──そのレースには、さまざまなドラマがあった。
「お、教えてくれ!君の、名前は……」
「──ヴァルキリー。それが私の名前だ」
落ちた元天才ウマ娘。1人のウマ娘との出会いが、燻っていた彼女の心に火を点けた。
「このレースに失敗なんか存在しないッ!存在するのは冒険者だけだッ!この【スティール・ボール・ラン】は世界中の誰もが体験したことのない競技大会になるだろうッ!!」
前代未聞となるアメリカ大陸約6,000kmのレース。あまりにも過酷なレースながらも、優勝賞金5千万ドルという夢のような金額に惹かれてか、世界中から選りすぐりのウマ娘達が集まった。
「いいか?覚えておけスローダンサー。私に妙な期待はするな」
「フン、それでいい。ぼくと君はあくまで敵同士。だから、利用しあうぐらいがちょうどいい」
優勝を目指して人やウマ娘がしのぎを削り合う。時にはその命さえも賭けて約3,800名の参加者が集まった。
第1ステージ。15,000mの
「クセの修正には時間がかかるからね。だがクセなんて直さなくていい……もっとクセを出して走るのさッ!」
「あ、アイツッ!?」
飢えた天才ウマ娘、シルバー・バレットとの邂逅。
「わたしは!誰よりも幸運なウマ娘だッ!」
50億人に1人の豪運ウマ娘、ヘイロコ。
様々な強敵達の出会いが少女達を強くする。
「もう一度言ってみろスローダンサー!私が……親のスネかじりの根性なしだって言いたいのか!?」
「良いかヴァルキリー。君は受け継いだウマ娘だ!飢えなきゃ勝てない!あんなシルバー・バレットなんかよりも、ずっともっと!気高く飢えなくては!」
そして暗躍する影。
「私はこの国を愛している。愛しているからこそ──このレースにおいて私の勝利は絶対的なものとなる」
「おいスローダンサー。アイツは誰だ?」
「……大統領の寵愛を受けるウマ娘、ファニー・ラブトレインだ!」
数々の困難。少女達は絶望する。
「ぼくはまだマイナスなんだッ!ゼロに向かって行きたいッ!ぼくはただ、このレースを走り抜いて自分のマイナスをゼロに戻したいだけなんだッ!」
だが、その度に立ち上がって強くなる。
「スローダンサー。私の分まで……よろしく頼んだよ」
「本当に本当に。なんて遠い周り道……」
レースの最終ステージ。
「無駄なんだよスローダンサー!落ちたお前に!この俺が倒せるかッ!」
「ぼくはもう迷わない!ぼくは、このレースを絶対に勝つ!お前なんかに負けるか、シルバー・バレット!」
少女達の想いが激突する。そのドラマに、人々は感動を覚えた。
レースの最終結果は──
《この『物語』は、ぼくが歩き出す物語だ……》
お、おぉ……!すっげぇ!これがほぼノンフィクションってマジ!?これが第1回のスティール・ボール・ラン!
「なにを見ているんだい?アンカ」
「丁度無料配信やってたので。第1回のスティール・ボール・ランの映画見てたんですよ」
「あぁ、それを。確か、世界中で大ヒットした映画だったよね。俺も小さい頃は見てたな~」
「そうなんですよ!僕が産まれた時よりもずっと前だったので知らなかったんですけど、これ本当に凄いですね!」
アメリカのサンディエゴのホテル。スティール・ボール・ランを控えた僕はこのサンディエゴで開催の時を待っていた。
それにしても、結構な参加者がいるんだな。ネット上で公表されているメンバーを見るだけでも、相当なチームが参加していることが分かる。
「参加チームは150チーム、出走するのは4000人近く……すんごいレースですね」
「正確には、レースではないです」
ヴィッパーが言いながらウマホの画面を僕に見せてくる。
「第1回はレースとして定義されているです。ただ、第2回以降はチャリティーマラソンみたいな印象が強いです」
「ふ~ん……何々?」
「ウマ娘や人が手を取り合って困難に挑戦し続けるその姿を放送する……まぁよくある挑戦系の感動バラエティだね」
前にも思ったけど、第2回以降は〇4時間マラソンみたいな雰囲気を感じるよね。むしろ第1回の方が異質に見えてくる不思議。
だけど、こうして映画を見たからこそ分かる。きっと、大統領が取り戻したいスティール・ボール・ランはこういうものなんだろう。
「誰もが勝利に気高く飢え、挑戦し続ける心を持っていた第1回のスティール・ボール・ラン。第2回以降を見てないから分からないけど、実際どれくらい違うんだろう?」
「なら、見てみるかい?」
言いながらトレーナーさんがタブレットを見せてきた。そこに映し出されていたのは。
「第2回のスティール・ボール・ラン、か。うん、みてみましょう!」
「それじゃ、早速再生しようか」
トレーナーさんはホテルのテレビにタブレットを繋いで、映像を出力する。程なくしてテレビには第2回のスティール・ボール・ランの映像が流れ始めた。
「アンちゃんとトレーナーさんの分のポップコーン持ってきたです」
「ありがとうヴィッパー!」
「ありがとうヴィッパー。そろそろ始まるから座ってみようか」
僕達は仲良く3人並んでスティール・ボール・ランを見る。第1回が凄く感動したし、きっと第2回もいろんなルート通るんだろうな~!楽しみだなぁ!それに、第3回も第4回もある!きっと白熱したレースを見せてくれるはずだ!
「──きて、アンカ」
「ん、ん~?」
誰ですか?僕を呼んでいるのは?
「起きて、アンカ」
「ん、んぅ……」
「起きて、アンカ!」
どうやらトレーナーさんだったらしい。それに、いつの間にか寝てたのか僕。隣を見れば、ヴィッパーも寝ていた。
うん、あれだな。
「すまないトレーナー君。気づいたら寝てた」
「いや、まぁ。気持ちは分かるけどさ……」
だってさぁ!
「第1回と比べて
「うん、そう言うと思ってたよ」
「しかも、回を増すごとにどんどん酷くなってってるじゃないですか!?なんなんですか!第1回はあんなに白熱していたのに!」
第2回の時点で嫌な予感はしてましたよ?冒険心もクソもねぇ、普通の道をただ走っているだけの映像が流れてて。時々ナレーションで盛り上げていたのも伝わってきたよ?一応フォローしておくと、第2回はちょっとですけど困難に挑戦しているところもあったのでまぁ及第点かな~?とは思っていましたよ?いや、第1回と比べたら天と地の差がありますけど。
でも回を増すごとにどんどん酷くなっていくんですよ!しかも一番最新のに限ってはなんだあれは!?
「仲良くお手々繋いでゴールしてんじゃねーですよ!?小学校のマラソンじゃねぇんだからさ!」
「これはこれで感動したりはするけど……さすがに第1回のスティール・ボール・ランと比べたら、感動の方面が大分違うというか」
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!僕はスティール・ボール・ランだと思ってみていたらいつの間にか〇4時間マラソンを見せられていた。な、なにを言っているか分からねーと思うが僕にも何が何だか分からなかった。いや、本当にどういうことだよ!
「確かに感動はする!するけどさぁ!第1回とは感動の方向が違い過ぎでしょ!?どうなってんだよ!」
「これが大統領が今のスティール・ボール・ランを下らない三流バラエティって吐き捨てた原因だよ。対談の後、俺もスティール・ボール・ランの映像を漁ったんだけどさ……確かに第1回とは毛色が違い過ぎるよね」
全くもって大統領に同意するよ!第1回のスティール・ボール・ランを本当のスティール・ボール・ランとするんだったら!第2回以降のはスティール・ボール・ランじゃねーよこれ!名前だけ一緒の別レースだよこんなん!いや、レースですらない!ただの番組だ!
「ネットで今のスティール・ボール・ランを検索すると【駄作】とか【どうせ不正してる】とか色々出てくるです。まぁそういうことです」
「あ、ヴィッパー起きたんだ」
「ついさっき起きたです。ほら、これ見るです」
ヴィッパーが見せてきたのは今のスティール・ボール・ランをどう思っているかのネットの反応だ。……うん。
「すげぇな。どうせ不正しているだのどうせ走ってないだのこんなのスティール・ボール・ランじゃないだの……クッソ非難されてるじゃん。なんで続けられてるんだ?これ」
「スポンサーが繋いできたらしいよ。視聴率はどんどん下がっていってるけど」
ま~確かに。これじゃあ視聴率は下がる一方だよな~とは思う。それぐらい酷い。いや、番組やレース自体が酷いとかではなく。なんて言えばいいんだろう、原作が漫画やラノベのアニメ2期が決まって喜んでいたら原作無視したアニオリ見せられて萎える感じ。あれに似ている。別に面白くないとは言わんけど、原作ありきで見に来たのに違うもん出されて困惑するヤツ。あんな感じがするんだよ今のスティール・ボール・ラン。
「だからこそ、大統領はアンカにお願いしたんだと思う。今のスティール・ボール・ランを壊して、本来のスティール・ボール・ランに少しでも戻すために。大統領はアンカにお願いしてきたんだろうね」
「だろうね。これは大統領の気持ちも分かるよ」
特に大統領は当時見ていたと言っていた。僕らなんかよりもよっぽどスティール・ボール・ランに掛ける思いは強いはずだ。
だったら!
「ふっ、良いだろう」
「アンカ?」
「僕の手で、スティール・ボール・ランを取り戻してみせる!その決意が、さらに強まったよ!」
握り拳を作って誓う!スティール・ボール・ランを取り戻すと!
「そっか。じゃあ持っていく荷物とか諸々のルールとかを確認していこうか。それと最短ルートとその最短ルートが取れない場合のことを考えてさらにいろんなルートを考えてきたよ」
「……君、寝てる時間あるのか?」
「?普通にあるけど……どうかしたの?アンカ」
「ふっつーに作業量がすげぇです。事細かに書いてあるです」
「そうかな?これぐらいトレーナーなら誰でもできると思うけど」
「「それだけはない」」
「口をそろえて言う!?」
だって普通におかしいですもん!作業量ヤバすぎでしょ!?
ま、とりあえず。スティール・ボール・ランももうすぐだ!頑張りまっしょい!後でゼニヤッタちゃんも応援来るらしいし、頑張るぞー!
スティール・ボール・ランで一番好きな名言はジョニィの『ぼくはまだマイナスなんだ!』の一連の場面ですね。一番好きと言っても過言ではない。