艦これキャラの登場するモンスター・パニック作品を作ってみた   作:垂直離着陸式扇風機

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第十四話「そうしないとお約束にならないじゃないか」

 攻撃機(こうげきき)の投下(とうか)した爆弾(ばくだん)と魚雷(ぎょらい)で、「グロスマン」の周囲(しゅうい)は黒煙(こくえん)と水柱(みずばしら)に囲(かこ)まれた。それを見(み)た霧島(きりしま)は、左回頭(ひだりかいとう)して速度(そくど)を上(あ)げる。

 

 陸奥(むつ)とガングート(Гангут)はさらに回頭(かいとう)を続(つづ)け、今(いま)は北向(きたむ)きに進路(しんろ)を変(か)えている。霧島(きりしま)とすれ違(ちが)うようにして合流(ごうりゅう)するつもりのようだ。

 

 朝雲(あさぐも)、山雲(やまぐも)、雪風(ゆきかぜ)、時津風(ときつかぜ)は、攻撃機(こうげきき)が「グロスマン」に襲(おそ)いかかるのとほぼ同時(どうじ)に右回頭(みぎかいとう)して西(にし)の方角(ほうがく)に進路(しんろ)を取(と)っている。タシュケント(Тошкент)、響(ひびき)、吹雪(ふぶき)、睦月(むつき)、望月(もちづき)は、それに合流(ごうりゅう)しようと右(みぎ)に回頭(かいとう)した。

 

 駆逐艦(くちくかん)たちと別(わか)れたポーラ(Pola)と鬼怒(きぬ)は、左(ひだり)に大(おお)きく回頭(かいとう)して陸奥(むつ)たちの後(あと)を追(お)う。戦艦(せんかん)三隻(さんせき)と重巡洋艦(じゅうじゅんようかん)、軽巡洋艦(けいじゅんようかん)各一隻(かくいっせき)の戦隊(せんたい)と、駆逐艦(くちくかん)九隻(きゅうせき)の戦隊(せんたい)ができあがろうとしていた。

 

「煙(けむり)が消(き)える前(まえ)にもう一度(いちど)左回頭(ひだりかいとう)して南(みなみ)に向(む)かうわよ」

「わかった(Ну ладно)」

 

 ガングート(Гангут)は陸奥(むつ)にそう答(こた)えると、

 

「まだいけるな? 」

 

 と、合流(ごうりゅう)した霧島(きりしま)に尋(たず)ねた。

 

「ええ、大丈夫(だいじょうぶ)」

 

 霧島(きりしま)が返答(へんとう)するのと同時(どうじ)に、「グロスマン」のほうから魚雷(ぎょらい)の命中(めいちゅう)する音(おと)が聞(き)こえてきた。

 

「これで片(かた)がついてくれるといいのだけど」

「どうだろうな……」

 

 霧島(きりしま)とガングート(Гангут)は、「グロスマン」を覆(おお)っていた煙(けむり)に目(め)をこらした。「グロスマン」の反撃(はんげき)が止(と)まったのは一時的(いちじてき)なものなのか、それとも──

 

 朝雲(あさぐも)とタシュケント(Тошкент)は南(みなみ)に向(む)かって並走(へいそう)しながら、これからどう行動(こうどう)するかを話(はな)しあっていた。他(ほか)の駆逐艦(くちくかん)たちはその声(こえ)が聞(き)こえる周囲(しゅうい)に集(あつ)まって、「グロスマン」を警戒(けいかい)しながら耳(みみ)を傾(かたむ)けている。

 

「列(れつ)が長(なが)くなりすぎるのも困(こま)りものね……」

 

 そうつぶやいた朝雲(あさぐも)はタシュケント(Тошкент)に、

 

「今(いま)までどおり、そちらはタシュケント(Тошкент)が指揮(しき)を執(と)ってほしいの」

 

 と言(い)って、すぐに残(のこ)りの面々(めんめん)を確認(かくにん)した。

 

「望月(もちづき)、さっき足元(あしもと)に攻撃(こうげき)受(う)けたでしょ」

 

 朝雲(あさぐも)の言葉(ことば)を聞(き)いた山雲(やまぐも)が、真(ま)っ先(さき)に動(うご)いた。

 

「あらー、本当(ほんとう)だわ~。魚雷発射管(ぎょらいはっしゃかん)が壊(こわ)れてしまってる~」

「んー、撃(う)った後(あと)だったから、使(つか)わなきゃいいかなって」

 

 心配(しんぱい)そうな山雲(やまぐも)と、面倒(めんどう)くさそうな望月(もちづき)の口調(くちょう)は対照的(たいしょうてき)だった。

 

「だめよ、ちゃんと報告(ほうこく)しないと……睦月(むつき)、望月(もちづき)を連(つ)れてここから離脱(りだつ)して」

「ふぁっ!?  」

 

 いきなり話(はなし)を振(ふ)られて慌(あわ)てている睦月(むつき)に、朝雲(あさぐも)が近(ちか)づいた。

 

「いい? ここであったことを、空母(くうぼ)のところにいる提督(ていとく)に伝(つた)えて護衛(ごえい)につくの。これも大事(だいじ)な任務(にんむ)よ」

「わ、わかったにゃし」

 

 朝雲(あさぐも)の説明(せつめい)を聞(き)いた睦月(むつき)は、二度(にど)、三度(さんど)とうなずいた。しばらく未練(みれん)がましそうにあちらこちらに視線(しせん)をさ迷(まよ)わせていたが、やがて、

 

「最後(さいご)に魚雷(ぎょらい)撃(う)ってからでもいい? 」

 

 と、朝雲(あさぐも)に尋(たず)ねる。

 

「え? ……あ、うん。ま、まあ、いいんじゃない? 」

 

 睦月(むつき)の質問(しつもん)は朝雲(あさぐも)の想定外(そうていがい)だったらしい。そう答(こた)えてからもなお戸惑(とまど)ったままだったが、答(こた)えを聞(き)いた睦月(むつき)はと言(い)うと、

 

「わかったにゃし! じゃあ、もっち。行(い)くにゃしよ! 」

 

 と、望月(もちづき)の背中(せなか)を押(お)すようにして反転(はんてん)を始(はじ)めていた。

 

「えええー。面倒(めんどう)だから本気(ほんき)だしたくないいー」

「文句(もんく)言(い)うにゃしい! とっとと行(い)くにゃしい!  」

 

 むしろ嫌(いや)がるほうに本気(ほんき)を出(だ)している望月(もちづき)を押(お)しながら、睦月(むつき)は東(ひがし)のほうへと去(さ)っていった。

 

「……ところで、これからどうしましょうかっ? 」

 

 微妙(びみょう)な雰囲気(ふんいき)になりかけたのを察(さっ)したのか、雪風(ゆきかぜ)が大声(おおごえ)で言(い)った。

 

「北西(ほくせい)の方向(ほうこう)に向(む)かうわよ。吹雪(ふぶき)と響(ひびき)はタシュケント(Тошкент)の指示(しじ)に従(したが)って」

「あっ、はい! 」

「了解(りょうかい)」

 

 朝雲(あさぐも)の言葉(ことば)に吹雪(ふぶき)と響(ひびき)が短(みじか)く応(おう)じる。「グロスマン」のほうから魚雷(ぎょらい)が命中(めいちゅう)したらしき音(おと)が複数回(ふくすうかい)聞(き)こえてきたことについては、あえて意識(いしき)しないようにしているようだった。

 

「それにしても、さっきからぜんぜ──」

 

 時津風(ときつかぜ)の言葉(ことば)は途中(とちゅう)で聞(き)こえなくなった。おそらくは、「グロスマン」からの攻撃(こうげき)がないことを不思議(ふしぎ)がっていたのだろうが、それは口(くち)にされることはなかった。

 

 理由(りゆう)はまったくわからないままであったが、「グロスマン」の正面(しょうめん)にある鎮守府(ちんじゅふ)で爆発(ばくはつ)が起(お)こり、煙(けむり)と音(おと)と風(かぜ)が生(しょう)じたのは、その時(とき)だった。

 

 いや、それだけではなかった。煙(けむり)の中(なか)に、巨大(きょだい)な影(かげ)が現(あらわ)れた。

 

 

 島(しま)を挟(はさ)んだ反対側(はんたいがわ)でも、煙(けむり)と爆発音(ばくはつおん)を確認(かくにん)することができた。つまり、それ以外(いがい)は地形(ちけい)などで確認(かくにん)できない、ということでもある。

 

 従(したが)って、

 

「え、あれは一体(いったい)……」

「鎮守府(ちんじゅふ)が攻撃(こうげき)されたのかッ!? 」

 

 と、日振(ひぶり)と福江(ふかえ)が驚(おどろ)いたのは、むしろ当然(とうぜん)のことであったし、

 

「万一(まんいち)に備(そな)えてと、言(い)われはしましたが」

「実際(じっさい)に目(ま)の当(あ)たりにすると、平静(へいせい)ではいられませんね」

 

 と、山汐丸(やましおまる)と神威(かもい)が衝撃(しょうげき)を隠(かく)せない表情(ひょうじょう)でつぶやくのも不思議(ふしぎ)なことではなかった。

 

 艦娘(かんむすめ)たちだけではなく、避難用(ひなんよう)の船(ふね)や長官艇(ちょうかんてい)、大発動艇(だいはつどうてい)に乗(の)っている鎮守府(ちんじゅふ)所属(しょぞく)の人(ひと)たちも、心配(しんぱい)そうに煙(けむり)の上(あ)がっている場所(ばしょ)を見(み)つめている。

 鎮守府(ちんじゅふ)に所属(しょぞく)している零式水偵(れいしきすいてい)が、それらの船(ふね)から少(すこ)し離(はな)れたところに浮(う)いている。それに乗(の)っている人(ひと)も、煙(けむり)の上(あ)がっている場所(ばしょ)を見(み)て表情(ひょうじょう)を硬(かた)くしている。

 

 船(ふね)の中(なか)には貴益(たかます)もいる。神州丸(しんしゅうまる)が連(つ)れてきたのだ。

 避難(ひなん)させていなかったのは「別(べつ)の世界(せかい)から来(き)た存在(そんざい)であるはずなのに、あまりにも異常(いじょう)ではなさすぎて注意(ちゅうい)を払(はら)うのを忘(わす)れていた」という、呆(あき)れるしかない理由(りゆう)だったからなのだが、提督(ていとく)だけでなく艦娘(かんむすめ)たちも気(き)がつかなかったのだから仕方(しかた)がないのだ──本来(ほんらい)ならそれで済(す)ませるべきではないのだろうけれども。

 

「あの……火事(かじ)になっているんでしょうか? 」

「どうでしょうか。煙(けむり)はあれで終(お)わりのようですが……」

 

 おずおずと尋(たず)ねたまるゆに、神州丸(しんしゅうまる)は自信(じしん)がなさそうに答(こた)える。しばらくの間(あいだ)沈黙(ちんもく)が続(つづ)いていたが、考(かんが)え事(ごと)をしていた佐渡(さど)が不意(ふい)に頭(あたま)を上(あ)げた。

 

「鎮守府(ちんじゅふ)の外(そと)は攻撃(こうげき)されてないよな? 」

「そうだと思(おも)いますが、外(そと)が攻撃(こうげき)されると問題(もんだい)があるのでありますか? 」

 

 佐渡(さど)の奇妙(きみょう)な質問(しつもん)に、あきつ丸(まる)が首(くび)を傾(かし)げながら聞(き)き返(かえ)した。中(なか)ではなく外(そと)が気(き)になる理由(りゆう)がわからなかったからであるが、突然(とつぜん)大声(おおごえ)を出(だ)した占守(しむしゅ)には、その質問(しつもん)の意味(いみ)するところがわかったようだ。

 

「森(もり)に仕掛(しか)けた罠(わな)! バタバタして確認(かくにん)してなかった!! 」

「え? ……え? 」

 

 昆虫(こんちゅう)を捕(と)るために仕掛(しか)けた罠(わな)のことを言(い)っているのだが、当然(とうぜん)ながら占守(しむしゅ)を始(はじ)めとする海防艦(かいぼうかん)たち以外(いがい)がそれを知(し)っているわけではない。まるゆは説明(せつめい)を求(もと)めているが、事情(じじょう)のわからない者(もの)には説明(せつめい)のしようがなかった。

 

 そして、事情(じじょう)がわかる者(もの)にも説明(せつめい)するつもりがなかった。

 

「鎮守府(ちんじゅふ)の様子(ようす)見(み)るついでに確認(かくにん)してくるっしゅ! 」

「あっ、待(ま)てよ! この佐渡様(さどさま)を置(お)いてくな! 」

 

 占守(しむしゅ)と佐渡(さど)が、先(さき)を争(あらそ)うようにして島(しま)に向(む)かうと、

 

「あーっ! もう、心配(しんぱい)だからあたいも行(い)く! 」

「向(む)こうを護(まも)るから、みんなは先(さき)に行(い)ってて! 」

 

 大東(だいとう)と福江(ふかえ)がその後(あと)を追(お)った。

 

 もしこの場(ば)に生真面目(きまじめ)な提督(ていとく)がいれば、素早(すばや)く引(ひ)き止(と)めて海防艦(かいぼうかん)の任務(にんむ)について説(と)いたかも知(し)れない。引(ひ)き止(と)められなくとも、事情(じじょう)を聞(き)こうとはしただろう。

 この場(ば)には提督(ていとく)がいないが、誰(だれ)かがその役割(やくわり)を果(は)たすことになるのはさほど不思議(ふしぎ)なことではなかった。

 

 つまり、

 

「大変(たいへん)申(もう)しわけないのですが」

「ぜひとも説明(せつめい)していただきたいのであります」

 

 ここに至(いた)るまでの過程(かてい)を知(し)らなければ“危険(きけん)がいっぱい”な事案(じあん)と勘違(かんちが)いしかねない、ある種(しゅ)の人々(ひとびと)であれば“捕(とら)えられた宇宙人(うちゅうじん)の写真(しゃしん)”を思(おも)い起(お)こさせるような光景(こうけい)が、神州丸(しんしゅうまる)とあきつ丸(まる)、そして、唯一(ゆいいつ)この場(ば)にとどまったとも逃(に)げ損(そこ)ねたとも表現(ひょうげん)できる日振(ひぶり)によって作(つく)り出(だ)されたのであった。

 

 - - - ( + _ + )

 

「アイツヲ飛(ト)ビ上(ア)ガラセルナ! 」

 

 防空棲姫(ぼうくうせいき)は、リコリス魔獣(まじゅう)が息(いき)を吹(ふ)き返(かえ)した──と、思(おも)われる怪物(かいぶつ)に跳(は)ね飛(と)ばされたのを見(み)て、焦(あせ)りもあらわに叫(さけ)んだ。

 

 怪物(かいぶつ)は、艤装(ぎそう)を展開(てんかい)した深海棲艦(しんかいせいかん)を吐(は)き出(だ)したことで再(ふたた)び空(そら)を飛(と)べる重(おも)さになった。もう一度(いちど)飛(と)び上(あ)がられてしまえば、有効(ゆうこう)な攻撃(こうげき)を与(あた)えることもできなくなる。

 その前(まえ)に倒(たお)してしまうか、飛(と)べないようにしてしまわなければ──

 

 防空棲姫(ぼうくうせいき)がそのように考(かんが)えている最中(さいちゅう)に、北方棲姫(ほっぽうせいき)と北方棲妹(ほっぽうせいまい)が突然(とつぜん)海面(かいめん)に倒(たお)れ込(こ)んだ。いや、わざと横(よこ)になって全身(ぜんしん)を濡(ぬ)らした。

 驚(おどろ)いた港湾棲姫(こうわんせいき)と集積地棲姫(しゅうせきちせいき)が対応(たいおう)できない間(あいだ)に、怪物(かいぶつ)に向(む)かって駆(か)けて行(い)く。二体(にたい)を狙(ねら)う怪物(かいぶつ)の攻撃(こうげき)を止(と)めようとする北方水姫(ほっぽうすいき)の後(うし)ろをすり抜(ぬ)け、怪物(かいぶつ)の背(せ)を目(め)がけて飛(と)び上(あ)がる。

 

 暴(あば)れていた怪物(かいぶつ)が、再(ふたた)び艤装(ぎそう)の重(おも)さで押(お)し潰(つぶ)された。全身(ぜんしん)を濡(ぬ)らしたのは、展開(てんかい)した艤装(ぎそう)がすぐに解(と)けないようにと考(かんが)えての行動(こうどう)だったようだ。

 

 だが、その時間(じかん)は長(なが)く続(つづ)かなかった──発想(はっそう)そのものは良(よ)かったのだ。

 

 ただ、朝(あさ)からほとんど休(やす)むことなく動(うご)いていて、既(すで)に昼過(ひるす)ぎになっていた。そして、北方棲姫(ほっぽうせいき)と北方棲妹(ほっぽうせいまい)は自分(じぶん)たちの疲(つか)れに気(き)づいていなかった。

 加(くわ)えて、怪物(かいぶつ)の背(せ)は鳥(とり)のように柔(やわ)らかい毛(け)で覆(おお)われていた。つまり、大(おお)きな羽毛布団(うもうぶとん)に飛(と)び乗(の)る形(かたち)になったのだ。

 

 それが意味(いみ)するところはただ一(ひと)つ──抵抗(ていこう)することもなく眠(ねむ)り込(こ)んでしまった。当然(とうぜん)のことのように、艤装(ぎそう)もそれに伴(ともな)って解除(かいじょ)された。

 それが避(さ)けようのない現実(げんじつ)だった。

 

「翼(ツバサ)ダ! 翼(ツバサ)ヲ押(オ)サエロ!! 」

 

 リコリス棲姫(せいき)の叫(さけ)びを聞(き)いた深海棲艦(しんかいせいかん)たちが怪物(かいぶつ)の翼(つばさ)にしがみつく。怪物(かいぶつ)はそれに抵抗(ていこう)してもがきにもがく。

 何(なに)かが引(ひ)き裂(さ)かれたような、嫌(いや)な音(おと)が周囲(しゅうい)に響(ひび)いた。翼(つばさ)にしがみついていた深海棲艦(しんかいせいかん)たちがバランスを崩(くず)して転(ころ)がった。

 

 怪物(かいぶつ)の左右(さゆう)の翼(つばさ)が根本(ねもと)からちぎれていた。肉片(にくへん)のようなものが飛(と)び──いや、それだけではなかった。

 ちぎれた根本(ねもと)から突起状(とっきじょう)の何(なに)かがふくらみ始(はじ)めた。棒状(ぼうじょう)になり、途中(とちゅう)に関節(かんせつ)ができ、腕(うで)へと生(は)え変(か)わった。

 

 - - - ( - . - )

 

 防衛艦隊(ぼうえいかんたい)は、戦艦(せんかん)の主砲(しゅほう)の最大射程(さいだいしゃてい)に「グロスマン」が入(はい)らない距離(きょり)まで離(はな)れていた。陸奥(むつ)、ガングート(Гангут)、霧島(きりしま)、ポーラ(Pola)は「グロスマン」のいる方向(ほうこう)を眺(なが)めながら、ポーラ(Pola)の持(も)っていたワインを回(まわ)し飲(の)みしている。

 

 戦闘(せんとう)が終(お)わったと言(い)うわけではない。それらしい音(おと)は今(いま)も続(つづ)いている。

 しかし、防衛艦隊(ぼうえいかんたい)の面々(めんめん)からは緊張(きんちょう)のかけらも感(かん)じられない。鬼怒(きぬ)と駆逐艦(くちくかん)たちも暇(ひま)をつぶすかのように、自分(じぶん)の装備(そうび)を確認(かくにん)している。

 

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)──であるならば、まだマシだったかも知(し)れない。絶望(ぜつぼう)──のほうが、まだよかったかも知(し)れない。

 皆(みんな)が皆(みんな)、全(すべ)てを受(う)け入(い)れてしまったような、空(そら)の彼方(かなた)に意識(いしき)を飛(と)ばしているかのような、そのような表情(ひょうじょう)を顔(かお)に浮(う)かべていた。ワインを回(まわ)し飲(の)みしていない者(もの)も含(ふく)めて、だ。

 

 「グロスマン」の方向(ほうこう)から艦娘(かんむすめ)たちが戻(もど)ってきた。金剛(こんごう)を始(はじ)めとする、迎撃艦隊(げいげきかんたい)の面々(めんめん)だ。

 

「いかがでしたか? お姉(ねえ)さま」

 

 霧島(きりしま)がそう言(い)いながら、ポーラ(Pola)の元(もと)に戻(もど)ろうとしていたワインの瓶(びん)を金剛(こんごう)に手渡(てわた)した。受(う)け取(と)った金剛(こんごう)は無言(むごん)で瓶(びん)の口(くち)を唇(くちびる)に触(ふ)れさせ、中(なか)の液体(えきたい)で喉(のど)をうるおす。

 

「ゴメンね(Sorry)、霧島(きりしま)。疑(うたが)っていたわけではないのデース……ただ、自分(じぶん)でも確認(かくにん)しておきたくて」

「ああ……それはわかります……」

 

 霧島(きりしま)は、金剛(こんごう)が持(も)っていたワインの瓶(びん)を無言(むごん)で取(と)ったリシュリュー(Richelieu)を見(み)ながら返答(へんとう)した。リシュリュー(Richelieu)はというと、取(と)り出(だ)したハンカチで瓶(びん)の口(くち)をふいてラベルを確認(かくにん)し、

 

「優雅(ゆうが)さはこの際(さい)、二(に)の次(つぎ)ね」

 

 と、言(い)ってから金剛(こんごう)と同様(どうよう)に口(くち)に含(ふく)んだ。飲(の)み終(お)えると再(ふたた)びハンカチで瓶(びん)の口(くち)をぬぐって加古(かこ)に渡(わた)す。

 

 残(のこ)りを一気(いっき)にあおろうとする加古(かこ)の手(て)からワイン瓶(びん)を途中(とちゅう)で奪(うば)った青葉(あおば)が、一口(ひとくち)すすってポーラ(Pola)に返却(へんきゃく)した。

 

 その様子(ようす)を見守(みまも)っていた霧島(きりしま)が金剛(こんごう)に尋(たず)ねる。

 

「それで、実際(じっさい)に見(み)ていかがでしたか? 」

「Hmm(ふーむ)……」

 

 金剛(こんごう)は、しばらくの間(あいだ)言(い)いよどんだ。

 




「危険がいっぱい」さんを出すタイミングがつかめなかったので、日振が被害担当になってしまいました。

北方棲姫と北方棲妹が眠った元ネタは……まあ、猫ですよね。

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