どうして私はスティール・ボール・ランに出走しようって思ったんだったか。ま~よく覚えていない。自分の功名心のためかもしれないし、なにか1つどでかいことをやってみたいな~ぐらいのノリで門を叩いたような気がする。理由が思い出せないってことは、そんだけ軽い理由だったと思う。
トレーニングは……どうだったんだろう?現役で走っていた時とあんまり変わらないかな?ただスタミナをつけるためにひたすら走り込んでいたのは覚えている。ま、死ぬほどキツかったか?と言われるとそんなことはなかった。みんな一緒にトレーニングしてたし、和やかな雰囲気でトレーニングやってたから。
「とりま完走目指して頑張ろう!」
そんな軽い調子で。今は全員リタイアすることなくこの7th.STAGEの終盤まできて。私の番がやってきて……先頭を走る、大荷物を背負った銀色の兎を捕まえようと躍起になっていた。
(クソ、クソ!もう少し、もう少しなんだ……!もう少しでアイツに追いつける!もう少しでッ!)
「あんたの偉業を阻める!覚悟しろ、シルバーラビットォ!!」
「ッ」
もうここしかないんだ!もうここでしか、私がアイツを捉えるチャンスはない!
(8th.STAGEで私はゴールまでは走らない!だからもうここしか……ここしかないの!)
必死に脚を動かす。シルバーラビットを、アンカデキメルゼを追い越そうと必死に走り続ける。ここで終わってもいい、そんな覚悟を持って。私は走り続けた。そして、ようやくシルバーラビットに並ぶところまで来た!だけど──。
《7th.STAGEの終着点!このフィラデルフィア1番乗りはやはりシルバーラビット!アンカデキメルゼだぁぁぁぁ!他チームもクビ差まで追い詰めるものの!わずかに、わずかに届かなかったぁ!この7th.STAGEも、シルバーラビットが制した!前人未踏の領域、全区間トップ通過まで残り2つ!このまま偉業を打ち立てるかシルバーラビット!だが他のウマ娘だって指を咥えて見ているだけにはならねぇはずだ!なんてったって、アイツらにも火が点いているんだからな!スティール・ボール・ランはこのまま8th.STAGE!ゴールのニュージャージーに向かっていくぜぇぇぇぇ!》
また、届かなかった。クビ差まで追い詰めたのに、そこが私の限界だった。
「……クショウ、チクショウ……ッ!」
アイツはとっとと次のステージへと突入した。私も、早く駆け寄ってきた子にゼッケンを渡さないと。だけど……私は。
「チクショウ……チクショウ……!」
「リーダー……?」
その場に蹲ることしかできなかった。悔しくて、情けなくて。勝ちたくて、でももうどうしようもなくて……!
そんな風に蹲っていると、急に凄い力で引っ張り上げられて。なんだろう?と思っていると。
「あぇ……?」
「リーダー!早く!ゼッケン!」
「……あ」
チームメイトの子が私を無理矢理立ち上がらせていた。それと、言われて思い出して。急いでゼッケンを渡した。ゼッケンを受け取った子はゼッケンを握り締めて。
「絶対に勝ってきます……!シルバーラビットに、一泡吹かせましょう!」
そう強く宣言して。彼女は走っていった。
呆然としている私を、トレーナーさんが労わるように車へと運んでくれて。車に乗っても私は──無言で蹲ることしかできなかった。
「リーダーの様子は?」
「さっきからずっとあの調子です……7th.STAGEの決着が余程悔しかったみたいで」
「……そうか」
本当に、私はバカだ。こんな思いをするくらいなら、あの3rd.STAGEで本気を出せばよかったんだ。
(あそこで本気を出して走れば、勝てる可能性は十分にあった!なのに、私はっ!)
次があるからいいやって諦めて、むざむざチャンスをドブに捨てた。それを今更になって後悔するなんて……ホント、あの時から何も成長してない大バカだよ私は。というかもう、この考え自体がいけないんだろうな。次があるなんて考えているから今に本気になることができない。
「あ~……今大丈夫か?リーダー」
気まずそ~に私に声をかけてきたのは、トレーナーさん。表情からして私を心配しているのが良く分かる。他の子達も、遠巻きに私を心配そうに見ていた。アハハ、リーダー失格だな。
「……っ、何?」
とりあえず返事をする。変な声になってなきゃいいけど。
「その、なんだ。よく頑張ったな!」
トレーナーさんから出てきたのは励ましの言葉。私の走りを讃える言葉だ。それは素直に嬉しい。だけど、全然喜べない自分がいる。
「確かにシルバーラビットには勝てなかったが……それでも追いつくことができた!これは大きな一歩だ!」
確かにそう。今までの散々な有様を考えたらかなり多きな一歩だ。だってクビ差まで追い詰めたわけだから。
「シルバーラビットは単独出走、こっちはチーム出走ってのもあるだろうが……それでもお前はシルバーラビットをクビ差まで追い詰めた!だから……」
「でも勝てなかった。それが現実だよ」
「お、おい?」
「私は、シルバーラビットに勝てなかった。それが現実なんだよトレーナーさん」
この後のステージも走るけど、それ以上に。ここで勝てなかった。それが私の気持ちに暗い影を落とす。トレーナーさんは、心配するような声色で。
「……悔しいのか?」
そう告げて。私の我慢していた気持ちは、閉じ込めてきた気持ちは──弾けた。
「悔しいのか?だって……?」
「り、リーダー?」
肩が震える。我慢した方がいい、チームのためにも、リーダーとしても。止めておいた方がいい。だけどもう。歯止めが聞かなかった。
「悔しいに決まってるじゃんッ!」
感情任せに言葉をぶつける。みんなが驚いた表情で見てるけどお構いなしに。
「後もう一歩、後もう一歩だった!後もう少しだったのに、後もう少し頑張れば!私が勝っていたのに!でも勝てなかった!こんなの、悔しいに決まってるよ!」
「リーダー……」
「本当に、後悔しかないよこのレース……!あの時本気になっておけば、あの時もうちょっと頑張っていれば!自分の気持ちに正直になっていれば!そればっかり考えて!」
「……ッ」
「本当に……ッ!なんでこんなことにって思うばかりだよ……!全部自分が悪いんだって分かってる!それでも思わずにはいられないんだ!どうしてあの時もっと頑張らなかったんだって!もっと死力を尽くせなかったんだって!」
なんでシルバーラビットを見る度に苛ついていたか。本当は最初から分かってた。
アイツは、いつだって諦めなかった。どうせ無理だ、無茶な真似をする必要なんてない、こんな挑戦しなくても安全に進めばいい。そんな風に思い描いていた私達の考えを打ち砕くかのような、常識外れの走りを見せていた。困難に立ち向かう姿勢、無茶無謀を飛び越えて、ファンの夢に応えるその姿勢。アイツは──何時だって諦めなかった。
(安全な道を進めばいい、完走すればそれでいい。挑戦なんてする必要はない!そんな考えで、アイツに勝てるはずがなかったんだッ!)
いつも挑戦することを諦めて言い訳づくりをしていた私と違って、アイツは挑戦し続けていた。その姿が──凄く眩しかったんだ。諦めている自分が、凄く惨めに見えたからッ!『マイナス』に生きている私には、『プラス』の道を進んでいるアイツが眩しくて、羨ましかったんだ!
「こんな私でも、プラスの道を進めるんじゃないか?明るい道を、挑戦し続ける道を選ぶことができるんじゃないか?そう思って頑張ってきた!だけど、結局は届かなかった!」
本当は、もうスティール・ボール・ランの完走なんて目標は変わっていたんだ!私はただ、証明が欲しかった!
「私はシルバーラビットに勝って証明が欲しかったんだ!『マイナス』の自分でも、『ゼロ』に向かって進めるんだってことを証明したかった!もうスティール・ボール・ランを完走するなんて目標は関係ない!私はただ、アイツに勝って自分が『ゼロ』に戻ったことを証明したかったんだ!」
「リーダー……ッ!」
言ってしまった。あまりにも自分勝手な考え方。チームでの完走ではなく、個人の欲求を満たすために走っていたことをばらしてしまった。だけどもう、どうだっていいや。もう叶わないのだから。
「チクショウ、チクショウ……!こんなことならシルバーラビットに勝つだなんて思わなければよかったッ!こんな、惨めな気持ちになるくらいだったらッ!」
「それは、違うッ!」
私の後悔の言葉。その言葉を、トレーナーさんは大声で否定した。
「確かに、惨めな気持ちになったかもしれない。自分の至らなさを見せつけられて、恥ずかしくなったかもしれない」
「……」
「だが!そんな自分を変えようとしたことさえもなかったことにする必要はないだろう!じゃなきゃお前は、今以上に惨めになるだけだぞ!?」
トレーナーさんも必死になっている。トレーナーさんの言葉を、黙って聞いていた。
「それに、お前は自分の至らなさばかり気にしているが!そんなの俺の方が酷いぞ!」
「トレーナーさん……?」
「お前達の気持ちも考えずに、ただ一部のオーディエンスがうるさいからと!怪我をするな、安全に行けと行動を縛りつけて!お前達から挑戦の機会を奪っていた!俺は、お前以上に『マイナス』だ!」
「……アハハ」
確かに、そうかもしれないね。けど、なんでお互い自分のことを貶し合っているのか良く分かんないや。
「それに!
「……え?」
「そうですリーダー!」
困惑している私に、トレーナーさんの言葉に同調したチームメンバー達が声を上げる。
「Final.STAGEです!最後のステージ……そこでなら!シルバーラビットに勝つ機会はあります!」
「だけど……私は8th.STAGEも走るし……」
「いいえ。リーダーは身体を休めてください。できるだけ、体力を回復しておくんです!」
「でも!そしたら私の代わりに誰が!」
「
みんなが私に訴えかけてくる。
「私達が8th.STAGEを走ります!シルバーラビットに勝てるかは分かりませんけど……それでも!最低限の不利ですませてみせます!」
最低限の不利。これは、Final.STAGEの出走の仕方に理由がある。
Final.STAGEに限り、全チームが出揃ってからのスタートとなる代わりに。順位が上の方から順にスタートしていくことになっている。これは第1回の時から変わらない。合計タイムが1位のチームが一番最初にスタートして、2位のチームはその15秒後にスタートする。公平性も何もあったもんじゃないけど、距離が距離だからと特に問題視されてこなかった。
それに、ルートの取り方によっては前を走るウマ娘を撒くことだって可能。だから、これが正真正銘の──ラストチャンス。
私はメンバーに、確認するように問いかける。
「本当に、良いの?私のために」
「はい。構いません」
「私は、自分の欲のために走ってた。それでも、いいの?」
「構いません!リーダーの気持ちは、私達だってわかります!」
「だけど、最後のステージに出走できるのは1人だけ……だから!リーダー!」
「お願いします!私達の代わりに──シルバーラビットに勝ってください!」
「ッ」
あ~……やっばいなぁ。なんでこんなに慕ってくれてるのか分かんないけど。うん。
(その気持ちには、応えないとね)
「分かった。じゃあこれから私はFinal.STAGEに向けて身体を休めとく。だからみんな、私のために……頑張って」
私の言葉に、みんなは笑顔を浮かべた。
「「「はい!」」」
……うん。私自身はどうしようもないけど、良いチームメンバーに恵まれたもんだな。
クソ、どうすればいい……?どの距離を走れば、あのシルバーラビットを撒くことができる?
「あのシルバーラビットも最短経路を進むはずだ。だからこそ、どうやって巻き返しを図るかだが……」
Final.STAGEになると、あの大荷物も外して走るだろう。つまり、フルパワーのシルバーラビットで走ってくる。ルート取りを少しでもミスれば負ける……だけど、諦めるわけには。
「アイツが、あれだけの思いで走っていたんだ。だからっ?」
気づけば俺のところに客が来ていて。誰かと思って顔を見たらっ!?
「お前!シルバーラビットのトレーナー!?」
「あ、どうも」
驚いたが、すぐに厳しい目で奴を見る。何を考えているか分からんからな……あのシルバーラビットを唯一手懐けることができる傑物だ、間違いなく何か企んでいる。
「……妨害でもしに来たのか?」
「いやいやいや!?そんなことしませんよ!?」
「どうだかな?いくらチームのメンバーとして登録していないとはいえ、お前はシルバーラビットのトレーナーだ。アイツのためなら……ってこともあり得る」
「やだなぁ。そんなことしませんよ。なによりも、
柔らかい笑み。警戒心をつい解いてしまうような笑みだ。だが、警戒は怠らない。
「……で?何の用だ?こっちは忙し「Final.STAGEのルート取りで、ですか?」ッ!?な、何故それを!?」
「う~ん……どうやらみなさん火が点いたようですので。だからそんな気がしたんです」
言いながら、奴は懐から何かを取り出して。こちらへと渡してきた。これは……USB?中には何が入っているんだ?
「その中には、俺が調べた
「ッ!?」
「無論複数選択肢がありますし、アンカは
確かに、そうだ。俺が抱えている悩みもこのデータを見れば一発解決するだろう。
「……それが本当だという証拠は?」
「データを開けばわかると思いますよ。別に嘘を吐く必要もありませんし」
「何故、これを俺に渡した?」
「スティール・ボール・ランを盛り上げるため。後、他のチームにも勿論渡しましたよ」
「……それでシルバーラビットが負けるとは思わないのか?」
「アハハ」
奴は薄く笑って、確信を持った表情で答えた。
「
「……そうか」
俺は奴から渡されたUSBを──壊した。奴は興味深そうな目で見ている。
「良いんですか?せっかくのデータを」
「構わん」
俺は、目の前にいるコイツに向かって指を突きつけ睨む。
「お前らからの施しがなくとも、俺のチームならばお前らに勝てる!首を洗って待っておけ!」
「……そうですか。それじゃあ、お互い頑張りましょう」
それだけ告げて、奴は去っていった。本当にこれだけだったらしい。奇妙な奴だ。
「さて、ルート取りの構築を再開するか」
半端なルートじゃ奴らに勝てない。だが、絶対に見つけ出してみせる……奴ら以上に完璧なルートを!
「もしもし?アンカ。こっちは手筈通りにやったよ」
《そうか。結果は?》
「うん、
《そうかそうか!
「そうだね。だから後は、この8th.STAGEを勝って」
《あぁ、Final.STAGEに備えるだけだ。クハハ、どでかい祭りになるだろうな!》
「うん、頑張ってねアンカ。君の勝利をゴールで待ってるよ」
《無論だ。抱擁と頭ナデナデの準備でもしておくがいい》
「分かったよ。アンカが望むなら」
《あの?冗談ですよ?さすがにマジでやらないですよね?》
「アンカが望むならやるだけだよ。俺はね」
《……あぁそう》
おかしいな?主人公がラスボスに見えてきたんだが?