【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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気づいたら1ヶ月経ってた。


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 これまで得てきた全ての経験(もの)を使って今度は自分が結衣ちゃんの希望となる──そう決心した私がまず最初にしたことは、野良の魔法少女への協力要請だった。

 

 野良の魔法少女。

 それは、何らかの理由で都市から離反した魔法少女のことを指す。故に、彼女たちは都市の外……魔獣の蔓延る危険地帯で1人、あるいは複数人のグループで生活している。

 

 とはいえ、かつて私が住んでいた旧首都圏のようなトップレベルに危険な地帯に住んでいるような魔法少女は少ない。そんな猛者はほんの一握り、一桁だけ。大半は、魔獣のあまり来ない……それでいて都市から比較的離れている場所に住んでいる。

 

 先に触れたように、野良の魔法少女は政府のために、或いは都市のために戦うことを拒絶した魔法少女だ。しかし、最初からそれが理由で排斥されたわけではない。政府も最初は彼女たちを一般市民として扱った。しかし、魔法という未知の力を得た少女たちは、それを制御する術を知らず、中には暴走させてしまう者、それを私利私欲のために扱う魔法少女が現れた。

 その結果が、野良概念の形成。政府主導の下、都市防衛に参加しない魔法少女は、「野良」とされ、魔獣と等しく人類の敵と分類された。先の騒動で魔法少女の力について問題視されたように、制御の出来ない大きな力というのは反転して大きな脅威となり得ると判断されたのだ。

 

 中にはただ兵役の義務を負いたくない、或いは監視されることに忌避感があるという理由で参加しなかった善良な魔法少女もいた。しかし、そんな彼女らも例外なく疎まれ、居場所を追われた。

 

 時折、野良の魔法少女が都市に出没する。人里が恋しくなった野良の魔法少女が、都市に帰ってくるのだ。そういう場合は、大抵政府所属の魔法少女と揉めて騒ぎを起こすんだけど……まあそれは置いておいて。私が言いたいのは、彼女たちは別に都市を嫌っているわけではないということ。

 

 それに、過去のループでの経験からして、彼女たちが悪い子ではないということは知っている。ただ……都市のやり方に賛同できなかっただけで、愛郷心がないというわけではない。

 

 そんな彼女たちなら、都市が窮地に陥っていると説明すれば協力してくれるはず。

 まあそれも一部で、中にはそんな理屈や感情には囚われない一匹狼もいるのだが……それは置いておいて。

 

 私が最初に向かったのは、そんな善良な魔法少女たちの集落。

 もっと言えば、その集落の言わば“リーダー格”の少女に会いに。

 彼女──守野(もりの)恵美(めぐみ)の下に野良の魔法少女たちが集まり、彼女たちは壁の外に集落を作っている。強力な固有魔法によって実力では評議会のメンバーにも引けを取らないレベル。おまけに他の野良の魔法少女からも信頼が厚い。

 彼女に協力を仰ぐことが出来れば、他の野良の魔法少女の協力が得られたも同然だ。

 だが……その分彼女の協力を得られなければ、全てが破綻する。失敗のできない緊張感に、私は気を引き締め直した。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 守野恵美は、何やら焦った様子の赤毛の少女──仮にもこの集落のリーダーとして担ぎ上げられているのだから立場的には部下と呼ぶべきなのだろうが、これまで共に生き延びてきた戦友を本当はそうは呼びたくなかった──の報告を受けて、ここを尋ねてきた訪問者の下へと向かっていた。

 誰かがここを訪ねてくることは稀だ。しかし、決してないわけじゃない。それなのに恵美が焦りを隠せていないのは、その訪問者に問題があったからだった。

 

 

(政府の魔法少女が今更こんな所まで何をしに来たの? これまで互いになるべく不干渉を貫いてきてたのに……なんか、嫌な予感がする)

 

 

 そう──その訪問者というのは、恵美たちと敵対関係にある政府の魔法少女らしいのだ。

 来たのはたった1人だけとのことから大事には至らないと思ったが、拭いきれない不安が足を急がせる。

 

 少しして、その政府の魔法少女と対面した。

 黒いフードを深く被っており、顔は見えない。背は低く、体格は華奢であるが、1人でこの集落まで来た以上、それなり以上の実力はあるのだろう。ひょっとしたら、評議会のメンバーかもしれない。

 

 

「お前がここを訪ねてきたという政府の魔法少女か。一体何が目的だ?」

 

 

 第一声は舐められないように口調を変えて、警戒心……或いは嫌悪感を隠す素振りを見せずに堂々と立ち会う。

 恵美には、この集落の長としての責任がある。どんな話なのか分からない以上、あくまで強気に……隙を見せる訳にはいかなかった。

 しかし、目の前の少女にも動揺はない。こうなることを予想していたのか、或いは……。

 そう思案して警戒を強めた恵美だったが、その思考は思いもよらない形で裏切られることになる。

 

 

「どうか、あなたたち野良の魔法少女の力を貸してほしい」

 

 

 そう言って頭を下げた拍子にフードがずれ、フードの下にあった少女の顔が明らかになる。

 恵美はフードの下にあった少女の張り詰めたような真剣な表情に、呆気に取られる。

 

 

「……へ?」

 

 

 険悪な雰囲気が一転、間抜けな声が漏れる。

 最悪一戦を交えることも覚悟し、戦々恐々としながら一体何を言われるのかと待っていたのだ。まさか協力して欲しいと頭を下げて懇願してくるとはつゆほどにも思っていなかったのだから気が緩んでしまうのも仕方のないのでは? しかし、当の政府の本人は至って真面目……必死にも思える。

 

 

「え、えっと……つまり、どういうこと?」

 

 

 何とか失態を取り戻そうと放った言葉は、うっかり素が出てしまっている。だが、失態を重ねたことに本人は気づいていない。少女の方も、敢えてそのことは指摘しなかった。

 

 

「実は──」

 

 

 そして、恵美は少女──椎名永愛によって現在の都市の状況を知らされることになる。

 

 最近魔獣の数が増えてきていること。

 評議会の魔法少女による予言のこと。

 これまで何度も魔獣から都市を防衛してきたこと。

 でも仲間が段々と減ってきて……今度の波は耐えれそうにないということ。

 

 そして──そうなれば、魔力を欲する魔獣によって次に狙われるのは都市の次に人口の多いこの集落だろうということ。

 

 

「……それは、あたしたちを脅してるってこと?」

 

 

 憤りを抑えきれず、無意識のうちに声が震え、語尾が強くなる。怒りに反応して、魔力が身体から溢れ出し、周囲の()()()()()()()()()()()。お前らはこの集落さえも奪おうというのか、と蓋をしていたはずの激情を身に纏う。

 これが、恵美の固有魔法。

 物理法則が一つ、引力を操る力。数多の魔獣を屠り去り、この集落を長らく守り抜いてきた常勝無敗の絶技。

 それが、1人の少女に向けられようとしていた。

 

 しかし、怒りに任せて魔法を行使しようとした次の瞬間──椎名が放った言葉によって毒気を抜かれることになる。

 

 

「あなたたちが何故こんな所に住んでいるのかは、分かってる! 原因が私たちにあることも、そしてそれをあなたたちが恨んでいることも……でも、それでもあなたたちの力が必要なのっ! じゃないと、都市が……ッ!」

 

「……っ」

 

 

 椎名が自分を脅そうとしようとしていないことなどとうに分かっていた。だが……何故自分たちにはこうも安泰が来ないのかと思う気持ちを抑えきれずに、椎名に八つ当たりしようとしていた。そう、ただの八つ当たりだった。

 それに気づいた恵美は、自身の心の弱さに嫌気がさして怒りを鎮めた。もし椎名の話が本当なら、こんなことをしている場合ではないからだ。

 

 

「んんっ、こほん……すまない、少し気が立っていた。そのスタンピードとやらはそんなにも厳しい戦いなのか? 認めたくはないが、お前たち政府の魔法少女は我らよりも強く、数も多い。それに過去2回その波を退けているのだろう?」

 

「今回の波は……他の2つとは決定的に違う点が一つある」

 

「それは‥……?」

 

「──魔人。これまでの魔獣なんかとは比べ物にならない怪物がいる。私たちだけじゃ、勝つことはできない。でも、あなたたち野良の魔法少女と手を結ぶことが出来たら、もしかしたら……。もう一度言う。あなたたちの力を貸して欲しい」

 

「つまり、あたしたちがいても勝算は低い相手……」

 

「……」

 

 

 椎名は答えない。なら、答えはもう決まっている。

 

 

「……悪い、ならダメだ。他を当たってくれ」

 

 

 胸が痛んだ。態々自分たちを頼りに来てくれたのだ。いくらそれが政府所属の魔法少女だったとはいえ、その頼みを無碍にするほど腐ってはいない。それに、いくら恨みがあるとはいえ、都市がなくなってしまうのは看過できない。だが……それほどまで危険だと言うのなら、話は別だった。そんなところに、仲間を送ることなど出来るわけない。都市の存亡以前に、恵美には自分の仲間を守る義務がある。

 しかし、やはり椎名の方も引くわけにはいかないようで、引き下がる。

 

 

「……お願い、このままじゃ、都市がっ! みんなが死んじゃう!」

 

「……それでも、無理なものは無理」

 

 

 恵美の返答に、椎名は説得に失敗したと見るや顔に陰を落とした。藁にもすがるつもりで来たのに、ただ時間を消費するだけでなにも得られなかったのだから当然だろう。

 そんな椎名を前に、恵美は覚悟を決めたように息を吐いて、表情を緩めた。

 

 

「だけど──私個人なら協力できるよ。なに、伊達に頭張ってないからね、少しは役に立てるんじゃないかな?」

 

 ここのリーダーとしての言葉ではなく、一介の人間としての本心だった。

 

 事実無根の罪で心無い言葉を浴びせられた。

 石を投げられた。

 居場所を奪われた。

 

 日常を壊されたのことはまだ、許せない。許すことはできない。

 だが、それでも──都市は恵美たちの故郷だった。それに……いつまでも逃げてばかりじゃいられないと思っていたのも事実。

 

 そろそろ、問題と向き合わなければならない。

 だから、今回の件は都合が良い。これを機に仲間たちを都市に戻れるように働きかけることが出来れば、尚良い。

 

 でも、仲間を危険に晒すことはできない。仲間を大切に思うからこその選択だった。

 

 しかし、そう思っていたのは恵美だけではなかった。

 

 

「何言ってるんですかボス! 水臭いですよ!」

 

「……っ!」

 

 

 後ろを振り返ってみれば、そこには集落の魔法少女たちが勢揃いしていた。ちらっと椎名の顔を見れば、元々気づいていたようで驚きはない。

 

 

「みんな……!」

 

「あーもう、貴女が行くっていうんならみんな行くに決まってるじゃないですか。 そりゃあ突然都市を追い出されたのはまだ納得いってないけど……それでもあそこは私たちの故郷で、故郷が危ないっていうんなら、助けに行きたいっていうのは私たちも同じ気持ちだよ。それにさ、ボスだけそんな危険な場所に行かせるなんてこと、出来るわけないじゃんか!」

 

「……また、拒絶されるかもしれない。それに、今度はみんな死ぬかも──」

 

「ボスだって、危険じゃないですか。それに、どうせやめろって言ってもやめないんでしょう?」

 

「う……」

 

「口調を変えてまで私たちの不利にならないように頑張ってくれてるボスを1人だけ行かせられるわけ、ないじゃないですか」

 

「うぅー、分かったよ! 全員で行こう! でも誰1人として死なせない。これは約束してもらう!」

 

 

 恵美がそう宣言すると、歓声が上がった。苦虫を潰したような顔をした恵美は、ジト目でこの状況を作り出した人物に目をやった。

 

 

「キミ、可愛い顔して結構な戦略家だね」

 

「そうかな?」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 あれから約1ヶ月弱。

 恵美たちだけでなく、他の野良の魔法少女への協力要請も終わった。中には戦いを仕掛けてきたものや、条件を出してきた者もいたが……何とか全員に協力を漕ぎつけた。

 その間、都市は真白たちに任せきりになってしまったが……大丈夫だっただろうか? 一度雪乃の様子を確認しに戻りはしたが……都市にいたのはその少しの期間だけ。その雪乃も、面会をすることに成功したが精神が壊れてしまっているのかまともに会話が成立しない。

 この1ヶ月弱、雪乃こうなった原因の一介を担っていることに……そして自分ならこうなる前に何か出来たのではないかという後悔を胸に、しかし足を止めずに自分にできることをするために奔走した。

 

 結衣ちゃんとは未だに仲直り出来ていない。

 このままで良いのか。やれることはやったが、まだ何かが足りないのではないか。

 不安は拭えない。だが、生憎と時間は待ってくれない。

 

 ────運命の第三波が今、始まる。

 

 

 

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