さてさて、僕の想定よりも早いタイムで来ていたというのもあって結構早めにカンザスシティから出てきたわけですが。
「……さすがにそんなにすぐには出てきませんか」
おそらく他の出走者はまだカンザスシティから出てこないでしょう。双眼鏡を使って観察していますが、町から誰かが出てくる気配はありませんよっと。ならば、この間に少しでも距離を伸ばしておきましょうか。
次のチェックポイントはシカゴのミシガン湖。途中でミシシッピ川を横断するルートだ。なのでまずはミシシッピ川を目指して走っていくことになる。
「にしても……この時期のシカゴって寒いんですねぇ。すでに冬ですか。今は11月9日……下手すりゃ雪が降ることもあるのか」
砂漠はあんなに暑かったのに今度はどんどん寒くなっていく。感覚がバグりそう。いや、11月はもう冬に近いから当たり前なんだけど。でも砂漠の暑さは今でも思い出せるぞ。というか、どこぞのバカのせいで砂漠のど真ん中で歌って踊らされたこと今でも思い出せるんだからな!というか!
「あの砂漠の横断の時半分以上が歌って踊るだったじゃねーか!しかも毎回毎回違う曲!どんだけ過酷な状況で踊らせるんだよアイツら!」
スレ民共めぇ……!あ、安価に関してはそれなりに制限を求めている。例えば砂漠の区間だったら水に関する安価は基本的に禁止にしていたり。スレ民もそれは了承しているのかあの区間では水を捨てるとか水分補給をしないみたいな安価は来なかった。
「ま、さすがに命にかかわるからね。その辺はスレ民も分かってるっていうか」
だからって歌って踊るはどうなの?って?ぶっちゃけできねぇことはないからいいんだよ。てか歌って踊るはまだマシだよ。岩肌が見えてるとこでブレイクダンスはマジできつかった。滅茶苦茶熱かったし。
朝の安価は多種多様だ。その中でも多いのはやっぱり歌って踊る系。ライブ配信もあるので僕1人のミニライブが開催されている気分だった。ドローンなんかで様子は配信されているし。勿論僕が歌って踊っている様子も配信されているわけだ。
「おっと。それなりに走っているな。今どの辺だ?」
少し立ち止まって地図を見る。後時計なんかと照らし合わせて現在地点を割り出して……それなりに順調なペースで来ているな!このペースで頑張りますか!
それから走って走って。日没の時間がやってきましたよっと。さっさと野営の準備をしますかね。
「テントヨシッ!焚火ヨシッ!椅子ヨシッ!後は配信見てリラックスしますか!」
色んな動画を見るのもいいですねぇ!適当にエナジーバーをかじりつつ、配信で現在の状況を確認ですよっと。
《さぁ5th.STAGEも1日目が終了だ!全部で9つのSTAGEからなるスティール・ボール・ランもすでに折り返しに来ているって考えると感慨深いものがあるな!行程的には現在で約2,950km……約半分を過ぎたわけだ!残り半分!気合入れて行けよ出走者達!》
もう半分を過ぎたのか。全然実感が湧かないや。さてさてそれよりも。コメント欄はどんなもんでっしゃろ?
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・アンカデキメルゼが変わらず先頭か ・今回はかなり面白いな。一強で終わるかと思ったけど ・単独なのに先頭で走っているウマ娘is何? \5,000 今回のSBRはマジで面白い!このまま実況頑張ってください! ・クソウザい輩共を大統領が鶴の一声で黙らせてて芝ですよ ・それな。アンカデキメルゼ一強かと思ったけど他も中々頑張ってるわ ・他のチームも頑張れ! ・マージでシルバーラビットヤバいなコレw ・他もそこそこ近い位置にいるのね。これはwktk ・↑それな。お前らみたいなのがダメにした分際で今更何をって話だわ ・あーそう言えば大統領が全責任は私が負うから黙ってみてろ(意訳)って言ってたな ・今だけでも経済効果がヤバいことになっている件について ・ここのスパチャだけでもすでに三桁億いってんじゃね? ・3ステージ目で大丈夫か?って思ったけどそのまま持ち直したようで何より |
おぉ!上々じゃないですか!良いですね良いですね、このままの調子で盛り上がって……待って?すでにスパチャだけで三桁億いってんの?ヤバない?
《現在先頭は単独でシルバーラビット!だが他の出走者達も10km圏内に野営をしているぜ!うかうかしていると、いかにシルバーラビットといえど漁夫の利を突かれる可能性だってないかもしれねぇな!だがそれもまた醍醐味ってやつだ!優勝候補が次々と敗れ去っていく……第1回でも見れた光景だ!》
そうらしいね。第1回でも優勝候補だったウマ娘の1人が1st.STAGEで早々に脱落したこともあったらしいし。見事に罠に嵌って。本人の名誉のためにあまり思い出さないで上げて欲しい。
《さてさて、それじゃあ名残惜しいがこの後はまたまたここまでのハイライトを流していくぜ!また明日な!》
配信も終わろうとしているので僕はハイライト映像を眺めながら明日の行程を考える。
(この5th.STAGEの予想日数は14日。約780kmの道だ)
感覚バグりすぎてこの780kmの道になんとも思わなくなってきた自分が怖いな……。とりあえずどう走破しよう?そう考える時に頭によぎる、とある会話。
『だけど、覚えておいてほしいアンカ。確かに君は怪我をしたことがないのかもしれない、疲労の回復も早い。だけど……疲労が溜まらないということじゃないんだ』
……随分懐かしいな。これ、確かクラシックシーズンの時にトレーナーさんに言われたことだね。なんで今更……と思うけど。こういう状況だからだろうね。
(現状身体に問題はない。疲労も、大分回復しているという自覚はある。だが、
体調には気を使っているけど限界もあるしね。しっかりと気を配っておこう。
後は適当に動画でも見ておきましょうかね。なにか面白い動画ないかな~……ッ!?
「ちょっと待てい!?なんでこのまとめがあるんだよ!?」
しかもなんだ動画タイトルの【SBRのシルバーラビットの奇行まとめ】って!何が奇行じゃい!否定できないけども!でも気になるから動画をクリックする。
「……安価のためとはいえ、我ながら凄いことやってるな。ロッキー山脈ではロッククライミングやってるし」
なまじ出来ちまうのがね。ま、この安価が癒しになっている節はある。
それからも動画を見続ける。その時ふと思う。思って、しまった。
「寂しいなぁ……」
たま~にアヤベさん達からの電話もあるけど、それでも日中は出ることができない。そして日中は……僕は1人で走るしかない。誰も近くにいないし、孤独にずっと走り続けている。人によってはそんなことないだろwみたいに思うかもしれないけどさ。これが結構キツいわけで。
(精神的にクるものがあるなぁ……)
アヤベさん達からの電話が来て凄く嬉しかった。それはもう小躍りするぐらいに嬉しかった。その理由が良く分かる。
僕は1人でいるのが好きだ。だからといって、人がいない環境が好きかと言われたらそんなことはない。そりゃね?当たり前の話ってわけですよ。そもそも本当に1人でいるのが好きだったら友達なんて欲しいと思わないわけで。
(それに、やっぱりチームのみんなが恋しい)
タキオンの実験も、ファインさんのロイヤル無茶ぶりも、タルマエさんの苫小牧推しも、クリスさんとの無言の空間も……何もかもが恋しく感じる。向こうでは元気にやってるかな~?コーチもいるだろうし心配はないだろうけど。あ、そう言えばタキオンはこの前レース勝ったらしい。メイクデビューからの連勝だ。
「今度ホープフルに出るんだっけ?激励の言葉でも送ろうかな?」
とりあえずホープフル頑張れみたいに送っておこう。喜ぶかわかんないけど。
「ハァ」
溜息が漏れ出る。空を孤独に見上げて、色々なこと思い出して……。僕の原点を思い出す。頬を叩いて、気合を入れるッ!
「頑張りますかねッ!」
確かに孤独だけど、今はこのレースを勝つことを考えよう!
焚火を消してテントで寝る。5th.STAGE初日の夜は、それなりに眠れた。
孤独を感じるアンちゃん。