「え~っと……アカウント作って。これでいいのかな?と、とりあえず……スレ板?っていうのを立てよう」
安価の動画を見てから月日が経って。私は……掲示板のアカウントを作ってみることにした。
別に、なんてことはない。ただ、興味が出てきたから。それだけの理由だ。
「とりあえず……明日のお昼ご飯を安価しよう。コンビニで買えるような物で安価をかけて……よし、これで後はレスがつくのを待つだけ」
調べていくうちに分かった。安価なるものの正体に。
スレッドとかレスとか色々あったけど……安価の正式名称はレスアンカー。レス、つまりは過去の書き込みに対してコメントするようなもの……らしい。誰に対して発言しているのかを分かりやすくするためのものなのかもしれない。
そして今私が立てたのは安価スレ……本来ならば過去のレスに対して使用されるレスアンカーを、自分より後のコメントに対して使用するものだ。多種多様なものがあるらしいが……スレ主が守るべきことはただ1つ。
「安価は絶対にやり遂げること……うん、頑張ろう!」
そうして私は眠りにつく。明日はどんなコメントがついているだろうか?それとも、コメントがつかずに放置されるか。どっちにしても、まぁいいか。ただ、どこかワクワクを抑えきれない自分がいた。
「ななななな……!なんじゃこりゃあ!?」
朝起きてスレッドを確認する。安価で決まったコンビニで買うものを見て……私は素っ頓狂な声を上げた。いや、これは誰だって上げたくなるだろう。
「いやいやいや!?何、ポテサラ×20って!私にどんだけポテサラ食べさせる気!?というか、1つの店舗にそんなに売ってるわけないでしょ!?」
私は急いでそのことをレスする。返ってきたのは……。
「【知らん。複数店舗探し回れ】……【安価は絶対だ。やり遂げろ】……【そんなことで許されると思ってんのかオラァ!】怖い!?で、でも安価は絶対……や、やり遂げなきゃ……」
私は急いで家を出る。そしてコンビニを複数店舗回って……なんとかポテサラ20個を確保した。会社にも遅刻しなかったので良かった。危うく遅刻しかけたけど……。
「おはよう真澄さ……な、何そのコンビニの袋?」
「あ、アハハ……私のお昼ご飯です」
「へ、へぇ~……ポテトサラダしかないけど。そんなに好きなの?ポテトサラダ」
「そ、そうなんですよ!私ポテトサラダに目がなくて!あ、アハハ、アハハ!?」
「そ、そうなんだ……なにか辛いことがあったら、遠慮なく相談してね?真澄さん」
同僚の彼は去っていく。うん、間違いなく変な奴って思われたな。仕方ないけど。
「とりあえず、証拠の写真をupしないと。これも重要なことらしいし」
スマホで写真を撮って、スレに貼り付ける。その内レスがつくだろう。今問題なのは……。
(この大量のポテサラをどうするか……だな)
……完食するしかないな。あれ?早速レスがついてる。なんだ……!?
「【完食後の写真もうpしろ。逃げるなんて許さんからな】私の考えバレてる!?」
その後。昼食の時間でなんとかポテサラを完食した。うぅ……こんなにポテサラ食べたの初めてなんだけど……。でも、完食はした。証拠の写真をupする。
「はぁ……まぁ、当たり前としか思われないんだろうな……」
そんな時ふと思い出すのは、最後に家族以外に褒められたのはいつだったか?そんなことだった。思えば、社会人になってから褒められたことがない……どうでもいいか。仕事に戻ろう。
仕事をやって。また仕事を押しつけられて。もうそろそろ帰ろうかという時。私はスレの様子が気になってスレを開く。
「……え?」
私の目に映ったのは……賞賛の言葉だった。
251:名無しさん ID:e4VuOFsYI
初安価お疲れさん。良くやったやで
252:名無しさん ID:I/+xJQLB1
まさか本当にやるとは…これは将来有望な安価民
253:名無しさん ID:O+BHwCoI7
玉も竿もでけぇなお前(褒めて伸ばす)
254:名無しさん ID:0Kf4tuc+U
また安価やってくれよな~頼むよ~
255:名無しさん ID:sq58MHSKM
マジであの量のポテサラ完食したんかwwwイッチグッジョブ!
256:名無しさん ID:Gr+R/jLgC
こーれは将来有望ですね間違いない
257:名無しさん ID:bG3q9clZ4
囲め囲め!この有望な安価民を逃すな!
258:名無しさん ID:C9WjFSTdn
安価民はデュエルで拘束せよ!
259:名無しさん ID:XsO17kLxe
良くやったイッチ!
260:名無しさん ID:Kyr51b7zH
次の安価も楽しみに待ってるでイッチ!
「な、なんで……?」
良く分からなかった。私は、ただ安価は絶対だからやり遂げただけだ。それはこの人達も分かっているはず。なのに……どうしてこんなに賞賛してくれるんだろうか?私は、急いでレスをつける。
「【安価は絶対だからやっただけなのに、どうしてそんなに褒めてくれるんですか?】……なんで、なんで……」
本当に、良く分からない。褒めてくれるのも、温かい言葉をくれるのも……私の胸が、こんなに熱くなっているのも。良く分からなかった。
しばらくして。仕事も終わって帰路に着く。その時また、板を覗いてみた。あれから書き込みがたくさんあったらしい。随分進んでいた。
281:名無しさん ID:a+k0sUJYB
当たりまえのことを当たり前にやる。それって結構難しいことやで
322:名無しさん ID:Vp25pisag
安価をやり遂げる。それが大事なことだ。当たり前だとかそんな話じゃない。安価をやり遂げた…それが褒められるべきことや
340:名無しさん ID:KBD4swcTa
初安価がこんなクソみたいな内容なのにやり遂げた……これって、勲章ですよ?
378:名無しさん ID:dh3sLBANl
ちょっと自己評価低くない?もっと誇って、どうぞ
レスは、たくさんの言葉で溢れていた。途中ちょっとおかしいのもあったけど……ほとんどが、私を肯定してくれる内容。私を、褒めてくれる内容だった。
「【安価をやり遂げたという、その行動のみが真実】……【イッチは立派やで。もっと誇ってほらほら】……【何があったか知らんけど、ちゃんとやったんだから褒められるのは当たり前や】……アハハ……何ソレ?」
多分、住民からすれば私の方がおかしいんだろう。でも、思わずそう言葉を漏らした。そして……気づけば私は。電車の中で涙を流していた。
「あはは……こんなに、あったかくなったのはいつぶりかな?」
電車に乗っている人達は、私を奇妙なものを見る目で見ている。でも、私はお構いなしに鞄に顔をうずめて泣いた。悲しいという感情以外で……久しぶりに、涙を流した。
今日も弁当を買って食べる。美味しかった。コンビニ弁当も、捨てたもんじゃない。
それからまぁ色々なことがあって。私は、いろんな安価をやり始めた。
「うげ!?【RTAのワールドレコード更新するまで終われない配信】!?クッソ~、最近当たり安価が多かったから油断してた~!しゃーない、配信の準備するか……」
たまに変な安価を引くこともあったけど。それでも、充実した日々を過ごしていた。そのせいだろうか?私の景色は……いつの間にか、色づいていた。
「真澄君!この資料はできているんだろうね?できてないなら……」
「その資料なら、もう終わらせましたよ」
「お、おぉそうか!」
「もう用事がないなら私は行きます。それでは」
楽しい日々を過ごしていた。あんなに辛いだけだった私の……
「あ、真澄さ~ん!この仕事……」
「ごめんね。僕、これから用事があるから。というか、いつまでも僕に押しつけてないで自分でやって」
「あ、え……?でもこの前まで……」
「この前はこの前。今は今。というか社会人なんだから、そろそろ自分の仕事ぐらい自分で片づけて」
それはきっと、安価のおかげでもあるのだろう。
「真澄さん」
「──さん?どうかしたの?」
「……いや、真澄さん変わったねって。それも、良い方向に。今の真澄さんは……凄く楽しそうだ」
「そう?……まぁ、ありがとう」
「うん。頑張ってね真澄さん……俺も、あの狸じじいに一泡吹かせるために頑張りますかね」
人付き合いは相変わらずだけど……以前よりははるかにマシだ。
安価以外に変わったことといえば。
「ただいま~!元気にしていたか~、我が愛しの妹よ~!」
「お帰りお姉ちゃん!ご飯できてるよ!」
「やったー!日向の料理美味しいから好き~!」
「お姉ちゃんの方が料理美味しいじゃん!でも、お姉ちゃんの幸せそうな顔が私は好き~!」
僕が住んでいるマンションに、日向も一緒にすむことになったぐらいだ。声優になるために日夜頑張っているらしい。夢があるってのは良いことだ。この前まで夢を持たない、何も持たなかった僕だからこそ分かる……夢を持つことが、なにか原動力があることが、どれだけ素晴らしいことなのか。
「次のオーディションも頑張ってね日向。お姉ちゃん応援してるよ」
「うん。落選続きだけど……今度こそ受かれるように頑張るよ!だけど、ふふ」
「ん?どったの日向?僕の顔見て笑って」
「ううん。お姉ちゃん、お母さんが言ってたより元気そうだなって。いつも元気なさそうってお母さん言ってたから、だから心配してたんだ」
「oh……それは悪かったね。だけど、僕はこうして元気にしているよ!あ、お母さんにまた今度浅漬け送るように言っておこっと」
「もうなくなったの!?お姉ちゃん本当に浅漬け大好きだね~」
そんな他愛もない会話をするようになった。家族との仲も良好である。
安価のおかげで、僕は変われた。大事なことを教わった。他人からすれば、バカバカしいと思うかもしれない。だけど……安価のおかげで、僕は変わることができた。それだけは誰にも否定させない。
「ふんふふ~ん。今日は日向の大事な大事なオーディションの日だからな~。気合入れて料理作っちゃるか!」
これからも頑張って生きていこう。そんな、矢先の出来事だった──
「ッ!?」
クラクションの音が鳴る。僕の目の前には轢かれそうになっている子供がいる。迷う必要は、なかった。
「危ないっ!」
僕は子供に向かって駆け出す。それから先はのことは──良く覚えていない。僕の記憶は、そこで途切れていた。
──気づいたら、真っ白な空間に立っていた。
「ま、まさかここは……異世界転生でよく見るヤツ!?」
”その通りです。人の子よ”
そして目の前には神様っぽい方が!?なんかこう……神々しいオーラが凄く凄い!
”単刀直入に申し上げましょう。あなたは亡くなりました。しかし、あなたには我々の手によって転生する機会が設けられました。なので、とある世界に転生してもらいます”
「おっと、話しが早い。まぁ嫌いじゃないけど」
”まずはあなたには転生するにあたっての特典を与えましょう。これは、あなたの生前の行いが評価される形になります。良き行いをすれば良いものが、逆に悪い行いにはそれ相応の特典が与えられます”
あ、そういうシステムなんだ。さてさて、どんな特典が貰えるのやら。
”あなたに与えるのは……頑丈な身体と鍛えれば鍛えるだけ強くなる身体ですね”
「あら普通にお強い」
”それだけ、あなたの生前の行いが評価されたということです。転生先の世界も決めて……最後に。何か思い残したことはありますか?”
思い残したこと……か。
「妹の日向と家族のみんなに、遺書だけ書かせてくれない?あの子が心配だからさ。これから先も不安だし……だから、僕の遺産とか諸々相続できるようにしておかないと」
神様は驚いたように目を見開いていた。そんなに意外かな?割と普通だと思うけど。
”──承りました。それでは、こちらの紙に好きなだけ書いてください。あなたの妹君とご家族に、必ず届けましょう”
「あ、本当?ありがとう神様!生前もっと信心深く生きておくんだったな……」
”ふふっ──”
あ、神様笑うと美人。さてさて、遺書を書いて……と。
小一時間かけてみんなへの遺書を書き終えた。妹には夢を諦めないように、家族には先立つ不幸をお許しくださいみたいなことを書いて。神様に渡した。
”──転生先の世界でのあなたの旅路に、祝福があらんことを”
その声を最後に、真っ白な空間から弾き出された。意識が徐々に落ちていく。
(それにしても、ウマ娘の世界か……なんぞ?ウマ娘って。良く分からん)
とりあえず、あっちでもやることは決まっている。それは──
(安価を使って、夢を持たない人達に夢を魅せれるような存在になる!夢を持たなかった僕だからこそ分かる、夢を持たないことの辛さ。そんな人達が1人でもいなくなるように……僕は、安価で世界を変える!後僕安価大好きだし!)
あっちでも安価をやるってこと!神様から聞いた話だと、僕のやりたいことはできるかもしれないとのこと。だったら、やるっきゃない!
そして僕の意識は──闇に落ちた。
「……んあ?」
ベッドの上で起きる。隣のベッドでは、まだヴィッパーが寝ていた。日は……まだ完全には昇り切っていない。それにしても……。
「随分懐かしい夢を見たもんだ。みんなは元気にしてるのかな~?」
そんなことを呟きながら朝の支度をする。さて、と。
「今日も一日、安価を頑張りますか!」
──僕の、アンカデキメルゼの一日が始まる。
終わらないよ?次回からちゃんと本編に戻るよ?
ちなみに上司は同僚の彼の手によって今までの所業が社長の耳に入って役職を降ろされて地方に左遷されました。白い目で見られながら窓際族やってます。ざまぁないぜ!