艦これキャラの登場するモンスター・パニック作品を作ってみた   作:垂直離着陸式扇風機

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第十一話「ぶん投げも手段の一つなんだよ」

 「グロスマン」を迎撃(げいげき)する予定(よてい)だった艦隊(かんたい)は攻撃(こうげき)を避(さ)けながら接近(せっきん)を続(つづ)け、ようやく目視(もくし)ができる距離(きょり)にまでたどり着(つ)いた。上空(じょうくう)からではなく、横(よこ)から見(み)るその姿(すがた)は──金属製(きんぞくせい)の皿(さら)四枚(よんまい)を逆(さか)さにして重(かさ)ねたようだとしか言(い)いようがなかった。

 

「Hmm(ふーむ)……実物(じつぶつ)を目(め)にしても、今(いま)一(ひと)つ戦(たたか)っているという実感(じっかん)がないですネー」

 

 腕組(うでぐ)みをした金剛(こんごう)が考(かんが)え込(こ)みながら言(い)った。

 

「そうね(C'est juste)。節分(C'est tout bon)の時(とき)のほうが、よほど攻撃(こうげき)されていたという気(き)がするわ」

 

 リシュリュー(Richelieu)の返答(へんとう)は、冗談(じょうだん)なのかどうか判断(はんだん)がつきにくい。

 

「それで、どれくらいの距離(きょり)で砲撃(ほうげき)を始(はじ)めましょうか? 」

「深海棲艦(しんかいせいかん)と戦(たたか)う時(とき)より近(ちか)づくつもりネー」

「わかったわ(Oui)。ところで……」

 

 リシュリュー(Richelieu)は金剛(こんごう)の返事(へんじ)にうなずくと周囲(しゅうい)を見渡(みわた)し、

 

「本当(ほんとう)に今(いま)のままでいいのかしら? 」

 

 と、言(い)って小首(こくび)を傾(かし)げてみせる。

 

 リシュリュー(Richelieu)がそう言(い)いたくなるのもわからないではない。「グロスマン」の攻撃(こうげき)がやんだのをいいことに、羽目(はめ)をはずしている艦娘(かんむすめ)がそこかしこで自由(じゆう)に振舞(ふるま)っているのだ。

 

 加古(かこ)はと言(い)えば、

 

「おーし、そのまま。じゃ、撮(と)るぞ! 」

 

 と、青葉(あおば)のカメラで本人(ほんにん)の背景(はいけい)に「グロスマン」を入(い)れて撮影(さつえい)しているし、その青葉(あおば)は青葉(あおば)で、

 

「いやー、やっぱり自分(じぶん)が撮(と)られるのには慣(な)れないですね……あ、じゃあ次(つぎ)は那珂(なか)ちゃんお願(ねが)いします」

 

 などと言(い)って、加古(かこ)からカメラを受(う)け取(と)りながら記念撮影(きねんさつえい)を続(つづ)けている。

 

「はーい! 『歌(うた)って踊(おど)れて戦(たたか)いもできるアイドル』のイメージだね! カッコカワイク決(き)めちゃうよ! 」

 

 写真(しゃしん)に映(うつ)る気(き)でいる那珂(なか)のほうがいつもどおりに見(み)えるのは、気(き)のせいではないように思(おも)える。

 

「あっ! 那珂(なか)ちゃんが終(お)わったら、次(つぎ)は由良(ゆら)ちゃんの番(ばん)だからね! 」

「あ、はい! 第四水雷戦隊(だいよんすいらいせんたい)、お預(あず)かり……あっ! ……えっ? 由良(ゆら)も撮影(さつえい)するんですか!? 」

 

 由良(ゆら)は手(て)を大(おお)きく振(ふ)っている那珂(なか)に条件反射(じょうけんはんしゃ)で返答(へんとう)しかけ、予想(よそう)もしていなかったことを言(い)われたことに慌(あわ)てふためいているし、それを見(み)たデ・ロイテル(De・Ruyter)は、

 

「やっばーい。いくらなんでも自由(vrijheid)過(す)ぎー」

 

 と、大笑(おおわら)いしている。

 

 一方(いっぽう)で駆逐艦(くちくかん)たちはと言(い)うと、

 

「じゃあ、もう一回(いっかい)確認(かくにん)するよ。魚雷(ぎょらい)は射程(しゃてい)の半分(はんぶん)まで踏(ふ)み込(こ)んでから発射(はっしゃ)……わかった? 」

 

 と、全員(ぜんいん)に確認(かくにん)をうながす白露(しらつゆ)に、

 

「僕(ぼく)としては、白露(しらつゆ)が一番(いちばん)を意識(いしき)し過(す)ぎて早撃(はやう)ちしないか心配(しんぱい)なんだけどな」

 

 と、時雨(しぐれ)が茶々(ちゃちゃ)を入(い)れていた。

 

「時雨(しぐれ)えー。そういうのは、あたしを差(さ)し置(お)いて一番(いちばん)を決(き)めそうな村雨(むらさめ)に言(い)いなさいよ」

「ちょっ、いきなり村雨(むらさめ)に話(はなし)を振(ふ)らないでよ。そりゃあ、だいぶいいとこ見(み)せようとは思(おも)ってるけど! 」

 

 村雨(むらさめ)は負(ま)けじと白露(しらつゆ)に言(い)い返(かえ)す。

 

「ふっふ~、一番(いちばん)に撃(う)つのは皆(みんな)に譲(ゆず)るっぽい? でも、一番(いちばん)命中(めいちゅう)させるのは夕立(ゆうだち)っぽい! 」

 

 夕立(ゆうだち)もさりげなく対抗心(たいこうしん)をむき出(だ)しにしている。

 一触即発(いっしょくそくはつ)と言(い)ってもいい雰囲気(ふんいき)だ。

 

 その全(すべ)てを目(め)に収(おさ)めた金剛(こんごう)が、

 

「いざとなったらキリキリ働(はたら)いてもらうから、いいのデース」

 

 と、全(すべ)てをあきらめたように肩(かた)をすくめて言(い)ったためにリシュリュー(Richelieu)は、

 

「わぁ(Oups)、クワバラクワバラ」

 

 と、苦笑(くしょう)しながら小声(こごえ)でつぶやくしかなかった。

 

 油断(ゆだん)をしているつもりはないし、不安(ふあん)を感(かん)じていないわけでもない。ただ、それを口(くち)にしても仕方(しかた)ないと思(おも)いつつ、心(こころ)から排除(はいじょ)もできない。

 必要(ひつよう)以上(いじょう)に強(つよ)がりを言(い)い、やたらと気負(きお)ったかと思(おも)った途端(とたん)に本音(ほんね)を漏(も)らす。そのような落(お)ち着(つ)きのない状態(じょうたい)が続(つづ)いている……ということにしておけば、たぶん問題(もんだい)ないだろう。

 

 それもあと少(すこ)し……あと少(すこ)しで、攻撃(こうげき)予定(よてい)の距離(きょり)だ。

 

 - - - ( ‘ ω ’ )

 

 飲(の)み込(こ)まれた仲間(なかま)が、怪物(かいぶつ)の腹(はら)の中(なか)でなおも砲撃(ほうげき)を続(つづ)けていると知(し)った重巡(じゅうじゅん)ネ級(きゅう)と離島棲姫(りとうせいき)は、怪物(かいぶつ)の腹(はら)に走(はし)り寄(よ)って艤装(ぎそう)の深海魔獣(しんかいまじゅう)を食(く)いつかせた。重巡(じゅうじゅん)ネ級(きゅう)は、さらに背中(せなか)から生(は)えている主砲(しゅほう)の一本(いっぽん)をもぎ取(と)って、魔獣(まじゅう)がつけた傷跡(きずあと)を突(つ)き刺(さ)そうとしているが、皮膚(ひふ)には歯形(はがた)がついているだけで傷口(きずぐち)一(ひと)つ見(み)えない。

 

 怪物(かいぶつ)は、身(み)もだえしながら重巡(じゅうじゅん)ネ級(きゅう)たちを跳(は)ね飛(と)ばそうとする。ネ級(きゅう)たちはなおもしがみつきながら、腹(はら)を裂(さ)くか吐(は)き出(だ)させようとしている。

 

 戦艦(せんかん)レ級(きゅう)が立(た)ち上(あ)がった。

 

 皆(みんな)がそれぞれなりの戦(たたか)いをしている間(あいだ)も、レ級(きゅう)はずっとしゃがみ込(こ)んで両手(りょうて)で頬杖(ほおづえ)をついたまま、ずっと様子(ようす)を見守(みまも)っていた。ことここに至(いた)って、ようやくどうするかを決(き)めたらしい。

 

 足(あし)のしびれをとるつもりか、二度(にど)ほど軽(かる)く屈伸(くっしん)して駆(か)け出(だ)し、少(すこ)し進(すす)んだところでバランスを崩(くず)して宙(ちゅう)を飛(と)んだ──

 

 わざとではなかった。

 

 よりによってこのタイミングで、水面(すいめん)からわずかに顔(かお)を覗(のぞ)かせていた岩礁(がんしょう)につまずいてしまったのだ。教訓(きょうくん)を込(こ)めた笑(わら)い話(ばなし)のように。

 スライディングをする野球選手(やきゅうせんしゅ)や砂浜(すなはま)に刺(さ)した旗(はた)をつかもうとするビーチフラッグスの競技者(きょうぎしゃ)を思(おも)わせる恰好(かっこう)のまま、水面(すいめん)に体(からだ)の前面(ぜんめん)を突(つ)っ込(こ)ませた。

 

「うひ~~~」

 

 レ級(きゅう)は声(こえ)を上(あ)げて天(てん)を仰(あお)ぎ、次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)、顔(かお)の上(うえ)に影(かげ)がかかっていることに気(き)づいた。怪物(かいぶつ)のクチバシがすぐ目(め)の前(まえ)にあった。

 

 - - - ( ‘ ◇ ’ ) ゞ

 

 すれ違(ちが)いざまに「グロスマン」を攻撃(こうげき)した迎撃艦隊(げいげきかんたい)は、手痛(ていた)い反撃(はんげき)を受(う)けた。ハンマー投(な)げのように回転(かいてん)させて放(はな)たれていた砲弾状(ほうだんじょう)のものよりも小(ちい)さな弾丸(だんがん)が艦娘(かんむすめ)たちに発射(はっしゃ)されたのだ。

 それがぶつかるのとほとんど同時(どうじ)に、爆発(ばくはつ)のような衝撃(しょうげき)が起(お)きた。艤装(ぎそう)が防(ふせ)ぎきれる場合(ばあい)は破損(はそん)の状態(じょうたい)で残(のこ)るものの、それを超(こ)える衝撃(しょうげき)が加(くわ)わった場合(ばあい)は艤装(ぎそう)そのものが解(と)かれる。

 その時(とき)に生(しょう)じる現象(げんしょう)そっくりだ。

 

 青葉(あおば)、加古(かこ)、白露(しらつゆ)は艤装(ぎそう)の大半(たいはん)を失(うしな)い、傷(きず)も負(お)っている。他(ほか)の者(もの)も、被害(ひがい)の受(う)け方(かた)がいくぶんマシという程度(ていど)だ。

 

 それでも、すれ違(ちが)いでの戦闘(せんとう)だったために短時間(たんじかん)で済(す)んだのが不幸中(ふこうちゅう)の幸(さいわ)いだった。戦(たたか)いが長引(ながび)いていれば、それだけ損害(そんがい)が増(ま)しただろう──

 

「損害(そんがい)を与(あた)えられたのかな? 」

「どうだろう……よくわからない」

 

 互(たが)いの傷(きず)の具合(ぐあい)を確認(かくにん)しあっているうちに、二式飛行艇(にしきひこうてい)を先頭(せんとう)にした航空機(こうくうき)の部隊(ぶたい)が到着(とうちゃく)して、「グロスマン」に攻撃(こうげき)を始(はじ)めた。大量(たいりょう)の爆弾(ばくだん)と魚雷(ぎょらい)が放(はな)たれ、「グロスマン」の至(いた)る所(ところ)が炎(ほのお)と煙(けむり)で包(つつ)まれた。

 

 「グロスマン」からの反撃(はんげき)も凄(すさ)まじかった。艦娘(かんむすめ)たちに放(はな)たれた弾丸(だんがん)をさらに小(ちい)さくしたような対空砲弾(たいくうほうだん)が大量(たいりょう)にばらまかれたらしく、航空機(こうくうき)が十機(じゅっき)単位(たんい)で撃(う)ち落(お)とされた。

 

 ──妖精(ようせい)さんは死(し)ぬのか、という問(と)いに対(たい)しては、よくわからないとしか答(こた)えようがない。この世界(せかい)の妖精(ようせい)さんは“死(し)”という言葉(ことば)の意味(いみ)を理解(りかい)できないようだし、人(ひと)や艦娘(かんむすめ)は妖精(ようせい)さんを「いつの間(ま)にか消(き)えて、いつの間(ま)にか現(あらわ)れる」としか把握(はあく)できていない。

 過去(かこ)にも何人(なんにん)もが“その時(とき)”にどうなるかを調(しら)べようとしたものの、ことごとく失敗(しっぱい)に終(お)わっているそうだ。

 

 分身(ぶんしん)の術(じゅつ)、瞬間移動(しゅんかんいどう)などを唱(とな)える者(もの)もいれば、式神(しきがみ)や霊(れい)の類(たぐい)だと説明(せつめい)する者(もの)もいる。少数(しょうすう)ではあるが、別(べつ)の星(ほし)から出入(でい)りしているのだと主張(しゅちょう)する者(もの)もいるらしく、昔(むかし)より多種多様(たしゅたよう)の姿(すがた)の妖精(ようせい)が想像(そうぞう)され、語(かた)られてきている──

 

 「グロスマン」に損害(そんがい)を与(あた)えたことは確(たし)かだ。どの程度(ていど)かは見当(けんとう)がつかないが。

 ただ、今(いま)やるべきことはわかっていた。

 

「Hey(ヘイ)、墜落(ついらく)した妖精(ようせい)さんたちを救助(きゅうじょ)シマース。ついてきて(Follow me)! 」

 

 金剛(こんごう)は全員(ぜんいん)に指示(しじ)を出(だ)すと、鎮守府(ちんじゅふ)に連絡(れんらく)を入(い)れた。

 

 

 天幕(てんまく)の下(した)に設(もう)けられた臨時(りんじ)の作戦所(さくせんじょ)では、提督(ていとく)が迎撃艦隊(げいげきかんたい)から届(とど)いた電文(でんぶん)を読(よ)みながら考(かんが)え込(こ)んでいた。

 

「ん-……これ防(ふせ)げるのかなー」

「戦力(せんりょく)は、深海棲艦(しんかいせいかん)の姫級(ひめきゅう)換算(かんさん)で十体(じゅったい)くらいでしょうか……」

 

 先(さき)に電文(でんぶん)を読(よ)んでいた吹雪(ふぶき)が言(い)う。そのやりとりを聞(き)いて、

 

「あの、いつもはどうやって倒(たお)していたんですか? 」

 

 と、貴益(たかます)が尋(たず)ねた。

 

「え? 倒(たお)せてないよ? 」

「え? 」

 

 提督(ていとく)の予想外(よそうがい)の返答(へんとう)に、貴益(たかます)は思(おも)わず聞(き)き返(かえ)した。

 

「実(じつ)はこの鎮守府(ちんじゅふ)、深海棲艦(しんかいせいかん)のほうも重要(じゅうよう)だと思(おも)ってないらしくって……」

「別(べつ)の鎮守府(ちんじゅふ)に向(む)かうつ(・)い(・)で(・)に攻(せ)めてくる程度(ていど)だったんだ」

 

 吹雪(ふぶき)の言葉(ことば)をヴェールヌイ(Верный)が引(ひ)き取(と)って説明(せつめい)した。いや、今(いま)は髪(かみ)にヘアエクステがついていないから響(ひびき)か。

 

「救援(きゅうえん)は頼(たの)んだけど、間(ま)に合(あ)いそうにないなー」

 

 深刻(しんこく)この上(うえ)ない状況(じょうきょう)のはずなのだが、提督(ていとく)の口調(くちょう)はどこまでものんびりとしている。

 

「壁(かべ)か何(なに)かに隠(かく)れながら撃(う)ったら、いくらかマシかなあ……」

「司令(しれい)! 意見具申(いけんぐしん)していい? 」

 

 提督(ていとく)のつぶやきが終(お)わらないうちに天幕(てんまく)に艦娘(かんむすめ)たちが大勢(おおぜい)入(はい)ってきた。

 声(こえ)をかけて来(き)たのは朝雲(あさぐも)である。

 

「あれ? 待機(たいき)してる所(ところ)から出(で)て来(き)たの? 」

「はいー。来(き)ちゃいました~」

 

 山雲(やまぐも)が、提督(ていとく)以上(いじょう)に緊張感(きんちょうかん)のない口調(くちょう)で言(い)った。

 

「全員(ぜんいん)に知(し)らせることになるのならば、集(あつ)まってもいいのではないかと思(おも)いまして」

 

 遅(おく)れて入(はい)ってきた大淀(おおよど)の言葉(ことば)は、いささか言(い)いわけじみている。

 

「ねえ、待(ま)って! 私(わたし)の意見具申(いけんぐしん)を先(さき)に聞(き)いてほしいんだけど! 」

 

 朝雲(あさぐも)が、またいつものようなグダグダなやりとりになりそうなことを察(さっ)したのか、急(いそ)いで声(こえ)をあげた。

 

「あ、うん。どーぞ」

「そ、そう? じゃあ……」

 

 提督(ていとく)のゆるい返答(へんとう)に朝雲(あさぐも)は鼻白(はなじろ)んだかも知(し)れないが、少(すく)なくとも表情(ひょうじょう)には出(だ)さなかった。

 

「魚雷(ぎょらい)を装備(そうび)している私(わたし)としては、隠(かく)れて砲撃(ほうげき)するよりも走(はし)り回(まわ)って魚雷(ぎょらい)を撃(う)ちたいわ! 」

「うーん……。じゃあー山雲(やまぐも)もー、朝雲姉(あさぐもねえ)と同(おな)じで~」

 

 普段(ふだん)から朝雲(あさぐも)と仲(なか)の良(い)い山雲(やまぐも)が真(ま)っ先(さき)に賛成(さんせい)した。

 

「うん。駆逐艦(くちくかん)としてはともかく、朝雲(あさぐも)ならそうなるよね」

 

 ヴェール(Вер)……響(ひびき)の言葉(ことば)に吹雪(ふぶき)もうなずいている。

 

「提督殿(ていとくどの)、防衛艦隊(ぼうえいかんたい)の霧島(きりしま)から電文(でんぶん)であります。『しま(島) ひがし(東)のかげ(陰)にてたいき(待機)したし いどう(移動)のきょか(許可)をこ(請)う』、です」

「正面(しょうめん)から迎(むか)え撃(う)つのではなく、近(ちか)づいて来(き)たところに横(よこ)から突(つ)っ込(こ)む、ということでしょうか……」

 

 大淀(おおよど)が、神州丸(しんしゅうまる)の読(よ)みあげたメモをのぞき込(こ)んで言(い)う。

 

「んー……じゃあ、防衛艦隊(ぼうえいかんたい)に駆逐隊(くちくたい)が合流(ごうりゅう)するのは変(か)わらないとして、駆逐隊(くちくたい)の指揮(しき)は朝雲(あさぐも)にやってもらおーかー」

「あらー、朝雲姉(あさぐもねえ)の指揮(しき)で出撃(しゅつげき)できるんだ~」

「えっ!? そんな簡単(かんたん)に決(き)めるの!? 」

 

 提督(ていとく)の言葉(ことば)と大喜(おおよろこ)びする山雲(やまぐも)には、むしろ朝雲(あさぐも)のほうが驚(おどろ)いている。吹雪(ふぶき)とヴェ(Ве)……響(ひびき)はといえば、

 

「まあ、いいのではないでしょうか」

「那珂(なか)ちゃんさんや由良(ゆら)さんにいいとこ見(み)せるチャンス」

 

 と、朝雲(あさぐも)を応援(おうえん)する側(がわ)にまわっている。

 

「そ、そう!? ……ふうーん。ま、いいわ。私(わたし)がやったげる! 」

 

 朝雲(あさぐも)も断(ことわ)るつもりはなかったらしく、それ以上(いじょう)文句(もんく)を言(い)うことなく引(ひ)き受(う)けた。そして、

 

「ええっと……山雲(やまぐも)と、それから……全部(ぜんぶ)で九人(きゅうにん)? 」

 

 と、指(ゆび)を折(お)りながら小声(こごえ)でつぶやいていたが、不意(ふい)に顔(かお)をあげて提督(ていとく)に確認(かくにん)をとる。

 

「え? えーと……」

「朝雲(あさぐも)、山雲(やまぐも)、吹雪(ふぶき)、響(ひびき)……タシュケント(Тошкент)、雪風(ゆきかぜ)、時津風(ときつかぜ)、睦月(むつき)、望月(もちづき)……ですね」

 

 提督(ていとく)がうろたえている間(あいだ)に、大淀(おおよど)が駆逐隊(くちくかん)の名前(なまえ)をあげていった。もう一度(いちど)数(かぞ)えなおしていた朝雲(あさぐも)の目(め)が見開(みひら)かれ、少(すこ)しばかり頬(ほお)が赤(あか)らむ。

 

「じゃあ、第九駆逐隊(だいきゅうくちくかん)と九(きゅう)つながりか……いいんじゃない? うんうん」

 

 と一人合点(ひとりがてん)してうなずくと、自然(しぜん)な流(なが)れで、

 

「ところで、司令(しれい)はどうするの? 」

 

 と、提督(ていとく)に尋(たず)ねた。

 

「え? 」

 

 提督(ていとく)が、朝雲(あさぐも)に顔(かお)を向(む)けたまま硬直(こうちょく)する。

 

「「「「「「あー……」」」」」」

 

 しばらくして、艦娘(かんむすめ)たちの口(くち)から一斉(いっせい)に呆(あき)れ声(ごえ)やため息(いき)が漏(も)れた。

 

「やはり、忘(わす)れていたのでありますね……」

「そんなことだろうと思(おも)ってはいましたが……」

 

 神州丸(しんしゅうまる)と大淀(おおよど)の表情(ひょうじょう)は、諦(あきら)めの境地(きょうち)に達(たっ)しているかのようだ。

 

「あ……うん、まあ……」

 

 提督(ていとく)はそう言(い)ったまま口(くち)ごもって全員(ぜんいん)を見回(みまわ)していたが、やがて、

 

「ここじゃダメかな? 」

 

 と、言(い)った。

 

「それは、ちょっとマズいと思(おも)います」

 

 吹雪(ふぶき)の返答(へんとう)は否定的(ひていてき)だった。

 

「『グロスマン』が島(しま)を砲撃(ほうげき)する可能性(かのうせい)が出(で)てきましたので、私(わたし)も吹雪(ふぶき)の意見(いけん)に賛成(さんせい)です」

 

 大淀(おおよど)は、少(すこ)し考(かんが)えてから言(い)う。

 

「神州丸(しんしゅうまる)は、長官艇(ちょうかんてい)で指揮(しき)を執(と)っていただければと考(かんが)えていたのですが」

「えー……あれ、揺(ゆ)れるから嫌(いや)なんだけどなー」

 

 提督(ていとく)は、神州丸(しんしゅうまる)の提案(ていあん)に心(こころ)の底(そこ)から嫌(いや)がっている様子(ようす)を見(み)せる。

 

「あのー、長官艇(ちょうかんてい)って何(なん)ですか? 」

 

 不思議(ふしぎ)そうに質問(しつもん)したのは貴益(たかます)だ。

 

「え? ほら、君(きみ)が鎮守府(ちんじゅふ)に来(く)る時(とき)に乗(の)った……あ」

 

 そこまで言(い)ったところで、提督(ていとく)は突然(とつぜん)言葉(ことば)と途切(とぎ)れさせた。ゆっくりと貴益(たかます)を指(ゆび)さして、

 

「そーいえば、君(きみ)をどうするかも考(かんが)えないといけないんだった……どうしよう? 」

「「「「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」」」」

 

 提督(ていとく)以外(いがい)の口(くち)から、同(おな)じ言葉(ことば)が漏(も)れた。

 




物語の舞台に使えるような島はないかと南太平洋を探しているときにマレータ島の別称がまな板の発音に似ていたので、条件反射で「ここにしようぜ!」と決めかけたのですが、島が大きすぎるように思えたのでやめました。
最終的にはニューカレドニアのどこかを思わせる無人島ということにしましたが、もちろん実在の島の近くには髑髏島のような島はありません。

那珂と由良を登場させていたので、公式四コマ「四水戦のポーズ」の説明を元にして朝雲と山雲を登場させました。
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