本人たちが意識することなく同じ時期に別の場所で同様の行為に及ぶという現象は、あるいはシンクロニシティなどという言葉で表現するべきなのだろうか。それともただの偶然として済ませるべきなのか。
もしかすると、好みの相手に「運命ですね」と言われた時にどう思うかで答えは決まるのではないのだろうか。
つまりはそのような現象、あるいは因果、それとも神の三重ざる天。はたまた作者の都合……の結果かどうかはともかくとして、艦娘たちと深海棲艦たちが海中から現れた島に向かってそれぞれの本拠地を出たのは同じ日になった。
ただし、双方の目的は違っていた。
艦娘たちの目的は、島の調査であった。
島にたどり着くために周辺海域を抑えながら前進する点については、普段の任務とそれほど変わるところがない。違っているのは、島の中を調査するための上陸艦隊が準備されていることと、深海棲艦側が現われた時の対処法が決められていることであろうか。
この鎮守府の方針に従って、最初に潜水艦たちが島の周辺海域に向けて出航した。
しばらく時間を置いて、駆逐艦、巡洋艦、水上機母艦で編成された艦隊が鎮守府を出た。
何かの異常を見つけた時にいち早く知らせることが、これらの艦隊の役割だ。
それからまた時間を置いて出航したのは駆逐艦、巡洋艦、空母で編成された艦隊。潜水艦や水上機母艦のカバーと、飛行機による深海棲艦への攻撃を任されている。
次は駆逐艦、巡洋艦、軽空母、戦艦、揚陸艦で編成された艦隊。島への上陸とその支援が目的だ。
これらに選ばれなかった艦娘たちは、万一の場合に備えて鎮守府で待機する。
これに対して、深海棲艦たちの目的は島にいると考えられる怪物の利用だった。太平洋深海棲姫とその連れを襲った怪物の仲間がいるならば、砲撃や雷撃で追い立てて鎮守府に向かわせるというものだった。
艦娘が怪物と戦わないといけなくなったところで距離をとって艦娘を攻撃すれば、艦娘たちは怪物と深海棲艦の両方を相手にしないといけなくなる。
そういう作戦だった。
上空を偵察機が飛び、それを追うようにして怪物に襲われても素早く回避のできる駆逐艦が続く。数隻ごとに部隊を作り、駆逐古鬼、駆逐水鬼、駆逐棲姫に率いられて海を前進する。
少し離れた後ろを、複数の潜水艦を守るように囲んだ巡洋艦、空母、水上機母艦、戦艦らが棲鬼、棲姫らとともに進む。
リコリス棲姫の姿もその中に確認できる。陸上型に分類されていることもあってか、艤装を外して筏のような船に……いや、あれは確か、深海浮輪とかいう……
とにかく、浮くものに乗った状態で戦艦に引っ張られている。
港湾棲姫、飛行場姫、離島棲姫などもそのようにして移動している。リコリス棲姫と同じく、島の海岸近くで艤装を展開する予定なのだ。
役割毎に別れて出撃する艦娘たちに対して、深海棲艦たちはほぼ一同が出撃という構図になった。
そのまま時間が過ぎる。海にも空にも異常はない。栖から島までの航程を半分以上済ませた深海棲艦の駆逐艦部隊は、なおも前進を続けている。
出撃してしばらくは散開して周囲に注意を払っていたものの、何も起こらないことで注意はどんどんいい加減になっていった。今では時折思い出したように目視とレーダーで周囲を調べる時間以外は、皆でたわいもない話に花を咲かせている。
「ホントダヨオ! 」
駆逐水鬼が皆に聞こえるようにしゃべっている。
「西ニアル広イ陸地ノ近クニイタヤツガソウ言ッテタンダ! 陸地ノヤツラガ見テイル映像デハ、全身ヲ毛デ覆ワレタ怪物ガ高イ塔ヲ登ッテタッテ! 」
「全身ガ毛ダラケ? 」
駆逐古鬼はそう言うとおかしそうに笑う。
「ドンナ怪物ナノサ? おっとせい? ソレトモぺんぎん? 」
深海棲艦なだけあって、まず海にいる動物が頭に思い浮かぶらしい。
「ワザワザ塔ニ登ルナンテ、高イトコカラ飛ビ込ム趣味デモアッタノカナア? 」
駆逐棲姫の言葉に駆逐古鬼と周りにいた駆逐艦たちが笑い声をあげる。話を最初に振った駆逐水鬼もだ。
そのようなことを言い合っている最中に、駆逐古鬼、駆逐水鬼、駆逐棲姫の右肩の辺りから音が鳴り響いた。三体は舌打ちすると少し距離をとって右肩の通信機を叩く。
「コチラりこりす棲姫。東北東ニ出シタ偵察機ガ、警報ヲ発信シテスグ消息ヲ絶ッタ。ソチラデハ何カ確認シシテイルカ? 」
三体は「いいえ」をそれぞれの言葉で返答して通信を終えると、早速寄り集まった。
「れーだーニ反応ハアッタ? 」
駆逐棲姫の問いに駆逐古鬼と駆逐水鬼は首を横に振った。
「故障ハシテナ……変ナ反応ガアル! 」
駆逐水鬼の叫びに駆逐古鬼は自分のレーダーの反応を調べる。
「何コレ? 」
しばらく沈黙した後で駆逐古鬼がつぶやく。
「雲……ジャナイヨナ……動キガ早スギル」
駆逐水鬼も首をひねっている。
「ドンナ反応? 」
唯一レーダーを持っていない駆逐棲姫は、双眼鏡で前方を見回ている。
「ンー、飛行機ミタイダケド……」
「モシカシテ怪物? 」
「イヤ、デモ……前ニ倒シタノハ、いぐあなミタイナヤツダロ? 」
不毛なやりとりがしばらく続いたものの、正体がわからないことに変わりはない。結局、今までよりも速度を落として厳重に警戒しながら前進する以外の選択肢はなさそうなのだ。
三体と駆逐艦たちは、気が乗らない様子を隠そうともせずに前進を再開した。
「地上ノヤツラハコウイウノヲ“肝試シ”ッテ言ウンダッケ? 」
と、いう駆逐水鬼のつぶやきは、誰にも聞かれることなく大海原に消えていった。
──怪物が登場するアクションシーンが描かれた作品に詳しい人であれば、こういうシーンの後には怪物が移動するシーンが来るものと思って身構えるであろう。
それがそうした作品の型であったり、定番であったり、様式美である……というか、印象づけるにはそうしたほうが効果があるから多用された結果としてそう呼ばれるようになり、それを見慣れた者もまた、知らず知らずのうちにそうした作法への反応が身についた、ということなのかも知れないが。
そうした分析はさて置き、今この瞬間には、深海棲艦側の偵察機が消息を絶った海域より南側に、怪物と呼ばれている何らかの存在が移動していた。レーダーが反応したとおりに。
それをこのようなほのめかしで済ませるか、あるいは丹念に描写するかは記す側の事情であって、それへの反応は反応する側の事情である。
小難しく書き連ねようとすれば文字数が増えるのと、同様のことでしかないのだ──
- - - “ ( - “ ” - ) ”
鎮守府の近くにある多目的広場の一つでは、待機中の六人が移動の仕方についてあれこれと話していた。白露、時雨、村雨、夕立、デ・ロイテル、そして由良だ。
「やっぱりね、曲がる時の参考になるのはスピードスケートだと思うの」
白露が腰のあたりまで上げた右手の手のひらを前に向かって滑るように移動させ、その途中で左に急角度で方向を変えてみせる。
「おぉ~、確かに」
村雨が何度となくうなずいて白露に同意する。
「でも体を傾けすぎると下になった艤装が使いにくいっぽい? そうすると肩から下だけ傾けたほうがいいっぽい? 」
夕立はそう言うと、上半身の姿勢を保ったまま左右に揺れるように動く。
「両側を狙うか片方を狙うかで変わってくるね。ぶつからないように手を上に回そうか? 」
時雨が両腕を頭の上に掲げて、左右に振りながら言う。
「あー、なるほどなるほど。そういう感じなんだ」
「よさそうですね。試しに全員でやってみましょうか」
「ん? 」
ついついノリで言ってしまったデ・ロイテルは、由良たちが不思議そうに自分を見ていることに気がついた。いつのまにか自分も練習するメンバーに含まれてしまっていることにも。
「えー、まじかー。やっばーい」
口ではそう言うデ・ロイテルだったが、いろいろと試してみることを嫌っているわけではない。失敗しても文句はなしだよなどと言いながら、由良の左に横一列に並ぼうとしている駆逐艦たちの、さらに左側にポジションを取った。
左右にいる軽巡洋艦が村雨たちを間に挟むような並びだ。
「では腕を大きく左右に広ひろげて、ぶつからないように。1、2、3、4で体を左に傾けながら、左手を頭の上を通るように回して右側に上半身をひねる」
由良は説明しながら動きを実践してみせる。
「そして、5、6、7、8で元に戻る……その次は反対側ね」
両腕を左右に広げた状態に戻すと、今度は体を右に傾けながら右手を回す。
全員が理解したとうなずいた。
「さあ、皆でいいとこ見せちゃおう! 」
由良の合図に合わせて全員が説明のとおりに動き始めた。ところがいつの間にか、足踏みをしながら頭の上で広げた両手を左右に振る動きに変わっていく。
「あれ? あれれ? 」
白露が戸惑いの声をあげている間も皆の動きは止まらない。
両手を肩の高さで水平に保って前に出したまま右に向き、続いてくるりと左に向く。戸惑っている白露自身も動きについていっている。
|全員怪訝な表情を浮かべていたが、体はなおも動き続けている。そのままその場で横に一回転し、右手を上にあげた状態で上を向いたポーズをとったところで、ようやく一連の動きが止まった。
「これ那珂ちゃんライブのバックで踊っている娘の振付っぽい! 」
夕立が唐突に叫んだ。
「んふふっ。どおりで……」
「ああ、覚えのある動きだと思ったのは、それでか……」
村雨と時雨が互いの言葉に吹き出してしまう。
「それ、やっばいよー。戦闘中にやりだしたらやばいって」
「それじゃあ、少し休憩しましょうか。ね? 」
デ・ロイテルまでつられて笑ってしまったので、由良も首を傾げて苦笑するしかなかった。
この鎮守府では、日常的に任務をこなすにあたって司令官室とは別に作戦室が設けられている。
と、言っても、外観は食堂とそこまで変わりはない。規模が大きくなる度に建物を増やしていったために、基地と言うよりも漁村のように広がっているのだ。
作戦室の中央には、机と衝立と機械類がずらりと並んでいる。十人ほどの艦娘と鎮守府に所属する人がそれぞれの作業をこなしており、ちらほらと“妖精さん”の姿も見える。
作業中の者が用事があると告ると、連絡係がそれを受け取って作戦をまとめている艦娘に知らせる。まとめた情報《じょうほう》は整理されて作戦室の一角に届けられ、秘書を務める艦娘がそれを提督に報告する。
指示や連絡がある時は、この逆の順序で伝伝えられる。
秘書は交代制で、今日務めているのは吹雪だ。
その作戦室の出入口のほうから慌ただしく駆けてくる音が聞こえてきたかと思うと、防暑服を着たタシュケントがノックもそこそこに駆け込んできた。
「急いで逃げて、同志たち! ヴェールヌイが……ガングートが! 」