やっべ、めっちゃ緊張する。その緊張する理由は……。
「──新しい、member。誰なのか、気になる」
「そうだねぇ。アルナイルは敬遠されがちではある、果たしてそこに入ろうとする猛者は誰なのか……ひっじょーに気になるところだ!あわよくばモルモットに……!」
「タキオンさんそればっかですね。でも、誰が入部するのかは気になるかも」
「アンカさんも楽しみだよね?誰が来るのか!」
「まぁな。果たして誰が来るのか……」
「どうせアンちゃんはコミュ障発揮して上手く喋れないです。賭けても良いです」
「うるさいよ!?」
この場にいないトレーナーさんが連れてくるらしい。師匠とコーチは誰が来るのか分かっているらしいけど……聞いてみたところ。
「小さくてガッツのあるヤツだな」
「そうね……負けん気の強いタイプよ」
らしい。小さくて負けん気の強いタイプだと真っ先に思い出すのはタマモクロス先輩だったりナリタタイシン先輩だ。でもどっちもすでにデビュー済だしなぁと思いながら待つこと数分。ついにトレーナーさんが帰ってきた!
「ただいま……うん、みんな揃ってるね」
トレーナーさんの背後にはウマ娘の影が1つ。どうやら件の新しく入る子らしい。一体どんな子だろう?
「ハ!ここがアタシが入るチームかよ?」
「うん、そうだよ。とりあえずはデビューを目指して頑張ろうか」
「言っておくが、ヘマしたら許さねぇからな?アタシの目標を叶えるためにも、しっかりと働け」
「分かってるさ。君も頑張ってね」
「フン」
……なんというか、態度がでけぇ子だなと思ったのが第一印象。後、体格がちっせぇ。下手したらヴィッパーぐらいしかないんじゃないか?ってぐらいの身長だ。つまるところ、140cm台。僕も人のこと言えた体格ではないけど……それにしても小さい。
師匠とコーチは面白そうにしてた。そして、その新規入部の子が僕達の前に姿を現す。
「ヨォ、アンタらがアタシの先輩方か?……ま、よろしく頼むぜ?」
鹿毛の長いストレートロングの髪。腰まで伸ばしている。後、ギラついた目が超こえぇ!?勝気というかなんというか……とにかく、荒々しい雰囲気があった。
「……何ジロジロ見てんだテメェ?アァ!?」
こっわ!?血気盛んってレベルじゃねぇぞ!と、とりあえず視線外しとこ……。
「……待て、テメェ確か……アンカデキメルゼ、だったか?」
あれ?僕の名前知って……いや、知らないはずないか。東京大笑点であんな赤っ恥晒したヤツの名前なんて忘れるはずがない。……言ってて悲しくなってきた。
「いかにも僕がアンカデキメルゼだが……それがどうかしたか?」
そう答えると、目の前の鹿毛のウマ娘は満足げな表情を浮かべていた。
「ハッ、だったら丁度いい」
「……なにがだ?」
「決まってんだろ」
鹿毛のウマ娘は、僕に指を突きつけて。
「テメェ、アタシと併走しやがれ!」
「……ホワイ?」
「なんで英語なのよ」
コーチの指摘すら聞こえないほどに、僕は素っ頓狂な声を上げて呆けていた。
「……何故、僕と併走したいんだ?」
数分後。なんとか意識を戻してそう尋ねる。鹿毛の子……いまだに名前を知らないな。ダリナンダアンタイッタイ。
「決まってる。アタシをナメたヤツは例外なく苛つくから。それ以上の理由は必要ねぇ」
「……君を舐めた態度で見た覚えなどないが?」
「いーや見てたね!アタシには分かるんだよ!そっちにいるヤツらもだ!」
なんだなんだ?当たり屋か?出るとこ出てやりましょうか!?オォン!?
「テメェら、アタシのことをチビだって内心バカにしてただろ!目を見りゃ分かんだよ!」
撤収ー、撤収ー!この子心の中読めまーす!撤収でーす!こっちの分が悪いでーす!でも別にバカにはしてないでーす!
「まぁ、小さいからねぇ」
「──small。しかし、良い気迫を持っている」
「なんだか可愛いね!アリクイの威嚇みたい!」
「ファインさん!?相手の神経を逆なでするようなこと言うの止めていただけますか!?」
「なんで?可愛いと思うけどな~アリクイの威嚇」
「そう言うことですよ!」
タルマエさんの言う通りだよ!ほら、どう考えても今の言葉聞いてさらに怒ってるじゃん!
「クソが……!学園中を見返す前に、まずはテメェらからだ!アタシと併走しやがれ!併走併走併走!」
「HAHAHA!良い気迫じゃねぇか!中々、面白い奴をスカウトしたな!」
「今はまだ蛮勇……けど、これだけの負けん気。彼女は強く大きくなるわ」
「あ、分かりますか?ニジンスキーさん」
師匠達は和気あいあいとしているし……!どうするのさコレ!
「まぁ、併走受けてあげればいいんじゃないです?アンちゃん」
「なんだと?ヴィッパー」
「別に減るもんじゃないです。それに、こういう手合いは実力差を分からせないとずっとこの調子です。なら、ここで一度分からせてあげるのがいいです」
「……まぁ一理あるが」
だとしても大丈夫?僕デビュー済で、彼女は未デビューだよ?
「トレーナーさんもそれでいいです?」
「うん、構わないよ。彼女の実力を、みんなにも実感してもらいたいからね。それじゃ、早速グラウンドに行こうか」
「僕の意志は!?」
「お願いアンカ!1回併走してくれるだけでいいから!」
トレーナーさんは手を合わせてお願いしてくる。まぁ、いつもワガママ言って迷惑かけてるしなぁ……それに、別に僕にかなりのデメリットがあるわけじゃないし。
「別に手を合わせてお願いする必要もあるまい。それに……トレーナー君が見つけてきた人材、気にはなる」
「ありがとうアンカ!それじゃ、早速グラウンドに行こうか!」
というわけでグラウンドに行くぞー!
そして練習場。僕と鹿毛の子はウォーミングアップを済ませる。
「距離は……まぁ芝の1000mでいいだろう」
「ハ!良いのかよ?自分の得意距離じゃなくて。こっちは2000mだって走り切ってやるぜ?」
「図に乗るな。後、僕に得意距離という概念はない。どんな距離だろうが変わらん」
「……その余裕な態度、崩してやるよ!」
威勢のいいこと言ってるけど微妙に声が震えてる。怖気づいてるな、これ。
「それじゃ、両者位置について」
トレーナーさんの合図の下、僕達は位置につく。彼女の位置は内。そして僕の位置は外だ。
「よーい……スタート!」
一斉に駆け出す……が、鹿毛の子は少し出遅れた。ふむ、スタートはあまり得意ではないと。
「……ッ」
「ナメんな!すぐに追いついてやる!」
威勢良く吠える。ま……僕は一切手を抜くつもりはない。相手に失礼だしね。
「ッフ!」
「こなくそッ!」
僕は本気で駆けている。対して鹿毛の子は……なんとか僕に追いすがろうと全力を出しているのかもしれない。けど、差は無情にも開くばかり……まぁ当然と言えば当然だ。デビュー済の僕と未デビューの彼女……差は歴然といってもいい。
差はどんどん開いていく。大差をつけられていた。並のウマ娘なら諦めるだろう……
「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!諦めるか……諦めてたまるか!」
鹿毛の彼女は微塵も諦めていなかった。絶望的な差でも、これっぽっちも諦めちゃいなかった。
「……随分と吠えるな」
「うるせぇ!アタシを小さいからってバカにしたヤツらを見返すんだ……そのためにも、アタシは絶対に勝負を投げたりはしねぇんだよ!」
「成程な。だが……現実を知れ、」
そのまま僕は突き放す。結局差は一度も縮まらなかったし、僕の圧勝で終わった。
少しだけ息を整えて、膝をついて荒い息を繰り返す鹿毛の彼女の下に近づく。彼女は……
「クソ……ッ、クソ……ッ!次は、次は負けねぇ……!次こそはテメェに勝ってやる……!」
「無理だな。君では僕に勝てない」
「んだと……ッ!高いところから見下ろしやがって!気に喰わねぇんだよ!」
「その負けん気は認めてやる。だが……技術も場数も足りない君に、僕が負ける道理などない」
「……ッ!」
まぁ図星だろうね。反論せずに僕を睨みつけている。だけど、この負けん気だけは一流だ。この子は……必ず強くなる。何となく、そう直感した。
「学園において、ここはトップレベルの環境と言っても良い。セクレタリアト師匠に、ニジンスキーコーチがいるわけだからね。強くなるための土台は、しっかりとある」
「……何が言いてぇ?」
僕は、真正面から彼女を見据えて答える。
「
鹿毛の彼女は呆けたような表情をする。だけどそれも一瞬。すぐに不敵な笑みに変わった。
「上等だ……!いつかテメェを引きずり降ろしてやるよ……ケツデカ葦毛!」
「ふざけんなおい!なんだその名前は!?すぐに訂正しろ!」
せめてもうちょっとマシなあだ名付けろや!なんでよりによってそれなんだよ!?僕が狼狽えているのが分かってか、鹿毛の彼女はニマ~っと笑った。それはそれはもう、面白いおもちゃを見つけたって感じの笑みだ。なんだろう、すげぇ嫌な予感が……。
「嫌なこった!テメェはケツデカ葦毛で決定だ!覚えとけケツデカ葦毛!いつかテメェをぶっ倒してやるよ!」
「その前にそのあだ名をすぐに訂正しろ!」
「やーだねー!悔しかったら言い返してみろよ!」
「このクソチビが!」
「んだとこのケツデカ葦毛!」
「「グギギギギギギ……ッ!」」
「なんて低次元な争いなのかしら」
「そうだな。どっちもチビなのは変わらねぇだろ」
「セクレタリアトさんと比べたら誰だってチビだと思いますよ」
タルマエさん、それには同意。だって師匠、あなた2m超えてるじゃないですか。あなたからしたら誰だってチビでしょうよ。
「ほほ~う!新入部員の彼女の数値は凄いねぇ!平均の数値を越えているよ!」
「──彼女のspirits、負けん気は凄いな。アンカ相手でも、一歩も退いていない」
「楽しそう!これが喧嘩するほど仲が良いってものかしら?」
「「仲良くない!」」
「息ピッタリだね2人とも」
こ、このクソチビめ……!
「君の名前を教えろ!礼儀知らずのクソチビが!」
「教えて欲しかったら土下座でもしたらどうだ!えぇ!?」
「黙れ!もとより小さいんだから頭を下げても大して変わらんだろうが!」
「んのヤロォ……!」
鹿毛の彼女は──答える。
「
「やってみろクソチビ!何度でも負かしてやるよ!」
「しっかしまぁ、普段無表情のアンカ君があぁも感情剥き出しで怒るとは……珍しいこともあるもんだ」
「目に見えて分かるって凄いですよね、本当」
「アンカは、いつも──poker face」
「2人とも楽しそう!」
「ジャーニーもアンカも程々にね~」
こうして、アルナイルに新しくドリームジャーニーが入った。後で聞いた話によると、ジャーニーには妹がいるらしい。その妹さんはというと。
「確か……シリウスに入ったって聞いたな。しっかし大丈夫かねアイツ?アタシと違ってナメられてないか心配だ」
「君とは性格が違うのか?」
「アイツはアタシと違って気弱なんだよ。あくまで普段は……だが。素質はアタシと同等かそれ以上なんだからもっと堂々としてればいいのによ」
とのことらしい。妹思いの姉ということで親近感が湧いた。ただしケツデカ葦毛は許さねぇからな!絶対に訂正させてやる!
「ケツデカも本当のことです。訂正する必要ないです」
「うるさいヴィッパー!」
来月からはまたレースが始まる。まずはオーストラリア──スプリント3連戦だ!
アンちゃんは夢を魅せるからね。