリシュ。
「……とは言ってもやっぱり俺1人じゃダメそうだからさ。なあシャドウ、協力してくれよ」
視線を前に向けたまま提案するオーリシュ。
あまりにも不躾な提案にベータは自身の傷も気にせず怒鳴りつけそうになったが、その直前に哄笑が響き渡る。
声の主はシャドウだった。
「……いいだろう、遅れるなよ」
「上等!」
オーリシュの隣で漆黒の刀が抜かれた。青紫色の魔力が暴風のごとく荒れ狂う。
赤、白銀、青紫。3つの色が一つの空間を染め上げた。
「あぁ……。私ではなく、彼を選ばれたのですね」
隣に並び立ち共闘を許されたのは、いつだって彼の後ろにいた自分ではなく彼だった。その事実がベータの心を揺さぶる。悔しさから握りしめた拳から血が流れていた。
「いくぜ!『血の女王』!」
「
赤の暴虐に、2つの閃光が迸った。
これはもしもの物語。
(強い敵を相手に主人公と共闘する陰の実力者……いいね! やりたいことリスト上位のシチュエーションだ!)
────自らを陰と名乗り、世界を振り回す少年。
(味方だとこんなに頼もしいのかよ……! いつか、いいや必ず追いついてみせるぞ、シャドウ!)
────そんな少年に憧れた、頂点に手を伸ばし飛躍せんとする少年。
悪意に囚われた世界を、2人の少年が壊す物語。
続かないから誰か書いて
・オリ主
少年マンガとラノベに共通する主人公要素をぶち込んだ光属性の主人公。血統とか前世とかない世界のバグ。
シャドウ様に脳を焼かれている。
・シャドウ様
各方面でいろんな人の脳を焼きまくっているヤベーお方。
原作ではとにかく陰の実力者っぽいことをしたがっていたが、オリ主の登場である程度方針が定まった。ようはタキシー〇仮面。
最近は主人公の質にこだわるようになった模様。
・七陰
オリ主への好感度はだいたいマイナス。オリ主ではまだまだ勝てないくらいには実力差がある。
下は無関心(犬耳)上に至っては存在することが許せない(猫耳)くらいには嫌われている。
大人げないって?でも考えてみ?何年もかけて恩人の為に強くなったのにぽっと出の男に恩人の関心を持っていかれる気持ち。
しかも英雄の子孫とか魔人の力を持ってるとかでもない純粋な努力と才能で出来た、いわばシャドウもどきだよ?
お気づきだろうか、この後に信用崩壊イベントが起きる事に。ただでさえオリ主のせいでシャドウに捨てないでほしいと思ってるのに。どうなっちゃうんだろうねぇ(邪悪な笑み)
シャドウ様はもっと優しくしてあげて。
・アレクシア
おうにょ様。実は原作よりメンタルと実力が地味にUP。
腹黒い彼女にとってTHE光属性のオリ主のことはマジで気持ち悪いと思っている。恋愛対象とかほんと無理。シドはポチ、オリ主はサンドバッグ。
オリ主とは実技のクラスが同じ。よくシドと3人でいるところが見られる。
シドに向ける感情はオリ主にバレており、2人の時はフられたことをよく煽られて斬りかかる。
3人つるむの割と楽しい。
・ローズ先輩
オーリシュ君?シド君の友達ですよね!
・師匠
ある意味陰の実力者。もうすぐ27歳。
実家が何代も続くミドガルの魔剣士一家で一子相伝の流派の正統後継者。
15歳のときにフェンリル君に目をつけられ逃亡、実家とは縁を切った。以来各地を旅しながら鍛えている。アルファ≧師匠くらいの実力。
オリ主とは17歳の頃に出会い、素質に気づき面白半分で弟子にとる。いつの間にか情が湧いていた。
いろんなとこに自分のツテがあり、それを使ってオリ主を学園に叩き込んだ。
ねえねえ気づいてる?自分好みの剣士にしようと育ててたらいつの間にか自分好みの男に育っていたことに。逆光源氏しちゃったよこの人。
実家の剣術は八卦掌のパチモンと思って。円の動きで翻弄するタイプ。
・シド
オリ主からやけに重めの感情を持たれてる奴。
友達→誰かを命を捨てても守ろうとできるカッコいい奴→親友!
そろそろただのモブに戻してほしい。
感想お待ちしております。