ウマ娘短編集   作:こしょ

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原作キャラ登場せず、オリジナルのウマ娘がただ日常を送るという話。
色々、意味はタイトルからしてあるけど、あくまで日常の話です。
無粋ながら補足しますと、競走馬になれずにこの世を去ってしまった馬のウマ娘という意味です。


「〇〇の2010」のウマ娘(去るのが早すぎた馬の話)

 中学のマラソン大会で、私はいつも遅い。本気でやってないのもあるし、本気でやったら、たぶん足が壊れる。

「なぜなら私の真の力に身体が耐えられないからだ」

「ダジャレ?」

 私の言葉に、友達から冷静なツッコミが入る。

「いや、ダジャレのつもりじゃなくて。ほんと。全然そんなつもりなかったのに!」

 喋ってたら疲れた。余計な体力を……今ツッコミ入れた子は先に行ってしまった。ひどい。頭上の耳をピコピコ動かしても、周りには誰もいないことしかわからない。この美少女ウマ娘が放置されていいことがあろうか? いやない。

「小衣(こころ)!」

「わっ!」後ろから話しかけられた。「千夏? 先に行ったと思ったのに、私より遅かったの? 大丈夫?」

「あんたが心配できる立場? 遅すぎるから待っててあげたのに、全然気がついてなかったのね……耳だけ忙しそうに動かしてたのは飾りか?」

「そんなバカな……」

 結局、かなり後ろの方でどうにか最下位は免れたというところで終わった。

 

「なんでウマ娘のくせにあんな遅いの?」

「さっきも言ったけど、本気出せないのよ」

「ああ、設定か」

 話していたら、男子のマラソングループがすれ違って、私達に手を振った。私も手を振り返した。

「そんなことしたら、また惚れられちゃうよ」

「またって、手を振っただけだよ。無視でもしなきゃだめなの?」

「だめじゃないけど小衣はそれだけで惚れられるのよね……。緑色の髪に超美形でウマ耳なんて、好きにならないわけもないか。その上、薄幸の美少女(風)だし」

「でも私お付き合いしたこともないし、告白とかされたこともないよ」

 確かに千夏が言ったように、私はそういうイメージで通ってるのは確かだ。ウマ娘なのに走るのが遅い私は、きっと病弱なんだろうというわけだ。

 それは半分正解半分間違い。私、もとから走るのそんなに好きじゃないから。それより楽して楽しく生きる方がいいな。

 っていうか走るのが遅いから病弱って何? 大きなお世話だよね。

 

「小衣は好きなダービーどれ?」

「ああ、前も話さなかったっけ、ウオッカさんが好きだよ」

「私はスペシャルウィークの……」

 教室で話していると、なぜかそんな話になった。なぜかってこともないか、もうすぐダービーがあるから。オークスも。周りに耳を向けると、男子が話に入りたそうにしているのがわかる。男子の好きな話題だからね。そもそもなんでこの話題になった? ぼーっとしててあんまり覚えてない。もしかしたら、好きな男子の気を引くための千夏のだしにされたかもしれないけど、まあそれならそれでも良い。一肌脱ぎましょう。

「君もよかったら話する?」

 そう言うと、彼は「あっいえ……」って呟くように言ってどこかへ行った。残された私達は二人でクスクス笑った。そうすると先生が来た。さっきの彼がまだ戻ってないのに。

 

 お昼にはクソデカ弁当箱を取り出した。言うまでもなく、普通はこんなに食べる人間はいない。これだけで教室のみんなは間違いなくドン引きしてる。

 でもお腹が空くから仕方がないよね。問題は食費で、高校生になったらアルバイトしないといけないかも。うち来てよって顔なじみのお店ですでに誘ってもらってるし。走ること以外なら自信はあるから!

 食べ終わったところで、やっと男子に見られてるのに気がついて、威嚇した。

「何か用? 私が食べ過ぎって思ってるんでしょ!」

 彼らはみんな目を逸らした。私が小学校の頃からよく言われてた。男の子は何も変わってない。

「今度からどっか外で食べようかな……」

「ええ、やだな、めんどくさい。いいけどさ」私のつぶやきに、千夏が答えた。

「じゃあ芝生のあるところで……」

「制服が汚れるじゃん」

 などと話していると、男子の一人が恐る恐る話しかけてくる。そんなに恐る恐るである必要ある?

「ごめん、僕達、悪いつもりで見てたんじゃなくて……」

 私は耳をそちらに向ける。

「可愛いから見てただけだよ」

 別の男子が横から答えた。隠れて言ってたけど、私は耳を向けてたから誰だかわかった。

「やっぱりからかってるの?」

「ち、ちが、お前ふざけんなよ!」

 近寄ってた男子が振り向いて後ろに怒鳴った。

「そうじゃないんだ」と彼はまだ話を続けようとする。「良かったら僕も一緒に食べても良い?」

 彼が言うと、みんなが聞き耳を立てるようにしんと静まり返った。何この雰囲気。私もさすがに戸惑って、いいよって答えてしまった。実際どっちでも良かったけど……。

 

 翌日のお昼時に、中庭で食べるために教室を出たら、思った以上に大勢ついてきた。男子一人かと思ってたのに、男子も女子も……ちょっとしたピクニックみたいになった。なんだか、後悔してしまう。恥ずかしいな。千夏はどっか行っちゃったし。いや、いるのはいるけど、他の子と話してるわ。困ったな。耳が置き場を失って、ぴょこぴょことあっちこっち向いてしまう。

 もう良いわと私は走る時よりも速く動き、さっさと食べ終わってしまうことに決めた。

「西さん」

 私の名字を呼ばれて、気がつくと男子に囲まれている。ちょっと怖さを感じた。女子は女子で固まっているし、食べることだけに意識が行きすぎてたかもしれない。

「き、君たち、私になんの用だというのかね」

 身構えて変な言い方で私は答えた。彼らは意を決したように私に取引を持ちかけてきた。

「良かったらなんだけど……僕のおかずも食べる? まだ何も触ってないよ」

 そう言って弁当箱を差し出してきたのだ。取引にすらなってなかった。

「何が目的なの?」

 警戒マックスで私は答えたが、そのいかにも草食系みたいな顔は下心がありそうにもない。下心はないだろうが、あわよくば仲良くなりたい感はある。私は決してそういうのに釣られたりはしないが、おかずには釣られてしまった。つまり、遠慮なくもらい、パンまでもらった。

「こんなことして、私を太らせようとしてるのかしら」

「そんなこと……ないよ!」

 別の男子が言う。

「ウマ娘ってもっとすんごい食べるんでしょ、それなら遠慮しないで」

「言っておくけど、私が走らないのはお腹が空いてるからじゃないんだよ」

 私が念の為に彼らにそう話す。

「そんなこと思ってないよ!」と返ってきた。

 まもなく、私はすべてを平らげてしまった。男子たちに見守られながら……。

 

「結局何が目的だったのかな」

 食後に千夏と合流して話すと、彼女は呆れたようだった。

「小衣がたくさん食べるのが見てて面白いから、っていうのはあるけど、それだけじゃないかもしれないわね」

「やっぱり私のことが好きなのかなあ」

「それはあるかないかで言うとある。むしろ否定してたら嫌味だし。ていうか一般人からしたら高嶺の花すぎるし」

「高嶺の花は草だわ。でも嫌味って……もしかしてあの中に好きな男子がいたりした?」

 私は不安になって小声で聞いた。

「いない、いない! そんなの気にするようじゃ、あんたの友達になれてないって!」

 それはそれでなんとも言い難い答えだった。

 

 やっぱり、ちょっと困るのが運動不足。普通の人間なら別に問題ないんだけど、私は基本食べすぎている。運動はあんまり好きじゃないから、本当はしたくない。走るなんてもってのほか。食べるのは好きだけど、そろそろ成長期でごまかせないくらいになりつつある。家族からは+2キロとか言われる。これはまずい! 食べない以外の痩せ方はないものか? そして私は一人でおっきなプールに来ていた。どうだこのプロポーション。私の食べた分の肉がお胸についている。問題はお腹にもついていることだが。

 水泳だけは私もなぜか得意だったから嫌いじゃない。楽しい。千夏はついてきてくれなかったけど、来てたとしても誰もついてこられないくらい速く私は泳ぐ。それで、水泳選手になるのかというと、そんなの、なるわけないじゃん!

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