──その頃日本。
「アヤベさん!ちょっといいでしょうか!」
「……何?トップロードさん」
やたらテンション高いわねトップロードさん。一体どうしたのかしら?
「今アンカちゃんってアメリカのレースに出ているじゃないですか?ほら、スティール・ボール・ラン……ってレースでしたっけ?」
「そうね。相も変わらず変なことやってるわね」
「凄く凄い大変なレースらしいじゃないですか?だから、私達で応援のメッセージを送るのはどうでしょうか!」
応援のメッセージ……まぁ悪くないわね。時差の問題があるけれど、こっちは今午前中、向こうは大体21時……とかかしら?それに出なかったら出なかったでいいもの。
「いいわよ。それじゃあ早速メッセージを送りましょうか」
「はい!あ、でもアンカちゃん寂しい思いをしていると思いますので通話なんてどうでしょう?」
「それ、大丈夫かしら?向こうの都合次第では出れないわよ?」
「ま、まぁやるだけタダなので!スピカのみなさんも興味があるみたいなのでスピカの部室で早速かけてみましょう!」
私としてはどちらでも構わないけれど。とりあえず私はトップロードさんに連れられるままスピカの部室へと足を運んだ。
そしてスピカの部室。中には──ふくれっ面のサイレンススズカさんとそれを必死で宥めているスペシャルウィークさん、呆れたような表情をしているトウカイテイオーさんとスピカのトレーナーさんがいた。トレーナーさんが私達に気づいて手を上げる。
「よぉトップロード。それにアドマイヤベガ。トップロードはともかく、アドマイヤベガはどうかしたのか?」
「トップロードさんに誘われて、アンカさんに応援のメッセージを送ろうと思ってきたのよ。それはともかく、そっちはどうしたのかしら?サイレンススズカさん、御機嫌斜めそうに見えるけど?」
「あ~……うん。今まさにそれが関係しているんだ」
それが関係している?どういうことかしら?
「ほら、アンカってさ、今スティール・ボール・ランってレースに出てるでしょ?約6,000kmのアレ」
「そうね。それがどうかしたのかしら?」
「で、アンカって大統領の特別枠で1人出走が許されてるらしいじゃん?でも、スズカ的には自分も単独出走したい!って騒ぎ始めて」
なるほどね。全てにおいて合点がいったわ。サイレンススズカさんなら言いかねないことだもの。
「しょうがないじゃないですかスズカさん!ルールで決められるんですから!」
「でも、アンカさんは単独出走が許されているわ。だから今更1人増えたところで変わらないと思うの」
「そもそも、スズカが言い始めた段階ですでに出走登録は過ぎてたんだ。どうしようもねぇだろ」
「言ったところで許してくれないじゃないですかトレーナーさん」
「当たり前だろ。元々チーム前提で走るレースだぞ?それを単独出走なんて運営が許しても俺が許さん」
実際には運営も許さないでしょうけど。1日目の様子を見る限り、それは明白。サイレンススズカさんもそれが分かってか、渋々ながらも引き下がった。
「と、いうわけでみなさん!アンカちゃんに応援の言葉を贈りませんか?」
「「「応援の言葉?」」」
話がひと段落着いたところで、トップロードさんがそう提案する。他のみんなも興味を持っているようね。
「はい!今アメリカで頑張っているアンカちゃんに、通話で応援しようと思っているんです!だから、みなさんも一緒にどうですか?」
みんな顔を見合わせて、面白そうな表情を浮かべ始める。
「いいね!面白そうじゃん!」
「はい!私は賛成です!スズカさんも、どんな感じが聞いておけばいいんじゃないでしょうか?」
「……そうね。後学のために」
「言っておくが、勝手に出走登録なんて出すんじゃねぇぞ?絶対だぞ?絶対だからな!?」
「決まりですね!じゃあ早速かけてみましょう!」
トップロードさんがウマホを操作してアンカさんとのLANEを開く。通話のボタンをタップして、しばらくの間音が鳴り響いて……その音が唐突に止まった。
《……もしもし?》
すぐにアンカさんの声が聞こえた……のは良いのだけど。何か、パチパチ燃えてるような音が聞こえるわね?焚火でもしてるのかしら?
「もしもしアンカちゃん!私です、ナリタトップロードです!今お時間大丈夫ですか?」
《……ッ!?だ、大丈夫だ!今は走るのを禁止されている時間だからな。電話は問題ない》
電話の向こうで何かを落としたような音が聞こえたわね。大方、私達から電話がかかってきてビックリしたってとこかしら?
「それは良かったです!アンカちゃんは今何をやっているんですか?」
《食事だ。砂漠で食事を取っている》
「……え?」
砂漠で食事……一体どんなものを食べているのかしら?ちょっと気になるわね。
「あ、アンカちゃん!び、ビデオ通話ってできますか!?」
《ビデオ通話?まぁできないこともないだろうが……どうかしたのか?》
「アンカちゃんの現状が気になるので!早速やりましょう!」
トップロードさんがビデオ通話に切り替える。程なくしてウマホにアンカさんの状況が映し出されるのだけど……これは中々すごいわね。
「満天の星空……素晴らしい景色ね」
「なまら綺麗ですっ!日本でも見たことない!」
「本当……!プラネタリウムみたい!」
「いやみたいのは星空じゃなくて!?確かに綺麗ですけどね!?でもアンカちゃんの姿を見せてくださいよ!?」
《いやすまない。台座の設置に時間がかかっていてな。もう少し待ってくれ》
ウマホを台座に設置しているのでしょうね。それからしばらく画面が揺れたかと思うと、先程までのぶれていた映像とは違い、アンカさんの姿がハッキリと見えた……けど、毛布にくるまっていた。しかも、もの凄く寒そうにしているわね。
「あ、アンカちゃん?その恰好は?」
《……ここの気温、今10℃下回ってるから滅茶苦茶寒い》
「えぇ!?ち、ちなみにお昼はどのくらいだったんですか?」
《40℃超えてた》
「砂漠って気温差が激しいって聞くけど……本当だったんだね。今のアンカを見たら良く分かるよ」
《こっちは太陽の光を遮るものが何もないから昼間は砂と岩が熱せられて滅茶苦茶暑くなる。逆に夜は一気に熱が奪われるから凄く寒くなる。だからこうして毛布にくるまりながら焚火をするのが必須》
「配信を見てたけど、大荷物だったのもそれが理由かしら?」
《そういうこと》
「砂漠なのにこうやってビデオ通話もできているのだけれど……どういうからくりかしら?」
《なんてことはない。砂漠でも使えるWi-Fiを利用しているだけだ。だからさした問題でもない》
そういうことね。じゃあ、早速聞きたかったことを聞いてみましょうか……ついでに、焚火で焼いているものについても。
「それで、どんな食事を取っているんですか?」
《基本はエナジーバーで済ませている。重量の関係で食料もあまり持ち込めないのでな。干し肉なんかも常備しているが、基本的にはエナジーバーだ》
「うわ、かなり過酷だね……」
「私だったら一日も耐えられない自信があります!」
「自信満々にいうことじゃないわよスぺちゃん」
「それじゃあアンカさん。1つ良いかしら?」
《どうした?アヤベさん》
「あなた、焚火で何を焼いているのかしら?」
焚火?と他のメンバーが焚火の方に注視して……ぎょっとした表情を浮かべる。中には。
「ピエエエエェェェェ!?なななな、なにあれ!?」
悲鳴を上げる子もいた。けど、アンカさんは得意げに語り始める。
《サソリだ。先程偶然見つけてな、今晩の食事に食べるつもりだ》
「えぇ!?正気ですかアンカちゃん!?」
《正気だが……あ!》
何かに気づいた様子のアンカさん。さらに得意げに、ドヤって効果音が尽きなほどに誇らしげにしながら。
《大丈夫だ!毒に関してはちゃんと処理してある!》
「「「そういうことじゃない!」」」
《ヒエッ!?べ、別にいいじゃないか。砂漠では貴重なタンパク源なんだぞ?》
「確かにそうかもしれないけど!もうちょっと抵抗ってもんはないの!?」
《そんなものはない。第一そんなものを持って生き抜けられるほど砂漠は甘くないぞテイオーさん》
「クッソ……!正論だけどなんかムカつく……!」
そうこうしているうちにアンカさんはサソリを食べ始めた。躊躇なく食べるわねあの子。スペシャルウィークさん達を見なさい。みんなドン引きしてるわよ。
「……アンカさん。良いかしら?」
そんな中、サイレンススズカさんが覚悟を決めたような表情でアンカさんを見据える。
《……どうした?スズカさん》
「1つ、聞きたいことがあるの」
《答えましょう。一体、どういったもので?》
しばらくの沈黙。時の流れがゆっくりにも感じられて──サイレンススズカさんが口を開いた。
「砂漠を走るのってどんな感じ?」
「「「そこ!?」」」
《日中は暑いし夜は寒い。モンゴルの草原に比べたらマイナスな点しかないな》
「アンカちゃんも律儀に答えないでくださいよ!?」
「そう……でも走ってみたいわね」
「我慢しろスズカ!」
ぶっちゃけそんな気はしてたわ。とりあえず、激励の言葉でも贈りましょうか。
「アンカさん。大変だろうけど、レース頑張ってね。私達も頑張るわ」
「今言うんですかアヤベさん!?あぁもう!アンカちゃん、頑張ってくださいね!日本で応援してますよ!」
「ボク達も応援してるよアンカ!」
《やっべ涙流れそう……ありがとう。特にアヤベさんとトップロードさんは頑張ってくれ。日本では今、オペラオーが猛威を振るっているのだろう?》
「……そうね」
オペラオーはすでに春シニア3冠を達成した。今度は秋シニアの3冠を取りに来るだろう。
今のオペラオーに勝つのはかなり厳しい。だけど、
「けど、問題ないわ。あの覇王の政権を終わらせてみせる」
「はい!私も頑張ります!」
《……そうか。僕が心配することでもなかったな。そっちも頑張ってくれ。アメリカから応援しているよ》
その言葉を最後にビデオ通話は切れた。自分の方が大変なのに、こっちの応援をするなんてあの子らしいというか。
”でも、応援されてちょっとは嬉しいんじゃない?お姉ちゃん”
(えぇ、そうね)
頑張りましょうか。オペラオーを倒すために。
「……サソリって美味しいの?」
「ド〇キに売ってるらしいですよ!早速買ってみましょう!」
……あっちは無視しましょう。私には関係ないわ。
「助けてくださいアヤベさん!?このままだと私サソリを食べる羽目に!?」
「さて、トレーニング頑張りましょうか」
「アヤベさぁぁぁぁぁん!?」
トップロードさんの悲痛な叫びをバックに私はトレーニングへと戻る。後日恨めしそうな目で睨まれたけどしょうがないじゃない。私はサソリを食べる気なんてなかったもの。
「アヤベさん達が応援してくれてる……!え、エヘ、エヘヘ……!」
嬉しいなぁ!日本から応援してくれるなんて!しかもわざわざビデオ通話までしてくれて!元気が湧いてきたぞぉ!明日も頑張ろう!……それにしても寒いな。後サソリは割と美味かった。
アンちゃん直接応援の言葉を貰って喜ぶ。