モンゴルダービー3日目。僕は自分の番が近づいているという関係上、車ではなくチェックポイントで前の走者が来るのを待っている。
(僕の担当は崖越え区間。師匠達と同じで悪路を走ることになる。一応、トレーニングは積んできたとはいえどうなることやら)
地図を見る限りは大丈夫そうではあるんだけど。このモンゴルダービーはなにが起こるか分からない。用心しておくに越したことはないだろう。
「アンカ様、体調チェックの方に参りましょう」
「あ、は、はい」
メディカルチームの人に呼ばれて、軽めの体調チェックを済ませておく。
今どうなってるか分からないけど、多分師匠の川越え区間に入っているはずだ。頑張れ師匠!
一方その頃。アンカデキメルゼのチームは第11走者であるセクレタリアトの番まで来ていた。セクレタリアトは、もうすぐ川のある場所へと差し掛かろうとしている。
(川が近いってこともあってか、かなり涼しいな。モンゴルの気候は夏にしては涼しいってことも関係しているが)
前を走るウマ娘がいることは分かっているが、どこを走っているかは分からない。それが走者の不安を駆り立てる。普段セクレタリアト達が走る距離はどんなに長くても4000mが限界、視界に入る距離ではある。だがモンゴルダービーの距離は1000km。この距離では、前とどれだけ差がついていてもおかしくないのだから。
だが、アンカデキメルゼのチームにいるウマ娘達はそんなことは気にしない。むしろ、先が分からないこそ燃え上がるようなウマ娘ばかりである。
(他のモンゴルのウマ娘は、っと。どうやら浅くなっている部分を渡るらしいな)
前との差は分からなくても、セクレタリアトと同じ位置で走っているウマ娘はいる。そのウマ娘達はセクレタリアトと同じく、できる限り浅瀬の部分を走ろうとルートを探しているようだった。
そこでセクレタリアトは考える。このままでいいのだろうか?と。
(こうして探している間にも、前との差は開く一方だ。できる限り浅いとこを走ってロスを少なくする、深いところを泳いで脚を取られたら不味いってのは俺も分かる。だが、それで本当に良いのか?)
セクレタリアトはそう考えて、結論を出す。セクレタリアトの表情は、笑顔だった。
「うしっ。気合を入れて突っ込みますかね!」
セクレタリアトは、
メンバーは驚愕の声を上げる。
「ちょ!?なにやってるんだビッグ・レッド!」
「川に突っ込んでいった!?」
「痺れを切らしたっすかね?なんにせよ、どうなることやら」
「おぉ、面白そうだね。アタシもやってみたいな~」
ラムタラ、サイレンススズカ、シアトルスルーはそう声を上げる。ミスターシービーは楽しそうにしているが。そんな中、フジノオーは射貫くような目でセクレタリアトを見つめる。
「なるほど。我に足りないのはあの冒険心やもしれぬな。しばらく忘れておったわ、その気持ちっ」
興味深そうに、事の顛末を見届けようとしていた。
セクレタリアトが取った進路は、浅瀬ではなかった。加えて泳ぐほど深くもない。つまるところ、走るのに一番苦労する区間である。だが、セクレタリアトは笑っていた。
「そうだ!ごちゃごちゃ考えるのは性に合わねぇ!俺が走る道こそが正道だ!」
川の水をかき分けながらセクレタリアトは川を渡る。未開の地を進む冒険者のように。
川を渡るだけでも一苦労である。しかも、川越えはここだけではない。それでも、セクレタリアトはワクワクしていた。未知の体験に。
(なるほど、結構楽しいじゃねぇか!後でこの楽しさを他のヤツらにも教えてやるとするか!)
もっとも、メンバーの半分くらいは渋面を作るだろうが。そうセクレタリアトは考えを帰結させる。
セクレタリアトの川越え区間は続く。だが、それは最初のルートよりもさらにキツいため没にしたルートだ。ショートカットこそできるものの、リスキーな択として没にしたルート。そのルートを、セクレタリアトは取っていた。
無論、それだけキツい道のりとなる。どうなるかも分からない。だが、セクレタリアトはそれでも突き進む。未知の体験に心を躍らせているのもそうだが、何よりも彼女を突き動かすのは──このモンゴルダービーを勝つという覚悟だった。
(負けるってのは気分が悪いんでね!絶対に、勝たせてもらうぜ!)
セクレタリアトは川から上がって走り出す。水で濡れた影響もあってか、彼女の体温を徐々に奪っていく。だが、セクレタリアトはそんなことは関係ないとばかりに走る。
「川から上がって身体が冷えるんだったら、走ってあったまりゃいいだろ!幸いにも夏だしな!」
あまりにも脳筋過ぎる解決方法である。だが、それが正解なのかもしれない。
セクレタリアトは走る。次の走者であるレディーズシークレットを目指して、舗装されていない道をただ走る。時には川の浅瀬を渡り、緑の生い茂る道を走る。そして、視界の端に──自分の前を走るウマ娘を捉えた。
(まずは1人目、ってことかい!後何人追い抜きゃ先頭だ?いや、関係ねぇな。チェックポイントに行きゃわかる話だ!)
「通らせてもらうぜ!ポニーさんよぉ!」
「うわっ!?やっぱりおっきい!でも、スタミナ勝負なら負けないよ!」
モンゴルのウマ娘もスタミナ勝負に持ち込む。向こうのフィールドで、スタミナも向こうに分がある。だが、それでもセクレタリアトは傲慢に宣言する。
「ハッ!俺のことを教えといてやるよポニー。俺はセクレタリアト、アメリカでもっとも偉大なウマ娘の称号であるビッグ・レッドにして──このモンゴルダービーを勝つチームのウマ娘だ!」
セクレタリアトは残り10kmとなった距離を疾走する。モンゴルのウマ娘を置き去りにして、最適な走りでモンゴルの土地を疾走していた。
その後セクレタリアトは次の走者にバトンタッチする。
「レディ、俺が来るまでにチェックポイントを通過したウマ娘の数は?」
息を切らして辛そうな表情を浮かべるセクレタリアト。それに対し、レディーズシークレットは粛々とした様子で対応する。
「──2人。我々は、3番目でございます。セクレタリアト様」
「3人目、か。成程ね」
結果からすれば上々だろう。だが、それで満足しないのがセクレタリアトである。
「通過した時間は?」
「2番目通過は1時間もかからないほどです。トップ通過は1時間を経過して少しかと」
「成程な。まだ、勝てる」
「左様でございます。それに、我らが手を組んだ以上、勝つのは必然。故に、セクレタリアト様は何の心配もいりません」
「レディーズシークレットさん、問題ありません。出走をどうぞ」
メディカルチームのチェックも終わり、レディーズシークレットは走るための準備をする。最後に、セクレタリアトに微笑みかけていた。
「勝利を。我ら全員で、このモンゴルダービーを制しましょう」
「当たり前だレディ。にしても……さすがにあの川越えは無茶だったか。さすがに身体が冷え込んできたぜ、っくしょい!」
「ご自愛を、セクレタリアト様。あなた様はこの後も出走を控えている身ですので。もっとも、あなたが出走できなくなれば私が出走できますが。それでも構いませんよ?」
レディーズシークレットの挑発するような笑み。それにセクレタリアトは、同様の笑みを浮かべた。
「冗談抜かせレディ。俺を誰だと思っていやがる?」
「勿論、ご冗談ですよ。それでは──行ってまいります」
レディーズシークレットはスタートする。セクレタリアトはメディカルチェックを済ませて車へと移動した。
「おっす、お疲れさんお前ら」
「お疲れっすねものぐさビッグ・レッド。にしても、結構な無茶するっすねアンタ」
「まさか浅瀬じゃない川をそのまま渡るなんて思いもしなかったわ」
「お陰様で、かなりのショートカットにはなったがね」
「あれこれ迷うよりも、あの方が良いって判断したんでな。お陰様で、3番手まで浮上した」
セクレタリアトの分析に全員頷いた。確かにリスキーな択ではあったものの、順位を上げることができたのは事実。現在アンカデキメルゼのチームは3番手、ここからどこまで巻き返せるかである。
そういえばシリウスガチャはそもそも引けませんでした。ちくせう。