【完結】ループ系魔法少女(n周目)   作:青のり

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 不意に地面が揺れ、直後──遠く……旧首都圏の中心から何かが移動する音が聞こえてきた。

 一つや二つではなく、もっと大量の移動音。まるで大型生物の群れが向かって来ているかの様な振動。

 ……間違いない。これは。

 

 

「スタン、ピード……」

 

 

 想定外の出来事に、頭が真っ白になる。

 だが、大丈夫……大丈夫なはずだ。過去のループでも火憐さえいればこの第一波は止められた。今回はそれが少し早まっただけ。だから、何も問題ない。

 

 焦る心を鎮め、火憐の方に視線を向けて──

 

 

「……え?」

 

 

 いない。さっきまで隣にいたはずなのに。

 視線を動かすと、後ろにいた結衣ちゃんが一方を指していた。

 

 

「火憐さんはあっち行っちゃいました……」

 

 

 その方向に視線を動かす。

 

 ……いた。多分、振動の中心地に向かっている。そうだった。火憐はこういうやつだった。好奇心が人一倍強く、考えるよりも先に行動する。生粋の戦闘狂と言っても良い。

 

 

「ああ……もう。火憐の援護に行こう、結衣ちゃん、なぐさ」

 

 

 後ろの2人に声をかけて火憐を追う。

 少しして追いつくと、火憐は狼型の魔獣の群れに囲まれていた。本隊まで到着する前に足止めを喰らっていたといったところだろうか。火憐なら大丈夫だろうが、一応魔力弾で魔獣を吹き飛ばす。

 

 

「わっ……ありがとう、永愛。1人で飛び出して来たは良いけど詠唱してる間無防備になっちゃうからどうしようかなって思ってたんだよねー」

 

 

 ……バカだ。調子が狂う。

 

 

「っていうか、ボクの魔法に似てない? それ」

 

 

 参考にしているのだから、それはそうだ。まあ、そんなことは勿論言わないけど。

 顎に手を当てて「でも詠唱ほとんどないし、威力も弱いしなぁ」とボソボソと呟いている火憐を適当にあしらって引き留めていると、やっと結衣ちゃんとなぐさが追いついてきた。

 

 

「……状況は?」

 

「まだ見えないけど恐らく多数の魔獣が接近中。私たちでこれを撃退する」

 

 

 答えると、なぐさは顔を歪めた。

 

 

「っ! そんなの無理に決まってる。都市に知らせるのが最優先よ!」

 

「多分、間に合わないよ。それに──

 

「それに?」

 

 

 結衣ちゃんが頭の上に疑問符を浮かべて聞いてきた。一拍おいて答える。

 

 

「ここには、火憐がいる。そして火憐ほど対多数戦闘に精通している魔法少女はいない……そうでしょ?」

 

「君とは初めて会ったはずなのになんで知ってるのかなぁ……ま、良いや! うん、その通りだよ」

 

 

 なぐさはまだ納得いってないようだったが、火憐を囲むように位置取る。火憐は早速詠唱を開始し、私たち3人は本隊はまだ来ていないにせよ、元々ここにいたのか、それとも大群の行進によって住処を追われたのか時折襲いかかってくる魔獣を火憐の下まで届かせないよう処理する。

 

 数体の魔獣を倒し、最後に残った熊型の魔獣も【造形(モデライズ)──大剣(クレイモア)】で叩き斬り、ひと段落ついたところで結衣ちゃんの方を見る。

 

 

「──【ホーリーレイ】!」

 

 

 ピンクのステッキから放たれた光り輝く光線に少しでも掠った魔獣はその部位から光に侵食され、完全に消滅する。

 

 中には耐久力の高い魔獣もいた。だが結衣ちゃんの魔法の前では他の魔獣と等しく一様に倒れ伏す。

 

 効果は絶大だ。

 これでいて魔獣にしか効かないのだと言う。これを見て確信した。

 

 やっぱり結衣ちゃんは……この世界の主人公だ。

 彼女が魔人を倒して世界は救われる。

 

 だとしたら、私にすべきことはただ一つ。やっと見つけられた可能性に、希望に……私の心は晴れやかな気分だった。

 

 だから、この時の私は気づけなかった。背後で詠唱している火憐が苦悶の表情を浮かべていたことを。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 いよいよ第一波の本隊が視認できる距離まで近づいてきた。それに伴って、襲いかかってくる魔獣の数も増えてくる。

 

 とはいえ、火憐の詠唱も8割は終了したはずだ。そう思って振り返って──

 

 

「かれ……ん?」

 

 

 絶句した。

 私の目に映った火憐の身体は全身が爛れ、酷いところは炭化すらしていた。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 そんな、まさか──

 

 

「もしかして……誰かに支援魔法をかけられた、の?」

 

 

 そう問いかけると、火憐は苦しげな表情のまま、少し驚いた顔をした。

 

 

「そう、だよ……よく分かったね。親友が頑張れって、かけて……くれたんだ……」

 

 

 最悪だ。当たって欲しくなかった。

 この現象に心当たりがあったからこそ。だが、無情にも火憐の答えと状況はこれから起こる悲惨な最期を意味していた。

 

 ──魔力暴走。

 

 火憐の固有魔法は元々強力で、沢山の魔力を必要とする。そしてそれは火憐の制御出来るギリギリ……つまり、奇跡的なバランスで成り立っているのだ。

 

 だが、そんな火憐が支援魔法を……しかも、恐らく評議会に出席できるレベルの魔法少女の魔法を受けている。そうなれば火憐の扱える魔力のキャパシティを優に超えてしまう。そしてそれに気づかずに火憐が魔法を使えば、火憐には制御できない。

 

 上位の魔法少女同士はその強力さ故、共闘する機会が少ない。だから分からない。善意の支援魔法も組み合わせによっては……劇薬と化してしまうことを。

 

 

「っ! 今すぐ詠唱をやめてッ! このままだとあなたが死んじゃう!」

 

 

 私の叫び声で、結衣ちゃんとなぐさも気がつく。だが、これでは彼女たちにトラウマを植え付けるだけではないか。

 

 

「君は……優しいんだね。評議会の任務だったとはいえ疑ってごめん。でもね、どっちみちあの魔獣の大群をやっつけないとみんな死んじゃうんだ……だったらもう、無理矢理にでも制御するしか、ないじゃん」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 足の力が抜けて、地面に座り込む。

 これを……火憐のこの姿を見たのはこれで2回目だ。1回目は偶然。知らなかった。だけど今回は……気付けなかった私のミスだ。

 

 

「あはは……どんどん身体が動かなくなって……それに、熱さももう感じなくなってきた……」

 

 

 火憐の皮膚が黒く焦げて、ポロポロと落ちていく。詠唱をしている間もお構いなしに炎は火憐の小さい身体を焼き、火の勢いは衰えるどころか段々と強くなっていく。

 

 

「ああ、そうだ……あの子には、黙っといて。ボクがこうなったのが自分の支援魔法が原因だなんて知ったら、きっとあの子は自分を責めるから……だから……」

 

 

 頷くしかなかった。

 それを見た火憐は、満足そうに頷いて最期の詠唱を始める。

 

 炎に焼かれながらも確実に言葉を紡ぐ火憐の痛々しい姿に思わず目を背けようとして……そんな無責任なことはできなかった。

 彼女の最期を、目に焼き付ける。もう決して忘れないように。

 

 そして、次の瞬間──

 

 

「────【爆発(バースト)】」

 

 

 ──閃光が煌めいた。

 

 私は見ていることしか出来なかった。どんなに知識や経験があったとしても、もう手遅れだった。私は自分の無力さを呪った。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 同時刻、魔法少女管理局本部──2階。

 2人の少女が会話をしていた。

 

 

「ああ、そういえば。この間はありがとうございました、雪乃さん」

 

「ううん、木蔦さんこそありがとね、火憐ちゃんのことを気にかけてくれて。あんな性格だからみんなあの子のこと誤解してるけど、本当に良い子なんだ。だから木蔦さんも仲良くしてあげてくれると嬉しいなぁ……なんて」

 

「ふふ……そうみたいですね。今度会ったら話しかけてみます」

 

「わぁ……! ありがとう! きっと火憐ちゃんも喜ぶよ!」

 

「まあ、次会った時に判別がつけばの話ですが」

 

 

 

 

 

「ん? 何か言った?」

 

「いえ、火憐さんとは仲が宜しいのですね」

 

「うん! 火憐ちゃんとは小さい頃から一緒でね! 魔法少女として一緒に任務に行くことはあんまりないんだけど、火憐のことなら何でも知ってて……例えば、小学校の頃だって──」

 

 

 少女は目を輝かせて自身の幼馴染について語る。その幼馴染の命が今、文字通り燃え尽きようとしていることなどつゆ知らずに。そしてまた、目の前で話を微笑ましげに聞いている少女が奥底に隠し込んだドス黒い悪意にも気づけない。

 

 

「あ……ご、ごめん! 長かったよね……」

 

「いえ、大丈夫ですよ。……火憐さん、無事に帰ってくるといいですね」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 しかしその願いは届かず、後日──少女は変わり果てた姿の幼馴染と再会することとなる。

 

 

 




最初は火憐が苦しむ描写をねちっこく書いてたけど修正していったらなんやかんやマイルドになってしまった。
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