【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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亀更新で申し訳ない……
後数話で完結する予定なので読んでくれると嬉しいです。


18

 

 前方に足場はない。

 当然、私の身体は宙に投げ出され、すぐに自由落下を始める。落ちて、落ちて、落ち続ける。

 このまま何もせずにいたら、地面に叩きつけられて文字通り粉々になるのだろう。

 

 一瞬、それもいいなと思った。だが、すぐに考えを改める。

 私の注意は一点に注がれていた。

 馬鹿馬鹿しいほどの魔力の奔流、その発生源へと。

 

 第三波の前哨戦は終わった。

 ここからが本番だ。

 

 覚悟は決めても、震える手は止まらない。トラウマが蘇り、たった今奮い立たせた気力を削いでいく。それでも……唇を強く噛み、手を握ることで無理やり震えを抑える。

 

 酷く長く感じる浮遊感と迫り来る地面は、どこかこのループの終わりが近づいてきていることを予感させると同時に、私の中から酷く懐かしい記憶を呼び覚ましていた。

 

 自分の固有魔法が死に戻りだということすら知らなかった自分の原点を見て──ああ、これが走馬灯か、なんて柄にもないことを思う。

 

 何度も死んでいるが、そんなもの見たことないのに。それに走馬灯を見るには我ながら気が早すぎるとも思った。

 

 それでも、その記憶の流れに私は身を任せる。

 

 始まりは、瓦礫の山。

 否、私の家があった場所だった。周りを見渡すと同じように崩壊した家があり、ここが壁の中だと言っても今の子たちには信じてもらえないだろう。

 そんなことを思って視線を戻せば、そこには2つの死体があった。いや……現れたと言った方がいいか。

 

 目の前で魔獣に貪り食われたのだから、まともに原型を留めているはずがないのに、それらは五体満足でそこにあった。

 

 この後、魔法少女として覚醒したのだから……そうか、あれ以来会ってなかったのか。

 

 感傷に浸っていると、視界が暗転する。もう少し浸らせてくれたっていいのにと思いながら目を開ける。

 次に見えたのは魔法少女になってすぐの場面、大人たちが表情を顰めてこちらを覗いているところだった。

 

 

『んあ? 固有魔法が使えないだと?』

 

『魔力も平均以下ですか』

 

 

 その表情は厳しく、口調も刺々しい。

 

 

『こりゃ、使えねぇなコイツ』

 

 

 親が死んだばかりの私にとってその言葉は毒だった。やめてくれと願ってもこれは私の記憶だ。身を任せるしかない。

 

 また場面が変わる。

 私は土手で項垂れていた。確か、親の仇を取ると意気込んで魔法少女になったのに初日で落ちこぼれ認定されたから不貞腐れていたのだ。

 

 新米魔法少女は最初の一年、先輩魔法少女とペアを組んで付きっきりで稽古をつけてもらうのが慣わしだが、「落ちこぼれ」を好き好んで選ぶ人なんていなかった。

 つまるところ、私は途方に暮れていた。

 

 そこで、私は出会う。私と同じ落ちこぼれの魔法少女に。

 

 

『ねぇ、キミも固有魔法使えないの? 私もそうなんだ! 良かったら話さない?』

 

 

 初めに声をかけたのは私からだった。

 その少女の酷く暗く、まるでこの世の終わりを見てきたかのように全てを諦観する灰色の瞳に惹かれたのだ。或いは、ただ単に同じ境遇のもの同士傷を舐め合いたかったのかもしれない。

 

 

『……』

 

 

 果たして、返事はなかった。

 その少女は煩わしそうに私を一瞥し、立ち去っていく。

 

 また場面が変わる。

 

 これは……翌日の同じ時間帯だろうか。

 目の前にはまたあの少女がいて、私が彼女にしつこく話しかけている。

 

 次の日も、その次の日も私は少女に話しかけた。

 すると、少女は逃れられないと見るや、口を開いた。

 

 

『私、固有魔法持ってますよ』

 

 

 この時、私は裏切られたような気分だった。

 何せお仲間だと思って親近感を抱いていた相手が自分が憧れる()()の魔法少女だったのだから。

 それも、後から知ったが未来予知なんていう唯一無二の能力だった。

 

 視界が暗転する。

 それから暫くは暗闇の中に取り残され、ただひたすらに虚空を見つめていた。

 一瞬のようにも、永遠のようにも感じられる時間を過ごし、また世界に彩りが戻る。

 しかし、今度は先程よりも視界がクリアだ。何やら気分も良い。これは──

 

 

『永愛さん! ごめんなさい、待ちましたか……?』

 

 

 自分を呼ぶ声に反応して振り返ると、そこには可愛らしく着飾った少女がいた。少女の口調は変わらないが、最初に会った時と比べ、雰囲気は大分砕けている。

 

 

『ううん、今来たとこだよ』

 

 

 本当は大分前に来ていたけれど、気分の良い私は、そんな定型文(決まり文句)を返す。これは確か彼女とセントラルエリアへショッピングをしに出かけた時のことだろうか。

 思い返せば、この頃が1番楽しかった。

 魔法少女としては成功できなかったが、親の仇を取るなんていう当初の目的すら忘れてただ少女との関係を楽しんでいた。

 

 しかし、そんな幸せがこの世界で続くはずもなく。

 また場面が変わる。

 

 今度は熱く……ヒリヒリとした痛みが全身を襲う。辺りは炎に包まれ、視界もぼやけている。

 身体も……動きそうにない。恐らく、骨が数箇所折れている。

 

 これは、スタンピードの第一波。私の初陣だった。そしてそれにも関わらず人々を助けようと突っ走った私は──当然、死にかけていた。

 

 そんな満身創痍、悪く言えば死にぞこないの私を抱えていたのはあの少女だった。

 彼女は私を安全な場所へと避難させると、当時の私には見たことのなかった魔法の数々で私に傷をつけた魔獣たちを殲滅していく。血と汗で視界がぼやけていたからよくは見えなかったが、恐らく基礎魔法だろうか。

 

 それが終わると、彼女は私の元へと戻ってきた。しかし、その時点ではもう手遅れだった。大分視界も狭まってきていて、身体は最早自分の意思ではぴくりとも動かせない。

 

 輪郭すら見えるか怪しい状況の中、最期に少女が何かを呟いてこちらに手を伸ばしてくるのが微かに見え──ぷつりと映像が途切れる。

 

 

「……ッ!」

 

 

 気づけば、けたたましい風切り音と目前には茶色い地面。

 反射的に魔力弾を地面に向けて放ち、他の魔法も併用してなんとか無事に着陸する。

 

 

「ふぅ……危なかったぁ」

 

 

 死因が落下死では洒落にならない。ひとまず、そんな馬鹿馬鹿しい死に方は回避できたようで安堵する。

 

 次に、周囲の状況……即ち、ある一点に向けて畏怖の表情を浮かべて硬直している魔法少女たちの姿を視認する。

 

 そしてその原因も。

 

 

「──やっと来たね」

 

 

 どうやら過去を懐かしむ時間はもう終わりのようだった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 なんの前触れもなく起こった変化。

 それは、魔法少女たちに利するものであったのだが、それでも理解のできない現象に思考が停止する。

 

 

「動きが、止まった……?」

 

 

 ──なぜ? 

 魔法少女の心の中を疑問が支配する。劣勢を強いられてきた魔法少女陣営は、突然糸が切れたように動かなくなった仇敵たちの姿に困惑を隠せなかった。

 

 侵攻が止まるのは有り難い。だが、これから一体何が起こるのだろうかという不安が彼女たちの心を蝕む。

 

 常は喧嘩してばかりの政府の魔法少女と野良の魔法少女もこの時ばかりは同じ疑問を抱いていた。

 しかし、状況を咀嚼する前に次なる異変が彼女たちを襲った。

 

 それは、金縛りであった。

 寒気、嫌悪感……そのような言葉では言い表せないような根源的恐怖が彼女たちの心を蝕む。そして、周囲の魔獣さながら身動きが一切できなくなる。

 

 本能はとうに警鐘を鳴らしている。しかし、何もすることは出来ない。

 それでも何とか、視線を悪寒の方向へと向ける。

 

 そこに居たのは1人の青年であった。

 何処にでもいるような、ある一点を除けば極平凡な外見の青年。

 

 しかし、その一点が生命としての格の違いを象徴している。

 それは、角だった。神話にて語られるかのバフォメットのような山羊角。それが青年の頭上に生えていた。

 

 彼我の距離は数キロ以上はあるはずなのに、それでもその生物の気分次第で次の瞬間には自分たちを物言わぬ肉塊に変えられるだろうという予感……否、確信があった。

 

 その時──

 

 

「──やっと来たね」

 

 

 絶望に呼応するかのように空から1人の少女が降りてくる。

 その着地は少々荒々しかったが、そんなことを気にする余裕のある者はこの場には居なかった。

 

 

「【支援魔法(アイギス)──】」

 

 

 その少女──永愛が言葉を紡ぐと、石のように重く動かなかった身体がその軽さを取り戻す。

 それどころか以前よりも軽く、力が漲ってきているようにも思える。

 

 

「敵が動いてない今がチャンスだ!」

 

 

 勇敢な誰かが叫んだ。

 確かに、何故か分からないが今魔獣はその動きを止めている。あの青年の姿をした怪物のことさえ除けば千載一遇の好機だった。

 そのことに気づいた魔法少女たちは微かに残っていた勇気と使命感を持って再度自身を奮い立たせる。

 

 あの怪物はこの少女が何とかしてくれるだろう──そんな無責任な希望的観測を胸にして。

 

 そして当の永愛もまた、これは自分の仕事だとでも言うように不敵な笑みを浮かべる。

 もうそこに憂いはなかった。

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