時計が19時を回った。それと同時に、運営から支給された時計からアラームの音が辺りに響き渡る。モンゴルダービー1日目が終わった合図だ。
「デイラミさんまでいきましたけど、トップにはなれませんでしたね」
「仕方ないわ。さすがに、悪路区間でのアクシデントが響いたもの」
「いやはや。面目次第もねぇ!このフジノオーともあろうものが、走るのに手間取っちまった!」
「いや、あれは仕方がねぇ。天候のせいでもあるし、気にするだけ無駄だ。とにかく今日はここで野営だな。2日目のメンバーはこのまま車に乗ってチェックポイントまで送ってもらえ。ドライバーは頼んだぜ?」
僕とコーチの言葉に、フジノオーさんが申し訳なさそうにしている。ただ、アレは仕方がない。僕や師匠でもまともに走るのは難しそうだったから。
第1走者であるシアさんと第2走者であるスズカさんはトップで通過した。そのまま第3走者であるフジノオーさん、第4走者であるデイラミさんから今日最後の走者の予定だったトリプティクさんまでいく予定だったのだが。フジノオーさんのところでアクシデントが発生してしまった。
フジノオーさんの区間は最初の悪路、丘越えの区間だった。しかし、一時的に降った雨の影響で地面のコンディションが思った以上に悪かったのである。そのせいで、フジノオーさんは走るのに手間取ってしまっていた。その間にも他の参加者は瞬く間にフジノオーさんを追い抜いていき……といった感じ。それでも一応、僕達は上位チームにはまだ入っている。
「だが、悪路を任された身である以上結果は受け入れなきゃならねぇ。だから約束しよう──次の区間ではこうはいかねぇ!もう二度と悪路にハマったりはしねぇさ!」
「頼もしい言葉だ。頼りにしてるぜ?フジノオー」
「おーい!野営の準備終わったすよー!」
遠くでシアさんが僕達を呼ぶ声が聞こえた。今日はここで野営だ。食料も結構な量支給されているし、楽しみだな~!
ご飯を食べながら地図を広げて、僕達の現在位置を確認する。
「現在の走者は第4走者のデイラミ。とは言っても、デイラミも30kmは走っただろ?」
「そうだねビッグ・レッド。私も、明日はすぐにでもトリプティクさんにバトンを渡せるだろう」
「狼煙の位置から推察するに、第5走者まで行ってるチームはまだいねぇ。もし行ってるにしても、10kmも走ってねぇだろうさ」
「明日のメンバーをおさらいしますか。明日はトリプティクさんから始まって第6走者の松さん、第7走者のラムタラさん、第8走者のシービーさん、第9走者のタケシバオーさんまでいく予定ですっけ?」
「ま、現状を考えるにそれがベストだろうな。タケまではギリギリ行けるかどうかだろうが、目標は高く見積もっていた方が良い。現在は190km、ただここから先はさらにキツくなってくる区間だ」
「『今日走ったメンバーの区間が一番まともっすからねぇ。あ、肉焼けたっすよ逃亡者』」
「『ありがとう。いただくわ』」
「それにしても、気をつけなさいスズカ。危うく全員失格になるところだったわよ」
茶化すようなコーチの言葉に、スズカさんは顔を真っ赤にしている。まぁアレはねぇ。
「ほ、本当にごめんなさい!凄く天気が良くて、景色も良かったからっ!」
「『気持ちは分からないでもありません。ですが、節度を持った走りをお願いいたします。次の区間では同じことがないように』」
「わ、『分かってるわ。次の区間では同じミスはしない』」
「ま、それでも逃亡者はトップでバトンを渡せたんだ。その甲斐もあってか、フジノオーのアクシデントにも余裕をもって対処できた。違うか?フジノオー」
師匠の言葉にフジノオーさんは豪快に笑ってる。お肉うまうま。
「違いない!それに、あのようなアクシデントがあったから楽な気持ちで対処できたわ!ガハハハ!」
「う、うぅ~!そ、そこまで弄らなくても……っ!」
顔真っ赤なスズカさんも珍しいな。でも、仕方ないんだ。凄い爪痕を残したし、それだけのことをしたからもう仕方ないんだコレは。
「特に、一番キツいのはお前だ我が弟子。崖越え区間でもあるし、まともな道なんてありゃしねぇ」
「それ言ったら師匠もそうでしょ?川越え区間担当の師匠」
「あなた達どっちもでしょうが」
「いや、砂漠を担当する予定のニジンスキー殿も大概だと思うが?」
「『楽なのは最初だけで、どこもかしこもヤバいとこだらけっすよ』」
「「「『それはそう』」」」
ま、今のうちに英気を養いますか!それにしても、やっぱり星空がすげぇ!日本でもこんな景色は滅多に見れないぞ!
「周りに明かりがないからか、やっぱり凄く綺麗ね」
「だな。それに、周りに何もないのもまたこの景色を彩ってくれている。絶好のロケーションだな」
「『あぁ~。今日走った疲れが癒されるっすね~』」
その後はテントで寝ることになるのだが。
「我が愛しのアンカよ!是非一緒のテントで寝ようじゃないか!」
「僕は別にいいですけど……大丈夫です?色々と」
「もも、問題ないさ!さささ、さぁ一緒に」
いや、デイラミさん顔真っ赤だし。体調に悪影響だから止めた方が良いんじゃ。
「あなたの体調に悪影響だからあなた達は別のテントよ。というか、デイラミは明日に備えてさっさと寝なさい」
「こ、これも仕方なしっ。それじゃあ、明日は頑張らせてもらうよ」
デイラミさんはしょんぼりした様子でテントに戻っていった。なんか悪いことした気分だな……。
モンゴルダービー2日目。朝7時を報せるアラームとともにデイラミさんは走り出し、僕達は車に乗り込んでデイラミさんを追う。
デイラミさんの体調は好調そのものであり、なんなく残りの10kmを走破してトリプティクさんにつないだ。
「トリプティクさんが走るコースも、かなり道が激しいコースでしたよね?」
「デコボコが激しくて、走るのにも一苦労なコースだ。だからこそ、トリプティクな訳だが」
心配されたトリプティクさんだが。荒れたデコボコ道をトリプティクさんは難なく走っていた。快調に飛ばしている。
「良い調子ね。このままなら、第6走者のシンザンに良いタイムで繋げられそうだわ」
「あ!1人追い抜きましたよ!やったやった!」
「1人追い抜いたぐらいで一喜一憂するな我が弟子。嬉しいのは分かるがまだ抑えとけ」
その後トリプティクさんは正午を回る前に第6走者である松さんにつないだ。松さんとトリプティクさんのコースは似ている。だけど松さんは!
「『ウチが負担の少ない楽な走り方を教えといたっすからね。ま、問題なく走れると思いますよ』」
「いけいけー!松さーん!」
松さんも難なくクリア!徐々に前との差を詰めていった!
第7走者のラムタラさんにバトンタッチして、松さんが僕達のところに帰ってくる。
「いやはや、中々タフなコースだったよ。フジノオーはこれ以上だったんだろ?お疲れさんだねぇ」
「お疲れ様です松さん!これ、飲み物とタオル!」
「ありがとねぇアンカちゃん。できる限り前との差は詰めたけど、はてさて。これからどうなることやら」
今日は一応、一日中晴れの予定だ。だけど、いつ天候が変わるか予測がつかない。天気が変わらないことを祈るしかない。
「『クハハハ!我は神のウマ娘ラムタラぞ!モンゴルの自然が敵であろうと、神である我にはそのような障害、無駄であると知るがよい!』」
ラムタラさんのそんな声が聞こえてくるが。
「『途中で雨が降って泣き言に一票』」
「『このまま無事に走り切ってドヤ顔に一票』」
「『後ろから追い抜かされて自己嫌悪に一票』」
「ラムタラさん相手になにしてるんですかコーチ達は!?」
なんか賭けの対象にしてるし!そんなラムタラさんは特に問題なく走り切っていた。
「『ふふ~ん!どうですニジンスキー先輩?我が配下よ!我の走りは!』」
それはもう満面のドヤ顔で帰ってきた。
「『凄かったですラムタラさん!流石は神のウマ娘です!』」
「『ふっふーん!そうであろうそうであろう!もっと我を崇め奉るがよい!』」
「『あんまりラムタラを甘やかさないでちょうだいアンカ』」
それからシービーさんとタケシバオーさんも問題なく走っていた。タケシバオーさんが10km地点に到達したところで今日のレースは終了。順位的には上の方、だと思う。前にどれだけいるか分からないし、自分達の現在地点が分かっても他の子達の場所は分からないから自分達がトップなのかどうなのかも分からないんだよね。チェックポイント通過で判断しないといけない。
そして、明日は師匠の番になる。つまるところ、川越え区間だ。
神(ラムタラ)と配下(アンカ)の絡みでモンゴルダービーの辛さを中和するか。