あの後スティール・ボール・ランの合同記者会見なんかもあったりした。ただ、どの参加者も
「完走目指して頑張ります!」
だの
「難しい挑戦ですけど、精一杯頑張ります!」
だの言っていたわけですよ?なので僕は言ってやったわけだ!
「『それでは!今回なんと
インタビュアーにマイクを向けられる僕。人差し指を天高く掲げ、こう宣言してやりましたよ!
「『全てのSTAGEにおいて僕がトップ通過を取る。これはすでに確定事項だ』」
「……は?」
「『覚えておけ。僕にとってスティール・ボール・ランを走破することは
静まり返る会場。そしてなお宣言したわけですよ!
「『だからこそだ。僕は全てのSTAGEをトップで通過する。ま、完走を目指すだの難しい挑戦だののたまう連中がいるレースだ。さほど難しいことではないと僕は判断しているがね』」
他の参加者からギロリとした目つきで睨まれる。怖ッ!?でも臆さねぇぞ僕は!大統領との約束を果たすために、そして何より!僕自身の手で第1回のスティール・ボール・ランを取り戻すために!
「『悔しいか?だがそれが現実だ。その証明としてまずは1st.STAGE……サンディエゴビーチからサンタ・マリア・ノヴェラ教会だったな。そこをまずはトップ通過する。現時点で一番厳しいところだな』」
「い、『一番厳しいっていうのは?』」
「『総距離が15,000mしかないだろう?それにショートカットコースも少ない。つまり僕が勝つのが一番難しいのはここだ』」
「い、『15,000mしかないって』」
「『どういう思考回路してるのよ』」
いや、他と比べたら圧倒的に少ないでしょうが。だからこそこの区間はスプリント戦なんて言われてるのに。
「『もう一度宣言してやろう。僕は全てのSTAGEをトップで通過する。悔しければ……
そう宣言して僕の会見は終わった。ちなみに参加者全員から白い目で睨まれたからそそくさと退散したよ!
そして迎えたレース本番の日。
《さぁこの日を迎えました!アメリカ大陸横断レース【スティール・ボール・ラン】!総距離約6,000kmを9つのSTAGEに分けたアメリカの
サンディエゴビーチに出走者が集結している。4,000人近い出走者がサンディエゴビーチにいるので中々壮観な光景である。ま、この中でこの1stSTAGEを走るのは150人くらいだけど。
チームでひとまとめにされているらしいけど、僕に関しては1人なのでボッチである。疎外感が凄い。
《出走まで後3分です!出走するウマ娘はグリッド内にしっかりと収まってください!もしグリッド外に出ていた場合はフライングとみなし、ペナルティが課されます!ペナルティを受けないためにもしっかりとグリッド内に収まるよう心掛けてください!》
自分に割り当てられたグリッド内に収まりながら今日走るルートを考える。
(スティール・ボール・ランはモンゴルダービーと同じ。チェックポイントさえ通過すれば、
刻一刻と迫る出走の時。そして──ついにその時が来た。
《全ウマ娘がグリッド内に収まって……!そして今!午前10時!出走の時間を迎えました!各ウマ娘が一斉にスタートを切ります!》
出走を報せる合図が鳴ったので、僕はなにがなんでもハナを取りに行く。後のことなんて考えない、ひとまず最初にハナを取る。それがこの区間で決めてたことだ。
「へっ!?」
「うそ!?」
驚いた声が上がっているけど関係ない。まずはハナを取る!それがマストだよね!
《ついに今年も始まったスティール・ボール・ラン!まず最初に飛び出したのはっ!?最初に飛び出したのは大注目のウマ娘シルバーラビット、アンカデキメルゼ!本レースただ1人の特別枠の彼女が!凄まじい勢いで上がっていっている!し、しかし彼女はチームを組んでいない!ただ1人で出走しているウマ娘だ!あまりにも!あまりにも無謀が過ぎる!?しかしシルバーラビットのことだ!我々には想像のつかないようなことをしてくれるんじゃないか?そう思わずにはいられない!》
他のウマ娘は……うん、全然追っかけてこないや。なら都合がいい。このまま独走させてもらおう。
スティール・ボール・ランが幕を開けた。まずハナを切ったのはアンカデキメルゼ……
だった、というのは、いつの間にかアンカデキメルゼは先頭から姿を消していたからである。ハナを切っていたはずのアンカデキメルゼは他のウマ娘を瞬く間に離していった。だが、アンカデキメルゼは徐々に徐々に本来のコースから外れていったかと思うと……気づいた時には忽然と姿を消していた。どこに行ったのか、誰にも分からなかったのである。
これ幸いと、他のウマ娘はペースを上げ始めた。チームのウマ娘と交代で走りながら走っている。
「シルバーラビット、どこに行ったんだろう?」
「さぁ?どっかで休んでるか、リタイアでもしたんじゃない?」
「でも……シルバーラビットだよ?」
「た、確かに」
「だ、だけど!流石のシルバーラビットでもあんなペースじゃ持たないって!きっとどこかで休んでるんだよ!」
不安に思いながらも、アンカデキメルゼはどこかで休んでいる。ペースを落としているはず。そう考えながらウマ娘達は走っている。
そして現在、残り6,000mの看板を越えた。
《さぁゴールまで残り6,000mを越えたぁぁぁぁ!15,000mの道のりも残り三分の一!残り三分の一を切りました!そしてここで迎えるのは雑木林を迂回するコース!雑木林を突っ切れば800から1,000mほど短縮できるが……やはり全ウマ娘は迂回するルートを取るようだ!この迂回コースを抜けたら今度は下り坂が待っている!悪魔の下り坂が待っているぞ!怪我をしないように気をつけてくれよ!》
雑木林のあるコース。そのコースを各ウマ娘が迂回していく。それも当然だろう。
雑木林と銘打たれているものの、その密集度は森に近い。走れば怪我じゃすまないし、下手をすればリタイアは免れない。そんなルートを取るウマ娘は、
迂回するコースを抜ければ、次に待っているのは悪魔の下り坂と呼ばれている場所。
《迂回コースを抜けて先頭集団は悪魔の下り坂に入った!この下り坂、なんと高低差50mもある凄まじい下り坂だ!最大勾配は30°もあるこの下り坂!ウマ娘が全力を出して走ればまず無事じゃすまないこの地形!抑えて走っているぞ!それが正解だ!もし本気を出して走ろうものなら、平地を走った瞬間脚を消耗してしまうこと間違いなし!いくらチームで走っているとはいえ、この11,000mの距離を無駄にするのはあまりにも痛いロスだ!》
高低差50m。おそらく世界中のどんなレース場を探しても、こんなコースは存在しないだろう。その道をウマ娘達は抑えて走る。
「くぅ~、キッツぅー!」
「でも抑えなきゃ、ここまで走ったのを水の泡にしたくないし!」
「チームのために、頑張らないと!」
そしてこの悪魔の下り坂を越えれば、岩山を迂回して。最後の直線2,000mになる。ここで各チームウマ娘を交代して、スタミナを残したウマ娘達がこの最後の直線を駆け抜ける準備をしていた。
「後任せた!」
「任せて!絶対にトップでゴールして見せるよ!」
次々とウマ娘達は交代していく。この時点でそれなりの時間が経過していた。
最後の直線。2,000ともなればスタミナの余力を心配する必要はほぼないだろう。普段レース場で開催されている中距離とほぼ同じ距離なのだから。
《残り1,000mを切りました!各チームの代表ウマ娘が続々となだれ込んでくる!凄まじいスピードだ!さぁさぁ!誰が先にゴールするか全く分からない混戦模様!我先にと走っているぞ!》
ここで出走者達の脳裏に浮かぶのは──シルバーラビットがどこに行ったのか?という疑問だ。
(あれだけ大口を叩いていた割にはこの場にいない?)
(まさか、本当にリタイアしたっていうの?)
(ま、流石のシルバーラビットもこのレースじゃ無理だよね)
(モンゴルダービーを走破したらしいけど、やっぱキツいでしょ)
そう考えていたウマ娘達。その視線の先に、1stSTAGEのゴール板を捉えた。そして、
「「「はっ?」」」
信じられない、どういうことだ?一体、どういう手品を使ったんだ?そう思わずにはいられない。あそこにいるということは、すでにゴールしていたということ。だけど、道中一度も彼女の姿を見なかった。だから、あり得るはずがない。だけど、ゴールに近づいていくほど……その姿は鮮明に映る。
「言ったはずだ。僕は全ての区間でトップを取ると。そして──
勝者は、すでにゴールに着いていた。
《ここでついに!2着以降のウマ娘が続々とゴールしてきたぁぁぁぁ!しかし1着はシルバーラビット!アンカデキメルゼェェェェ!その走破タイムはなんと!驚異の17分42秒*1!他のウマ娘よりも遥かに早いタイムでこの1stSTAGEを駆け抜けました!葦毛の魔王はここでも健在!これが絶対女王の強さだ!スティール・ボール・ランのレースリーダーは──アンカデキメルゼだぁぁぁぁ!》
──1stSTAGE王者、アンカデキメルゼ。走破タイム、17分42秒。
モンゴルダービーで40,000m(40km)走ってたのよ?15,000mぐらいなによ!