【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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 その日は快晴だった。

 戦闘準備を整え、指定された配置についた魔法少女たちは戦いを前にして自分たちの内面を蝕む緊張感や不安とは裏腹に、何も心配することなどないとでも言うように顔を覗かせている真っ青な空のそのちぐはぐさに一抹の気持ち悪さを感じていた。

 

 既に魔獣の大群は肉眼で視認できる距離まで来ており、地平線は無造作に陳列して進行してくる魑魅魍魎に溢れている。

 その世界の終わりとも言えるような異様な光景に、ストレスからか嘔吐する少女もいた。

 

 だが……それも仕方のないことだ。

 全ての魔法少女が実戦経験があるわけではない。中には完全に支援や制作に特化した魔法少女もいる。

 しかし、今回の防衛戦では一部全体の指揮をとる係の魔法少女も居はするが、大部分の魔法少女は前線に駆り出されていた。

 

 無論、その魔法少女たちは戦闘員というよりも他の役割を任されており、他の魔法少女に比べると危険は少ないが、それでも前線であることに変わりはない。

 

 それだけ人手は足りず、しかし敵の数は多い──この戦いが厳しくなるだろうことを誰もが予感していた。

 

 

『──総員、準備はよろしいですか?』

 

 

 その時、突然非戦闘員の少女の持つスマートフォンを模したデバイスから声が発せられた。

 

 簡単に言えばそれは通信機(トランシーバー)だった。といっても、ただの通信機ではない。魔法少女製の魔道具だ。

 

 永愛が応援を募りに都市の外を東奔西走していた間、都市の魔法少女たち──とりわけ真白などの都市防衛組たちが何もしていなかったわけではない。

 

 彼女たちは戦闘経験が浅く、恐らく実戦ではあまり役に立てない。それは彼女たち自身が1番よく知っていた。

 

 そこで、彼女たちが目をつけたのが連携力の向上だ。

 

 スタンピードの第二波。

 ドラゴンのブレスが原因で、幸いにも死者は出なかったものの魔獣の侵入を許してしまった。

 それは人手不足もそうだが、連携力が足りなかったからだ。

 

 そんな()とも言えるものを埋めるために彼女たちが考えだした案の一つがこの魔道具だった。

 

 

『────────────』

 

 

 通信機本来の機能を備え付けた上で探知魔法を使う魔法少女が得た情報をリアルタイムで出力し、敵味方の位置情報等を伝達する。

 

 この魔道具を持った魔法少女が中心となり、そこに数人戦闘特化の魔法少女を加えて1つの班を結成。班単位で魔獣の討伐を決行していく。

 

 その過程で危険な状況に陥った班は、司令から近くにいる余裕のある班に伝達が行き、サポートし合う。

 これによって魔獣の波状攻撃を防ぐことが可能となる。そういう作戦だった。

 

 

『──以上です。それでは健闘を祈ります』

 

 

 そうして、魔獣との戦闘は始まった。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

「やはり、押されていますね」

 

 

 私の隣で木蔦が顔を顰める。

 確かに、最初は優勢であったが途切れることのない魔獣の猛攻に少しずつ押され始めている。

 

 もはや一刻の猶予もないだろう。そんなこと、素人だって分かる。

 だが……私も木蔦も動かない。

 

 この状況で下へ降りても特別私にできることはない。精々が、他の魔法少女よりも多くの魔獣を屠ることくらいだ。そんな誰にでも出来ることをやっても、未来は変わらない。

 

 それに、私はもうすぐこの状況が終わりを迎えると知っている。それが状況を改善させるのか、悪化させるのかはさておき……変化が起こるのは確かだ。

 そしてそれは……木蔦もよく知っているのだろう。

 

 

「未来予知って本当だったんだね」

 

「永愛さんこそ、まるで未来が見えているようです」

 

「まさか」

 

 

 これから起こるであろう惨劇から目を背けて、軽口を叩き合う。

 そして再度、沈黙が場を支配する。

 

 少しして、無言に耐えきれなかったのか木蔦が「それで──」と口を開いた。

 

 

「わざわざこんなところまで呼び出して、何の用ですか?」

 

 

 現在、私と木蔦は都市を取り囲む壁の頂上から戦闘の経過を見守っていた。

 本来なら、司令塔の彼女はここにいるべきではない。だが、一つ言いたいことがあったため、()()()()()()()()()()序盤に場を設けてもらったのだ。

 

 私の役目は、魔人の討伐。

 その悲願を達成するためには、魔力を温存する必要があった。そして、それが出来ているのは……木蔦のお陰だった。

 非効率的なのは分かっている。魔力を温存したって勝てる相手ではないことも。

 

 だが、それでも一度きちんとお礼を言いたかった。彼女とは……木蔦は知らないだろうが、自分の固有魔法が死に戻りだということさえ知らなかった頃からの付き合いだったから。

 

 

「ありがとう、木蔦」

 

「……何がですか?」

 

「第三波の最初の戦闘には参加しないで魔力を温存したいなんて、君にしか頼めなかった」

 

「ああ……その件ですか。いえ、必要なことです」

 

「それでもだよ」

 

 

 少しでも戦力が欲しいこの状況。

 自分1人ではこの意見を通すことは出来なかったと思う。無理矢理という選択肢もあったが、それが原因で何かのすれ違いがあってしまっても困る。

 

 だから、木蔦の協力を得られたのは運が良かった。

 実は、この厳しい情勢下で雪乃の裏切りによって崩れた信頼を取り戻し、その上戦闘の基盤が整えることができたのは彼女の手腕によるものが大きい。

 そのため、木蔦は都市の住民からの信頼に厚く、魔法少女たちにも頼られる存在となっていた。その上、未来予知という固有魔法も有するのだ、今の都市に木蔦の意見に反対する人はいなかった。

 

 今回のループでは彼女とあまり関わりはなかったが、彼女は私に色々と良くしてくれている。勿論、彼女からしてみれば見えた未来の中から最上の結果を掴み取っているだけなのだろうが。

 

 何はともあれ、順調だ。

 第二波の終わり方が最悪だっただけに、上手く行き過ぎていると感じられる。

 このままいけば何もかもが上手くいって、今度こそ魔人を討伐することができるのではないかと一瞬思い──楽観的な自分の思考に、思わず自嘲する。

 

 順調なわけがない。

 そもそもの前提が……一番肝心なピースが欠けているのに、この作戦が上手くいくはずがない。

 これは、敗北の決まった負け試合だ。

 

 雪乃が正気を取り戻し、私たちに支援魔法をかける。

 なぐさと火憐が魔人の周囲の魔獣を相手にし、他の邪魔が入らない完璧なフィールドを作る。

 そして私と結衣ちゃんの2人で魔人と戦う。

 私が何をしてでも隙を作り、結衣ちゃんの固有魔法を叩き込む。

 

 それでやっと、可能性が出てくる。

 だが、魔人討伐に必要なメンバーが揃っていないのに……もう揃うはずがないのに、何が順調だ。

 

 ネガティブな思考に頭が埋め尽くされそうになり……しかし、思いとどまった。

 私はもう後ろを振り返ることはしない。

 そう決めたんだ。

 

 だから、例え負け試合だったとしても全力で足掻いてやる。

 

 

「そろそろ私は行くよ」

 

「はい、健闘を祈っております」

 

 

 少し歩みを進めて……ふと一つ、気になったことがあった。

 

 

「ねえ、木蔦。私があいつに勝てる確率ってどれくらいかな?」

 

「……! そんなことまで知ってるんですね……いえ、勝てる確率ですか」

 

 

 木蔦は少し躊躇うような顔をして──しかしすぐに覚悟を決めたように言った。

 

 

「0.01%未満です」

 

「そっか」

 

「はい」

 

 

 私たちの間にそれ以上の会話はなかった。

 お前では絶対に勝てないと言われたのに等しいのに、ひどく落ち着いていた。

 ああ、やっぱりかと思うと同時に、0じゃなかったんだという驚きがあった。

 

 そうして、私は木蔦に背を向け──()()()()()()()()()()

 

 

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