【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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最近忙しくて遅れたけど代わりにもっと曇らせるから許して……


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 さて、威勢よく飛び出しては来たのは良いが、私単騎では魔人はおろかドラゴンにすら勝てない。

 

 だから、雪乃が来てくれて助かった。雪乃の固有魔法は、支援魔法──文字通り、仲間をサポートすることに特化している魔法だ。だからと言って自分に使えないなんてことはなく、雪乃がさっきまで魔獣と1人で戦えていたのも自分に支援魔法をかけて擬似的に身体能力やら基礎魔法やらの能力を向上させていたからだ。

 だが、支援魔法とは他者をサポートするからこそそう呼ばれるわけで。例に漏れず、雪乃の支援魔法も対象が他者である時に真価が発揮される。

 

 つまり、今の私は雪乃の支援魔法によって擬似的に能力が向上している状態。今なら私の使う基礎魔法でも火憐並みとは言わないが、他の魔法少女と同レベルかそれ以上の威力で使えるようになる。

 

 勿論、それだけではドラゴンの堅牢な鱗を突破できるとは考えていない。ただ、生物に必ず弱点となる部位があるように、魔獣にも核という弱点がある。

 そしてそれは人にとっての脳然り心臓然り、重要な部位にあることが多い。ドラゴンも魔獣である以上は、弱点がある。

 

 ──それは、逆鱗だ。

 

 唯一そこだけは鱗による防御が薄く、雪乃の支援魔法によって強化されている私なら突破できる。

 

 ただ……一つ心配なのは、今回の世界ではイレギュラーが多すぎるということ。

 全体的にスタンピードの進行スピードが速く、過去のループとの類似性が少ない。加えて、これまで起こってきたこと全てが最悪に近い結果となっている。

 

 これはこの世界に結衣ちゃんというイレギュラーが存在するからなのか、それとも他の要因なのか。

 初めての展開だから、先が読めない。

 

 どちらにせよ、今の状態はかなりギリギリの均衡の上で成り立っている。

 これ以上のイレギュラーはなるべく避けるべきだ。

 

 

「っと、集中しないと」

 

 

 地を薙ぐように振るわれたドラゴンの爪を紙一重で避け、彼方へと飛んでいた思考を目の前のドラゴンを倒すことだけに集中させる。

 

 彼我との距離は約20メートル。

 一見結構な距離があると思うかもしれないが、それは私たちにとってであって、相手は都市を取り囲む壁に比類する巨体のドラゴン。

 その程度の距離など0に等しく、ノータイムで攻撃を繰り出せる。一方、私は逆鱗に攻撃を当てるためにはかなり接近しなくてはならない。

 

 かなり不利な状況だ。

 だが、この程度の逆境……何度だって乗り越えてきた。それに別にドラゴンと戦うのも初めてじゃない。

 

 こういう相手と戦うには少しばかりコツがいる。ただそれだけだ。

 

 ドラゴンの攻撃の軌道を見切って、紙一重で避ける。体力を温存しながら、ドラゴンが痺れを切らして大振りしてくるのを待つ。

 

 ドラゴンがまだ私のことを取るに足らない羽虫とでも思って遊んでいる内に、逆鱗を貫く。それが最速の勝ち筋。

 

 暫く避けていると、ドラゴンの鼻息が荒くなってくる。多分、取るに足らない存在だと思っている私に中々攻撃が当たらないことに苛ついているのだろう。

 

 そして、遂にその時が来た。

 

 

「──ッ!」

 

 

 巨体を少し捻り、回転を加えようとしている構え。

 この動作、目線、タイミング。

 間違いない、待ちに待った尻尾攻撃(大振り)

 

 咄嗟に魔力弾を地面に撃ち、その衝撃で上空へ飛ぶ。普段じゃできない無茶も、今の私なら出来る。そして私の身体は丁度解き放たれた尻尾の数センチすれすれを舞い──通過。

 

 隙を晒したドラゴンの懐に入って、叫ぶ。

 

 

「【造形(モデライズ)──」

 

 

 私の手の中に現れたのは普段とは比べ物にならない量の魔力の奔流。

 雪乃の支援魔法によって大幅に強化されたそれを必死に抑えつけ、一つの形へと落とし込んでいく。

 

 これはもはや大剣(クレイモア)なんかじゃない。

 まさに目の前のデカブツを叩き切るためだけに存在するようなもの。

 言うなれば。

 

 

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)】ッ!」

 

 

 その名を口にし、ドラゴンの逆鱗──核へと向かって突きつけようとして──

 

 その瞬間、頭上で荒々しい魔力が溢れ出した。まるで纏まっていない、方向性のない魔力。

 

 ブレスの予備動作……それも、かなり急いでいる。もう守れないと判断したドラゴンが最後の足掻きでブレスを吐こうとしているのだろう。だが、幸いこの方向には、誰も──いや、雪乃がいるッ……! 

 

 このままではドラゴンの核に剣を突きつける前にブレスは発射されるだろう。そんな予感があった。

 

 今雪乃を失うわけにはいかない。それに、雪乃を見殺しになんてしてしまっては火憐に顔を合わせられない。

 

 だから──

 

 

「もう少しだったのにっ!」

 

 

 魔弾を地面に撃って、その衝撃で雪乃の前まで移動し──刹那、圧倒的な魔力の物量が私たちを襲った。幸い、スピードを優先したからか最初の壁を破壊した一撃よりは威力が低かったため、何とか凌ぐことができた。

 

 

「雪乃、無事?」

 

「う、うん……」

 

 

 雪乃にも目立った傷はないようだ。良かった。

 

 ひとまず安堵したがさっきと状況は一転して最悪だ。既に魔力はかなり使ったし、身体は満身創痍で動かない。

 

 それに、ドラゴンももう油断してくれないだろう。

 もはや打つ手なし……というわけではない。私には一つだけ奥の手と呼べるものがあった。

 

 ……身体に負荷がかかりすぎるから本当はこれは魔人戦まで残しておきたかったが、仕方ない。

 

 私たち魔法少女が普通の人間よりも頑強で、身体能力が高いのは何故なのか。その答えは、魔法にある。私たちは無意識の内に魔力を身に纏っていて、それは支援魔法を自らにかけ続けているということと同義である。だから弱い魔獣程度の攻撃なら喰らっても一般人のように一撃で致命傷を負ったりはしない。

 

 無論、魔力を枯渇させてしまえば話は別だが。そして誰にでも使えるというのであれば、それは私の十八番の基礎魔法ということになる。

 

 身体の中から魔力を絞り出し、意識しないと分からないほど身体に纏わりつくように薄く展開されていた魔力に追加、凝縮させる。

 

 

「【支援魔法(アイギス)──」

 

「……え?」

 

 

 これから私が行うのは、いわば支援魔法の二重がけ。第一波の時の火憐のように魔力暴走を引き起こす可能性があるが、この際そんなことは言っていられない。

 

 

「──限界突破(リミットブレイク)】ッ!」

 

 

 溢れ出る全能感。

 それと同時に全身に激痛が走り──

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 ──吐血した。

 この状態が続くのも、そう長くはないということだ。

 

 早く、決着を着けないと……。

 

 その時、朦朧とする意識の中……背後から何か聞こえた気がした。

 

 

「……どう、して?」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 どうして、どうして、どうして……ッ!

 

 満身創痍の身体を引き摺って、それでも尚目の前の巨龍に立ち向かう少女を見て、(雪乃)は狼狽えていた。

 

 椎名永愛は都市での地位を確立するために火憐ちゃんを殺した。そのはずなのに。

 

 なんで椎名永愛はここまで命を削るようなことをする?

 都市での地位をより強固なものにするため? 

 ……いや、命を賭けるくらいなら地位なんて望まない。

 

 だったら、火憐ちゃんを殺したというのが間違いだったのか?

 

 私は彼女の監視役で、都市に溶け込むにはきっと邪魔な存在のはずだ。自慢じゃないけど、魔法少女の中では上位であると自覚している。さっき私を見殺しにしておけば、例えその後に後任の魔法少女が監視についたとしても今よりはやりやすくなるはずだ。

 

 なのに、彼女は私を助けた。

 

 ……分からない、分からない、分からない。

 

 それに、私しか使えないはずの支援魔法を使っていたことも謎だった。

 もう何も、考えたくない。

 

 そうやって逡巡していると、耳を聾する轟音とともにドラゴンの身体が崩れ落ちていくのが視界の端に映った。いつの間に、戦いが終わっていたのだろう。

 

 放心状態のまま、ドラゴンの死体へと足を進める。

 丁度核があったであろう部分の上に、椎名永愛は倒れていた。

 

 全身が血に塗れ、酷く衰弱している。虫の息だ。

 その姿を見た私に悪魔が囁いた。

 

 

「今、なら……復讐、できる……!」

 

 

 槍先を椎名永愛の胸に向け、すれすれで静止させた。

 まだ迷いがあったのだ。

 

 ……本当に、良いのだろうか? 

 彼女は私を助けてくれた。火憐を殺したというのだって、私の勘違いかもしれない。

 

 そうやって再度思考の沼に堕ちていく。その途中、ある人物の言葉を思い出した。

 

 

『氷堂雪乃。あなたはこのままで良いのですか?』

 

 

 時枝木蔦。

 火憐ちゃんがいない今、彼女が私の唯一の理解者。

 

 ……そう、そうだ。

 椎名永愛は違う。火憐ちゃんを殺した……殺人鬼だ。危なかった。危うく騙されそうになっていた。

 

 再度槍を構え直す。今度は迷いなどなかった。

 

 

「火憐ちゃん……今から仇、取るからね」

 

「させませんっ!」

 

「……ッ!?」

 

 

 そう言って槍を持つ右手に力を入れようとして──視界の隅にこちらに向かって飛来してくる光が映り、反射的に回避行動を取った。

 

 その光には見覚えがあった。

 その方向に視線を向けてみれば、案の定こちらに向かって駆けてくる二つの影。

 

 

「結衣、それになぐさ? まさか全員で共謀して火憐ちゃんを……!?」

 

 

 もはや雪乃の瞳には、真実なんて一つも映っていなかった。

 

 

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