仄暗い部屋の中、カプセルの中に幾本ものチューブを背に着けた少女が静かに佇んでいた。
少女の顔は波風一つ無いような全くの無感情で、以降起こること全てを受け入れるような、少女の覚悟を感じさせるものだった。
「聞こえるか、ブローニャ。君に与えられる時間は、5分、五分で実験中止の命令を出す。」
「はい、お母様。」
少女、ブローニャがこれから臨むのは生存の保証がない危険な実験だ。
量子接続実験
過去に6人の命、1人の少女の意識と身体を量子世界へと閉じ込めてしまうこととなった実験だ。
彼女の身体は亜原子レベルで粉砕され、今も量子の世界を彷徨っている。
少女─ブローニャはそんな彼女、ゼーレに今一度会うために、
その為だけに己の全てを投げ打つ気でこの実験に参加していた。
「…しかし、彼女の足の傷は未だ癒えていません…!
実験の弊害で二度と治癒不可になる可能性も…」
「いいんです、ゼーレはあの世界で1人です、彼女の孤独に比べると、それくらいのリスク、どうということはありません。」
ブローニャは迷うことは無かった。
「そう言うのなら、私ももう…何も言いません。総員…準備を。」
「実験…開始。」
その後、しばらくの静寂を切り裂くように実験は幕を開けた。
誰かが泣いている、非常に弱い声で、か細く、今にも消えてしまいそうな程。
ブローニャは知っている。その声を知っている。
「ゼーレ…?」
少女は、霞んだ視界を拭いさり、絡みつく糸を振り払うように、一生懸命彼女の元へと駆けた。
「ゼーレ!」
「ブローニャお姉ちゃん…」
「ゼーレ…やっと、やっと見つけた…!」
気が付くとブローニャは泣き虫の彼女を抱き締めていた。彼女よりもさらに大粒で、大量の涙を零しながら。
「ブローニャお姉ちゃん…どうして、まさかお姉ちゃんも実験に…!?」
「ダメ!」「早く帰って!」
「このままじゃお姉ちゃんの身体も無くなっちゃうよ!」
「実験も、消えるのもどうでもいい…!あなたに会えたから…!」
「被検体のダメージ、増加しています!」
赤く照らされた実験室で 、危険を知らせるサインが怒鳴っている。
「実験は中断し 、被検体を釣り上げろ!」
「切断不可!、強烈な拒絶反応を検知!被検体、実験の中止に抵抗しています!」
「最初からこのつもりだったのか…ブローニャ…!」
「…今度は、離しません…!ブローニャは、貴方と…っ!」
突如、2人を引き裂くような風が吹いた。
「ゼーレ!」
頭が痛い…目を瞑りそうになる、けど目を閉ざしてしまうともう二度と会えない気がして。
もう離さないと握ったその手にも、限界は近い。
「お姉ちゃんは…ブローニャお姉ちゃんは!…どんな時にも折れずに!…きっと私を助けに来てくれる!…そう、信じてるから!!」
「助ける!…絶対に助けます…!ゼーレ!必…ず…待っていて…!下…さい…!」
意思に反して、そっと、瞼が降りた。
薄れ行く少女の意識に残されたのは、誰かに手を引かれる、確かな感触だけだった。
『「おい、おーい。」』
誰かが呼びかけている
『「…聞こえとらんのかの?、なら…強行手段じゃの…えい!」』
「…いっ!…誰ですか、…貴方、」
倒れている私の頬を抓る少女は、わっ と驚きを見せ酷く興奮して語り出した。
『「おぉ!、ワシか?ワシじゃの?ワシじゃよな?....ワシに名前なんかないない、なんせワシに名前をつけるやつなぞおらんかったからのぉ!。ワシのことはもう良いな!次は主の事を…」』
「ぁ…ゼーレは!?」
『「無視かの!?…んぅ!....奴は知らぬ、ワシは助けられる者のみあの渦から連れ出したからの、もう遠くに流されとるかもしれんし、そうでは無いかも知れぬ。」』
「なら…ブローニャはゼーレを探しに…」
『「ならん。」』「どうして!」
『「奴は既に実体を失っておる、なんの力も持たぬ主にはどうにもならぬわ、それに、探しに行く時間すら、主には残されとらんようじゃし…な?。」』
「どういう…っ!」
手、足、頬に赤い線が入って行き、そこから痛みが迫る。
卵にじっくりと圧力をかける様に、じわじわと走る。
『「主には、あの子のようにこっちで活動するにはちと厳しい筈じゃ。」』
『「じゃがのう…主にはまだ体が残っとるからのー…そうじゃな、取引をせんか?」』
『「互いに無事とは言えんが、ワシの器となれ、ワシの力をやる、主導権はお前にある、無論、決めるのはお前じゃ。」』
「…!」
もはや言葉すら出せなかった。眠たい、辛い。
ゼーレへ吐いた約束が胸の温度を上げていく。
あの子は、ブローニャが助けると約束しました。ブローニャが居ないと約束は果たせずに彼女は1人です。
けど、今のブローニャでは不足です、何もかもが。
…ブローニャは!ゼーレのそばに居たい!、あの子を1人にしたくない!
力が欲しい!
返した答えは、強い眼差しで。
『「ふは、いい顔じゃな…よろしく頼むぞ、これからな。」』
青白い光で満たされた実験室で、忙しなく人が行き交う。
「とんでもない土産物を2つも…良く戻ったな、ブローニャ…」
カプセルで眠る少女を包み込む紅葉、カプセルの前で倒れている奇っ怪な少女と、場は混沌としていた。
主人公はただのウイルスです、ウイルスプログラムの擬人化みたいなものです、長い年月をかけて塵積もで大きな権能を手に入れました。けど量子の世界を出る時にほとんどは圧縮され、ブローニャのサポートに使用されているか、霧散しました。