ゴールドカップが終わってホテル……というよりは、イギリスでの活動拠点に戻ってきた僕達を出迎えたのは、師匠達だ。
「おーっす、お疲れさん我が弟子」
「相も変わらず変なことをやるのね。マッサージはちゃんと受けておきなさいよ?」
「わ、分かってますよコーチ」
「セクレタリアトさん、ニジンスキーさん。みんなの調子はどうでしたか?」
「問題はないわ。滞りなく、順調にトレーニングは進んでいる」
「タキオンのデビュー戦はどこを使う予定なんだ?」
師匠の言葉にトレーナーさんは一瞬考え込んで、結論を出す。
「……タキオンの調子次第で変える可能性もあるけど、今のところは9月にデビューかな?」
「そうかい。本人もその辺りだっつってたな。てことは……」
……実はここ、ホテルではない。というか、今現在イギリスにはモンゴルダービーに出走する全メンバーが集まっているのでホテルに泊まったらえらい騒ぎになる。なので、コーチの伝手を頼って別荘的な隠れ家的なものを借りている状態だ。
「久しいなぁこのよーろっぱの雰囲気は!懐かしさを感じるわ!」
「フジさんはこっちに来たことがあるらしいねぇ。あたしは海外に興味なかったから初めてだけど」
なんでモンゴルダービーに出走するメンバーが?と思うかもしれないが……ちゃんと理由がある。その理由は、僕だ。
僕は7月末に開催されるグッドウッドカップにも出走する。そこからモンゴルダービーに向かう予定だ。そこで問題となったのが、日本でみんながトレーニングしていると僕がモンゴルダービー組とトレーニングができないということである。
できる限り一緒の環境でトレーニングすることが望まれる。だが、僕にも出走するレースがある。どうするべきか……そう思っていた僕に、ニジンスキーコーチの一言があった。
『ワタシの知り合いが別荘を貸してくれるわ。イギリスでトレーニングするわよ』
この一言により、僕達はイギリス入りを果たす。ちなみにミレちゃんにも会った。どうやらプリンスオブウェールズステークスに出走する予定だったらしい。そんなミレちゃんだが、当レースを大差勝ちしてた。やっぱすげぇなぁミレちゃん。ドバイワールドカップで完全覚醒したって感じだ。
「それじゃ、今日はもう休んで明日に備えようか。明日からはモンゴルダービーのトレーニングだし」
「そうだな。1日たりとも無駄にはできない、早めに疲れを癒しておくとしよう」
「普通はレースの次の日は休んだ方が良いんだがな。明日は地図読みの勉強だからあまり関係はないが」
あ、そうなんだ。
ゴールドカップから数日が経ち。僕達はモンゴルダービーのトレーニングに移る……の、だが。
「『足を踏み外さないように気をつけろ!滑落なんて洒落にならねぇからな!』」
「『分かってるっすよ!にしてもキッツ……!』」
「『山道を走る経験などありませんからね……!レース場のどんな坂よりもキツイです……!』」
僕達は今現在山道を走っている。これもまたモンゴルダービーを想定してのことだ。
出走が決まった時点でトレーナーさんがモンゴルの地図を購入。そして、メンバーが決まったその日からみんなでその地図を読み取る日々が始まった。地図読みでモンゴルダービーのコース取りを考えているのだが……これがまぁ難しい。
モンゴルダービーには40kmごとにチェックポイントと呼ばれるものがある。ここがウマ娘の交代地点となる。そのチェックポイントの位置を確認し、常に最短の経路を取れるように考えているが……ここで問題となるのが天候。天候によってはその最短のルートが取れない場合が出てくる。特に湿地帯とか高山地帯とか川とか。
この山道を走っているのも、丘や谷のコースを走る時に必要だからだ。
「『良いかー!気合入れて走れー!』」
「『ふっ!神である我にこの程度の試練など造作もないことよ!』」
「調子良さそうだねぇラムタラさん。まぁいいや、アタシもまだまだ、よゆー!」
「シービーちゃんもやるねぇ。あたしはのんびりしたいけど……」
「『あら?お疲れかしら日本の3冠ウマ娘』」
「笑わせるんじゃないよ。あたしはまだまだいけるさニジンスキー!」
「どんなレースよりも過酷だ……!だが!だからこそ美しく輝いている!参加する意義があったというものだ!」
「気持ちいい……!山道を走るのも悪くないわっ!」
メンバー全員、この数ヶ月でスタミナを鍛えに鍛えている。後はペース配分とかを計算して、80kmを走る算段をつけるだけだ。一人だけ40kmしか走らない人もいるんだけど……。
「『クッ……!くじ引きで決まってしまったとはいえ、何故私が……!』」
「『そう落ち込むなレディ。運がなかったと諦めろ』」
「『いや、普通は運がある方じゃないですかね?』」
その40kmしか走らないメンバーはレディさんだ。それにしてもくじ引きで決まった時は凄かったなレディさん……修羅の形相をしてた。恐怖を感じたね。そんなに80km走りたかったのだろうか?と思いもしたが……多分他のメンバーを意識しているせいだろう。後は他のメンバーに対する申し訳なさとか。レディさん責任感強そうだし。
そういやメディカルメンバー、医療スタッフは師匠とコーチの伝手で世界最高レベルの人材を揃えているらしい。また、松さん経由で日本からも優秀な医者の人達が来ている。つまるところ……体調管理と健康状態に関しては万全といってもいいだろう。
高地でのトレーニング、山を利用したトレーニングが終わった後、別荘に戻ってモンゴルダービーに向けた定例ミーティングが始まる。
「『さて、まずはおさらいになるが……モンゴルダービーのトップバッターはシア、お前だ』」
「『ウチっすか。了解っす』」
「『そして、基本的に悪路になるであろう丘や谷、川では俺とシルバーラビット、そしてフジノオーで走る。これに関しては言わなくても分かるな?』」
僕らは全員頷く。どんなバ場でも関係なく走れる僕と師匠、そして障害レースでタフなレースをしてきたフジノオーさんが悪路を走ることになるのは当然だ。
それから遅くまでレースの順番決めをしていき……良い時間になったところで就寝である。明日もまたモンゴルダービーに向けたトレーニングだ。
「今更だけどなんでケツデカ葦毛達はモンゴルダービーに出走するんだ?意味分かんねぇんだけど」
「神の啓示とやらさジャーニー君。アンカ君の言う神々は、どうやら彼女がモンゴルダービーに出走することがお望みらしい」
「……ろくでもねぇ連中だなおい。畑違いもいいとこだろ」
「それは言わないお約束だよジャーニー。みんな心の中で思っていることだから」
「まぁそれで実行に移すアンちゃんもアンちゃんです」
「──challenger」
「どちらかといえばfoolな気がするけどねぇ」
「やっぱケツデカ葦毛って結構なバカだろ」
「「「それはそう」」」
聞こえんだよさっきからよぉ!僕のいないところで言えよ!いや、それもできれば止めて欲しいけど!後ケツデカ葦毛止めろやクソチビ!
「そうだトレーナー!久しぶりにこっちに来たのだから、お姉さまに会いに行ってもよろしいかしら?」
「ファインのお姉さんといえば……アイルランドだよね?じゃあ日程をすり合わせようか。向こうの都合の良い時間に合わせるよ」
「やったぁ!ありがとうトレーナー!」
ファインさんのお姉さんか……どんなウマ娘さんなんだろう?ファインさんと似ているのか、それとも厳格な雰囲気で、こう、The・お嬢様って感じの方なのだろうか?あんまり想像がつかんな……。
こうしてイギリスでの一日が終わる。明日はどんな一日になるだろうか?……多分トレーニング漬けだな。モンゴルダービーも近いし「ピロン♪」うん?
「LANEの通知音……誰だろう?」
「珍しいこともある……いや、主に特定の誰かのせいで珍しくもなくなってるです」
ちなみにこの特定の誰かとはデイラミさんだ。デイラミさんはほぼ毎日、欠かさず僕にメッセを飛ばしてくる。それは良いとして差出人は……っと。あれ?ミレちゃんか。
「ミレちゃんか。どうしたんだろう?とりあえず確認……」
【アンちゃんもし暇があるのであれば遊びに行かぬか?】
あ、遊びのお誘い……だと!?ととと、とりあえず返信しないと!
「【いいけどいつ頃?】……っと。うわ、既読着くの早い……【週末などどうだ?】週末か……よし、OKしよう」
OKしといた。週末は基本的に休みだからね!だから遊べるはずだ!そ、それにしても遊びの誘いかぁ……!えへ、えへへ!
「楽しみだなぁ!」
「なにがです?」
「週末にミレちゃんと遊ぶのさ!」
「ふーんです。まぁリフレッシュも大事です」
週末が楽しみだなぁ!
地味にとんでもないことをしているアンちゃん。なお本人に自覚無し。