……なにやってんだろうな、私。
「あ、あの。リーダー。少しいいですか?」
「ん~?どしたのそんな真剣な顔つきで。なんでも相談してみ?」
きっかけは確か3rd.STAGE辺りでのことだったかな?メンバーの一人が真剣な顔つきで相談しに来たことがきっかけ。凄い真面目な表情だったから私はちょっと落ち着かせる意味も込めて、柔らかい雰囲気で対応してた。
だけど、それでもなおその子は真面目な雰囲気で。
「もう少し、ペース上げませんか?」
「え?」
「だ、だから。ペースを上げませんか?って」
そんな相談だった。
ぶっちゃけ、ペースを上げること自体には問題なかったよね。今のペースはそれなりだったけど、余力は残してたから。それ自体は問題なかった。むしろ問題だったのは──ペースを上げる動機になったもの。
ま、その理由なんて分かってる。
「ふ~ん、ペースをねぇ」
「はい。だ、ダメでしょうか?」
「……シルバーラビットが原因?」
私がそう問い詰めると、その子は図星だったのか顔を逸らした。やっぱりね、どうせアイツが原因だとでも思ったよ……本当にイラつくヤツだ。
平常心、平常心……心を落ち着かせて、やんわりとした雰囲気でその子を諭す。
「正直、ペースを上げることは問題ないよ?だけど」
「だ、だけど?」
「でも他の子との兼ね合いもあるから、さ?ペースを乱すと今後に影響するかもしれないし……だからもうちょっと我慢してくれない?」
他の子に迷惑がかかる。そう言うと大体引き下がった。勿論今回も。我ながら、最低だとは思っているよ。
チーム戦で他の子に迷惑がかかるから。その言葉で大体の子は引き下がる。そりゃそうだ、誰だって自分のせいでチームの輪を乱したくはないだろう。だから引き下がる。
(我ながら、最低な手段を使ってるよね)
だけどこれも完走するため、スティール・ボール・ランを完走するためだ。割り切れ、リーダーとして──誰一人として欠けることなくゴールへと導くために、これは仕方のないことだって割り切るんだ。そうしないと、自分を保てそうにない。
私は結構信頼されている。リーダーに抜擢されるってのはそういうことだから。トレーナーさんからも信頼されているし、他の子からの相談もよく受けている。だから信頼されている……多分。面倒事押しつけられたとかそういうわけじゃないはずだ。
(ちょっと横道に逸れちゃったな)
「それで?なんでペースを上げたいって思ったの?」
「り、リーダーの言う通りシルバーラビットが原因ですけど?」
「あー、そうじゃなくてさ。シルバーラビットがこうだから……アイツが気に食わないからペースを上げたいとか色々あるじゃん?そういうこと」
我ながらもうちょっとマシな例えはなかったのかと言いたい。合点がいった様子のメンバーは、視線をあちこち彷徨わせて。やがて、遠慮がちに。
「……シルバーラビットを見てたら、ウチって何やってんだろうって思って……た、確かに!スティール・ボール・ランを完走することは大事です!それは分かってるんです!だけど……だけどっ!」
急に顔をバッと上げてさ。キラキラした目で答えんの。
「もうちょっと、挑戦してもいいんじゃないかって!完走するだけじゃない、もっと頑張って!タイムを縮めようとか、自分の限界に挑戦しようとか!そんな風に思うようになって……だから!」
「ストップストップ。熱意は分かったからさ、落ち着いて落ち着いて」
すんごい前のめりになってるから。ガチ恋距離になってるから。いや、さすがにここから恋は始まらないけど。
その子も気づいてくれたようだ。すぐに離れてくれた。
「す、すいません!だけど、シルバーラビットを見てたらそんな風に思い始めてきちゃって……」
「あ~はいはい。成程ねぇ……気持ちは分かるけどねぇ」
「?どうかしたんですか、リーダー」
「んにゃ、なんでも」
なんか無性にイラつく。ま、とりあえず答えてあげましょうか。
「君の気持ちも尊重してあげたい」
「じ、じゃあっ!」
「だけど、さっきも言ったように他の子のこともあるからさ。私達は
「そ、そうですよね……」
「うん、気持ちはすご~く分かるよ?だけどさ、私達はチームだから。だからゴメンね?……本当に、ゴメン」
「い、いえ!リーダーもこんな時間にすいませんでした。ウチ、もう寝ますね」
「うん。相談はいつでも受けるからさ、また気楽に相談してよ!」
「はい!
屈託のない笑顔でメンバーは去っていく。それなりの時間が経って、周りに誰の気配もなくなってから……しんどい気持ちで溜息を吐く。
「ホント、損な役回りだよね」
思わずそう愚痴っちゃうよね。中間管理職ってのはこういう気分なのかな?
きっかけはこれ。そして、こういう相談がどんどん増えてきてさ。それが4th.STAGEで爆発しそうになってて、だからトレーナーさんに相談したわけ。
「……というわけなんだけどさ」
「ふむ。ペースを上げたい、か」
トレーナーさんは神妙な顔つき。ぶっちゃけ、これ以上不満を爆発させないためにも私達の意見は一致していると思う。
「ペースを上げるのは構わない」
「ま、そうだよね~。他のチームもペースを上げようと頑張ってるっぽいし、私らも」
「だけど、
「大丈夫大丈夫!分かってるって!」
トレーナーさんは険しい表情のまま頷く。言いたいことは分かるよ?そして、何が原因なのかも。
「怪我でもしようものなら、
「だよね~。全く、番組を存続させるのに尽力したいのは分かるけどさ~。結構な無理を仰るもんだよ」
「今のご時世的に、分からんでもないけどな。だからシルバーラビットの単独出走は驚いたわけだが」
「あの子も良くやるよね~。大統領のお願いだか何だか知らないけど、あんな無茶するなんてさ」
イラつきを抑えながら平静を装う。ホント、眩しいよねぇシルバーラビットは。
誰もが彼女に魅了される。困難に、無茶無謀に挑戦し続ける彼女に──人々は憧れを抱く。ホント、私とは大違いってわけだ。
「だが、さすがにきつくなってくる頃合いだろうな」
「でも、シルバーラビットは肉体的には問題なくない?むしろきつくなってくるんだったらもうとっくにリタイアしてるでしょ?」
「
精神的にも……あ~、そういうこと。
スティール・ボール・ランはその距離に目が行く。走行距離約6,000km、モンゴルダービーの6倍ほどの距離。身体的にもキツいものがあるけど、それ以上にキツいのは……精神的な辛さだ。
考えても見て欲しい。スティール・ボール・ラン走破の予想日数は大体60から80日だ。その間、シルバーラビットは
「1人でいるのが好き、1人でいるのが気にならないってのはいるけどさ、さすがに2ヶ月以上も誰とも触れ合えないってなるときついもんがあるよね」
「あぁ。シルバーラビットも野営の時間を使って友人やトレーナーと連絡を取り合っているだろうが……日中は基本的に1人だ。周りには誰もいない、そんな状況で1人孤独に走る必要がある。肉体的にも、精神的にもきついだろう」
そう考えるとちょっと可哀想とも思うけど、シルバーラビットが選んだ道だ。私達が口出しする権利はないよね。
「……リーダー。最後に1つだけいいか?」
「ん?どしたのトレーナーさん。なんかあった?」
トレーナーさんは私を真っ直ぐに見ている。何言われんだろ?私。
「
「……んん?どゆこと?」
さっぱり意味が分からないんだけど。
「いやなに、打ち合わせをしている時終始不機嫌そうにしていたからな。なにか問題でもあったのかと思ったわけだ」
不機嫌そうに……おぉう、やっちまったね。とりあえず取り繕いますか。
「大丈夫大丈夫!ちょっとトレーナーさんの匂いが気になっただけだよ!」
「え!?」
すまんトレーナーさんよ。私が言い訳するための犠牲になってもらうよ。
「だから全然問題ナッシング!スティール・ボール・ラン完走目指して頑張るぞー!」
「あ、あぁ。問題がないならいいが……そんなに匂うか?一応気を使っているつもりなんだが」
「と、とにかく!ここからは降雪もある。悪路用の蹄鉄に打ち換えているとはいえ、怪我をしないように十分気をつけろよ。他のメンバーにも俺から言っておくが、お前からも注意しておくように言っておいてくれ」
「はいは~い、任せてくれたまえ」
トレーナーさんと解散して、溜息。
「どうすればいいのよ……本当」
怪我をしないで完走第一に目指してくれという一部のスポンサーの言葉も分かる。最初も私はその言葉に乗っかっていたし。だけど……シルバーラビットの言葉だって分からなくもないのだ。
怪我をしないで完走させろというスポンサーの意思、シルバーラビットや観客達が求めている挑戦の姿勢。どっちが正しいかって言われたら、どっちも正しいって思う。だけど、私はそういうわけにはいかない。メンバーに迷惑かけるかもしれないし、怪我をしないで完走させることを第一に動くことが大事だ。
でも、それで私は納得するのか?このまま怪我をしないで完走して。それで私は納得するのか?そんなことが頭の中でぐるぐるする。
「……これも全部シルバーラビットのせいだ」
そうだ。全部アイツのせいだ。アイツのせいで、本当全部のことが狂いっぱなし。というか、私はもう諦めた側のウマ娘だ。今更何をしようって話。私はマイナス側のウマ娘、アイツはプラス側のウマ娘だ。それだけの話ってね。だから、アイツの言葉に乗っかる必要なんてない。
この5th.STAGEもそろそろミシシッピ川を渡る段階に来ている。アイツは、シルバーラビットはもう渡ったのだろうか?まぁどうでもいいか。
「も、もしもしトレーナー君?」
《あぁよかったアンカ。つながったね》
「どどど、どうかしたのか?僕なら全く問題ないが?」
《いやね、ちょっと君と話がしたいな~なんて思ってね。迷惑だったかい?》
~~~っか~!なんって良いタイミングでかけてくれるんですか本当!このスティール・ボール・ランが始まってから本当!毎回毎回僕が寂しいな~なんて思ったタイミングでかけてきて!本当最高のトレーナーさんですよ!
「ふ、ふふ~ん!仕方ないな!トレーナー君は寂しがりだな!」
《うん、そうなんだよね。だからお話でもどうだい?》
「無論構わないとも!……ち、ちなみにどれくらい話してくれる?」
《君が望むなら、1時間でも2時間でもそれ以上でも構わないよ》
「そうかそうか!では今日のことだがな……」
それから滅茶苦茶トレーナーさんとヴィッパーも交えて会話した。ちなみにヴィッパーは僕が寒がっているところを布団でぬくぬくしながら見ていたらしい。クソがッ!
気配りができる男、トレーナー君。