今日も楽しく安価だ!   作:カニ漁船

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新しい犠牲者が出ました。


安価ウマ娘と日々のこと!

 ある日の昼下がりのこと。

 

 

「結局……スズカを止められなかったってわけか……」

 

 

 足取り重く学園を歩いているのはスピカの沖野トレーナー。彼はこの度、担当しているサイレンススズカがアンカデキメルゼ率いるモンゴルダービーのチームに入ってしまい、心労が絶えなくなっているトレーナーである。

 

 

「別に悪いってわけじゃねぇ。ただなぁ……最低でも40kmか……」

 

 

 モンゴルダービーは長丁場、で済むレベルではないレースだ。1000kmにも及ぶ過酷なレース……心配しない方が無理だろう。もっとも、あのメンバーが出走するということから体調管理にしては万全を期しているのだろうが。

 

 

「あまり断っちまうと、スズカもストレス抱えちまうし……これが正解だったのか?……わっかんね~!俺はどうすれば……?」

 

 

 その時、沖野の視線の先にある人物の姿が映る。その人物は……

 

 

「ハァ……」

 

 

 リギルのトレーナー、東条ハナである。彼女もまた、担当しているミスターシービーがアンカデキメルゼのモンゴルダービーのチームに入っており、心労が絶えなくなっているトレーナーだ。

 沖野トレーナーと東条トレーナーの視線がぶつかる。一瞬の無言。そして、お互いの置かれている状況が分かったのだろう。ゆっくりと近づいて……

 

 

「……沖野、今夜飲まないかしら?……誰かに、話を聞いてほしくてね」

 

 

「奇遇だねおハナさん。俺も……誰かに話を聞いてほしかったんだ」

 

 

 担当しているウマ娘を止めれなかった同士、お酒を飲むことにした。余談だが。

 

 

「……さすがに俺のところは大丈夫だよな?」

 

 

「どうかしたんですの?トレーナーさん」

 

 

「い、いや。モンゴルダービーに出走しようっていう子がいないかどうか心配になって……」

 

 

「スピカの、スズカさん。リギルの、シービーさん。どちらも、出走しますものね。心配になる気持ち、分かります。なので、コーヒーを飲んで、落ち着きましょう」

 

 

「あ、あぁ……ありがとう、カフェ」

 

 

 シリウスのトレーナーは、いつ自分の番が来るのだろうかとヒヤヒヤしていた。そんな彼をメジロマックイーンと最近チームに入ったマンハッタンカフェが落ち着かせる。

 

 

「さすがに、大丈夫かと。ライスさんは、出走の意思がないようですし、ブライアンさんも、そのような方ではありません……強者との戦いに、飢えていそうではありますが」

 

 

「そうですわ!トレーナーさんが心配するようなことはありません!我らシリウスに、そのような方は……」

 

 

「ゴールドシップ」

 

 

「「……」」

 

 

 シリウスのトレーナーの言葉に、2人は黙った。おそらく、考えていることは一緒だろう。そうだ、ゴールドシップ(アイツ)がいたと。

 

 

「覚えておくといいよ2人とも……俺達も、安全圏にいるわけじゃないってことを」

 

 

「や、止めてくださいまし!?不安を煽るようなことは!」

 

 

 シリウスのトレーナー。いつ自分の番が来るだろうかと冷や冷やしているトレーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園での授業を受けた後。僕はトレーニングへ向かおうとしていると。

 

 

「クハハハハハハ!日本のトレセン学園の生徒よ……我に注目せよ!」

 

 

 聞き覚えのある声に脚を止める。確かこの声は……

 

 

(ラムタラさん?何してんだろ?)

 

 

 今日も栗毛のポニーテールが元気よく動いているラムタラさんだった。学園にいるなんて珍しい。

 ラムタラさんは演説?を続ける。

 

 

「クックック……喜ぶがよい!我はこの度、お前らと併走をすることに決めた!歓喜に打ち震え、我に感謝するがよい!」

 

 

 なんだ、併走をしに来ただけか。そういえば、日本のトレセン生がどの程度のものか気になってるって言ってたし、それで来たのかな?

 とりあえず事の成り行きを見守ろうと黙ってみておく。まぁラムタラさんって人気らしいし、すぐに集まるでしょ。

 

 

「どうした?我との併走……こんな機会、滅多にないぞ?」

 

 

 というかラムタラさん日本語堪能だな。普段はあまり話さないのに。

 

 

「恥ずかしがる必要はない。我と併走をしたくて堪らないのだろう?ふふ、愛いヤツらだ。だが我は拒まぬ!さぁ、併走したい者はすぐにこのラムタラの下に集うがよい!」

 

 

 ……全然来ねぇな。みんな遠巻きにヒソヒソしているだけだし。

 

 

「ねぇ、アンタ行ってきたら?」

 

 

「いやぁ……ラムタラさんだと恐れ多すぎて……」

 

 

「分かる……ちょっとしり込みしちゃうよね」

 

 

「というか、オーラが凄いよオーラが」

 

 

 本当に遠慮されてる。そうしているうちにも、ラムタラさんは涙目だ。

 

 

「だ、誰もおらぬのか?こ、このラムタラとの併走だぞ?……誰か一緒にやってよぉ……」

 

 

 ……すんごいいたたまれなくなってきた。膝をついていじけてるし。なのでラムタラさんに近づく。周りからは驚いたような声が上がっているけど、まぁいいや。

 

 

「あの……僕でよかったら併走します?」

 

 

 うわっ!?ラムタラさんが勢いよく顔を上げてきた!?

 

 

「あ、アンカ……?」

 

 

「は、はい。アンカデキメルゼですけど……」

 

 

「……ふ、フーッハッハッハッハ!」

 

 

 あ、機嫌良さそう。

 

 

「さすがは我が臣下よ!いの一番に我に駆けつけるその姿……大儀である!殊勝な心掛けであるぞアンカ!」

 

 

「あぁ……はい。というか、日本語喋れるんですね」

 

 

「ふ、我にかかれば造作もないことよ……神たる我に言語の壁などないも同然!」

 

 

「そう言えばこの前コーチが一生懸命日本語の勉強を教えて……」

 

 

「わーっ、わーっ!?それは黙ってて!」

 

 

 それでも1ヶ月とか2ヶ月そこらで日本語覚えるって凄いなラムタラさん……さすがは神のウマ娘だ。

 

 

「『ラムタラ、朝から姿が見えないと思ったら学園にいたのか』」

 

 

 ラムタラさんと話していると聞こえてきた、少し低い女性の声。こ、この声は……。

 

 

「『と、トリプティクさん』」

 

 

「『あぁ、アンカもいたのか。それで、2人して何をしていたんだ?』」

 

 

「『ふ、しれたこと……ここの生徒のレベルを知っておくために、我の併走相手を募っていたところですよ』」

 

 

 トリプティクさんは周りを見渡して、溜息を吐いた。

 

 

「『その割には、1人もいないようだが?』」

 

 

「『わ、我に遠慮しているだけです!ふ、日本のウマ娘は恥ずかしがりのようですね』」

 

 

「『あながち間違ってないだろうが……まぁいい。私も、日本のレベルは気になるからな』」

 

 

「『トリプティクさんも参加するんですか?』」

 

 

 トリプティクさんは頷いた。うん、この2人と併走か……さらに人が遠ざかるだけでは?僕は訝しんだ。

 ……仕方がない。適当な人材を見つけて?

 

 

(アレは確か……ラスカルスズカさん?)

 

 

 今から練習に向かうであろうラスカルスズカさんがいた。サイレンススズカさんの妹さん、僕も何度か走ったことがある。丁度いいや、ラスカルスズカさんにお願いしよう。

 

 

「ちょっといいか」

 

 

「はい?……って、アンカちゃん?どうかしたの?」

 

 

「なに、併走でもどうかと思ってな。今メンバーを集めているところだ」

 

 

「併走かぁ……うん、いいよ!私もレースが近いし、頑張らないといけないから!」

 

 

 むん!って気合を入れるように握りこぶしを作っている。可愛い。にしても、これでメンバーを確保だ。

 

 

「そういえば、並走するのはアンカちゃんだけ……」

 

 

「『ラムタラさんトリプティクさん!メンバー1人連れてきましたよ!』」

 

 

「え?なんで英語……」

 

 

「『よくやったアンカ。さて、日本のウマ娘の実力……確かめさせてもらおう』」

 

 

「我が臣下よ、大儀である!そして、祝福しよう!我らと併走をする栄誉を与えられたウマ娘よ!」

 

 

「……え゛?」

 

 

 よ~し、併走併走~。

 

 

「あ、あの!私急に用事思い出したから……」

 

 

「しっかりと準備運動しておけよ。生半可な覚悟で挑むと……」

 

 

「クックック……!日本のウマ娘の実力を知る良い機会だ!鼓動が鳴り止まぬ!」

 

 

「『さて……果たしてどのような実力をしているのか、楽しみだ』」

 

 

「……助けてお姉ちゃーーーーん!!」

 

 

 泣くほど嬉しいんですかね?まぁこんな機会滅多にないですからね、そりゃ泣いて喜ぶってもんですよ!

 その後何回か併走して。ラムタラさんもトリプティクさんも満足したような表情を浮かべている。

 

 

「クハハハ!成程成程……日本のウマ娘も捨てたものではないな!神である我が、そなたの実力を認めてやろう!」

 

 

「『ナイスラン、ラスカル。楽しいレースだった』」

 

 

「良かったねラスカルさん。2人とも褒めてくれてるよ」

 

 

 当のラスカルさんはというと。

 

 

「……」

 

 

 真っ白に燃え尽きていた。……身体が耐え切れなかったか。

 なお、この後もラスカルさんは度々モンゴルダービーのメンバーとの併走をすることになる。理由?

 

 

「お姉ちゃん?呼ばれてきたけど何?それもすっごく遠かった……ちょっと待って?なんでお姉ちゃんがモンゴルダービーに出走するレジェンドの方々と一緒にいるの?」

 

 

「いらっしゃいラスカル。答えは簡単よ、私もモンゴルダービーに出走するの」

 

 

「……そ、そうなんだ~」

 

 

「それでね?ラスカルこの前ラムタラさん達と併走したみたいじゃない?その話を聞いたみんなが興味を持ったみたいで」

 

 

「……帰る!」

 

 

「ダメよラスカル。今日は一緒にトレーニングしましょう?大丈夫よ、あなたのトレーナーからはアンカのトレーナーさんが許可を取っているわ。ぜひよろしくだって」

 

 

「嫌だー!死にたくなーい!死にたくなーい!」

 

 

 スズカさんに連行されたからです。ラスカルさん南無南無。でも強くなれるよ!地獄みたいなトレーニングを積むことになるけど。

 そして迎えたトレーニング。ラスカルさんはというと。

 

 

「……」

 

 

「どうしちゃったの?ラスカル。まだ1日どころか午前中も終わってないわ?」

 

 

「さすがにきつかったか……おーい!休憩させといてやれー!」

 

 

「はーい!」

 

 

「……ご愁傷様だなこいつも」

 

 

 ラスカルさんは午前中のトレーニングだけでぶっ倒れた。ジャーニーとファインさんに連れて行かれて休むことになる。なお、回復した後みんなと滅茶苦茶併走してた。ラスカルさんは半泣きだった。

 

 

「やだー!誰かお家帰してー!」

 

 

 ラスカルさんの悲痛な叫びが、練習場に木霊した。




やったねラスカル!強くなれるよ!
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