艦これキャラの登場するモンスター・パニック作品を作ってみた   作:垂直離着陸式扇風機

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第十六話「思いつきを形にした現実から目をそむける自由と権利について」

 怪物(かいぶつ)と北方水姫(ほっぽうすいき)の戦(たたか)いを下(した)から見(み)ていた深海棲艦(しんかいせいかん)たちの間(あいだ)から、歓声(かんせい)とも悲鳴(ひめい)ともつかないどよめきが起(お)きた。その声(こえ)は、北方水姫(ほっぽうすいき)に届(とど)いた。

 

 急(いそ)いで周囲(しゅうい)を確認(かくにん)し、北方棲姫(ほっぽうせいき)を港湾棲姫(こうわんせいき)、北方棲妹(ほっぽうせいまい)を集積地棲姫(しゅうせきちせいき)めがけて投(な)げる。その直後(ちょくご)に、怪物(かいぶつ)の腕(うで)が北方水姫(ほっぽうすいき)の体(からだ)をかすめた。

 

 木(き)の枝(えだ)か何(なに)かのように、北方水姫(ほっぽうすいき)が放物線(ほうぶつせん)を描(えが)きながら宙(ちゅう)を舞(ま)う。

 艤装(ぎそう)を身(み)につけていない状態(じょうたい)で、艦娘(かんむすめ)の攻撃(こうげき)をはるかに超(こ)える衝撃(しょうげき)を受(う)けたのだ。意識(いしき)が途切(とぎ)れただけで済(す)めばいいが──

 

 落下予想地点(らっかよそうちてん)は、浅瀬(あさせ)の中(なか)。角度(かくど)は悪(わる)く、勢(いきお)いはつきすぎている。

 

 戦艦棲姫(せんかんせいき)が、落下予想地点(らっかよそうちてん)に急(いそ)ぐ。それでも間(ま)にあわないと考(かんが)えたのか、素早(すばや)く魔獣(まじゅう)の手(て)の上(うえ)に飛(と)び乗(の)った。

 

 戦艦棲姫(せんかんせいき)のかけ声(ごえ)に合(あ)わせて、魔獣(まじゅう)が力(ちから)いっぱいに腕(うで)を振(ふ)りあげる。その勢(いきお)いで宙(ちゅう)を飛(と)んだ戦艦棲姫(せんかんせいき)は、落下(らっか)する北方水姫(ほっぽうすいき)と交差(こうさ)しかけたところで体(からだ)をつかんだ。

 

 双方(そうほう)の軌道(きどう)が変化(へんか)して、戦艦棲姫(せんかんせいき)の魔獣(まじゅう)が追(お)いつけない位置(いち)に落下(らっか)する。そこには防空棲姫(ぼうくうせいき)が待(ま)ち構(かま)えていた。

 

 ラグビー強豪国(きょうごうこく)の代表選手(だいひょうせんしゅ)、のような動(うご)きだった。

 飛(と)んできた戦艦棲姫(せんかんせいき)と北方水姫(ほっぽうすいき)を受(う)け止(と)めた両手(りょうて)がただ触(ふ)れているかのように弧(こ)を描(えが)き、片足(かたあし)を軸(じく)に回転(かいてん)して島(しま)と反対方向(はんたいほうこう)に放(ほう)り投(な)げる。

 

 その先(さき)には、飛行場姫(ひこうじょうき)が立(た)っていた。戦艦棲姫(せんかんせいき)と北方水姫(ほっぽうすいき)に対(たい)して背(せ)を向(む)けるように右回転(みぎかいてん)し、左手側(ひだりてがわ)の滑走路上(かっそうろじょう)を滑(すべ)らせながら持(も)ち上(あ)げる。

 

 水(みず)を切(き)る石(いし)のように、二体(にたい)の体(からだ)は外洋(がいよう)へと飛(と)んだ。水(みず)しぶきをあげて、海中(かいちゅう)に沈(しず)む。

 

 しばらくして、艤装(ぎそう)の力(ちから)によって戦艦棲姫(せんかんせいき)が水面(すいめん)へと浮(う)かんできた。北方水姫(ほっぽうすいき)はというと、潜水(せんすい)ソ級(きゅう)が肩(かた)に担(かつ)いで姿(すがた)を現(あらわ)した。

 

 二人(ふたり)の表情(ひょうじょう)が曇(くも)ってないことから、最悪(さいあく)の状況(じょうきょう)よりもかなりマシであることは察(さっ)せられた。

 

 その間(あいだ)も怪物(かいぶつ)は暴(あば)れていた。いや、怪物(かいぶつ)と深海棲艦(しんかいせいかん)たちの他(ほか)にも動(うご)きだしたものがあった。

 

 ひきちぎられた怪物(かいぶつ)の翼(つばさ)。その翼(つばさ)のちぎれた先(さき)が奇妙(きみょう)に膨(ふく)らみ始(はじ)め、何本(なんぼん)もの触手(しょくしゅ)に別(わか)れて起(お)き上(あ)がった。

 まるで胴体(どうたい)が途中(とちゅう)で折(お)れたイカのようだ。

 

「爆撃機隊(バクゲキキタイ)ヲ発進(ハッシン)サセロ! 」

 

 リコリス棲姫(せいき)が、大声(おおごえ)で命令(めいれい)を出(だ)した。目(め)の前(まえ)のありえない光景(こうけい)に息(いき)をのんでいた深海棲艦(しんかいせいかん)たちは動揺(どうよう)を隠(かく)せないままだったが、それでもリコリス棲姫(せいき)の周囲(しゅうい)を護衛(ごえい)する陣形(じんけい)を作(つく)り、爆撃機(ばくげきき)の発進準備(はっしんじゅんび)を始(はじ)めた。

 

 準備(じゅんび)の整(ととの)った深海棲艦(しんかいせいかん)から、次々(つぎつぎ)と爆撃機(ばくげきき)が飛(と)び立(た)った。狙(ねら)いは怪物(かいぶつ)と、元々(もともと)は翼(つばさ)だった“何(なに)か”だ。

 

「時間(ジカン)ヲ置(オ)イテ、二度(ニド)三度(サンド)ト爆弾(バクダン)ヲ叩(タタ)キ込(コ)メ! 煙幕(エンマク)ガワリニシテ栖(スミカ)ニ戻(モド)ルゾ! 」

 

 リコリス棲姫(せいき)の言葉(ことば)に、深海棲艦(しんかいせいかん)たちから安堵(あんど)とも歓声(かんせい)ともとれる声(こえ)が起(お)きた。

 

 物資(ぶっし)は残(のこ)り少(すく)なく、疲労(ひろう)はたまっていて、戦(たたか)っている相手(あいて)はどうすれば倒(たお)せるかもわからない怪物(かいぶつ)だ。こんなわけのわからない奴(やつ)らなど放(ほお)っておいて、艦娘(かんむすめ)相手(あいて)の戦(たたか)いに戻(もど)ろう──

 

 もしかすると、そのような心理(しんり)が働(はたら)いたのかも知(し)れない。単(たん)に、これ以上(いじょう)やってられるかという気分(きぶん)になっただけなのかも知(し)れない。

 いずれにしても、深海棲艦(しんかいせいかん)たちは退却(たいきゃく)を選(えら)んだのだ。

 

「残(ノコ)ッテイル筏(イカダ)ハ全部(ゼンブ)持(モ)チ帰(カエ)レヨ! 忘(ワス)レルナ! 」

 

 この一言(ひとこと)に関(かん)しては、若干(じゃっかん)不平(ふへい)の声(こえ)があがりはしたが。

 

 爆撃機(ばくげきき)を出撃(しゅつげき)させた空母(くうぼ)、鬼級(おにきゅう)、姫級(ひめきゅう)を囲(かこ)んだ深海棲艦(しんかいせいかん)たちは、怪物(かいぶつ)と“何(なに)か”を撃(う)ちながら徐々(じょじょ)に距離(きょり)をとる。爆撃機(ばくげきき)は上空(じょうくう)で複数(ふくすう)の編隊(へんたい)を組(く)み、順次(じゅんじ)降下(こうか)して爆弾(ばくだん)を落(お)としていく。

 爆発(ばくはつ)で起(お)きた煙(けむり)が、何度(なんど)も怪物(かいぶつ)と“何(なに)か”を覆(おお)う。煙幕(えんまく)としての効果(こうか)があったかは疑問(ぎもん)だが、足止(あしど)めの役(やく)にはたった。

 

 もはや怪物(かいぶつ)と“何(なに)か”には目(め)もくれず、深海棲艦(しんかいせいかん)たちは海(うみ)へ、栖(すみか)へと戻(もど)っていった。

 

 - - - ( / ・ ω ・ ) /

 

 「グロスマン」がはるか南(みなみ)の方(ほう)に去(さ)っていくまで、鎮守府側(ちんじゅふがわ)は警戒(けいかい)を解(と)けなかった。あちこちに散(ち)らばっていた艦隊(かんたい)の帰還(きかん)は、その後(あと)になった。

 

 全員(ぜんいん)が戻(もど)ってくる頃(ころ)には、「グロスマン」が鎮守府(ちんじゅふ)から離脱(りだつ)する直前(ちょくぜん)に起(お)きた爆発(ばくはつ)の原因(げんいん)は知(し)れ渡(わた)っていた。

 

「あれはいったい何(なん)だったのかしら? 」

 

 と、いう陸奥(むつ)のつぶやきに、

 

「いひっ! スゴかったでしょ、あれ! 」

 

 と、口(くち)を滑(すべ)らせた海防艦(かいぼうかん)(名(な)は伏(ふ)せる)がいたからだ。

 

 まあ、仮(かり)に黙(だま)っていたところで日振(ひぶり)を始(はじ)めとした大勢(おおぜい)が見(み)ているところで色々(いろいろ)やらかしているのだから、逃(に)げようもないのだが。

 

 この件(けん)について提督(ていとく)は、

 

「あまり無茶(むちゃ)したらダメだよー」

 

 と、叱責(しっせき)したうえで、片(かた)づけの頑張(がんば)り次第(しだい)では罰(ばつ)を軽(かる)くすると決(き)めた。実際(じっさい)、破壊(はかい)された建物(たてもの)の建(た)て替(か)えや修繕(しゅうぜん)にかなりの時間(じかん)がかかることは、一目見(ひとめみ)ただけで予想(よそう)がついていた。

 

 提督(ていとく)が海防艦(かいぼうかん)たちに厳(きび)しい処分(しょぶん)を言(い)い渡(わた)さなかったのは、もう一(ひと)つのやらかしのほうに気(き)を取(と)られていたからでもある。

 

「これ、どうしようかー」

 

 と、困惑(こんわく)したまま見(み)つめる先(さき)には、海岸(かいがん)に半(なか)ば以上(いじょう)崩(くず)れた状態(じょうたい)で転(ころ)がっている巨大(きょだい)な“白(しろ)いもこもこに身(み)を包(つつ)んでペンギンのクチバシをつけたカワウソみたいなぬいぐるみ”の姿(すがた)があった。

 

 海(うみ)に押(お)し出(だ)すには、あまりにも大(おお)きすぎ、重(おも)すぎる──おまけにその顔(かお)は、鎮守府(ちんじゅふ)に向(む)いているときた。

 

「そ、そーですねー。建物(たてもの)の防弾(ぼうだん)に転用(てんよう)してみましょうかー」

 

 答(こた)える工作艦(あk……こうさくかん)(名(な)は伏(ふ)せる)の声(こえ)は、いつもより上(うわ)ずっていた。提督(ていとく)のほうは、

 

「んー……とりあえず見(み)られている気(き)がして落(お)ち着(つ)かないから、そこから始(はじ)めようかー」

 

 と、まったく別(べつ)のことを口(くち)にしてから、

 

「えっと、さっき何(なに)か言(い)った? 」

 

 と、聞(き)き返(かえ)していたが。

 

 翌日(よくじつ)、陽(ひ)も高(たか)くなった頃(ころ)、鎮守府(ちんじゅふ)の外(はず)れ、森(もり)の入口(いりぐち)に、山汐丸(やましおまる)と大東(だいとう)、日振(ひぶり)、貴益(たかます)の姿(すがた)があった。

 

 貴益(たかます)を除(のぞ)く三人(さんにん)は、作業着(さぎょうぎ)のような上下(じょうげ)を着(き)ている。その姿(すがた)に違和感(いわかん)を覚(おぼ)える人(ひと)もいるかも知(し)れないが、これもまた、ここの鎮守府(ちんじゅふ)の日常(にちじょう)なのだろう。

 

 近(ちか)くには、半(なか)ば草(くさ)に覆(おお)われた建物(たてもの)がある。鎮守府(ちんじゅふ)を拡張(かくちょう)した際(さい)に、資材(しざい)や道具(どうぐ)を保管(ほかん)していた倉庫(そうこ)だ。

 

 何日(なんにち)かまとめて作業(さぎょう)するならば、近(ちか)くに道具(どうぐ)を置(お)く場(ば)があったほうがいいという理由(りゆう)で建(た)てられ、また使(つか)うこともあるだろうという理由(りゆう)で放置(ほうち)されたままになっている。そうした倉庫(そうこ)は、鎮守府(ちんじゅふ)の数(すう)か所(しょ)にある。

 そのうちの一(ひと)つがここだ。

 

「はしごは危(あぶ)ないから、登(のぼ)らないほうがいいですよ」

「大丈夫(だいじょうぶ)だって。この大東(だいとう)さんをなめんなよってね」

「いえ、ケガしたら大変(たいへん)ですからやめてください」

 

 提督(ていとく)から倉庫(そうこ)の様子(ようす)を確認(かくにん)するように頼(たの)まれた山汐丸(やましおまる)は、挙動不審(きょどうふしん)と言(い)っていいほどに神経質(しんけいしつ)になっていた。今(いま)もはしごの前(まえ)に立(た)って、大東(だいとう)が登(のぼ)ろうとしているのを必死(ひっし)になって止(と)めようとしている。

 

「大東(だいとう)! 山汐丸(やましおまる)さんの言(い)うこと聞(き)きなさい! わがままはダメだよ! 」

 

 日振(ひぶり)も、大東(だいとう)の服(ふく)の裾(すそ)をつかんで止(と)めようとしている。貴益(たかます)は貴益(たかます)で顔(かお)をしかめながら、

 

「まあその、上(うえ)のほうから匂(にお)いがしてるのは間違(まちが)いないんですよね」

 

 などと言(い)っている。

 

 貴益(たかます)の言(い)うとおり、倉庫(そうこ)の中(なか)には腐敗臭(ふはいしゅう)にしては妙(みょう)に甘(あま)ったるい匂(にお)いが漂(ただよ)っている。

 開(あ)け放(はな)しになっているにもかかわらずだ。

 

「どうかしたのですか? 」

 

 森(もり)のほうから、突然(とつぜん)神州丸(しんしゅうまる)の声(こえ)が聞(き)こえてきた。遠(とお)くから走(はし)ってきたのか、ずいぶんと息(いき)が荒(あら)い。

 

 そのそばで、あきつ丸(まる)とまるゆが同(おな)じように肩(かた)で息(いき)をしている。

 

「急(きゅう)に走(はし)らないでほしいっす」

 

 少(すこ)し遅(おく)れて到着(とうちゃく)した占守(しむしゅ)が、呼吸(こきゅう)を整(ととの)えながら言(い)った。その手(て)には、頭(あたま)ほどの大(おお)きさがある布袋(ぬのぶくろ)を持(も)っている。

 

「他(ほか)の倉庫(そうこ)を調(しら)べに行(い)っていたのではなかったのですか? 」

 

 山汐丸(やましおまる)が、はしごの下(した)をふさぐように抑(おさ)えながら言(い)う。

 

「用(よう)を済(す)ませて虫取(むしと)りの罠(わな)も見(み)てきたんです」

 

 まるゆが深呼吸(しんこきゅう)をしながら答(こた)えた。

 

「そうしたら騒(さわ)ぎ声(ごえ)が聞(き)こえたので、これはマズ……いことがあったのかと思(おも)いまして」

 

 あきつ丸(まる)も、途中(とちゅう)で咳(せき)をしながら言(い)う。

 

「あ……んー」

 

 大東(だいとう)は、後(あと)から来(き)た四人(よにん)の間(あいだ)に視線(しせん)をさまよわせながら何(なに)か言(い)いたげにしているが、どう口(くち)にしていいか困(こま)り果(は)てているようだ。それを見(み)ていた日振(ひぶり)が大東(だいとう)に向(む)いたまま、

 

「変(へん)な匂(にお)いがするからと、はしごを登(のぼ)ろうとしていた大東(だいとう)を止(と)めていたんです」

 

 と、答(こた)えてからしばらく大東(だいとう)の様子(ようす)を見(み)て、

 

「あと、虫取(むしと)りの罠(わな)と袋(ふくろ)が気(き)になる……で、あってる? 」

 

 と確認(かくにん)を取(と)ると、大東(だいとう)は首(くび)を動(うご)かしながら賛意(さんい)を示(しめ)した。

 

「あ。た、確(たし)かにそれは山汐丸(やましおまる)に任(まか)せたほうがいいですね」

「……えっと、たぶんカナブンだと思(おも)うっす」

 

 慌(あわ)て気味(ぎみ)に返答(へんとう)した神州丸(しんしゅうまる)と声(こえ)が重(かさ)なりかけた占守(しむしゅ)は、神州丸(しんしゅうまる)が言(い)い終(お)わるのを待(ま)ってから返事(へんじ)をして袋(ふくろ)に手(て)を入(い)れた。

 取(と)り出(だ)したのは──

 

「あ」

 

 少(すく)なくとも、占守(しむしゅ)はそうしようと意図(いと)していたわけではなかった。袋(ふくろ)の中(なか)にいる虫(むし)が、どこまで意図(いと)していたかはわからない。

 

 占守(しむしゅ)の手(て)から滑(すべ)るように飛(と)び出(で)した虫(むし)は、狙(ねら)いすましたように日振(ひぶり)の眉間(みけん)にはりついた。

 

 大(おお)きさは、手(て)のひらの半分(はんぶん)ほど。得体(えたい)の知(し)れない何(なに)かが動(うご)く様子(ようす)と感触(かんしょく)が、日振(ひぶり)に伝(つた)わっていた。

 

 しゃっくりをしているような音(おと)が、日振(ひぶり)の喉(のど)からほとばしった。両目(りょうめ)から、涙(なみだ)があふれ出(だ)した。

 

 占守(しむしゅ)を始(はじ)めとした艦娘(かんむすめ)たちは、ただ呆然(ぼうぜん)と立(た)ちつくしていたわけではない。目(め)の前(まえ)の状況(じょうきょう)を理解(りかい)していたかどうかは別(べつ)として、動(うご)こうとはしていた。

 

 事態(じたい)の展開(てんかい)のほうが、それよりも速(はや)かった。誰一人(だれひとり)避(さ)ける術(すべ)を持(も)たないまま、物事(ものごと)は変化(へんか)を続(つづ)けていった。

 

 涙(なみだ)と海水(かいすい)は、類似(るいじ)した成分(せいぶん)を含(ふく)んでいる──だからと言(い)って、艤装(ぎそう)が展開(てんかい)できるとは限(かぎ)らない。通常(つうじょう)ならば、難(むずか)しいうちに入(はい)るであろう。

 

 しかし、この時(とき)の日振(ひぶり)は完全(かんぜん)な錯乱状態(さくらんじょうたい)に陥(おちい)っていた。リミッターが外(はず)れていた、とも言(い)える。

 

 ──どういうわけか、物語(ものがたり)においてはこうした状態(じょうたい)を想定(そうてい)した誤作動防止装置(ごさどうぼうしそうち)が機構(きこう)に組(く)み込(こ)まれていない場合(ばあい)が多(おお)いように見受(みう)けられるが、この世界(せかい)においてはきちんと対策(たいさく)が施(ほどこ)されていた……偶然(ぐうぜん)作動(さどう)しなかった、という例(れい)がなかったと言(い)っているわけではない。

 

 作動(さどう)はした。だが、故障(こしょう)もした。

 技術(ぎじゅつ)の問題(もんだい)ではなく、主(おも)に作者(さくしゃ)の都合(つごう)のよう、である。物語(ものがたり)もそろそろ終(お)わろうとしているのだから、多少(たしょう)の強引(ごういん)さが必要(ひつよう)となったのであろうか──

 

 あからさまな文字数(もじすう)稼(かせ)ぎの間(あいだ)に、ほんの一部(いちぶ)ではあるが艤装(ぎそう)が装着(そうちゃく)された。機銃(きじゅう)の砲身(ほうしん)だった。

 虫(むし)を……と、言(い)うか、狙(ねら)いすらつけないまま、日振(ひぶり)は悲鳴(ひめい)をあげながら発砲(はっぽう)した。弾丸(たま)はやすやすと天井板(てんじょういた)を貫(つらぬ)き、金属(きんぞく)にあたったような鋭(するど)い音(おと)が響(ひび)いた。

 




戦艦棲姫が宙を飛ぶのはアニメ2期の航空戦艦ネタに合わせましたが、間にあいそうになければ投げるしかないですよね。
艤装を解除していなければ蹴り、鉄山靠(てつざんこう)、なんとかかんとか天驚拳あたりで角度を変えてもよかったのですけど。
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