ウマ娘短編集   作:こしょ

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主人公と、そして一緒にトレーニングしてる女の子がいるが主人公は実は足に不安があって……だけれど走りたい、走るのが得意だから。
現在ウマ娘の描かれてる時代のちょっと前という想定です。
オリジナルキャラが出ます。というかオリキャラしか出ません。
トキノミノルをモチーフにした子が出ますが、これはウマ娘に出てくる誰かと特別同一人物というわけではありません。が若干考えなくもなかったです。
ちょっと暗い話かもしれません。
初投稿で変なとこあったらごめんなさい


競技場から外へ

 私は普通の人間ではなくウマ娘として生まれて、そのウマ娘が集まった中でもさらにずっと足が速かったが、それというのは私が人よりもはるかに努力したからというわけではない。もちろん人並みにはしたが、努力が原因で人並み以上になったのではない。才能という言葉で言い表すしかないのだろう。

「お姉さま、今日は私も一緒に走ってもいいですか」

 などと話しかけに来るのは私の後輩でグリちゃんという、私よりもだいぶ背の高い子だが……少しひどい言い方になるが、彼女に限らず他の子と練習したからといって特別はかどるということもない。むしろゆっくり走らないといけないくらいだからだ。でも、それも悪くはない。人と走るくらいのペースくらいの方がかえってよいこともあった。私は怪我をしやすかったから。

 

「お姉さま!」

 おそらく私を呼ぶ大声が聞こえてはっと振り向いた。彼女がだいぶ後ろの方にいた。つい私はぼーっとして速く走りすぎていたらしい。スピードを落として彼女を待った。私も彼女も疲れているわけでも加減しているわけでもないが、なぜか進む距離に差がついてしまう。走れる時間が同じでスピードが違う場合はスタミナが多いというのだろうか。よくわからない。長距離の後でダッシュを合わせたが、同じ距離を走ったら時間に差がついた。この場合はスピードの差でいいのだろうか。

「お姉さまは、やっぱりすごいです」

 彼女は疲れ切って泣いたような顔で言うが、そんなに悔しさはないようだ。彼女もいっぱい走り、私もいっぱい走ったから疲れはした。でも楽しい疲れだった。

「もう今日はここまでにしましょう」と彼女が言ったので、まだまだ走れたけど、そうした。彼女は私にずっとついていてくれる。まるでトレーナーのように。私たちには専属トレーナーはいないけれど……。

「この調子でダービーも勝てますね、お姉さまならきっと」

「それはどうかしら? 絶対はないものよ」

「絶対に近づけるように、私もお姉さまを支えていきたいです」

「あなたには感謝してるけど、私はあなたのことの方が心配です。私なんかについてきて自分の練習ができていますか?」

「私はデビュー戦を勝てましたから、ひとまず安心ですし、速くなれていると思います」

 私は首をかしげたが、彼女はカバンを取ってきてノートを見せてくれた。

「ほら、数字もちゃんと出ていますから」

 この子は私よりはるかにしっかりしてるのだが、意外と雑なところもあるらしく、読みづらいノートだったが、なるほど確かに記録は順調に伸びているようだ。

「私、お姉さまに一生懸命追いつきたくて、その想いで上達できているんですよ」

 彼女のまっすぐな目が私には時々つらい。私は何も特別なことをしていないというのに。

「あ、そうだ、どこかに寄り道して帰る? 私がおごるから」

 金の力でこの気持ちをどうにかしようと思ったが、逆に怒られてしまった。

「ダメですよ! お姉さまも、私にもレースがあるんですから」

「そ、そうだったわね……ごめんなさい……」

「いえ、そんな、謝らなくても……私の方こそ……」

 お互い落ち込んで、すぐに笑った。

「お姉さまと寮まで一緒に帰れるだけで私には十分ですよ」

 本当にこの子はかわいくて、私にとってあまりにも都合がいいと不安になってしまうほどだ。

 

 雨が降ると足が痛む。トレーニングは毎日しないといけないが。

「おはようございます。お姉さま」

「おはよう、あなたは元気ね」

 彼女は建物から外をちらと見て憂鬱そうな顔をした。誰でも嫌だろうけど、レースの時は晴ればかりではないから仕方ない。

「お姉さま、提案なんですけど……」

 気恥ずかしそうな表情でグリちゃんは話しかけてくる。何かやりたいことでもあるのだろうか。この子はわりとこういうとこがある。

「私に断らなくてもいいのよ? 無理しなくても」

「いえいえ、私はいいんです、でもお姉さまが」

「私がなの?」

 私の答えに彼女はひるんだような姿を見せたが、思い直して喋りだした。

「お姉さまの足は今とっても大事な時期なんですよ、ダービーを控えているというだけでなく、その……かなり痛みを抱えておいでなのですから、だから今日は休みましょう」

 言いたくはないが、グリちゃんはそこまでの才能があるわけではない。私と違って、大きな期待を受けてもいない。だから私と同じ考えにはなれないだろう。

「ダービーを控えている、大事な時期だからこそ走らなくてはいけないのです。ですがあなたは無理に付き合わなくてもいいのですよ」

「私のことなんかどうでもいいんですよ! なんで私が今自分のためにこんなことを言うと思うんですか! そんなの、侮辱です!」

 なぜそこまで怒るのか、私にはわからず、戸惑ってしまった。

「え、あの、ごめんなさい……私が悪かったわ、あなたを傷つけてしまって」

「も~~そうじゃなくて!」

 彼女は今にも外へ出ようとしていた私を両手で押して方向を変え、室内に戻した。

「今日はトレーニングするなっていうの?」

「むやみに足に負担をかける行為はだめです。特にこんな地面の悪いのはだめです」

「あなたは私のトレーナーでも医者でもないじゃない」

「トレーナーから頼まれているんです」

「えっ、そうなんだ! いつ? なんで?」

 

 ……私は確かに足を痛めている。今まで九回出走し九回優勝した。しかし走るたびに足は傷んだ。

 だけど私への期待はとてつもなく大きくなっている。私は期待に応えなければならない。テレビもラジオも新聞もみんなそう言ってる。

「お姉さま、トキノさま、こっそり練習に出ようなんてことも考えたらだめですよ」

「そんなこと……しませんわよ」

「前例がありますからね!」

 彼女に押されっぱなしで私たちは自分の部屋に戻ってきた。まずいことに私たちは同室なのだ。

 

 さてどうやってこの狭い部屋を出るべきか。

今は雨音をBGMに本を読んでいる。内心の苛立ちのためにまったく集中できないが。

「お姉さま、何を読んでいるんですか?」

 グリちゃんが尋ねてくる、その表情には悪意も何もない、どちらかというとぼやぼやっとした顔だ。この子はとても優しいいい子だから、変な裏なんてあるはずもない。

 注釈:この話は通常ウマ娘の舞台となっている時代より少し昔の話であるため、今の常識と違うところがある。例えば主人公ほどのウマ娘のトレーナーが専属でないこともそのひとつ。:注釈終わり

 説明はともかく、彼女を騙すか目を潰すでもしなくては練習に行くのは無理だろう。そこまでして練習するほどの価値があるのか?

「お姉さま! 何の本を読んでるんですか?」

「あっ、何? ごめん、考え事してた」

「どうやって逃げようかとか考えてませんか? どうしても逃げたいなら私を倒してから行ってください」

「そんなこと考えてなんか……いませんよ? でも、競走で勝負をつけるというのは」

「そんな勝負、受けませんから」

 私はもう諦めてしまって、読んでた本をパタンと閉じた。それは恋愛ものの少女漫画だった。読みたがってるグリちゃんに渡してやってから、私は教科書を取り出した。睡眠薬である。

「お姉さま、お休みになるのですか?」

「うん、なんか、雨の音が気持ちよくなってきたから、ちょっと眠るわね。後でご飯の時に起こしてくださる?」

「あ、わかりました。おまかせください」

 ……外がほの暗くなっていて、私は起こされた。グリちゃんがご飯ですよというので、お腹の音で返事をして少しぼんやりしたまま体を起こした。

「先に行きますね!」

 友達が待っているのか、彼女はすぐに部屋を出ていった。私はせっかく起き上がったのに、なぜか起きるのに物足りずまた横になったらすぐ闇に飲まれた。

 

 今度は目が覚めても真っ暗だった。私はずっと寝てしまっていたらしい。お腹が空いた。

 隣の布団を見るとグリちゃんも寝ている。ああ、私はだめだなあ、後輩にはずかしいところばかり見せてしまって。

 抜き足差足して部屋を出た。何か、あるものを食べようと思ったし、お風呂にも入りたいし。

 夜空は晴れていた。私の心がうずうずしてきた。今なら自由に走れる! そう思った時にはすでに駆け出していた。

 

 私は泣きながら部屋に戻った。足がかなり痛い。転んだとかひねったというわけじゃない、何もないところで痛くなった。地面がまだ悪かったというのはあるが、レースではこの程度当たり前にある。これがだめならレースでもだめということだ。言われてた通りになってしまった。

 

 朝を待って保健室に行こうと思ったが、痛みがひどすぎて眠れない。私は声をこらえてしくしく泣いていた。どれくらいそうしていたのかわからないが、不意に声をかけられて大声を出してしまった。いけない、グリちゃんだ。

「やめて、私に構わないで! 合わせる顔がないから」

「お姉さま、どうされたんですか、どこか痛いんですか」

「だ、大丈夫だから」

「お医者さんのところに行きましょう、お姉さま、救急ですから」

 話には聞いたことがあるが、トレセン学園は夜間もお医者さんが待機しているとは聞いたことがある。でも迷惑ではないだろうか、それにはずかしい、自分の……こんな都合で……。

「じっとしててくださいね」

 グラちゃんはそう言うと、私を軽々担ぎ上げた。彼女の体温が温かい。

「お、重くない……?」

「私だってウマ娘ですよ、それにお姉さまが重くなんてあるものですか」

 そう言われると私は涙が出てきてこっそりそれを腕でぬぐった。

 

 保健室で応急手当を受けて薬を飲むと痛みが収まりその夜は眠ることができた。翌日にトレーナーさんとグリちゃんもついてきてくれて大きな病院に行った。お医者さんから直接ではなく、トレーナーさんが先に話を聞いて、彼を通して説明を受けた。

「つまり、トキノには先天的に足元に不安があって、これ以上走るのはもっと重大な怪我を招く危険があるんだ」

 そう言われてよくわからなくなった。だって、ウマ娘は走るために生まれてきたのではないのか? そうでしょう? なのに走らせない体も同時にもらったというの?

「ウマ娘が走るという行為は普通の人間と比べてかかる負担が尋常ではないから、一歩間違えたら、下手をすると死ぬこともある、昔はそんな子も多かったというのはトレーナーなら誰でも教わることだよ」

 背中にグリちゃんがいてそっと手を伸ばしてくるが、私は立ち上がって頭を下げた。

「お願いします、あと一回だけ私を走らせてください。みんなが応援してくれているんです」

 あと一回というのは東京優駿、日本ダービーのことだった。私の脳裏には今までのレースで競技場を満員にして応援してくれた老若男女の顔や、地元の人たち、家族の顔が浮かんでいた。何より、ウマ娘としての自分自身の夢なのだ。何のために今まで必死に努力してきたのか。

 トレーナーは悲しそうな顔をした。

「私だって、自分の教え子がダービーを取るのは一生の悲願だよ。だけど、その前に命を守らないといけないんだ。どうしてもだめだ。認めるわけにはいかない。こんなことになる前にどうにかしてあげられなかったのは本当に悔やんでいる」

 私はうつむいて涙をこぼした。

「私は、神様から才能を与えられたんです。これって、どこかの世界のウマ娘の魂が、私にも宿っているのでしょう? 私は、その子の生き様を裏切ってしまうんじゃないですか」

「確かにトキノの才能は、飛び抜けている。桁違いなほどだ。でも君自身も努力したからこそだ、もちろんそのはずだ。だから誰かのことを考える必要はない」

「私はこの才能を与えてくれた誰かのために」

「いいや、違うよ。君のその才能はお父さんとお母さんからもらったんだ。遠くの世界の魂ではなくね」

 なんと言えばいいのだろう。それは確かに当たり前の話ではあった。当たり前でありつつも、わからない話だった。私の両親は、ウマ娘ではない。どことなくそれは、昔から自分と他の人を決定的に分けていて……もしかしたら、同じウマ娘の中でも私は特別なのだと思っていた。それどころか……。

「もしも才能には宿命が伴うとしたら、私はダービーを取るためなら死んでもいいのではないかとすら思います」

「……バカなことを」

 トレーナーは否定したが、悔しいのは誰もが同じ気持ちだったのだろう。

 

 死んだような日々を過ごした後、ダービーはテレビで見た。

(もし私が出ていたら)

 それはどうしても思った。ただ単に、過去出たレースのペースを当てはめただけでも勝てたはずだった。私は傲慢だろうか? テレビの中で喜んでる子を見ると、走って死にたかったとまた思ってしまう。しかし何もかも終わってしまった。

「グリちゃん、あなたにもお世話になりました。走れない私はもうこの学園を辞めないといけないの。普通の学校に通うことになるけど、またどこかで会ったら、仲良くしてくださいね」

 しかしグリちゃんは妙にもじもじしている。何か言いたいことがあるのだろうか。

「実はお姉さまにお願いがあるんですが……その……」

「何? 最後だからなんでも聞いてあげる」

 私は冗談交じりに応えた。

「なんでもですね? それじゃあ、お願いなんですけど、私のトレーナーになってください!」

「ええ? なんで私が? あなたもトレーナーいるでしょ?」

「もちろんいますけど、専属ではないですから、というよりお姉さまですら専属がついていなかったのですから、私なんてとっても薄いです。だからお姉さまに教えていただきたいんです。形としてはサブトレーナーということになるんですけど……」

「そんな制度聞いたことがないわ」

「お姉さまに学園に残って頂く方法がないかと、実はずっと走り回って調べていたんです。そうしたら、新しくそういう制度が計画されていると聞いて……」

「ウマ娘がウマ娘を指導するというわけ? でも私はそんな知識全然ないわよ」

「お姉さまはとっても頭のいい方ですから……勉強すればきっとできますよ、それに私も、お姉さまのためにも走りたいです。そしてここから始まって、ゆくゆくは全体的にトレーナー以外にもそんな仕事がもっと増えるんだと思います」

「……そう。私がその先鞭をつけることができるのかしら。じゃあ、あなたをダービーで勝てるようにしたらいいのかな?」

「あはっ、私がそこまでできるわけないじゃないですか! 一回でもG3に勝てたら奇跡で大喜びですよ! これだから天才は……」

 彼女は何か嬉しげにそういうけど、たぶんグリちゃんの方がよっぽど、えらい子だと私は思う。

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