シルバーラビットの言葉が、ずっと引っかかっていた。
「おい、どうしたんだ?」
「い、いや。なんでも……」
「ないってことはないだろ。4th.STAGEから何日も経ったっていうのに、ずっと浮かない表情をしてんだからよ」
現在4th.STAGEから数日が経過している。このSTAGEの走行距離は1,250km。ま~とんでもなく長い距離だ。ちなみにシルバーラビットはまたしてもトップで走ってるよ。しかも容赦なくね。さっきの3rd.STAGEで遅かった理由がもう分かっちゃったよ。
(アイツはあの区間を休憩区間にしてたんだ。だから、あんな状態でも走ることができた)
今後の行程を考えて抑えて走っている私達とは別。後先のこと考えないで、めっちゃ飛ばして走っていったよ。いっそ、
相変わらず浮かない表情をしていると思ったんだろうね。チームのウマ娘をまとめるリーダー、というよりはトレーナーの役割を持った男性が私の頭に手を置いて安心させるように。
「気張れよリーダー。このスティール・ボール・ランを完走することは容易じゃない、完走するだけでもそれは凄いことなんだ!チームメンバー全員が英雄になれるのも夢じゃない!」
そんな風に。ま~そうだね。何度も言うようだけどスティール・ボール・ランは完走するだけでも凄い。第1回の出走者4,000人近い数に対して完走者はたったの40人。そんな過酷なレースを完走するだけでも凄いこと。ま、チームになってから完走者が激増し始めたけど。チームのウマ娘全員が完走扱いになるわけだから、かなりの人数になるよね~って感じ。それでもそれなりの脱落者は出てるし、完走するだけでも凄いことってのは変わりないけど。
……でも、ぶっちゃけ不安に思ってるのはそういうことじゃない。というか、今回のレースは脱落者が
(シルバーラビット……ッ!)
今もなおトップを走っているはずのトンデモウマ娘。私達を煽りに煽る気に食わない奴。でも、私は本当にシルバーラビットが気に食わないのかな?
(……アイツのこと思い出すたびにムカムカするし、アイツに対してイラついているに決まってるっ)
結局はイライラの原因はシルバーラビットにあることにした。今も結構ムカムカしてるし。
でも正直、アイツの言ってることは正しいんだと思う。私はあの瞬間勝ちを諦めてたのは事実だし。ま~次勝てばいいでしょ見たいな?そんな風に思っていたのは事実。だけど、その内心をズバリ突かれて……なんも言い返せなかったよね。
(私、本当にこのままでいいのかな?)
「本当にどうしたんだ?リーダー」
「あ~……いや、ちょっと、ね」
ちょっと吐き出してみるのもいいかもしれない。そんな考えでポツリと漏らした。
「私達、このままでいいのかな~って。漠然と思っただけ」
「……シルバーラビットの言葉か?」
「そんなとこ」
トレーナーは険しい表情。そして、険しい表情のまま。
「アイツの言っていたことは気にするな。結局はこのレース、完走すればいいわけだからな。アイツが何を言おうが無視しておけ」
「で、でも。やっぱりさ」
「
あ~……うん。期待の籠った目だ。お前はちゃんとやってくれるだろ?みたいな目。ま、確かにトレーナーの言うことも一理あるわけで。チームのことを考えたら私がここで不和になるようなことを起こすわけにはいかないよね~うんうん。
「うん、ありがと。もう大丈夫だわ」
「そうか!頑張れよリーダー!」
「……はいは~い」
こうして、また上辺だけのおべっかを取ればいいんだ。そうすりゃ何も起こらなくていいんだから楽だよね。
『ありもしない未来を想像して、今を諦める言い訳を作る。そんな現実逃避を続けている以上、貴様らはこの先幾度もチャンスを無駄にする。僕の目標を阻止するなど夢のまた夢……今を頑張れない貴様らが、僕に勝てる道理などありもしない』
『僕に勝ちたいなら死に物狂いで掛かってこい。未来のことを考えず、今に一生懸命になって掛かってこい』
だけど、そんな時にちらつくのはアイツ、シルバーラビットの言葉。どこまでもうざったくて、私に刺さる面倒な言葉。
「あ~本当にイラつく……?」
視線の端に目をやると、何人かのチームメイトが浮かない表情で集まっていた。どうしたんだろ?行程的には問題ないはずだけど、もしかしてリタイアしたいとか?とりま相談に行きますかね。リーダーとして。
「どーしたの?そんな浮かない表情して」
「あ、リーダー……」
「あの、そのっ」
「いいよいいよ。なんでも相談しな?ほれ、とりま座って話しましょうか」
私が柔らかい笑顔を作って応対する。うん、我ながら完璧だ。
最初は迷っていたみんなも、やがてぽつぽつと話し始めた。
「あの、シルバーラビットの言葉がずっと引っかかってて」
「あ~……」
「私達、このままでいいのかなって……漠然と思うようになったんです」
ここまで波及してんのか……本当に、イラつく。
「このままだと、完走はできると思うんです!だけど、本当にそれでいいのかなって」
「もう総合優勝は無理だと思います。だけど……このままでいいのかなって。も、もうちょっとペースを上げたほうがっ!」
「
言い訳しそうになっている彼女達にそう一喝。すると、少し怯えた表情になった。ま~悪いことをした子供みたいな反応。
「や、やっぱりそうですよね……私達のワガママで、チームに迷惑をかけるわけにはいきませんよね」
「そうだね~。他の子達に迷惑がかかるから、良くないよそれは」
「「「……」」」
でも、さ。ぶっちゃけ。
「……ま、
「え?」
「ど、どういうことですか?リーダー」
「なんでもないよ。気にしないで。明日も早くから走ることになるんだから、あまり遅くならないようにね~」
「「「は、はい!」」」
その子達はテントで寝床に着いた。私も寝ますかね。
(……バッカみたい。チームじゃなかったら、アイツを負かしたいって。負けたくないって考えていたなんて)
だけど、チームとして正しくない。それになんだかイラつく。だからこの気持ちは封印しておくのだ。それがチームのリーダーとして正しい在り方。だけど、本当にこれでいいのかな?
完走することは凄い栄誉。だけど、本当にこのままでいいのか?私達が憧れていたスティール・ボール・ランは、本当にこんな競技だっただろうか?
「よく思い出せないや。ま~このままいけば完走はできそうだし、大丈夫っしょ!」
心にもない一言。無理やり元気づけて私はテントに入る。心のもやもやは広がるばかりだ。
4th.STAGEも数日が経過。もう日没になったので野営しながら明日のことを考えないといけない……んだけど。
「やっぱ言い過ぎたかな~?でもなぁ、頑張ってほしいしなぁ。でもやっぱ言い過ぎたよなぁ!?」
3rd.STAGE終了時のあの煽りなぁ!?言い過ぎたかもしれないんだよなぁ本当!やっちまったよもう!
個人的には「諦めるの良くないよ?ほら、もうちょっとで勝てそうだったよ!だから頑張ろう!」みたいな感じで考えてたわけですよ?でもさ、配信の映像を見返すとさ。
『本当につまらん。百歩譲って僕が通った左ルートを通らなかったのはまぁ良いだろう。だが、最後の直線……貴様ら勝つことを諦めていたな?』
『何を意外そうな表情をしている?当たり前だろうが。勝つ気がないんだったらとっととこのレースを降りろ。情けない姿を晒す前にな』
『ありもしない未来を想像して、今を諦める言い訳を作る。そんな現実逃避を続けている以上、貴様らはこの先幾度もチャンスを無駄にする。僕の目標を阻止するなど夢のまた夢……今を頑張れない貴様らが、僕に勝てる道理などありもしない』
ハハハ!誰ですかコイツ?めちゃくちゃ言葉が強いですね。下手したら心折られますよこんなの……あぁそうだよ!僕だよ畜生!
「確実に言い過ぎたじゃん!?こんなはずじゃなかったのに……!」
なんでこう、もっと頑張ろう!みたいに言えないのかな~!?前々からそうだけど!
「でも、あれぐらい言わないとダメっぽそうだし……ある意味正解?だったのかも」
まさか最後の直線で勝つの諦めるとは思わなかったよ。ぶっちゃけ余力は全然残してたから追い込まれてはいなかったけど、それでもちょっとはまずいかな~?とは思ってた。だけど急に減速し始めたし、最初は怪我でもしたの!?なんて思ってたけど全然無事そうだったし。怪我でもないのに減速したっていうことはまぁ……勝つのを諦めたんだろうな~と思ったから。だからちょっと強い口調になってしまったのかもしれない。
だけど、その分効果は出てた!……はず!
「少なくとも、納得のいってない表情浮かべてたし、思うところがあるみたいだし。この調子でいけばあるいは……」
いろいろ考えていると、もうそれなりの時間だ。そろそろ寝ないと明日に響く。朝の安価もあるし、明日も早い時間から走らなきゃいけないから。
「さっさと野営用のテントに入って休みますかね」
焚火を消してテントに入る。にしてもモンゴルの野営トレーニングが活かせる時が来るとは思わなかったな……。さっさと寝よう。
言い過ぎたと反省するアンちゃんであった。