モンゴルダービー組のトレーニングを見るドクターファーガー。彼女の視線の先には……アンカデキメルゼがいた。彼女を見て、ドクターファーガーは薄く笑う。
「いいねいいねぇ。まさに神秘の存在だよアンカデキメルゼ……なぜあれほどまでのトレーニングが可能なのか?どうして彼女の身体が壊れないのか?それが不思議でならない!あぁ……おれの手で全てを解き明かしてみたい!」
「言っておくが、そんなことをしたらテメェを地獄に送ってやるからな」
怒気……というよりは、呆れたような口調のセクレタリアト。彼女には分かっているのだろう。これはドクターファーガーの冗談であるということを。その証拠に、ドクターファーガーも陽気に笑っている。
「落ち着いてくれセっちゃん。何も解剖したいとかそういうことじゃないさ」
「たりめぇだ。……で?オメェから見て我が弟子はどうよ?」
「相変わらず先輩に対する口の利き方がなってないねぇ」
「俺は偉いんでね。なにせ、2代目ビッグ・レッド様だからな」
「ま、その方がおれとしてもフランクに接することができるからいいけどね。アンカデキメルゼについてだが……君が目をつけただけのことはある。そして、君という師匠とこの環境もあってか……今現在における彼女の実力は、現役のウマ娘で敵う者はいないだろう。日本で言うドリームトロフィーリーグ……だったか?それでも頂点を取れるだろうね」
「そうだろうそうだろう!」
セクレタリアトはふんぞり返る。自慢の弟子が褒められてご満悦のようだ。
その態度を見て、ドクターファーガーは……笑みを浮かべた。
「だからこそ、競ってみたいなぁ……!彼女の実力を間近で感じたい、彼女の強さをこの身で体感したい!そして……彼女に土をつけたい……!そう思わないかね?
捕食者のような獰猛な笑み。そんな笑みを浮かべるドクターファーガーに対し、セクレタリアトは……。
「……HAHAHA!衰えてねぇようで安心したぜ?そいつは……俺も同意見だ」
確かにセクレタリアトにとっての自慢の弟子だ。だが、育てていくうちに実感した……いつの日か、自分を越えてくれる日が来るんじゃないかと。そして、それだけの実力を身につけたアンカデキメルゼと……闘ってみたいと。そう思っていた。
何もセクレタリアトとドクターファーガーに限った話じゃない。このモンゴルダービーに出走しているメンバー全員が、アンカデキメルゼという存在を気にかけている。現在において世界最強の実力を誇るウマ娘、常勝無敗、あらゆるG1レースをあらゆる戦法で勝ってきた
だからこそ、すでに現役を退いたセクレタリアト達は考える。
「自分達の全力を、アンカデキメルゼというウマ娘にぶつけたい……!この場にいる全員が、そう思っているだろうさ」
「そりゃあそうだろうね!なにせ、会ってそこまで月日が経っていないおれですら思うようなことだ!この半年、ずっと近くにいたお前らがそう思わないはずがない!」
「特にシアの奴はバチバチだからなぁ。よっぽどシルバーラビットと戦いたいと見える」
第一線を退いたとはいえ、強い相手がいたら闘争本能を抑えずにはいられない……ニジンスキーが良い例だろう。無気力で、レースに対する情熱を失っていた彼女が……アンカデキメルゼのレースを見たことで、かつての姿を取り戻しつつある。イギリス最後のクラシック3冠ウマ娘、ニジンスキーの姿を。
セクレタリアトは、ドクターファーガーに目配せをする。
「それで?
その言葉に、ドクターファーガーは楽しげに答えた。
「順調さ!誰も彼もが乗り気になっている!」
「そうかい……そりゃあ楽しみだ!」
2人は笑う。これから先の未来、アンカデキメルゼというウマ娘が刻んでいくであろう蹄跡を考えると……笑いが抑えきれなかった。
なお、それを遠巻きに見ていたアンカデキメルゼは。
「なんであの2人笑ってるんだ……?」
不気味がっていた。
ところ変わって日本。宝塚記念が行われた日。
《最後の直線を回った残り400を切りました!先頭は内からラスカルスズカ!前年度宝塚記念覇者グラスワンダーは大外を回らされたこれは少し厳しいか!?グラスワンダーの内からメイショウドトウが上がってきている!クラシックでは無名のメイショウドトウが上がってきている!しかしその外にはテイエムオペラオー!春シニアすでに2冠を手にしているテイエムオペラオーが上がってきた!まさかこれは春シニア3冠を獲るのかテイエムオペラオー!しかし外からアドマイヤ!グラスワンダーのさらに外からアドマイヤベガが上がってきた!アドマイヤベガが猛烈に追い上げる!残り200を切った!ラスカルスズカ懸命に粘るがテイエムオペラオーがじりじりと追い立てる!ステイゴールドも上がってきている!内のラスカルか外のテイエムか!?それとも伏兵メイショウドトウかステイゴールドが!?はたまた流星がその蹄跡を阪神レース場に刻むのか!?》
テイエムオペラオーは、ただ冷静にレースを展開していた。そして、テイエムオペラオーのプレッシャーが周りを飲み込む。
「ハーッハッハッハ!覇王の舞台はまだ終わらないさ!これもまだ道半ば……さぁ!ボクの栄光をその身に刻みたまえ!」
(大阪杯で初めて体験したけど……!
テイエムオペラオーは、アドマイヤベガ以外のウマ娘を使うことで自身の能力を全開まで引き出していた。
「諦め、る……かぁぁぁぁぁぁぁ!」
裂帛の気合いとともにアドマイヤベガがテイエムオペラオーを追い込む。だが、
《テイエムオペラオー!テイエムオペラオーだ!テイエムオペラオーが宝塚記念を制した!これで春シニア3冠を達成しましたテイエムオペラオー!そして……年が明けてから
アドマイヤベガは、荒く呼吸をする。
「ハァ……ハァ……!く、っそ……!」
(後一手、足りなかった……!)
“お姉ちゃん……!”
アドマイヤベガの中にいる妹も、悔しそうに歯噛みしている。アドマイヤベガは、そう感じていた。
「……強いわね。オペラオーは」
“そうだね……ずっと、牙を研ぎ続けてきてた”
「次は、勝つわ。今はゆっくりと休んで、また彼女に挑むわよ」
“……うん!あ、でも無茶なトレーニングは厳禁だよ!”
「分かってるわ。それに、トレーナーが許してくれるはずがないでしょう?」
アドマイヤベガはレース場を後にする。ファンから惜しみのない賞賛を受けているテイエムオペラオーを一瞥して、ターフを去っていった。
「しっかし強くなったなテイエムオペラオー。クラシックの時とはえらい違いだ」
「こうなると期待しちまうよな、アンカデキメルゼとの頂上決戦!」
「あっちもまだ負けてねぇんだろ?しかも、アンカデキメルゼに関してはデビューから今まで負けなしだ!」
「世紀末覇王VS道化の魔王……どっちが勝つんだろうな!」
「おいおい、今回は出てないけどナリタトップロードだっているだろ?それに、アドマイヤベガもあと一歩ってとこまで追い詰めたじゃねぇか!」
「アンカデキメルゼの世代強すぎだろ!」
「というか、この世代がバケモン揃いなんだって!歴代最強世代なんじゃね!?」
「それ大体アンカデキメルゼってやつの仕業だろ」
「「「それはそう」」」
ファンも期待せずにはいられなかった。年が明けてから無敗のテイエムオペラオーと、デビューからこれまで無敗のアンカデキメルゼ。その2人の戦いを。
(フフフ……キミと戦う時が楽しみだよアンカ君!ボクの全力を持ってキミの相手をしよう!)
テイエムオペラオーは、ファンに笑顔で応対しながらそう考えていた。
この2人が対決する日がくるかは、まだ分からない。
この2人が戦う日は来るんですかね?