【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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 無限にも思える程挑戦し、その全てで敗北してきた。どんな好条件でも、どんなに勝てると思っても、結果的には勝ち筋の一つすら掴めなかった。

 故に、一度は戦うことすら諦めた。無限にこの時間の牢獄に閉じ込められることを良しとした。

 

 でも今、私はその相手に単身で立ち向かうというかつてない程の愚行をなそうとしている。

 

「ふふっ」

 

 何故だろう。

 恐怖からか、それともこれが最期のチャンスになるだろうという予感があるからか、思わず笑みが溢れる。

 状況は依然として最悪なのに、妙に清々しい気分だ。吹っ切れたとでも言うのだろうか。

 

 ──或いは、心の何処かで結衣ちゃんが助けに来てくれるとでも思っているのか。

 

 まあ、いい。

 

 取り敢えず、大前提としてなるべく都市から離れた場所で戦いたい。奇跡的にヤツに勝てたとしても、都市が崩壊してたら元も子もない。

 

 

「【支援魔法(アイギス)──

 

 

 だから、初撃は此方がもらうことにした。

 

 

 ──限界突破(リミットブレイク)】」

 

 

 この状態は魔力消費が激しく、おまけに魔力回路までに強い負担がかかる。つまりそう永くは持たない。

 だから、初めから本気の本気……全力全開(フルスロットル)で魔人の首を狙うしかない。

 

 そう決意して地面を軽く蹴れば、魔人との距離は一瞬で縮まり……更に少し追い越して、私は魔人の背後に躍り出た。

 

 その勢いを殺さずに、しかし左足で踏ん張りながら右足をスライドさせることでその方向をずらす。

 その先には勿論、魔人がいる。

 

 限界突破状態の全速力、全体重、力、全てを破壊力にのみ特化させた、第二波のあのドラゴンでさえも直撃すればただでは済まないと確信出来るほどの一撃。

 

 しかし。

 

 

「……やっぱり、だめか」

 

 

 直撃したはずだ。

 やつに斬りかかる刹那、あいつは舐め腐った態度で此方を見ていた。防御する素振りも見せなければ、避ける素振りすらない。追撃などもっての外だ。

 

 なのに、手応えは一切無かった。

 いつもと同じだ。やっぱり、私の攻撃は通らない。

 

 

「おやおや、いきなり切りかかってくるとは感心しませんねぇ……折角作った服が破けてしまったではありませんか」

 

 

 そうこうしているうちに粉塵が晴れる。やつの金属を爪で引っ掻いたような歪な声と、醜悪に歪んだ顔が露わになった。

 

 魔人は、傷ひとつない状態でその場に立っていた。衣服は破れているが、その肉体には届いていない。無傷だ。そして、その衣服でさえも魔力によって瞬時に修繕される。魔獣と同等の存在である魔人にそんなものを着る文化などないはずなのに。

 

 ああ、本当に。性格が悪い。こいつは私を痛ぶって遊ぶつもりだ。魔獣と違って高い知性があるから厄介だ。だが、それもこの状況では好都合。

 此方を舐めていると言うのなら、その慢心すら利用して殺してやる。

 

 そう自分を奮い立たせ、大剣(クレイモア)を構え直すと……魔人はこちらの弱い心を見通すかのようにニヤリと顔を歪めた。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 初撃──永愛の【限界突破(リミットブレイク)】まで使用した全身全霊の不意打ちから始まった永愛と魔人の戦いは、魔人がその場から一歩も動いていなかったのにも関わらず終始永愛の劣勢であった。

 

 完璧と言えるレベルの太刀筋に、緩急つけた意表をつくタイミング。時には目眩しや不意打ちといった姑息な手。

 

 永愛は持てる全ての技術、そして経験を総動員し、この戦いに臨んだ。

 しかし、その全てが魔人に一切の傷を付けることなく、時間切れ(タイムオーバー)となった。

 

 

「クソッ……!」

 

 

 力が急激に抜ける感覚と、急降下する高揚感。

 突然の負荷に、思わず膝をついてしまう。【限界突破】の代償だった。気付かぬうちに、魔法の効果が切れていたのだ。

 

 これではもう、満足に動くことは出来ない。そしてそれを察したのか魔人は口を開いた。

 

 

「では、今度は私の番ですね。“ニンゲン”の言葉に準えるのであれば……“シューティングゲーム”とでも言ったところでしょうか。勿論、的は貴女です」

 

「──っ!」

 

 

 膝から崩れ落ちた永愛を見下ろした魔人は、下卑た笑いを口に浮かべながら徐に腕を動かす。

 魔人の周囲に生まれたのは、四の魔弾だ。だが、その一つ一つが並の魔法少女の保有魔力量を優に超えている。少しでも触れた時点で、身体に穴が開くことを覚悟した方がいい。

 

 奴がこれをシューティングゲームと称したように、魔弾の数は時間経過と共に倍々に増えていく。何処まで数を増やせるのかは分からないが、少なくとも私は二五六の魔弾に圧殺されたことがある。際限はないと思った方がいいだろう。

 

 つまり、これは満身創痍の私への死刑宣告だった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「あ“あ”あ“〜! 良い表情ですよ永愛さん!」

 

 

 そんな絶体絶命の永愛の様子を遠くから観察しながら、恍惚とした表情を浮かべる影が一つあった。

 本来なら都市で指令を飛ばしているはずであったその少女はしかし、その責務を放棄して自身の愛する少女の死に様を目に焼き付けようとしていた。

 

「うううー! もっと近くで見たい! 真横から覗き込むように! 息がかかるくらいの距離で! あーでもこれ以上近づくと魔人にバレちゃうんですよねぇ」

 

「う……」

 

 まさに今嬲り殺しにされようとしている永愛を見て絶頂している少女──木蔦の傍らで呻き声が漏れる。

 

 先程とは一転。愉しみの邪魔をされた木蔦は無表情でその音の発生源を見下す。

 

「はぁ……まだ生きてたんですか。どうせ都市は崩壊、全員死ぬんですからそろそろ楽になったらどうですか?」

 

「こ、ちょう……なんで……」

 

 

 そこに倒れていたのは都市の中でも最強格とも言われる評議会の魔法少女の1人──つまり、木蔦の同僚だった。勇敢にも永愛へと加勢しようとしていたから、殺したのである。いや、殺した筈だった。

 

 よく見てみると少女の首は歪な方向へと曲がっており、身体には何箇所か致命傷となる傷が刻まれている。本来ならすでに死んでいるはずの状態。幸にも不幸にもこうして生きながらえているのは魔法少女としての実力が影響しているのだろう。

 

 

「うへ、よくそんな状態で生きてますね。その根性に免じて教えてあげましょうか。折角いいところなのに、邪魔されたら困るんですよねー。と言っても、私でさえあの子の力を借りなければ勝てなかった相手に貴女程度が加わったとしても結果が変わるとは思えないですがね、要は念のためです」

 

「っ! 許さな──

 

 

 ──バン! 

 

 

「だから、邪魔しないでください……って、もう聞こえてないですよね」

 

 

 手を銃の形にした木蔦は、また邪魔されては堪らないと今度は念入りに、それが原型を留めなくなるまで魔弾を放った。

 そうして、今一度思考する。

 

 他の魔法少女たちは魔獣への対処で忙しく、手は出せないだろう。余裕のありそうな奴はさっきと同じように処理した。唯一の懸念点は、あの少女──佐々木結衣ただ1人だった。

 

 しかし、その結衣でさえもこの世界線では戦いから逃げ出し、自宅に引きこもっていると聞いた。例え土壇場で戦いに参戦したとしても、戦い詰めだったあの時でも相打ちが精一杯であったのに、今回それを超えるなどとは考えられなかった。

 

 そんな奇跡、この世界には存在しないのだ。

 

 

「よし、これで大丈夫ですね!!」

 

 

 再度にこやかな笑顔を浮かべた木蔦は、今も嬲られているであろう永愛へと視線を戻し──

 

 

「……は?」

 

 

 困惑した。

 何故……何故お前がそこにいる? 

 

 つい今さっき大丈夫だと、そう安心したというのにいざその姿を目に映すと木蔦の心は揺れる焔のように騒めいていた。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 四、八、十六、三二と……ここまでは余裕を持って──いや、最後危ない場面はあったが、何とか無傷で耐えることができた。

 

 でも──

 

 

「中々粘りますね……しかし、もう体力が持たないでしょう。さあ終わりです、魔法少女よ」

 

 

 ニヤニヤと加虐的な笑みを浮かべた魔人の周囲を先ほどの倍、六四の魔弾が浮遊する。

 奴の言うようにこれ以上は体力が持たない。せめて回復役(ヒーラー)の魔法少女がいれば後遺症が残るだろうが、また【限界突破】を使えるのに……と考えて、頭を振った。回復役がいた所で、魔人への有効打がない以上この状況は変わらない。

 

 ここで終わりか。

 まあでも、今回は痛くなさそうだから良さそうだ。またすぐに再挑戦って訳にはいかないだろうけど、なんとか結衣ちゃんを見つけて、それで──

 

 飛来する魔弾がスローモーションのようにゆっくり、長く感じられる。それでもやがて、視界は全て魔弾に埋め尽くされた。

 

 しかし、魔弾の壁が私を押し潰す刹那──

 

 

「──させませんっ!」

 

 

 眩い光が魔弾を押し戻して、消滅させた。

 そしてそれを成した少女が空から降りてくる。以前見た時の無気力さはなく、両の瞳は溢れんばかりの輝きに満ちている。

 

 

「ごめんなさい、遅くなりました」

 

 

 その光景は奇しくも同じだった。

 荒野で窮地に陥っているのが私で、助けに来てくれたのが彼女と、立場が逆転してしまってはいるが。

 

 

「……ほんと、待ちくたびれたよ結衣ちゃん」

 

 

 死と絶望の入り混じった淵で、私と結衣ちゃんは再会した。

 

 

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